今年も子どもの「甲状腺検査活動」の報告会を開催しました
生活クラブでは2011年に発生した福島第一原発事故のあと、組合員から寄せられたカンパをもとに子どもの甲状腺検査活動を続けています。
8月31日に東京の生活クラブ館にて各地域の2018年度の活動内容を共有する報告会を開催し、組合員など66名が参加しました。
8月31日に東京の生活クラブ館にて各地域の2018年度の活動内容を共有する報告会を開催し、組合員など66名が参加しました。
子どもの甲状腺経過の基礎資料となり得る検査データ
生活クラブでは、原発事故の時に福島県にいた子どもたちだけでなく、他の地域の子どもも甲状腺検査を続け、福島県と他地域の比較、全国各地の実態把握を行なうとともに、甲状腺がんの早期検診、脱原発活動につなげることをめざしています。
2018年度は21地域の生活クラブで甲状腺検査を実施し、689人の子どもが受診。対象は事故当時0~18歳が目安ですが、震災後に生まれた子どもでも希望があれば対象にしています。
この活動には、全国で55ヶ所の医療機関の協力をいただいています。
福島県でも「県民健康調査」として甲状腺検査は行われていて、生活クラブの検査はそれとの比較をめざしましたが、現在の検査数では単純に県のデータと比較するのは難しい状況です。しかし、放射線による甲状腺への健康影響へのメカニズムはまだわかっていないことが多く、検査データを蓄積することで、それらを知る基礎資料になる可能性があり、それも活動を続ける意義であると言えます。
2018年度は21地域の生活クラブで甲状腺検査を実施し、689人の子どもが受診。対象は事故当時0~18歳が目安ですが、震災後に生まれた子どもでも希望があれば対象にしています。
この活動には、全国で55ヶ所の医療機関の協力をいただいています。
福島県でも「県民健康調査」として甲状腺検査は行われていて、生活クラブの検査はそれとの比較をめざしましたが、現在の検査数では単純に県のデータと比較するのは難しい状況です。しかし、放射線による甲状腺への健康影響へのメカニズムはまだわかっていないことが多く、検査データを蓄積することで、それらを知る基礎資料になる可能性があり、それも活動を続ける意義であると言えます。
甲状腺検査で早期発見・早期治療
生活クラブの甲状腺検査を監修する道北勤医協・旭川北医院院長の松崎道幸医師
今年の報告会は連合会事務局による報告の後、2名の講師による講演がありました。1人目の松崎道幸医師からは、生活クラブの検査活動への評価・共感とともに、今年6月に発表されたICRP(国際放射線防護委員会)の勧告草案についての解説がありました。
ICRPは専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行なう国際組織です。草案は福島第一原発事故後の経過をもとに作られたとされていますが、その内容は多くの研究者から現状を反映していないと反論が噴出するものでした。例えば、緊急時の被ばく線量限度を年間100mSvに改訂するという案。「100mSvなら被ばくしても影響はない」、「あわてて逃げる必要はない」としています。松崎医師は、100mSv以下でもがん発生の例があり、放射線被ばくの影響は年齢や性別によっても変わる。子どもへの影響は大人の数倍大きく、「被ばく量の制限は、最も放射能の影響を受けやすい人に合わせる必要がある」と述べました。
ICRPは専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行なう国際組織です。草案は福島第一原発事故後の経過をもとに作られたとされていますが、その内容は多くの研究者から現状を反映していないと反論が噴出するものでした。例えば、緊急時の被ばく線量限度を年間100mSvに改訂するという案。「100mSvなら被ばくしても影響はない」、「あわてて逃げる必要はない」としています。松崎医師は、100mSv以下でもがん発生の例があり、放射線被ばくの影響は年齢や性別によっても変わる。子どもへの影響は大人の数倍大きく、「被ばく量の制限は、最も放射能の影響を受けやすい人に合わせる必要がある」と述べました。
