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生協の食材宅配【生活クラブ】
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たまごの話をいたしましょう! 希少な純国産採卵鶏「ゴトウもみじ」の養鶏場を訪ねて

岐阜県下呂市の「のびのび養鶏場」では、夫婦の力だけで実践が可能な「自然卵養鶏」の手法に従い、約600羽の純国産採卵鶏「ゴトウもみじ」を飼育しています。その現場を世界に3社しかない育雛会社の1つである岐阜市の後藤孵卵場社長の日比野義人さんと訪ねてきました。生活クラブ生協の鶏卵の産みの親も「ゴトウもみじ」で、後藤孵卵場の開発品種です。


かなり長目の前口上ですが……

「アニマル・ウェルフェア」という言葉を耳にするようになったのは、おそらく1990年代後半から2000年にかけてではなかったでしょうか。これまた推測に過ぎませんが、その背景には牛海綿状脳症(BSE)の世界的なパンデミックがある気がしてなりません。

もはや多くの人の脳裏から消えつつある「BSE」は、羊や牛が感染する家畜の病で、罹患すると文字通り脳が海綿状になる、つまり脳がスポンジのようなスカスカ状態になり、最終的には死に至る病です。その原因と目されたのは「共食い」でした。本来は草食動物である羊や牛に、病気で死んだ家畜の肉や骨を飼料(肉骨粉)として与えたからだとの説が有力視され、それらに含まれた異常タンパクのプリオンがBSEを引き起こしたのではないかとも考えられています。

BSEに感染した家畜の特定部位(脳髄など)を人が食べれば、同様の病気を引き起こすとされましたから、世界中が震撼したのも当然でしょう。こうした大騒動から生まれたのが、いつ、どこで生まれ、どこでどういう方法で肥育され、どこでどう畜肉加工され、いかなるルートで流通し、消費者の手元に届いたかを示す「生産流通履歴」の追求が可能なトレーサビリティーシステムであり、と畜される「24カ月齢以上」のすべての牛にBSE検査を義務付けるという行政措置でした。※この措置が2017年に廃止され、トレーサービリティへの社会の関心も低下傾向にあります。

「5つの自由」と「3つのR」になに思う

生産履歴が注目されたのは、本来は廃棄処分されるはずの患畜の肉や骨をえさとして再利用するという生産コスト削減手法の常態化に加え、成長ホルモンや抗生剤を多用しての大量肥育が一般化していたからに他なりません。えさの消費量を極力抑えて、速く育ててと畜解体し、大量の肉にして部位別に売りさばく。これが利潤追求と株主の利益確保のための「良策」と捉えるのが畜肉業界の「常」ということでしょう。

そんな有様に「これでいいのか」と疑問を呈する空気がヨーロッパを中心に醸成され、「アニマル・ウェルフェア」という表現となって日本に伝播されたのかもしれません。その思想が求めるのは、生き物(動物園などの展示動物・家畜・ペット・野生動物)の視点から考案された「5つの自由」に加え、実験動物の身体的・精神的負担を軽減する「3つのR」の実践です。5つの自由は、①飢えと渇きからの自由②不快からの自由③苦痛、損傷、疾病からの自由④正常な行動発現の自由⑤恐怖および苦悩からの自由で構成されています。

3つのRは動物を使わない方法への置き換え(Replacement)、利用する動物を減らす(Reduction)、動物に与える苦痛を軽減する(Refinement)。そういえば持続型社会の確立を目指す資源利用も3Rでした。ちなみに、こちらは再利用(Reuse)、再生利用(Recycle)、減量化(Reduce)です。それにしても先の5つの自由を改めて読み返してみると、どれもそのまま人間に当てはまることばかりな気がします。

そんな自由を家畜に保障しようという提案には、「菜食主義を奨励するもの」「人間が生きていくのに不可欠な畜産を安易に否定するもの」といった批判も強いようですが、すでに家畜の健康に配慮し、ゆとりある肥育スペースの確保に努め、えさから肉骨粉や遺伝子組み換え作物(GMO)を徹底排除し、抗生剤などの動物医薬品の使用を極力抑えた畜産に取り組む生産者は存在しています。彼らは「何より家畜の健康を考えている」と異口同音に話します。

