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金子勝の行った、見た、考えた「新型コロナ禍の陰にある「忘れてはならない」被災現場」

金子勝さん(千葉県大多喜町の町有林にて)

新型コロナウイルスの感染拡大で国民生活全般が大きく揺り動かされ、多くの人が激しい不安に駆られる日々が続いている。その社会的影響の深刻さは言うまでもないが、その陰に隠れて一つの重要な問題が忘れられようとしている。

観測史上最大級の台風15号が上陸したのは2019年9月、翌10月には台風19号と21号が相次いで日本列島を襲った。15号の直撃を受けた千葉県では住宅損壊、冠水、大規模停電などで甚大な被害が発生。同県の農林水産業への被害額は同年10月25日の時点で447億2,800万円に達し、東日本大震災の346億円を上回った。被災した住宅も一部損壊を含めて5万棟を超え、2000本以上の電柱が倒壊。これに起因する大規模停電の全面復旧に2週間以上を要した。

今年2月、被災から半年が経過した現地を経済学者で立教大学特任教授の金子勝さんが訪ねた。(取材は新型コロナウイルス対策のための外出自粛要請が発表される以前に実施した)

なぜ、「根返り倒木」が発生したのか

被災後半年が過ぎても台風の爪痕が残る鋸南町(きょなんまち)、鴨川、大多喜町、長南町を訪ねて回った。案内してくれたのは自伐型林業推進協会の事務局長で「林業ジャーナリスト」という珍しい肩書きを持つ好青年の上垣喜寛さんだ。

台風15号と19号の暴風で多くの倒木が発生した鋸南町では、山の木々が根こそぎ倒れていた。樹木には「溝腐れ病」という病気があり倒伏の要因になるというが今回は違う。「根返り倒木だ」と上垣さんは言う。
しっかりした良木が一定の密度で生えていないと森は強風に耐えられない。それが乱伐で森がすかすかになっているため、暴風が吹き荒れると根こそぎ木が倒れてしまう。これが「根返り倒木」と呼ばれる現象だ。

いまや外国製木材の輸入で国産木材の価格は下がり、林業そのものが成り立ちにくい。むろん自分で林業を営む農家林業は激減し、森林の伐採を業者に委託して収益を得るようになってきている。委託業者は30年から50年先を考えた伐採や植林を計画する余裕がなく、せいぜい5年スパンでしか物を考えられなくなっている。このため、できるだけ収益が上がる良木から伐採してしまうため、あちこちにやぶや竹林などが生まれる。そんな場所が今回のような強烈な暴風雨に見舞われれば、倒木や土砂崩れが起きるリスクが高い。

台風15号被害を受けた千葉県鋸南町の山林。山に残った木の本数も少なく、風が通りやすい森の倒木が目立った

低下した「里山」の保水力

次に訪ねたのは長南町(ちょうなんまち)。造園家の高田宏臣さんに案内を請い、森林開発の現場に出向いた。昨年の台風21号では、茂原市を流れる一宮川が氾濫して大規模冠水が起きた。同市の上流に位置する長柄町も洪水に見舞われ、同町に隣接する長南町でも冠水が発生した。

山の緑が持つ保水力が、林業の荒廃や山林の乱開発によって失われていく。その主たる要因が耕作地や宅地開発のために河川を真っ直ぐに通し、河岸をコンクリートで固める工事であり、砂防ダムの建設だろう。小さな山崩れは砂防ダムでも当面は防げるが、しだいに土砂が下流に流れつき、川底を浅くしてしまう。こうなると2つないし3つの川が合流する地点では、台風や集中豪雨によって一気に水があふれ水害をもたらす。

とはいえ、千葉の山々の高さはせいぜい300~400メートルで、いわゆる里山がほとんどを占める。これでも保水力を発揮するのかと考えながら車で走っていたら、里山の谷に谷津田(やつだ)が開けていているのが見えた。里山に湧く水でため池がつくられ、その裾野に田んぼが広がっている。確かに山々は水をたたえる力を発揮していたのだ。

千葉県長南町の山林内を分け入る金子さん

しかし、千葉県は首都圏に近いため、じわじわとゴルフ場や宅地の開発が進められてきた。その結果、里山が蓄える養分が豊富に溶け込んだ水が出なくなるという問題が発生している。その一方で、台風21号の際には、長南町の市街地では大規模な浸水が起きたのだから、何とも皮肉な話というしかない。

高田さんの案内で長南町の「坂本メガソーラー」を見せてもらった。敷き詰めたようにソーラーパネルが一面に広がっている。もともとは学校を建設する予定で開発されたが中止となり、固定資産税の負担に悩んでいた地主が「渡りに船」とメガソーラーを受け入れたという。その結果、予想しない環境変化が起きた。

メガソーラー周辺の林では根返り倒木が起き、一部は荒れ果てたやぶになり、崩れた土砂に覆われた場所までできたのだ。しかも谷津田から水草や魚類が消え、いわゆる生物の多様性が失われてしまったという。別の谷津田では、鉄分が含まれた赤い水が出ていた。油の浮いた水面には虫の死骸がたまりよどんでいた。その水はもう田んぼの水としては使えず、ため池の下に広がる田んぼは事実上、耕作放棄地になってしまっている。

谷津田を下っていくと、冠水が発生した地域があった。そこを車で走りながら、やはり山の保水力の低下を実感せざるをえなかった。

山を削った造成地につくられたメガソーラー発電(左)と案内役の造園家の高田宏臣さん(右)