これまでの生活クラブの検査を通して、「甲状腺検査の所見のひとつである、のう胞や結節※は、発生・拡大したり、縮小・消失することが分かってきました。一方で急速に大きくなるケースもあります。2巡目の県民健康調査でがんと診断された71人の大半は、2年前の1巡目の検査ではA判定だったのです。早期発見・早期治療がとても大事で、そのためにも甲状腺検査を続けることが大切です」と訴えました。
※のう胞:液体の詰まった袋で、基本的にがんの心配はない。結節:細胞のかたまり。大きく不規則な形のものはがんの心配があり、詳しい検査が必要
※のう胞:液体の詰まった袋で、基本的にがんの心配はない。結節:細胞のかたまり。大きく不規則な形のものはがんの心配があり、詳しい検査が必要
強引かつ不透明な「甲状腺評価部会」の報告書
続いて講演したのは、福島第一原発事故後の被ばく問題を精力的に報道しているジャーナリストの白石草(はじめ)さんです。小児甲状腺がんは百万人に1~2人という発生率の低い希少がんですが、福島県が実施している甲状腺検査では、174人もの子どもが甲状腺がんと診断されています(約1,700人に1人)。白石さんは、避難地区・中通り・浜通り・会津地方と、放射線量の高い順に甲状腺がんの発見率が高いことが確認されている一方で、甲状腺検査を評価する「甲状腺検査評価部会」が今年6月、突如「原発事故と甲状腺がん発生率に関連性は認められない」とする報告を公表したことを問題視。この報告書が採択された経緯について、あまりにも強引かつ不透明であると批判しました。白石さんが取材した甲状腺がん患者は、「自分たちのデータで様々な研究がされているのに、その結果がきちんと報告されていない」「検査をデメリット扱いしているのはおかしい」と怒りの声を挙げているといいます。
これからは10代の子ども達を注視していきたい時期
独立メディア「Our planet-TV」代表の白石草さん
福島県の検査で、通常より数十倍多くのがんが見つかっていることについて、一部の専門家は、「治療の必要のないがんを見つけている過剰診断だ」と主張しています。これに対し白石さんは、過剰診断どころか重症化している患者がいると指摘。手術だけでは寛解※せず、アイソトープ治療と呼ばれるつらい治療を受けている子もいると報告しました。さらに、放射線ヨウ素による初期被曝の実態は今も解明されておらず、福島以外の地域も他人事ではないと指摘。チェルノブイリでも、原発から600km以上離れた町で、事故当時4歳だった子が13歳になって甲状腺がんを発症した例があると紹介。治療により一時は寛解したものの、事故後25年目に再発し、31歳で亡くなったと述べました。「福島原発事故から約8年経ったこれからがむしろ正念場。特に10代の子ども達の健康状態を注意深く見る必要がある。」と白石さん。検査で甲状腺がんが見つかり手術を受けた人は一様に「早く見つかって良かった」と話しているとした上で、検査を続ける意義は大きいと訴えました。
※寛解(かんかい):一時的あるいは永続的に、がん(腫瘍)が縮小または消失している状態
※寛解(かんかい):一時的あるいは永続的に、がん(腫瘍)が縮小または消失している状態
子どもを持つ親の不安に寄り添う活動の大切さ
報告会の後半は、千葉・栃木・福島の生活クラブより2018年度の検査活動の報告がありました。3つの地域に共通しているのは、「まだまだ放射能の影響に不安を持っている人が多く、子どもを持つ親の不安に寄り添うためにも甲状腺検査を続けたい」という声です。
写真左から、 畔上(あぜがみ)久美さん(生活クラブ千葉)、早川幸子さん(生活クラブ栃木)
生活クラブ千葉の畔上久美さんは、震災後に線量の高かったエリアもあり甲状腺検査を継続しているとして成果を報告。検査期間を夏休みに合わせ受診しやすく工夫したことや、新規の受診者として、新たに役員になった方のお子さんの受診があったこと、地域の他団体と連携し、地域住民を対象とした甲状腺検査も実施したことが報告されました。
生活クラブ栃木の早川幸子さんからは、継続受診のための工夫と課題が報告されました。受診を呼びかけるチラシに「次年度も検査を受けられる方」という条件を入れ、前年からの継続受診と新規受診で99人から申し込みがあったといいます。しかし栃木では協力医療機関が一か所しかなく、実際に受診できたのは82人。申し込んだ全員が受診できるよう早めの受診を呼び掛けることが課題だといいます。早川さんは「福島県に隣接する栃木では、まだまだ原発事故は風化しておらず、現在進行形だと感じています」と訴えました。
