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岩手「南部」に地粉あり 戸田久【南部地粉うどん ほか】


日本各地で育てられる小麦を原料とする地粉は、それぞれに味わいや香りがちがい、その土地独自の粉食文化を創ってきた。「南部地粉うどん」は、岩手県で生産されるナンブコムギを原料に、地元で製粉、加工される風味の良いうどんだ。

味わいのある国産小麦

2016年度、日本の小麦の自給率は約12%。残りはほとんどが米国やカナダ、オーストラリアからの輸入だ。輸入小麦は数種類がブレンドされており、品質が安定し、加工するには便利で価格も安い。

一方、国産小麦は同じ品種でも栽培する土地の条件やその年の気候によって品質にばらつきが見られる。それでも全国各地で生産される地粉はそれぞれのうまみや香りに魅力がある。その特徴を生かすため、小麦の産地には、その土地で収穫した小麦の性質を熟知した製粉業者と、その魅力を引き出す加工ができる加工業者が地域内にいるのが通常だ。
岩手県の最高峰、岩手山を望む小麦畑
ナンブコムギ

地粉で麺づくり

岩手県北部の一戸町にある「戸田久」は、地元で栽培される「ナンブコムギ」を製粉した「南部地粉」を使い、うどん類を製造する生活クラブの提携生産者だ。創業者は戸田久兵衛さん。1948年に「戸田久商店」を屋号として、製粉・精米・製麺を生業なりわいとした。55年に盛岡で株式会社「戸田久商店」として法人化し、64年には法人名を「戸田久」に改称する。

乾麺は戸田久商店で製造していたが、設備が旧型だったため同社の社長だった故・戸田康巳さんが、76年、地元の同業3社と共に「協業組合岩手製麺」を設立した。翌年に新工場が稼働し、県内でも有数の乾麺製造業者となる。その後、現社長の戸田敬さんが社長に就任。生麺を製造していた戸田久と合併し、現在の戸田久となった。
戸田久の常務取締役、川原守さんは、先代の会長にあたる康巳さんについて、「原料の小麦にこだわり、岩手県で収穫されるナンブコムギを使いました。そして『立体農業』を実現しようとしていましたよ」と話す。農家で飼っている牛や馬など家畜のふん尿を肥料として畑にまいて小麦を作付けし、収穫して製粉した後に残るふすまを家畜のえさにする。こうして資源を地域で循環させていく農業は立体農業と呼ばれ、「協同組合の父」といわれる社会運動家、賀川豊彦が提唱、当時、岩手県で実践された農法だった。

生活クラブとの出会いは84年。日本の小麦の自給率が5%前後の頃だった。生活クラブは食料自給を目指し、国産小麦粉を原料とし、製造方法が明らかなうどんの開発を目指していた。岩手製麺の、地粉を使った麺づくりに対するおもいを知り、85年、岩手県産小麦を100%使用した「南部地粉平うどん」を開発した。その後、南部地粉うどん、生うどん、盛岡冷麺、南部地粉三角ざるうどんなどの提携へと発展していく。
戸田久の常務取締役、川原守さん。「工場がある地域では、麦を栽培し、家畜を飼い、肥料やえさを自分たちで作り、利用してきました」

こだわりの製麺

戸田久の製造部品質管理課長、櫻井淳さん。「こうして手で触って乾燥の程度を確かめます」
小麦粉はタンパク質の含有量により、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉に分けられる。戸田久で使う南部地粉はナンブコムギ100%を原料とする中力粉で、タンパク質を10%含む。薄力粉はタンパク質の量がそれより少なく、準強力粉、強力粉は多い。タンパク質の含有量は、粉の原料になる小麦の品種により違う。