むろん、一定規模の生産量を維持しなければ経営がもちませんが、その規模を家族経営の農家(小農)の連帯で実現しています。とかく大規模化と機械化による生産の効率化と低コスト化が推奨され、その旗振り役を政府が担い、「これからは輸出型という攻めの農業の出番」とまで言い切る時代です。家畜の飼育規模が大きくなればなるほど、鳴き声や動物臭、排泄物の量も増大します。こうなれば、もはや人里近くでの事業存続は不可能です。となれば、畜産が営める適地は限られてしまいます。

行ってきました、見てきました。「のびのび養鶏場」


 
畜産といえば、依然として「大きいことがいいこと」であり、「これぞ低価格販売の原動力」という世にあって、あえて夫婦二人だけの力で「自然卵養鶏」に取り組む農場が岐阜県下呂市にあります。それが「のびのび養鶏場」。経営するのは中村ことりさん(31)と建夫さん(31)です。ことりさんの祖父の中島正さん(故人)は「日本の自然卵養鶏」の父と呼ばれ、工業化していく養鶏業界に「身の丈にあった飼育法」で徹底抗戦した人として知られています。

中島さんの著書「自然卵養鶏法」(農文教)は、「いまでも庭先養鶏をはじめる若者たちのバイブルとして読み継がれています」と日比野義人さん(64)。日比野さんは中村さん夫婦に採卵鶏のヒナを納品している後藤孵卵場(岐阜市)社長です。その言葉通り、建夫さんは東京渋谷で生まれ育ち、3年ほど前まではIT企業のエンジニアとして働いていました。大学では天文学を学び、農業とは一切縁のない暮らしを送っていましたが「ことりとの結婚を機に、彼女の実家がある岐阜へ移り、妻の祖父が残してくれた本を教科書に、自然卵養鶏で生きていこうと思いました」と話します。

日比野義人さん(左)と中村建夫さん。

中村夫妻が飼育するのは「ゴトウもみじ」。後藤孵卵場が国内で原原種(曾祖父母)鶏を交配させ、原種(祖父母)を作出。さらに原種同士を交配させ種鶏(父母)、種鶏を交配させ商業鶏(農家に販売されるヒナ)を生産するという仕事を一貫して担っています。これが実に貴重な仕事。というのも、いまや世界で流通している採卵鶏の90パーセント以上を巨大な多国籍資本2社が生産しているのが実情だからです。「両社はメガファームと呼ばれる巨大養鶏事業者へのヒナ供給を手がけています。一方、当社は家族経営の小規模養鶏場への出荷が中心。小農のなりわいを支える仕事と誇りに思っています」と日比野さんは力を込めて訴えます。

この何年もの間、養鶏農家が悩まされるのが鳥インフルエンザの発生です。家畜の伝染病といえば、今年は豚コレラが頻発し、隣国の中国では既存のワクチンが利かないアフリカ型豚コレラの流行で、貿易戦争中の米国から豚肉を急ぎ輸入せざるを得なくなりました。日本も火急の事態に直面していたわけですが、日本政府は「豚コレラの汚染国と認定されれば、豚肉の輸出ができなくなる」との理由からワクチンの使用に及び腰。それが拡大する被害を目の当たりにして初めてワクチン投与に踏み切るという「国民のための食料確保より外貨獲得優先」という本音が露見するかのような有様でした。

これら家畜の伝染病のパンデミックの背景には、多国籍資本による「種」の支配に基づく、商業鶏の一元化の問題が潜んでいるとの指摘もあります。日比野さんの後藤孵卵場はまさに多国籍資本の支配に対抗し、国産鶏種の持続的開発と普及に努めているわけです。

 


 
「うちのもみじたちは病気とは無縁。生後700日齢を過ぎた7羽が現在も卵を産んでくれますし、まさしく健康そのものです」と中村さん。その秘訣は自家製飼料と緑餌、良質な水に、きれいな空気のなかでの「自然飼育」にあり、中村夫妻は一坪に10羽という中島正さんの教えを遵守しています。そんな建夫さんの言葉に「本当にいい鶏です。体格もしっかりしていますし、羽毛につやがある。ここまで見事な育ち方をしたのは珍しいですし、これが当社の鶏の本来の性能かと驚きを禁じ得ません」と日比野さんが目を細めます。

