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地球釜から始まる古紙再生【新橋製紙・マスコー製紙】

古紙を最初に処理する地球釜。1回に12トンの古紙を、水蒸気、水、最低限のより安全な薬品とともに5時間をかけてほぐす。「最終的にできる紙がふっくらと仕上がります」と、鈴木さん

静岡県富士市にある新橋製紙は、古紙100%で作る「無漂白ロールペーパーシングルソフト」の提携生産者だ。家庭紙の使用は一度限り。それでも資源をより大切にし、使い勝手をよくしたいと、原料や規格について組合員のさまざまな要望に、ていねいに応えてきた。

備蓄のすすめ

左写真:古紙原料、右写真:新橋製紙の専務取締役、山﨑清貴さん(右)と、取締役相談役の鈴木志信さん

今年2月より3月にかけて、スーパーなどの店頭からトイレットペーパーやティシュペーパーが姿を消した。新型コロナウイルスの影響で、マスクを作る紙の原料が不足する、などとのうわさが流れたためだ。

無漂白ロールペーパーシングルソフトの提携生産者、新橋製紙の取締役相談役の鈴木志信(しのぶ)さんは、メーカーの生産体制について、「トイレットペーパーだけではなく、生活用品は需要と同じ量だけ作る、というのがメーカーの姿勢です。余分に供給すると値崩れが起きますし、足りなくなると消費者の暮らしが困ることになります。通常はメーカーや流通にかかわる『在庫』が、今回は家庭にシフトしただけです」と言う。一部の人の買い占めにより、家庭内の在庫が偏在してしまったのが今回の騒動の原因だ。「日常の暮らしにあって当たり前のものは、日頃から備蓄することを心掛けておくと、いざという時にあわてないですみますよ」

鈴木さんは高校生の頃、今回と同じように、スーパーなどの店頭から生活物資がなくなっていくのを目の当たりにしている。1973年に起きた、物不足と物価高騰を招いた「オイルショック」だ。
当時、生活クラブは日本生協連を通して洗剤や砂糖、トイレットペーパーなどを購入していたが品不足に陥る。ただひとつ、直接提携していた生産者のマルモ青木味噌醤油(みそしょうゆ)醸造場の味噌だけは不足することなく組合員のもとへ届いていた。そこで生活クラブは直接取引できるトイレットペーパーの生産者を探し、74年に新橋製紙と出会うことになる。

ロールペーパーへの名称変更

「仲間とともに次世代の製紙業を担います」と話す山﨑清貴さん

新橋製紙は、戦前は製材工場だった。戦後の48年に古紙再生の製紙業に転換した。このとき駐留米軍より要望があり、米軍規格によるトイレットペーパーを作るようになった。これがのちの日本工業規格(JIS規格)の原型となるのだが、当時日本の家庭ではまだ使われておらず、一般に使われ出したのはトイレの水洗化がすすみだした60年頃からだ。

生活クラブとの提携が始まったのは75年、その後、生活クラブオリジナルのトイレットペーパーの開発、供給が始まった。83年には規格を変更し、名称もトイレットペーパーからロールペーパーへと変える。

古紙を原料としたティシュペーパーは無い時代だ。組合員は、台所で食器を洗う前に油汚れを拭きとったり、食卓でこぼれた汁物や汚れを吸い取ったりする時にも、古紙を原料とした再生紙を使いたいと考えた。そこで、トイレだけではなく、暮らしのさまざまな場面で使えるように、名称を変更した。

ロールペーパーが現在の形になったのは97年。1巻の幅はきちんとホルダーに収まる108ミリメートル、長さは100メートルで1パック8巻入り。一般的な市販品の60メートル12巻入りと比べると、どっしりとした重さが感じられる。これは「坪量」という、1平方メートル当たりに使う原料の重さが違うからだ。市販品は約16から17グラムなのに対し、ロールペーパーは20グラム以上ある。専務取締役の山﨑清貴さんは、「紙の厚さが使う長さを決めるといわれています。ロールペーパーが長持ちすることを実感している方は多いと思いますよ」と、長さの表示と値段だけで選ぶのではなく、ぜひ使ってみてとすすめる。

右写真:地球釜で処理した原料を水で洗う、左写真:ロールペーパー用の紙をドライヤーで乾かし。最後に巻き取る
 
右写真:100メートルのペーパーが巻き取られるログ。2.32メートルあり、21個のロールペーパーができる、左写真:点検後、パック詰めされる

品質を変えずに23年

ロールペーパーの原料は古紙100%。新橋製紙で最初に古紙が処理されるのは、直径約5メートルもあり、厚さが2センチメートルの鉄でできた球形の「地球釜」の中だ。

製造工程では、漂白剤や合成界面活性剤は使わない。一般に、紙を漂白するには塩素系や酸素系の薬品が用いられ、特に塩素系はダイオキシン発生の原因とされている。山﨑さんは「地球釜で作られる暗灰色の紙の原料は、漂白剤を使えば簡単に白くなります。でも、水で洗い絞る、という工程を4回繰り返し行い、色を薄くしていきます」。合成界面活性剤も、使うとチリの少ない紙ができるが、工程を工夫して使用しない。

その他、紙を作るにはさまざまな薬品を必要とするが、新橋製紙では、なるべく動植物由来のものや、長く使われていて安全性が確認されているものを最低限度に抑えて使う。たとえば、濡れた紙を金属製のドライヤーに巻いて乾かす工程がある。一般には巻き付いた紙がはがれやすいように、石油由来の鉱物油を使うが、新橋製紙では、なたね油をベースにした剥離剤を使う。従業員の健康を考えてのことはもちろん、化学物質過敏症の人や肌が弱い人でも安心して使えるロールペーパーを作るためでもある。

97年より23年が経過する間に、新しい製紙技術や印刷技術が開発され、紙の種類も多様になった。当然古紙にも変化が起きる。ロールペーパーの品質を保つためには、工程の見直しや機械の増設が必要だった。以前、工場長を務めた鈴木さんは、「簡単に溶けないで残ってしまうインクも使われるようになりました。すりつぶして流すために機械を導入しましたが、その前段階の準備も必要です。電力など使うエネルギーも増えました」。同じ品質のものを長い間作り続けるためには同じ作り方ではできないと言う。

田子の浦港

古紙がなくなる?

