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緊急寄稿 金子勝(立教大学特任教授) ポストコロナ禍 ここに注目


5月25日、政府は「新型コロナウィルス」の全国的な感染拡大に対する緊急事態宣言を解除した。これで本当に収まるのか。クルーズ船の失敗を思い起こせば、とても安心できる状況ではない。政府が緊急事態宣言を発出したのは4月7日。これを5月4日に5月31日までとして、外出自粛を延長した。この処置は多くの業種で経営上の死活問題になりかねず、特に立場の弱い非正規雇用者、中小零細企業や商店にとっては厳しい事態となった。こうしたなか10万円の直接給付に最大200万円の持続化給付金(個人事業者は100万円)、雇用調整助成金などの拠出が決まったが、それらはあくまでも緊急の応急処置に過ぎない。当座はしのげても、営業自粛をいつまでも続けるわけにもいかず、5月26日には緩やかに解除する方向性が示されたのである。

乏しい「客観的根拠」

いま、注視したいのは安倍晋三首相が示した解除基準が客観的な根拠に乏しい点だ。政府は、5月14日に39県の緊急事態宣言を解除するとともに、以下のような怪しげな数値目標を指し示し、その達成度を見ながら「総合的に判断する」と説明した。

・新規感染者が減少傾向にある
・直近1週間の10万人当たりの感染者が0.5人程度以下
・重症者が減少傾向であり、医療体制がひっ迫していない、
・PCR検査など検査システムの確立

他方、小池百合子東京都知事は、以下の7項目を挙げた。

①新規陽性者が1週間の平均で1日20人未満
②感染ルートが分からない人が1週間の平均で50パーセント未満
③週単位の陽性者の増加比が1未満
④重症患者の減少
⑤入院患者数の減少
⑥PCR検査の陽性率
⑦受診相談件数の減少。

いったい、これらの数値にどこまで意味があるといえるのか。人口当たりの日本の検査実施数は、ドイツのおよそ13分の1、韓国の約5分の1しかない。だとすれば「直近1週間の10万人当たりの感染者が0.5人程度以下」であり、「1週間の平均で1日20人未満」だったとしても、そこに客観的な意味はほとんどない。

この間、東京オリンピックの開催や中国の習近平首席の訪日をめぐり、新型コロナに対する感染症対策が遅れて後手に回ったことは否定しがたい。その結果、国際的にみてPCR検査が極めて不十分な状況を招き、感染経路が不明な「隠れ感染」を拡大させた。クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」で集団感染を招いた失策についてもきちんとした総括がなされず、相変わらず検査不足の状況が続いている。これは国民が自分の健康状態を知る権利を損ねているし、そこが多くの国民が抱いている不安の源泉なのである。

検査の不徹底が招く「隠れ感染」

こうしたなか、東大先端科学技術研究センターが抗体検査を実施。5月1日から2日に都内の病院で採血された500人分の残余検体を調べたところ、陽性者は3人で「0.6パーセント」の感染率であることが判明した。同センターが使用した検体は10代から90代の男女ほぼ同数で、検査結果は偽陽性を排し、厳しめに見た数値だという。この感染率を東京都の人口推計(1,398万人)に当てはめて単純換算すると、約8万3,880人が罹患(りかん)していても不思議はない。それは同時期に都が公表した感染者数の18倍の数字であり、相当数の「隠れ感染」が数多く存在していると推測できる。

日本を含め、中国、韓国、台湾、香港にはサーズ(SARS)のような広州型のコロナウィルスに感染し、抗体を持っている人たちが意外に多いため、重症化しにくく、欧米のような爆発的な感染になりにくいとの見方もある。とはいえ、解除宣言の5月25日の後も毎日のように死者が出ており、25日現在で計864名の方が亡くなっている。この他に死因を確認せずに火葬場に送られた人もいるだろう。

安倍政権と専門家会議は2月17日に「37.5度4日間発熱」という条件を設け、PCR検査の実施対象を制限してきた。しかし、軽症で自宅待機中に死亡する人や軽症者からの感染事例が見られるようになり、検査を受けるための条件を緩和した。俳優の岡江久美子さんだけではない。警察が扱った26件の死亡事例には「軽症」で自宅待機のままの人や救急車で病院に担ぎこまれたりしたケースや死後の検査で陽性が判明した人が多く含まれている。

検査制限の文言を変える――。たったこれだけのことに現政権は3か月近くを費やした。4月6日に緊急事態宣言の発出を決めた際、安倍首相は「PCR検査を1日2万件に増やす」と会見で明言したにもかかわらずだ。それが検査を受けられるのは現在も8千人台が精いっぱい。約束の2万件にはほど遠い水準にある。おまけに加藤勝信厚労大臣は検査能力を「拡充すると言っているのであり、検査する」とは言っていないと開き直る始末だ。