中村さんの鶏舎は3棟。すべて手作りで運動場と産卵場が用意されています。「天敵はキツネ。犬が懸命に吠えて追い払ってくれるのですが、あいつらは賢い。地面を掘って入れる場所を必ずつくります。先だって狙われた鶏舎にいた140羽はキツネの襲撃を警戒するあまり、ナーバスになって少しばかり攻撃的になってしまいました」と建夫さん。なるほど、いわれてみれば別の鶏舎の鶏よりも、確かに若干鳴き声はけたたましい。それでも「うるさい」というほどではないのが印象的でした。

おまけに鶏舎の傍らに立っていても臭くもなければ、ハエもいない。中村さんは近所の農家から分けてもらったイネの苗を自ら育ててコメをつくり、籾のままで檜のノコギリくずや米ぬか、牡蛎(かき)殻、魚粉などを混ぜ合わせ、これに山のキノコの菌糸を加えて発酵させた完熟飼料にして鶏に与えています。水は農場の傍らを流れる沢水だそうです。

「あとは緑餌ですが、これも鶏舎の周辺に生えた草のなかから、毒がないものを選んで刻んで食べさせてやります。少々手間がかかりますが、ほとんど無償で手に入るため、コストは安くあがります」と建夫さん。試みに足下の草を摘んで700日齢の鶏たちに放ってやると、我先にと争うようにして瞬く間に食べ終えた。「ハエの幼虫もいれば鶏がついばんでくれる。それがハエが少ない理由でしょうか」

 

1個18円vs1個65円の背景には

いま、のびのび農場の鶏舎にいる鶏は600羽弱。1日480個前後の卵が採れます。これらを集め、殻の表面の汚れを布できれいに拭き取り、地元の道の駅平成やショッピングモールに入った自然食品店に1個65円の6個入りを1パックとして納品する。「不思議ですね。これが大人気で、おかげさまで地元集落からの引き合いも多いです」と中村さん夫婦はうれしそうに話します。



いま(2016年現在)、日本国内で飼育されている採卵用の鶏は1億3,400万羽で年間256万2,000トンの卵が生産されています。ちなみに養鶏農家戸数は2万4,000戸で1980年の24万7,000戸の1割の水準まで減少しました。家族経営の農家が廃業し、巨大なメガファームが市場を占有しつつあるのが現実なのです。幸い鶏卵の自給率(カロリーベース)は97パーセントですが、これを支える巨大農場で卵を産む鶏(生後500日齢ほどで淘汰される)の曾祖父母は日本からはるか離れた異国の地にいて、それらを保有しているのは巨大な2つの多国籍資本なのです。

この現実に純国産鶏の作出改良で挑み続ける後藤孵卵場の日比野さん。メガファームの強大な生産力に夫婦二人だけの「等身大=身の丈にあった」自然卵養鶏で対抗せんとする中村夫妻。ここに1個20円(特売なら18円)の鶏卵との価値の差があるのは間違いないでしょう。むろん、どちらを選ぶかは消費者の意思次第です。

「いいものには自然と求める人が現れる。だから、宣伝は一度きりでいい。それも宣伝という『売らんかな』の言葉ではなく、事実をありのままに消費者にお知らせすればいい」

そう中島正さんがしっかりと著書に書き留めていることを併せてお伝えしておきたいと思います。

中村さん一家。右がことりさんとお子さんの胡心ちゃん(1歳)

生活クラブは健康的な飼育環境のなかで鶏が産んだ鶏卵の共同購入を通し、国内での鶏種の一貫生産(種から商業鶏まで)を続ける後藤孵卵場と力を合わせ、国産食料の安定確保に取り組んでいます。また、生活クラブと提携する長野県の会田養鶏では、2018年から「平飼い」の鶏が産んだ卵の出荷にチャレンジしています。
撮影/魚本 勝之
取材・文/生活クラブ連合会 山田 衛

【2019年10月18日掲載】

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