「あのね……」と話せる子どもたちの居場所に 障がい児支援事業 「生活クラブ あのねのお家」がスタート
「あのねのお家」のロゴ。球根が三つ、それぞれ違う花が咲く
誰もが同じようなペースで同じように成長するとは限らない。だが、心身の発達に偏りやつまずきがある子を支援する体制は、まだ地域に十分に行き渡っているとはいえない。生活クラブ東京は、日常生活に難しさを抱える子どもやその親を地域で支援しようと、昨年11月、稲城市東長沼で「児童発達支援」と「放課後等デイサービス」の二つの事業を開始した。都内の生協でははじめての試みだ。
「生活クラブ あのねのお家」施設管理者の中村美穂子さん
児童発達支援 放課後等デイサービス「生活クラブ あのねのお家」
TEL&FAX 042(401)5556
東京都多摩地域の南部に位置する稲城市。その住宅街の一角にオープンした「生活クラブ あのねのお家」は、発達の気になる子、配慮が必要な子が、自立した生活習慣や人間関係スキルを身につけられるようにするなど、さまざまな支援をする施設だ。未就学児を対象とする「児童発達支援」事業と、18歳までの就学児が対象の「放課後等デイサービス」事業の二つを展開する。
午前9時半から午後3時半までは児童発達支援の時間。午前中までとする施設が多い中、1日の生活の流れの中で子どもの行動を観察することができ、また、「短時間でもいいから働きたい、社会との接点がほしい」という保護者のニーズにも応えられる時間とした。午後2時から6時は、放課後等デイサービスの時間。学童保育と同様に、学校から帰ってきた子どもたちが放課後の居場所として過ごす一方、学校に通えない時は午前もここで過ごすことができる。本来は放課後に限定されているが、さまざまな要因で休息が必要な時もあり、東京都に提案して了承された対応だ。
「現在は、児童発達支援は1日に1~2人、放課後等デイサービスは多い日で4人の利用ですが、4月から通いたいという問い合わせは多くあります」と、施設管理者の中村美穂子さん。スタッフは生活クラブ東京の職員だが全員が一般社団法人「ACT稲城たすけあいワーカーズこんぺいとう」のメンバーでもある。中村さんは「こんぺいとう」設立当初からのメンバーだ。
午前9時半から午後3時半までは児童発達支援の時間。午前中までとする施設が多い中、1日の生活の流れの中で子どもの行動を観察することができ、また、「短時間でもいいから働きたい、社会との接点がほしい」という保護者のニーズにも応えられる時間とした。午後2時から6時は、放課後等デイサービスの時間。学童保育と同様に、学校から帰ってきた子どもたちが放課後の居場所として過ごす一方、学校に通えない時は午前もここで過ごすことができる。本来は放課後に限定されているが、さまざまな要因で休息が必要な時もあり、東京都に提案して了承された対応だ。
「現在は、児童発達支援は1日に1~2人、放課後等デイサービスは多い日で4人の利用ですが、4月から通いたいという問い合わせは多くあります」と、施設管理者の中村美穂子さん。スタッフは生活クラブ東京の職員だが全員が一般社団法人「ACT稲城たすけあいワーカーズこんぺいとう」のメンバーでもある。中村さんは「こんぺいとう」設立当初からのメンバーだ。
協同組合の精神で働く
「生活クラブ東京でも、障がい者支援に取り組んでほしい」。開設のきっかけは、組合員アンケートで見えてきたそんな要望からだった。さっそくそうした事業を担える人や団体がいないかと声がかけられ、かねて障がい者支援に取り組みたいと思っていた中村さんが手を挙げた。稲城市では放課後等デイサービスが不足しており、地域から求める声もあった。
スタッフは組合員から募った。生活クラブの職員としての採用だが、こんぺいとうのメンバーになってもらうことも同時によびかけた。「生活クラブが手掛ける障がい者支援なら関わりたい」と、チラシを見て応募してきた人たちに対し、中村さんは一人に2時間かけて面談したという。協同組合やワーカーズコレクティブの理念を理解してもらうためにこんな説明をした。
「生活協同組合の事業です。協同組合とは、いろいろな意見を言いあえるところ。相手の意見を尊重し、調整していくところです。皆が運営に関わり、自分たちでつくりたいものを自分たちでつくっていきます」
この考えに共感したスタッフは、資格や経験もバラバラだが、現場では誰が上に立つのでもなく、進んで提案して自ら動く。自分の持っている知識や能力を存分に発揮できるので、スキルアップも図れ、何より楽しく働けるという。
「スタッフには、子どもと一緒に楽しんでくださいと言っています。子どもたちは敏感なので、スタッフがつまらなければ、そう感じます」
居心地の良い職場は、子どもたちにとっても安心できる場となる。学校や家で嫌なことがあっても、ここに来たら「あのね……」と言ってほしい。家でもなく学校でもなく、何かあったときに相談できる大人がいて、いつでも帰ってこられる場所でありたい。「あのねのお家」という名前は、そんな思いからつけられた。