生活クラブ千葉の畔上久美さんは、震災後に線量の高かったエリアもあり甲状腺検査を継続しているとして成果を報告。検査期間を夏休みに合わせ受診しやすく工夫したことや、新規の受診者として、新たに役員になった方のお子さんの受診があったこと、地域の他団体と連携し、地域住民を対象とした甲状腺検査も実施したことが報告されました。
生活クラブ栃木の早川幸子さんからは、継続受診のための工夫と課題が報告されました。受診を呼びかけるチラシに「次年度も検査を受けられる方」という条件を入れ、前年からの継続受診と新規受診で99人から申し込みがあったといいます。しかし栃木では協力医療機関が一か所しかなく、実際に受診できたのは82人。申し込んだ全員が受診できるよう早めの受診を呼び掛けることが課題だといいます。早川さんは「福島県に隣接する栃木では、まだまだ原発事故は風化しておらず、現在進行形だと感じています」と訴えました。
写真左から加藤智子さん、力丸利枝さん(生活クラブふくしま)
生活クラブふくしまの加藤智子さん、力丸利枝さんからは、生活クラブの甲状腺検査を受けた人の声が届けられました。福島県の県民健康調査に対して不信感をもつ人が多く、生活クラブの検査がその受け皿になっていることや、復興が進む中、地元では放射能への不安を言いにくいと感じる人が多いとのこと。また、事故当時に高校生だった子が母親になり親子で受診する姿もあり、8年という時間の長さを感じる場面もあったそうです。一方で、子どもの進学や引っ越しなどに伴い、継続受診が難しくなることなどが、課題として挙げられました。
力丸さんは「福島県の学校ではプールの授業が行われ、運動会も屋外で開催されています。除染作業が行なわれている横の公園で、子どもたちが遊ぶ姿も見られます。ママ同士で、放射能についての話はしません。不安や辛さを忘れてしまいたい気持ちもあるけれど、福島で暮らすと決めた以上、向き合っていくべき問題だと思っています。これからも子ども達の安全と家族の安心のために、県民健康調査への参加や生活クラブの甲状腺検査の受診を呼びかけ、不安を抱えるお母さんに寄り添う活動をすすめていきたい。」と述べています。
今後も続ける意義がある甲状腺検査活動
最後に設けられたディスカッション・質疑応答の時間には、今後の検査活動について2人の講師からアドバイスがありました。松崎医師は「甲状腺検査の成果として、検査データが福島第一原発事故による被ばくの証拠になり得ること。検査を継続して受ける意味があると思います」。白石さんは「福島県が検査を縮小しようとする中で、生活クラブのように検査を続ける団体があること自体に大きな意味があります。他にも検査を実施している市民団体があるので、何らかの形で連携しフォロー体制が整えられたら、なお良いと感じています」と述べています。
福島第一原発の問題はまだ続いているとの話に聞き入る組合員
市民団体として活動を続ける大切さを訴える藤田さん
司会を担当した、生活クラブ神奈川の藤田ほのみさんは「皆さんのお話を聞いて、震災や原発事故によって起きた問題が無かったことにされるのではないかという危機感を覚えました。次世代にも関わっていく問題ですので、生活クラブとして今後の活動について検討していきたいと思います」と今後の活動への展望を語りました。
今回の報告会では、震災から8年が経ち報道も少なくなる中で、被災者の状況が伝わりにくくなっていることが伺えました。甲状腺検査を続けることによって、子ども達とその家族が抱えている課題や変化を知ることができます。生活クラブでは、事故を風化させず、より多くの人が関心を持ち続けるためにも、今後も組合員に復興支援カンパを呼びかけ、被災地の実状に沿った支援活動を続けていきます。
2018年度甲状腺検査活動報告書はこちらから(PDFファイル)
今回の報告会では、震災から8年が経ち報道も少なくなる中で、被災者の状況が伝わりにくくなっていることが伺えました。甲状腺検査を続けることによって、子ども達とその家族が抱えている課題や変化を知ることができます。生活クラブでは、事故を風化させず、より多くの人が関心を持ち続けるためにも、今後も組合員に復興支援カンパを呼びかけ、被災地の実状に沿った支援活動を続けていきます。
2018年度甲状腺検査活動報告書はこちらから(PDFファイル)
【2019年10月15日掲載】