取締役相談役の鈴木志信さん。「23年間、組合員のニーズに合わせてペーパーを作ってきました」

電子機器の発達によりペーパーレス化がすすみ、紙の生産は減り、当然古紙の発生も減少傾向だ。2000年から05年にかけて、日本国内で3千万トン以上の生産量があった紙類は、19年、2千600万トンまで減少した。それだけ古紙も減っている。

新橋製紙で1年間に使う古紙の量は約1万2500トン。主に印刷や製本で発生する断ち落とし部分や、オフィスで不要になった書類などが中心だ。02年から回収を続けている生活クラブの注文用紙(OCR用紙)は年間100トン。使用する古紙の0.8%に過ぎないが、再生した量はすでに1700トンを超える。昨年より回収が始まったカタログ類は、家庭紙用の再生紙の原料としては使えない。写真印刷をきれいにするため塗工されているので使える繊維が少ないためだ。

かつて、あるファストフードチェーン店が、使い終わったペーパータオルを再生したいとの提案を出してきた。「私たちは『ごみ』ではなく、『もう一度再生するため分別する』という人の心が入った『資源』を原料にしています」と、新橋製紙は断った。「古紙をきちんと分別する家庭が多くなって、製紙工場にとってはありがたい」と鈴木さん。しかし、再生できるかどうかの見極めは難しく、判断には慎重を期すと言う。

こうした原料不足に加え、諸々のコスト上昇のため、4月よりロールペーパーの坪量を1グラム減らした。使用感は以前と変わらないようにしている。「いよいよ古紙が集まらなくなったら、世界の森林面積を減らさない条件のもとにパルプを使う、という選択肢も考えざるを得なくなるかもしれません」と鈴木さん。
新橋製紙と生活クラブは、古紙を再生し資源を循環させる仕組みを培ってきた。今後もできる限りこれを活かし、資源を有効に活用していきたい。
ドライヤーから紙をはがす装置
暗灰色だった原料が、ここまできれいになる

撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

紙にまつわる水の話

再生紙100%で作る、「ティシュペーパースリム」

製紙業が成り立つためには三つの要素が必要だといわれている。豊かな森林資源と、それを使ってパルプを作るための質のいい水、そして製品となった紙類を使う大きな消費地が近くにあること。

70余りの製紙工場が集中する静岡県富士市と富士宮市周辺は、その三つの条件のもとに製紙業が発達した。かつて、富士山のふもとには赤松の原生林があった。東京、大阪、名古屋などの大消費地に近く、物流の要でもある。なかでも製紙業には欠かせない、豊富な水がある。

富士市のロールペーパーの生産者、新橋製紙は、富士川の上流、山梨県との県境から取水され水力発電に使われた水を利用する。静岡県企業局が浄化処理した工業用水だ。富士宮市にあるティシュペーパーの生産者、マスコー製紙は工業用水の供給区域でないため地下水を利用する。どちらの生産者も最後に紙をすく工程で使った水を、別の工程で再利用し、無駄が無いように工夫している。
1970年代以前は、製紙工場から放出される排水は特に規制はなく、富士山からの土砂と一緒に田子の浦へ流れ出ていた。排水の中には繊維かす(スラッジ)が含まれており、それはヘドロとなり、土砂といっしょに堆積する。

浅くなってしまった港で、貨物船が動けなくなってしまったことがある。ヘドロが漁業にも影響を及ぼすようになり、静岡県は浚渫(しゅんせつ)をし、工場排水の基準値を定めたが、この基準値は全国一律の基準よりはるかに厳しいものだった。

富士市と富士宮市にあり、排水路を利用する製紙工場は自主監視委員会をつくり、排水処理についてお互いに協力し合った。排水路は世界的にも例がない工場排水専用のものである。繊維かすは78年よりPS共同焼却場で処分をしている。PS共同焼却場は、製紙業者が集まって設立した富士製紙協同組合が建設した。こうして40年以上もの間、富士市と富士宮市にある製紙工場は、県が決めた工場排水の基準値を守ってきた。

水に流した時に溶けやすいロールペーパーと、濡れても繊維がほぐれないように作るティシュペーパー。消費材の原料はどちらも古紙だが、紙の種類が違う。マスコー製紙では、原料の80%に牛乳やジュース、酒などが入っていた紙パックを使う。飲料用の紙パックは強度が必要なため、針葉樹から作った繊維の長いパルプが使われる。古紙ではあるが、ラミネートを外してしまえば白くてきれいなパルプが得られ、薄くても強くて柔らかなティシュペーパーができる。現在、原料の紙パックは順調に入手できている。

製造工程には漂白剤も着色料も香料も使わない。それは製紙業に不可欠な大量の水にとってもやさしい作り方だ。


新橋製紙で排水処理をした水
撮影/田嶋雅已
イラスト/堀込和佳
文/本紙・伊澤小枝子

 
『生活と自治』2020年5月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2020年5月15日掲載】
 

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