持って生まれたものが花咲く
児童発達支援 放課後等デイサービス
「あのねのお家」では、国連が採択し、日本も批准する「子どもの権利条約」「障がい者の権利条約」に基づき、次の「支援の4つの基本理念」を掲げる。
●将来の自立に向けた発達支援
●家族を含めたトータルな支援
●子どものライフステージに応じた一貫した支援
●身近な地域における支援
次から次へと課題をこなす中で集団全体を引き上げていかなくてはならない学校とは違い、ここでは「この子の今」が認められる。「できるからほめられる、できないからダメ」ではない。
「実はこれ、社会の縮図なんですね」と中村さん。いろいろな人がいる社会の中で、将来の自立に向けて、意見の違う人と折り合いをつける方法を学ぶ必要があるという。言葉が苦手な子も多いので、自分の感情に気づき、コントロールする経験を重ねる。「ここへ通ううちに、できたりできなかったりしながら、少しずつ課題が課題でなくなればいいと思います」
家族の支援も行う。子育ての相談に応じたり保護者同士の交流の場を提供するほか、家族で参加できる活動を企画する。とくに、障がいのある子の家庭では、きょうだいに関わる時間が少なくなりがちなので、きょうだいも含めて家族全員が楽しめる行事を考えたいという。
「『この子がいるからこんなに楽しめるんだ』と思ってもらえたら。障がいのある子にとっては自分の役割や居場所の確認につながります」
生活クラブ東京が都内あきる野市に持つ施設「協同村ひだまりファーム」でキャンプができないかなど、中村さんは構想を膨らませる。
今後の課題の一つは、地域に開くことだ。
「学校卒業後も稲城に暮らしていくなら、仕事も見つけなければなりません。長い目で見れば卒業後の支援も必要で、それには地域の人たちに助けてもらうのが一番です」
すでに何らかの手伝いをしたいという地域の人もいる。どんな形で関わってもらえばいいか、今は模索しているところだ。
大小三つの球根が並ぶ「あのねのお家」のロゴにはそれぞれ持って生まれたものを育てたいという思いが込められている。チューリップの球根からスイセンの花を咲かせることはできない。「その子が持って生まれた機能を十分に発揮できる環境をつくっていくのが私たちの役割。一番大きな影響を与えるのは『人』という環境だと思います」
地域も含め多くの人の間で子どもは花を咲かせる。だから中村さんは保護者に「家庭だけで育てなくていいからね」といつも声をかける。
●将来の自立に向けた発達支援
●家族を含めたトータルな支援
●子どものライフステージに応じた一貫した支援
●身近な地域における支援
次から次へと課題をこなす中で集団全体を引き上げていかなくてはならない学校とは違い、ここでは「この子の今」が認められる。「できるからほめられる、できないからダメ」ではない。
「実はこれ、社会の縮図なんですね」と中村さん。いろいろな人がいる社会の中で、将来の自立に向けて、意見の違う人と折り合いをつける方法を学ぶ必要があるという。言葉が苦手な子も多いので、自分の感情に気づき、コントロールする経験を重ねる。「ここへ通ううちに、できたりできなかったりしながら、少しずつ課題が課題でなくなればいいと思います」
家族の支援も行う。子育ての相談に応じたり保護者同士の交流の場を提供するほか、家族で参加できる活動を企画する。とくに、障がいのある子の家庭では、きょうだいに関わる時間が少なくなりがちなので、きょうだいも含めて家族全員が楽しめる行事を考えたいという。
「『この子がいるからこんなに楽しめるんだ』と思ってもらえたら。障がいのある子にとっては自分の役割や居場所の確認につながります」
生活クラブ東京が都内あきる野市に持つ施設「協同村ひだまりファーム」でキャンプができないかなど、中村さんは構想を膨らませる。
今後の課題の一つは、地域に開くことだ。
「学校卒業後も稲城に暮らしていくなら、仕事も見つけなければなりません。長い目で見れば卒業後の支援も必要で、それには地域の人たちに助けてもらうのが一番です」
すでに何らかの手伝いをしたいという地域の人もいる。どんな形で関わってもらえばいいか、今は模索しているところだ。
大小三つの球根が並ぶ「あのねのお家」のロゴにはそれぞれ持って生まれたものを育てたいという思いが込められている。チューリップの球根からスイセンの花を咲かせることはできない。「その子が持って生まれた機能を十分に発揮できる環境をつくっていくのが私たちの役割。一番大きな影響を与えるのは『人』という環境だと思います」
地域も含め多くの人の間で子どもは花を咲かせる。だから中村さんは保護者に「家庭だけで育てなくていいからね」といつも声をかける。
撮影・文/丸橋ユキ
『生活と自治』2019年2月号の記事を転載しました。