ナンブコムギは秋に種をまき、次の年の7月ごろ収穫する。刈り取る時季になると他の麦の穂よりも赤みを帯びる。「胚乳は少し黄みがかり、この粉でうどんを作ると豊かな風味があり本当においしいです」と、製造部品質管理課の課長、櫻井淳さん。「20年前に入職した時は、南部地粉で作る生地はダレて作りにくいと感じました。現在は小麦の世代が変わり、粉の質が安定してきたせいか、以前のような作りにくさはなくなりましたよ」
 
戸田久では、機械による製麺でも、手打ちのうどんと同じようなコシと食感を持たせることを目指す。手打ちうどんは50%以上の水を加えて練り、生地をたたみながらできたグルテンを縦、横、斜めにと、さまざまな方向に延ばす。そうすることによって、小麦の持つうまみが十分に引き出されるとともに、食べた時に強い歯ごたえと弾力を楽しめるようになる。機械でそれに近い味わいを再現するのが、一般より多く塩水を使う「多加水」を用いた製法だ。

小麦粉の重量の40%の塩水を加え十分に練り熟成させる。生地を平たく延ばし細い麺の状態に切り、棒にかけて水分が14%以下になるまで乾燥する。多加水を用いた生地は、乾燥に時間をかけるとダレてしまうので、比較的短時間で行う。

1年を通して同じ条件で麺づくりができるわけではない。生地を作るときは季節により加える塩水の量や温度を調節し、べたついたり乾燥したりしないようにする。また、乾燥中は棒にかけた麺を手で触り状態を確かめながら温度や湿度、時間などの条件を決める。「外気温や湿度により機械を調整するには職人としての経験が必要です」と櫻井さん。五感を駆使して乾麺に仕上げていく。


麺は、棒にかけて乾燥する。麺の生地が、少しずつ薄くのされていく。(左2つ写真)
戸田久の製造部長、常前健一さん。「製麺には『多加水』を使います。小麦の風味が生きたコシのある麺ができます」(右写真)

タネ生産のカギを握るのは

JA新いわて南部営農センターの副センター長、斉藤秀則さん
岩手県では、独立行政法人「東北農業研究センター」が、品種改良、育種を担う。そのタネの地域適性を調査するのが「岩手県農業研究センター」だ。さらに、麦の奨励品種や栽培の要望があった種苗の生産は公益社団法人「岩手県農産物改良種苗センター」が行う。

後者は県内の市町村と麦の販売流通にかかわる業者とJAが合同で出資し運営する機関だ。「そこでは、種苗を販売する前に試験栽培をしますが、実際に農家にも使ってもらい、適性を判断します」と、JA新いわて南部営農経済センターの副センター長、斉藤秀則さん。「新しい品種のタネを栽培用に農家にわたすまでには最低でも5年はかかります」

 
ナンブコムギは60年以上栽培されている。51年、岩手県の推奨品種となり、同県内の小麦の生産量の6割を占めるようになった。品質は安定してきたが、今では生産農家にとっては、病気に弱く他の品種に比べて反当たりの収量が少ない小麦だ。連作障害も起き、定期的にほ場も変えなければならない。
府金製粉の代表取締役、府金慶さん。「小麦は農産物です。毎回同じ条件で製粉できるとは限りません。人の手による調整が必要ですよ」
岩手県岩手町でナンブコムギを製粉し、南部地粉を戸田久に販売している「府金製粉」の代表取締役、府金慶さんは、「農家は育てやすく収入の多い品種を作付けしたいと思いますが、できればいろいろな品種を栽培してほしい」と言う。小麦は品種によってタンパク質の含有量が違い、用途の多様性が広がるからだ。

実際に農家が作付けする品種を決める時には、JAと製粉業者が意見交換をする場がある。府金さんは、「ナンブコムギは、農家にとっては生産しにくい品種です。でも、うどんなどに加工した時、風味が良いと評価が高い面もあり、生産を続けてもらっています」。2次加工業者へ小麦粉を販売する府金製粉は、消費者の利用動向をふまえて、JAや農家に作付けの要望を出していく。
製粉工場。皮と胚乳を分離し、何段階もの工程を経て小麦粉にしていく(左写真)府金製粉で製粉するいろいろな小麦(右写真)

