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伝えたいのは料理の楽しさ まちなかの料理教室「プルミエール」

生活クラブ北海道が開設した料理教室「プルミエール」は、昨年10月に4周年を迎えた。生活クラブの社会的な認知度アップも視野に入れ、主に組合員ではない人を対象とする特徴ある事業だ。4年間の実践から見えてきた料理と食事を取り巻く環境の変化に対応しながら、事業の持続可能性を図る。
 
「Sキッチン」のスタッフ。左から田島寛子さん、岩成美恵子さん、代表の一瀬美絵さん、横川真理子さん、事務局長の穂積薫さん

料理の基本を丁寧に


「私も受講生になれるでしょうか」。若い女性が受付カウンターのスタッフに尋ねる。ほとんど料理をしたことがないのだと言う。「もちろん」とスタッフがほほえみ、受講手続きの説明を始めた。

札幌市の中心部、大通。地下鉄の改札口直結の商業ビル内に料理教室「プルミエール」がある。ガラスの仕切りの向こうにキッチンスタジオが広がり、フロアを行きかう買い物客が講座の様子に興味を示す。講座案内のポスターの前で足を止める男性もいる。

フランス語で「はじめての」を意味するプルミエール。料理の基本を丁寧に教える教室のコンセプトを表わしている。料理のレシピはインターネットで検索する時代、調理手順を映す動画配信サイトも豊富にある。わざわざ料理教室に通うニーズはあるのだろうか。

「料理の基本がわからないと、動画を見ただけでは具体的にイメージできないようです」と話すのは、「Sキッチン」の代表、一瀬美絵さん。Sキッチンは生活クラブ北海道から委託され、プルミエールを運営する任意団体だ。現在スタッフは理事や委員経験者を中心に14人。献立や工程表の作成など細部にわたって担当を決め、全員が持ち回りで講師やアシスタントを務める。「まず、包丁で切ることがすんなりできない。食材を押しつぶしてしまう方が多いんです」と一瀬さん。柄の握り方から教えるのだと言う。

受講生に動機を訪ねてみた。「ずっと料理をしてこなかった」と言う女性は、「いろいろ調べたけれど、料理の基本を教えるところは少ないし、ここは職場にも近いので」と話す。実家暮らしの独身女性は、「たまに母と料理をすることはあっても正確なレシピはわからない」と言い、「主婦の勘! と言われても……」と笑った。習う料理の食材や調味料は特殊なものでなく、家庭で繰り返し作ることができると高評価だ。

次世代に伝えたい「食」

生活クラブ北海道は第8次中期計画(2004~06年)で、料理教室の開設を構想、その後第11次中期計画(14~18年)で教室開設とプロジェクトの立ち上げを提案した。その背景には、家庭内で調理技術が伝承されにくくなったことへの危機感があった。核家族化が進み、生活様式も変化、日常的に子どもが料理を手伝う家庭は今や少数派だ。

国内自給力の向上や遺伝子組み換え作物反対など、これまで生活クラブは共同購入を通じてさまざまな「食」の問題に取り組んできた。だが、近年は食そのものに関心のない人が増え、そうした問題に気付く人も減っている。なんとかしなければと考えたことがきっかけだ。
14年7月に料理教室開設に向けたプロジェクトが立ち上がる。当時消費担当理事だった山﨑栄子さん(現生活クラブ北海道理事長)が呼びかけ人となった。「調理の基本技術を次世代に伝えないと、食べ物の持続可能な生産につながらないと思った」と山﨑さん。作ることの楽しさ、食を選ぶことの大切さを社会に発信する料理教室は、組合員活動とは一線を画し、多くの市民に向けて「生活クラブが考える『食』を伝え、広げる場」と位置付けた。

プロジェクトでは、講座の組み立てや経営シミュレーションなど具体的な計画を議論し、条件が整えばいつでも始められるよう準備していった。若い会社員や学生が立ち寄りやすいことを最優先に、札幌市の中心部にこだわって物件を探していた15年2月、大通沿いのビルのオーナー会社から生活クラブ北海道に出店の依頼が入る。これを受けて理事会はこの場所に料理教室を開設することを決定、プロジェクトメンバーが主体となって教室の空間設計やホームページの作成などを進め、同年10月、開講にこぎつけた。
 
生活クラブ北海道理事長の山﨑栄子さん

事業自立を目指して

「家族を驚かせたい」「酒に合う料理を作りたい」など、男性教室の受講生の動機はさまざま。写真中央はスタッフの佐藤美智子さん

開講以来、プルミエールは受講生を徐々に増やしてきた。当初は料理の初心者を対象にしていたが、基本コース修了生の受け皿にもなる応用コースやお試し受講ができる体験レッスン、季節に合わせた特別講座など講座の枠を広げた。要望に応えて男性教室も始まった。地下鉄沿線のクリニックや大通周辺の企業を回るなど、スタッフは精力的に営業活動をし、30人台からスタートした受講登録者数は、複数講座の登録も含め19年10月末現在108人になった。18年度の実績では延べ1004人が受講している。

それでも、経営状況には課題がある。4周年を迎えるにあたっては、講座を全面的にリニューアル、若い女性のニーズに合わせたコース編成とし、価格設定も見直した。職場やサークル仲間など団体向けの貸し切りレッスンは、ホームページからの問い合わせが多く好調だという。

4年を経て改めて、「食材に関心を持ったことがない」「コンビニの弁当やスーパーの総菜ばかり」という若い人の多さを痛感すると一瀬さんは言う。ともすると食材の問題などを教えたい気持ちが先走りそうになるが、そこはこらえ、教わる側の立場に立って料理の手順やコツを中心に伝える。「自分にも作れる」「おいしくできた」という料理の楽しさを実感し、食への関心のスタートラインに立つ人を増やす、そのコンセプトを大切にしたいからだ。

20代、30代の独身女性や男性など、日ごろの組合員活動ではなかなか出会えない人たちに出会い、組合員活動をいかして一人一人に丁寧に寄り添う料理教室。受講生とスタッフの間に育まれる、家族とは異なる信頼関係が、他の料理教室にはない魅力かもしれない。

撮影/永野佳世    文/本紙・元木知子

『生活と自治』2020年1月号 「生活クラブ 夢の素描(デッサン)」を転載しました。

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