待たれる兼業型林業の広がり

鋸南町や長南町の被災現場に向かう途中、上垣さんが事務局長を務める「自伐型林業推進協会」が大多喜町の町有林で実施している研修を見学させてもらった。指導に来ていたのは奈良県吉野町に1900ヘクタールの山林を所有している清光林業(本社・大阪府大阪市)の岡橋清隆さん。清光林業は「山守」と呼ばれる林業従事者数十人を抱え、自伐型林業を営みながら100年かけて立派な杉を育てている。この日の研修には地元林業者の村上雄基さんも参加し、10人ほどの受講生を指導していた。

自伐型林業は山の木々を大規模に伐採し、大規模に植林する手法ではなく、かつての農家林業のように他の職業との兼業で営む小規模な林業だ。森の中に約2.5メートル幅の細い道を通すのが自伐型林業のポイントで、一番難しい「肝」となる仕事だ。この方法なら森林のなかにぽっかりと空間が生じることなく、暴風雨が入り込んでも倒木が起きにくい。切る木を慎重に選ぶのも自伐型林業の特徴といえる。森に良木を残しながら、木材として切り出す樹木を選んで1本1本切っていく。

10月上旬~2月が伐採期間で、伐採した木は1立方メートルあたり1万円前後で販売できれば月に20万円台の売り上げになる。大規模林業と違い、自伐型林業にはコスト負担が小さいという利点がある。意欲と工夫次第では木質バイオマス発電やペレットボイラーなどに熱源を提供するビジネス展開ができるのも魅力だろう。

森林にはCO2をはじめとする温室効果ガスを吸収する力がある。この恩恵に加えて、私が千葉の被災地を歩いて痛感したのは、気候変動の影響から巨大台風や集中豪雨が今後頻繁に発生するとしたら、森を守ることが地域の生活を守ることにつながるということだ。日本の国土面積の7割近くを占める山林を維持していくには、自伐型林業の広がりが欠かせないのではあるまいか。

千葉県大多喜町。奈良県の林業家である講師の岡橋さんが来ることを聞きつけ、関東圏内から10人ほどの研修生が集った

停電時に充電所を設営した市民エネルギーちば

長南町の「坂本メガソーラー」に話を戻そう。いまや太陽光発電は気候変動対策に不可欠な存在といえるだろう。その設置場所が建物の屋根や屋上などの平たんな空き地なら問題ないが、地代収入目当ての山林の乱開発はかえって地球環境を破壊する。ではどうすれば農業と太陽光発電の両立が可能となり、災害時にも役立つような方法はないのだろうか。

答えは農地を活かしながら、太陽光発電を担う「ソーラーシェアリング」にある。それは農地の上に細い太陽光パネルを張る仕組みだが、遮光率が35%以下ならば、どんな作物も育つ。発案者の長島彬さんが2005年に特許を公開した結果、次第に普及した。千葉県は国内屈指のソーラーシェアリング先進地でもある。

匝瑳市(そうさし)の「市民エネルギーちば」を訪ねた。この団体を立ち上げたのは、有機農産物販売に取り組んでいる東光弘さんと地元の兼業農家の椿茂雄さんだ。2人を行動に駆り立てたのは「就職先もなければ病院もなく、過疎化で農地も荒れ始めた現状をなんとか変えたい」という思いだった。そこでの農作業を担当するのは「農業法人スリー・リトル・バーズ」。斎藤超さん、佐藤真吾さん、Uターン組の寺本利行さん、新規就農で匝瑳に移住した越智雅紀さん、そして椿さんで、全員が有機農業に精を出す。

農業と太陽光発電を両立させるソーラーシェアリングを取材する金子さん(左)

最初に導入された同市飯塚のソーラーシェアリング1号機は、市民に1枚3万5000円(税別)の投資を募る市民共同出資型で、パネル容量は57キロワット。2014年9月に通電を開始した。次に、3.2ヘクタールの農地を使い、総工費3億円をかけて建設された年間売電予定額約5000万円の大規模な発電施設を整備した。城南信用金庫が融資を仲介してくれたという。この施設の目的の一つが匝瑳市内の耕作放棄地の再生だ。

市民エネルギーちばの代表取締役、椿茂雄さん(左)と東光弘さん(中央)は、再生可能エネルギーを活用し地域と大地の再生に取り組む

もともとは県が農地として造成した土地だが、遺跡が発見されたため、3年間工事が造成工事が止まった。そのため客土費用が確保できず、耕作できないまま荒れ地になっていた。そこに現在は大豆や麦が栽培されている。6次産業化も試みられ、みそや地ビール(Sosa Solar Sharing Beer)も誕生。数年かければ作物も多様化できるだろうという。

ちなみに市民エネルギーちばでは、環境問題で先進的な取り組みをしている「パタゴニア」が、社債をもとに設置した50キロワット規模のソーラーシェアリングの設置運営も担い、同社の店舗に電気を供給している。
もちろん匝瑳市も台風15号と19号の被害に見舞われ、大規模な長時間停電が起きたが、市民エネルギーちばのソーラーシェアリングはびくともしなかった。パネルが細く、骨格もしっかりしていたからだ。停電の際には無料ソーラー充電所を開設し、市民に開放した。この停電を機に匝瑳市役所との間で災害時の電源確保に関する取り決めが締結された。

今回被災現場を訪ね、生業を通じて森林を守ることで地域の環境を守ろうとする人々がいることが頼もしく思えた。ソーラーシェアリングという地域の環境を守る再生可能エネルギーもできている。その地道な歩みと営みの成果が定着するにはまだ時間を要するだろうが、それは間違いなく未来の子どもたちの力になるはずだ。
いまも台風被害からの復旧がままならないまま、新型コロナウイルスの脅威に悩まされている人々がいることを改めて胸に刻みたい。

2019年の台風15号・19号襲来時、暴風雨が吹き荒れても「市民エネルギーちば」のソーラーパネル(後方)はびくともしなかった

撮影/鈴木貫太郎

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