緊急事態宣言を発する際に、専門家会議は「接触8割を削減すれば、1か月で感染が減る」とした。にもかかわらず、いまだに具体的な実証的根拠は何も示されていない。外出自粛は「隔離」ではない。さりとて、死亡率を抑えるために抗ウィルス剤などを使った治療法を検討し、普及させるわけでもない。結局、「ステイホーム」を言うだけで何もしない無策に等しい。ひたすら「ステイホーム」を続けているだけでは家庭内感染がじわじわ広がりかねないし、病院や高齢者施設での感染リスクも高まり続ける。

特に東京都内の院内感染はひどい。病床数400の永寿総合病院では、5月半ばまでに214人の感染者と43人の死者、山田記念病院では71人の感染者と6人の死者が出た。中野江古田病院では160人が感染し、13人が死亡している。他にも、慶応病院や慈恵医大病院、がん研有明病院など地域の基幹病院でも、新型コロナウィルスの院内感染の発生が報告された。ところが、こうした次々起きる院内感染の実態や患者が死に至った経緯や原因は十分に情報開示されているとは言いがたい。

このまま外出自粛を解除すれば、また感染が拡大し、再び外出自粛を実施せざるをえなくなり、だらだらと泥沼に陥る危険性が高い。実際、北海道では緊急事態宣言の発出で感染拡大が収束したかに見えたが、解除後に第2波が襲ってきた。札幌市内の北海道がんセンター、札幌呼吸器科病院などを中心に院内感染や高齢者施設での感染拡大が進んでしまった。そして5月31日、感染の第2波が生じたため発熱症状のない者にも検査を増やしていった結果、ついに北九州市の小中学校で計6名の感染が発覚した。

ワクチンが簡単にできないなら――

現状では、新型コロナウィルスはまだ分からない点が多い。「しつこいウィルス」で、厄介なことに変異が速く、サイトカインストーム(免疫暴走)を引き起こして死をもたらす。ワクチンができるのは1~2年かかるとされ、それまでウィルスの根絶は難しく、外出自粛を緩和すると感染が復活する恐れが高い。仮にいったん収まっても、今年の冬から来年にかけてぶり返す可能性がある。

再び感染が広がれば、外出自粛をするしかない。しかし、それでは経済的に生活が成り立たないため、自粛の解除を求めることになる。結果、また感染者数が増えるというジレンマに陥ってしまい、やがて政府の財政支出も限界に突き当たっていく。いまや日本は急激に雇用が失われ、飲食業や宿泊業を初めとして中小零細企業は経営破綻の危険にさらされている。納税延期や10万円の直接給付だけでなく、中小零細企業への給付や雇用調整助成金の拠出を急ぐ必要がある。与野党が一致して25兆6,914億円の補正予算を議決したのは当然だろう。

しかし、この7年間、アベノミクスで財政赤字を日銀がファイナンス(財政出動)してきたので、財政も金融も伸びきったゴム状態になっている。日銀は国債買入制限を撤廃したが、もはや国債残高の約半分を日銀が持っており、これ以上の国債購入には難しく、まさに第2次大戦中の「戦時財政」に似た状態に陥っている。

このまま外出自粛と解除を繰り返していくような事態になれば、何度も財政支出を増やして直接給付を繰り返すことになる。それでは出口がなくなり、展望は切り開けない。やがて物流などライフラインが壊れると、終戦直後のような物不足が起こり、デフレから一気にハイパー(急激に進行する)インフレのリスクが表面化する。その意味で、持久戦を戦うにはライフラインの防衛策が必須である。

同時に、ワクチンが簡単にできない以上、全員をPCR検査(症状のある者)か抗体検査(無症状の者)の実施を徹底した上で、症状に応じた標準的な治療法を急いで確立していくことが必須となる。具体的には、抗ウィルス剤や免疫制御剤を使いながら死亡率を減らすことだろう。たとえば、当面、初期の軽症ではアビガン(妊娠の可能性のある者を除く、50歳以上の男女)、肺炎などではレムデシベル、免疫暴走が起きたらアクテムラといった薬が使われ始めている。ところが、政府の専門家会議はひたすらステイホームを説くばかりだ。

欧米と東アジアの政策実行力の違い

新型コロナに対する持久戦を考えるうえで、もうひとつ注目すべきデータがある。ひとつは、中国、韓国、台湾、香港などの東アジア諸国は感染者の数を比較的抑え込んでいる点だ。広州型コロナの抗体を持っている可能性もあるが、これら諸国は当初から大量のPCR検査を行い、GPS(全地球測位システム)を使って感染者を個別追跡し、感染症対応の専用病棟を建設してきた。

