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生産流通履歴が明らかで国内最高品質のワカメ産地の危機【重茂漁協】


生協設立から4年後の1972年、生活クラブは日本生協連の「CO―OP商品」に頼ることなく、独自の「産地提携」の力でオリジナル品(Sマーク消費材)を開発する方針を実行した。これを支えたのが生産者と組合員、そして職員の協業と分業に基づいた意識的な購買力の結集だ。生産ロット(まとまった数量)を計画的に購入し、組合員と職員が主体的に利用を呼びかけ、生産者と約束した利用量は必ず守ろうという「利用結集運動」が、生産者も組合員も「適正」と認めた品質と安さを実現した。今回は1976年から生活クラブ生協と提携し、国内最高峰と市場も認めるワカメを生産する重茂漁協の「いま」を見つめ、生活クラブの消費材10原則の第5原則「素材本来の味を大切にします」の意味を再考してみたい。

国産品は2~3割しかない

重茂漁業協同組合業務部長の後川良二さん
便利なネット社会の力を借り、農林水産省のホームページを閲覧してみた。日本の食料自給率(カロリーベース)は約38パーセントとある。さらに「ワカメ」と水産物総体の自給率(カロリーベース)を調べてみると、ワカメ単独での記載は見当たらなかったが、後者は2016年の時点で67パーセントと大健闘しているのがわかった。

ただし、日本の水産物自給率は75年の100パーセントから半世紀近くも低下し続け、毎年3~4パーセントずつ律義に減少している。気になるワカメの自給率だが、農水省の統計にも「日本国勢図会2018/19」(矢野恒太郎記念会)にも記載はなく、ネットで確認できたのは「25パーセントから31パーセント」という数値だった。
 
となれば、輸入品と国産品の割合は8対2ないしは7対3。そんな貴重な国産養殖ワカメの主産地は岩手、宮城、徳島の3県で、岩手・宮城産の「三陸ワカメ」がその9割を占める。ちなみに農水省「平成30年漁業・養殖業生産統計」によれば2018年度には岩手1.8万トン、宮城1.6万トン、徳島0.6万トン、全国で5万トンの養殖ワカメが収穫された。ワカメの自給率を25%とすれば、約15万トンは輸入品。中国、韓国で生産された養殖ワカメだ。輸入品の用途は乾燥ワカメ用が中心で「価格は国産の10分の1以下。中韓両国産ともに量産型で養殖海域の生育条件もあまりよろしくない」と言い切るのは後川良二さん(60)。生活クラブ生協の「肉厚わかめ」を生産する重茂漁業協同組合業務部長だ。

海は「共有財産」だから

重茂漁協組合長の山崎義広さん
70年代以降、輸入が急速に増大したワカメだが、近年では中国が自国消費を優先するようになってきたことや東日本大震災以降の生産量の大幅減少で国産品の希少価値が改めて認識されたため、ここ8年は国産品の需要が着実に高まりつつある。

おまけに2019年産の国産品は養殖ワカメの新芽が病気で落下する「芽落ち」の発生で宮城県産が減少。岩手県産の中核産地である重茂漁協も東日本大震災の「後遺症」で、震災前の60パーセントの水揚げを維持するのが精いっぱいとなり、三陸産ワカメは品薄状態に陥った。

このため、重茂産芯抜き1等品には19年度の入札で10キロ2万2195円(キロ2195円)の高評価を得た。だが、後川さんと2019年度から同漁協組合長となった山崎義広さん(72)の表情は険しい。
「重茂産ワカメの品質に対する市場の高評価は光栄だが、あまりの高値が消費者離れを招く恐れもあるし、いくら高くても肝心のワカメがなければどうにもならない」と山崎さん。というのも東日本大震災の大津波で同漁協は所有する加工場、冷蔵保管庫、ふ化養殖施設、漁協直営の定置網漁船など約50億円の損失を被り、一度は皆無となったワカメの水揚げがいまも震災前を大幅に下回っているからだ。

被災直後、重茂漁協前組合長の伊藤隆一さん(80)は、「(海とともにある重茂の暮らしの未来に失望し)、漁業から脱落する組合員を出してはなんねぇ。苦しいときこそ、互いに助け合うのが協同組合」と迅速な復旧を目指して奔走した。漁協が巨額の損失を受けるなか、同漁協組合員も814隻の船外機付サッパ船のうち798隻を失い、310台の養殖施設が全壊するという事態に直面していた。山崎さんは言う。

「当時は私も副組合長として懸命に伊藤さんの背中を追いかけ、被災後4年で漁業関連施設の約9割復旧を実現した。伊藤さん同様、一人の百歩より百人の一歩という協同の理念の下、養殖ワカメの共同加工場を真っ先に復旧させ、漁民の暮らしを支える前浜の資源回復を目指し、アワビの稚貝の養殖施設とサケのふ化場も大急ぎで再建した」