ナンブコムギ一筋

盛岡市の西側にある雫石町の農家、根澤将次さんは、01年からナンブコムギを栽培する。稲作農家だったが、減反により大豆や小麦、飼料用の穀物を作る。小麦の収穫は毎年7月10日頃。

「立ち枯れ状態になりコンバインにかかるぐらいに乾燥するまで待ちたいけれど、梅雨にぶつかる時もあります」

秋田県に近く、山が迫るほ場では、ふだんでも雨が降りやすい。それでも県の推奨品であり、消費者の需要があれば、ナンブコムギを作付けすると言う。
緑の田んぼと黄金色の麦畑が広がる岩手の風景を思い浮かべながら、南部地粉で作るうどんを味わいたい。
雫石町でナンブコムギを栽培する根澤将次さん。ナンブコムギを栽培して18年。刈り取りは梅雨前線の北上との競争だ
撮影/田嶋雅已  文/本紙・伊澤小枝子
 

伝えたい「南部地粉」の魅力

江戸時代、盛岡市がある岩手県中部から、八戸市など青森県東部にかけての地域は南部藩が統治していた。冷涼な気候のため思うように米が育たず、食生活は、ソバや小麦、雑穀類を中心としたものだった。そこから、「はっと(めん)」や「ひっつみ」「南部せんべい」などの豊かな粉食文化が生み出されている。

「ひっつみ」の由来は「引きちぎる」と言う意味の方言「引っ摘む」と言われている。小麦粉を水で練り、耳たぶくらいの柔らかさにし、薄く延ばして食べやすい大きさにちぎって鍋に入れて食べる岩手の家伝料理。「はっと」は薄く生地を延ばしてゆでる麺で、宮城県大崎・栗原・登米地方から岩手県南に伝わる郷土料理。小麦を栽培し、小麦粉の料理を食べる農民が増えて、米の生産が減ってしまうことを心配した殿様が、御法度を発令したことに由来すると伝えられている。

戸田久の製造部品質管理課の櫻井淳さんは、「この地域ではいろいろな小麦料理が作られてきました。南部地粉を使った乾麺は、ちゃんとゆでてざるで水洗いをして冷やして食べると、つるつるとして本当においしいですよ」。製麺を20年間手掛けてきた職人の言葉だ。

乾麺は日持ちを良くするために乾燥するので品質保持のための添加物は必要なく、材料は小麦と塩だけ。保存できる期間はうどん、平麺は1年、ひやむぎは1年6か月、そうめんは2年。ただ、ゆでるのに時間がかかる。

「南部地粉三角ざるうどん」は、麺の断面を三角にすることでゆで時間を短縮した乾麺だ。角の部分は熱がよく通り、しんは弾力が残る。戸田久の社長、戸田敬さんのアイデアで、時間がたっても伸びた感じがせず独特の食感を持つ。甘辛く味付けした肉みそと千切りの野菜をのせて「じゃじゃ麺」風にしてもおいしい。もうひとつ、「盛岡冷麺」も戸田久独自の製法で作る。ゆでた時の透明感や力強い弾力は、粉の重量の3割以上のでんぷんを加え、戸田さんが試行錯誤のうえ作った機械で製麺することにより得られる。

「南部地粉で作る乾麺は、ゆで時間を短縮したり、いろいろな食感にするなど工夫していきたいと思っています」と櫻井さん。寒くなる季節には、鍋焼きうどんや「南部地粉平うどん」を使ったほうとう風も出番が多くなりそうだ。「鍋にたっぷりのお湯を沸かし、ちょっとだけ油をたらして、麺をひろげながら入れるとくっつきません」と、ゆで方のこつを教えてくれた。
撮影/田嶋雅已  文/本紙・伊澤小枝子

『生活と自治』2019年9月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。

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