他方、当初の検査が少なく、感染拡大とともに都市封鎖した米国は、5月31日段階で感染者が183万人以上、死者は10万6千人を上回り、イギリスも感染者が27万4千人以上、死者は3万8千人を超えた。日本も似ていて、当初から検査を制限し、外出自粛で対応してきたが、次第に感染者数が拡大して1万7624人、死者も910人となった。人口当たりの感染者数で見ると、日本は韓国を抜いて東アジア最悪となっている。

経済パフォーマンス(活動)という点から見ても、東アジア型が欧米型より優っている。米国の今年1月から3月にかけてのGDP(国内総生産)の実質成長率は年率換算で「-4.8パーセント」で失業率は「14パーセント」以上となり、米国議会予算局は4月から6月にかけてGDPが「40パーセント」下落すると予想している。EUの1~3月の実質GDP成長率も 年率換算で「マイナス3.8パーセント」に陥っており、イタリア、フランス、スペインは「-5パーセント」前後に落ちている。

これに対して、台湾の1~3月GDPは対前年同期比「1.54パーセント」増とプラス成長を維持している。韓国も対前年同期比では「1.3パーセント」とプラス成長となった。ただし対前期比では「-1.4パーセント」となった。個人消費や輸出の減少が大きいが、相対的には欧米諸国に比べると、落ち込みは大きくない。

この事実は示唆的である。先に述べたように、外出自粛を続けると、何らかの休業補償が必要になり、財政的には限界が出てくる。ところが、自粛を解除すれば、感染が拡大する。このジレンマを防ぐには、ある程度自由な経済活動を保証するために、東アジア諸国のようにGPSを使用した個別追跡が必要だ。ただ、GPSによる個別追跡システムはプライバシー保護に反する危険性がある。検察法改正のように内閣が恣意的に検察幹部を任用できるとなれば、何をしても起訴されることはなくなる。公安警察が政府に不都合な人間を追跡、尾行するのに悪用できる。そんな事態を回避するには、与野党の合意をもとにした時限立法により、個人情報が特定できないように感染者を匿名化する必要がある。

個人情報を盗んだり悪用したりして、法律に違反する場合には厳罰の対象としなければならない。現在のように、通信傍受法で警察が個人情報を容易に収集したり、リクナビやベネッセのように個人情報を勝手に売買したりする行為は厳罰に処するべきだろう。

地域分散ネットワーク型の経済へ

外出自粛と経済というジレンマから抜け出るには、明確な経済産業戦略が必要となる。しかし、新型コロナで世界経済が打撃を被るなか、米中対立はむしろ激化する方向にある。トランプ政権が新型コロナウィルス対策を誤り、感染者と死者が拡大し、今年11月に予定される大統領選での再選が厳しくなってきたからだ。

こうした状況では日本の貿易赤字が恒常化する危険性がある。すでに日本は2018年、19年に貿易赤字を記録したが、新型コロナの影響が深まってきた2020年4月の貿易収支を見ると、輸出が約22パーセント減少。自動車輸出も半減し、9304億円もの赤字になっている。インバウンドも減っており、円高に振れれば、所得収支も赤字となる。もし経常収支も赤字になれば、国債を国内で消化できなくなり、外国人投資家に買ってもらわなければならなくなる。いずれ日本国債の格付けが下げられれば、価格の下落と金利上昇を招き、財政破綻リスクが表面化するだろう。

日本が石油ショック以降続けてきた円安と賃下げによる輸出主導型の景気回復はもはや困難だ。とはいえ、ただただ給付を増やし続けても展望は開けず、財政赤字にも限界がある。いまや世界はエネルギー、情報通信、バイオ医薬といった産業技術の歴史的転換期に入っている。当面は情報通信やエネルギーなどを中心とする新しい産業技術を活用したエネルギー転換を突破口にすべきだろう。

脱化石燃料は輸入を減少させ貿易赤字を克服できる。と同時に、感染症のリスクが高い大都市中心からリスクの少ない地域分散型の経済に変えることで裾野の広い内需を形成できる。

まず地域で小規模な自然エネルギーへ投資し、エネルギー自給で大手電力に吸い上げられていた電気代を地域に戻していき、さらに大都市に売電することで地域にお金を回していくことができる。つぎに地方に大胆に権限と財源を渡し、地域単位で医療や介護や保育などの社会福祉を運営する。この分野でもICT(情報通信技術)を通じて効率化を図りつつ、地域に女性中心の雇用を増やしていく。農と食も6次産業を基本に、直売や産直のネットワークを形成していく。これらを起点に、インフラ、省エネの建物、耐久消費財などのイノベーションを図りたい。

こうして貿易赤字を減らしながら、内需の裾野を厚くする地域分散ネットワーク型の経済へ一気に転換していかなければ、ポストコロナの時代は切り開けないだろう。
(文中の数値は5月末日現在のものです)
 


撮影/魚本勝之

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