止まらない漁業者の減少

船外機付き小型船舶(サッパ船)でのワカメの収穫作業

どの事業も総工費の9分の8を補てんする政府の復興交付金を活用した事業だが、数億円単位の支出の9分の1負担は決して軽くない。「実は……」と後川さん。聞けば、被災後に新設したワカメのボイル(湯通し)施設の稼働状況が芳しくなく「ほとんど稼働していない無駄な施設だと、この2年は会計監査員に大目玉を食らっている」と悔しげだ。

加工場の稼働率低下の背景には個々の漁業者が1台250万円のワカメのボイル・塩蔵装置の購入に際し、やはり9分の8の助成金が支払われるという復興支援策がある。その装置があれば「ワカメの一次加工の時間短縮が可能。この装置を使い、自宅で加工したワカメを漁協に出荷すれば、原藻出荷の6.5倍高い価格で引き取ってもらえるという組合員支援制度がある。これが漁協の共同加工場の利用を減少させる要因となり、皮肉にも漁協の収支を悪化させている」

共同加工場の不振に追い打ちをかけるのが、サケの不漁による定置網の収益減少、アワビとウニの不漁だ。「やはり最大の痛手はワカメの水揚げ量の減少。今後、廃業者が増えれば、せっかく最盛期の年5000トン(源藻換算)の6割相当の3000トン(同)まで回復させてきた水揚げ量が再び低下する恐れが出てきた」


2015年現在、重茂漁協の組合員は震災前から70人減の516人で、平均年齢は52.8歳。しかし、243人が60歳以上で、うち70代以上が128人を占める。この人たちにワカメ養殖を続けてもらいたいと、重茂漁協では1月半ばから刈り取ったワカメをしゃぶしゃぶ用生ワカメの「春いちばん」として販売し、通常の倍以上の価格で買い取る事業に取り組む。

新芽は短く、比較的軽いため、労働の軽減にもつながる。しかも水揚げ後の洗浄やボイル・塩蔵が一切不要で塩蔵品より高く買い取るため、働きがいもある。
「まさに高齢化した漁業者向けの仕事だ」と後川さんは胸を張る。それでも組合員の漁業離れは容易に止まらず、ワカメの水揚げ量の回復は当面望めないという現実が漁協の経営に暗い影を落とす。

こうしたなか、重茂漁協は各取引先に「毎年のように値上げを要請し、応じてもらってきた。だが、生活クラブだけには、とても値上げ話を切り出せなかったが、もはや限界。今回の値上げとなった」と言う。この点について同漁協組合長の山崎さんは次のように訴える。

「生活クラブの皆さんは5000万円の組合員カンパを集めて、定置網船と網運搬船を寄贈してくれた。地元岩手の組合員にはさんざんお世話になった。だから、とても値上げするとは言えなかった。しかし、もはや限界。9月からの納品価格の値上げをお願いした。心苦しいかぎりだが、重茂の海は生活クラブの海でもあり、そこから生まれるワカメも共有財産と考えていただき、その海とともにある暮らしを今後も守っていくための判断だとご理解いただけるものと信じている」

いうまでもなく生活クラブの消費材のふるさとの多くは、人の「いのちの源」をはぐくむ場でもある。この価値観を共有する者同士の半世紀に及ぶ提携が、過剰な加工を施すことがない「素材本来のうまさ」を支えている。

スリートップはアスリート

北海道沖から南下してくる親潮(寒流)が、北上してくる黒潮(暖流)とぶつかる重茂の海は、ワカメやコンブの生育に欠かせない亜硝酸塩やリン酸塩などの「栄養塩」が抱負な海だ。だから、重茂産ワカメは三陸ワカメの代表で、「味も品質も国内最高峰」と重茂漁協組合長の山崎義広さんは胸を張る。

そんな山崎さんの右腕で同漁協参事の前川清さんは「最高峰だからこそ、信頼を失うわけにはいかない。うそやごまかしは一切なしの勝負になるから、毎年毎年手が抜けない」と言う。

生活クラブ生協との出会いは1976年。当時から重茂漁協では海を守るための合成洗剤追放運動に取り組み、青森県六ヶ所村の核再処理工場稼働に反対する署名活動にも熱心に参加してきた。「不謹慎な発言だが、重茂を襲った津波は黒ではなく見事な青だった」と漁協業務部長の後川良二さん。「石けん普及運動のおかげ」と笑顔で話す。

この3人、実は屈強でクレバーなスポーツマン。山崎さんはアマチュア野球の投手、前川さんはラグビーのスクラムハーフ、後川さんはレスリングで、全国大会に出場した経験がある。うーむ、重茂の海と高品質なワカメを守っているのはアスリート魂かと合点した次第だ。

 
撮影/魚本勝之   文/本紙・山田 衛

『生活と自治』2019年9月号「新連載 産地提携の半世紀」を転載しました。

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