[本の花束2020年2月] 勝手にひとつの見方に決めつけられることが息苦しくて、多様を渇望しているんです 評論家・ラジオパーソナリティ 荻上チキさん
評論家・ラジオパーソナリティ 荻上チキさん
ラジオやテレビ、Webなどで、現代社会の問題を鋭くもわかりやすく分析してきた荻上チキさん。今回、紹介する『みらいめがね』は、荻上さんの私的な生活史ともいえるエッセイ集。
これまでとは一風違った「世界の見方」を教えてくれる本です。
──荻上さんは、社会評論をメインに活動されてきた印象がありますが、この本は違いますね。
雑誌『暮しの手帖』の連載ということで、僕の母親世代の方たちを対象に、社会問題を身近に思えるようなものを、というのが編集者からの依頼でした。たとえば今は、ジェンダーの問題など、これまで当たり前だと思われていた社会規範を乗り換えようとしている時期だと思うんですね。難しくしすぎないようにしつつ、今の価値観を更新できるようなものにしたいと考えました。
──ヨシタケシンスケさんのイラストも、エッセイをさらに展開した内容でとてもユニークです。
そうなんです。こちらから何か注文するのではなく、自由に描いていただいています。もはやエッセイの挿絵ではなく、独自のヨシタケワールドが表現されていますね。僕が自分のうつ病について書いた回など、まさかあんなイラストが来るとは思いませんでした(笑)。
──いつもクールで客観的な印象の荻上さんが、うつや離婚などご自分のことを率直に書かれているのも意外でした。
連載の1、2回目までは社会問題をわかりやすくというスタイルだったのですが、3回目の頃はうつがピークで。外部を分析するようなものは書けない、今、自分の目の前のことしか書けない状態で。これまでやってきた社会評論では、あまり自分を見せないようにしていました。感情を見せるのは弱みを見せることだと思っていたところもありましたし、プライベートでは自分の心をおろそかにしていたんです。でも、「誰か」ではなく、「自分」のことを語っていくことで、同じような悩みを抱える人たちから思いのほか反響がありました。個人の語りが、別の誰かの人生の語りを引き出すロールモデルとして役立つこともあるんだなと。
──お母さまが荻上さんのつくった本を読み、ご自分の体験を話されたエピソードも印象的です。
女性が社会進出をする時にぶつかる見えない壁、「ガラスの天井」という言葉に反応し、自分も過去に何度もそれにぶつかったと言って、泣いていました。自分の本で親が目の前で泣いて人生を語り出すという体験は僕にとっても驚きでした。
──今の若い人たちに関して、感じていることはありますか?
現在の若者は右傾化しているという人もいるけれど、右傾化ではなく、保守化している。保守化とは、権威主義ということで、世の中で正しいとされたものに従う。その理不尽さに気づかない状態が長く続くとストレスがたまってうつや適応障害になります。世の中の問題を、自分の内面の問題だと思い、改善しなければならないのは社会ではなく自分だと思いこみ、バーンアウトしてしまうのが心配ですね。
──ご自身を「多様萌え」とも書かれていますね。
僕自身、何か勝手にひとつの見方に決めつけられることが息苦しくて、多様を渇望しているんです。「とりあえずビールね」とか、「女の子はサラダ分けてね」とか。それって全体主義ですよね。国家的な全体主義とは違う「生活全体主義」というか(笑)。そういう価値観を少しずつひっくり返すことをやってきたつもりです。誰もが皆、自分のモノサシを持っていて、それで自分や他人を測っているけれど、でも、そのモノサシってそもそもどうやってつくられたの? 実はそんなモノサシの多くは、家父長性だったり、エイジズム(*1)やルッキズム(*2)だったり、何らかの古い規範に結びついている。同じことでももっと楽しい見方をすることができるよ、あなたはどうする?と問いかけたいですね。
──その多様な見方が自分を自由にしてくれる「みらいめがね」なんですね。今日はどうもありがとうございました。
*1=年齢に対する偏見や固定概念
*2=見た目に基づいた差別や偏見
連載の1、2回目までは社会問題をわかりやすくというスタイルだったのですが、3回目の頃はうつがピークで。外部を分析するようなものは書けない、今、自分の目の前のことしか書けない状態で。これまでやってきた社会評論では、あまり自分を見せないようにしていました。感情を見せるのは弱みを見せることだと思っていたところもありましたし、プライベートでは自分の心をおろそかにしていたんです。でも、「誰か」ではなく、「自分」のことを語っていくことで、同じような悩みを抱える人たちから思いのほか反響がありました。個人の語りが、別の誰かの人生の語りを引き出すロールモデルとして役立つこともあるんだなと。
──お母さまが荻上さんのつくった本を読み、ご自分の体験を話されたエピソードも印象的です。
女性が社会進出をする時にぶつかる見えない壁、「ガラスの天井」という言葉に反応し、自分も過去に何度もそれにぶつかったと言って、泣いていました。自分の本で親が目の前で泣いて人生を語り出すという体験は僕にとっても驚きでした。
──今の若い人たちに関して、感じていることはありますか?
現在の若者は右傾化しているという人もいるけれど、右傾化ではなく、保守化している。保守化とは、権威主義ということで、世の中で正しいとされたものに従う。その理不尽さに気づかない状態が長く続くとストレスがたまってうつや適応障害になります。世の中の問題を、自分の内面の問題だと思い、改善しなければならないのは社会ではなく自分だと思いこみ、バーンアウトしてしまうのが心配ですね。
──ご自身を「多様萌え」とも書かれていますね。
僕自身、何か勝手にひとつの見方に決めつけられることが息苦しくて、多様を渇望しているんです。「とりあえずビールね」とか、「女の子はサラダ分けてね」とか。それって全体主義ですよね。国家的な全体主義とは違う「生活全体主義」というか(笑)。そういう価値観を少しずつひっくり返すことをやってきたつもりです。誰もが皆、自分のモノサシを持っていて、それで自分や他人を測っているけれど、でも、そのモノサシってそもそもどうやってつくられたの? 実はそんなモノサシの多くは、家父長性だったり、エイジズム(*1)やルッキズム(*2)だったり、何らかの古い規範に結びついている。同じことでももっと楽しい見方をすることができるよ、あなたはどうする?と問いかけたいですね。
──その多様な見方が自分を自由にしてくれる「みらいめがね」なんですね。今日はどうもありがとうございました。
*1=年齢に対する偏見や固定概念
*2=見た目に基づいた差別や偏見
インタビュー:岩崎眞美子
著者撮影:尾崎三朗
取材:2019年10月
著者撮影:尾崎三朗
取材:2019年10月
●おぎうえちき/1981年、兵庫県生まれ。ラジオ番組「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ)メインパーソナリティ。同番組で2015・16年度ギャラクシー賞受賞(DJパーソナリティ賞およびラジオ部門大賞)。著書に『彼女たちの売春(ワリキリ)』『災害支援手帖』など。NPO法人ストップいじめ!ナビ代表理事。「荻上チキ」は、Web上で使用していたハンドルネームからのペンネーム。
書籍撮影:花村英博
『みらいめがね それでは息がつまるので』
荻上チキ 文
ヨシタケシンスケ 絵
暮しの手帖社(2019年5月)
18.8cm×13cm 192頁
図書の共同購入カタログ『本の花束』2020年2月1回号の記事を転載しました。