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いまこそ、災い転じての精神で

東京大学大学院農学生命研究科教授 鈴木宣弘さんに聞く


 
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大が日々の暮らしを脅かしている。目下のところは食料供給が滞る事態には至っていない。しかし、「今後も政府が「お友だち企業」の利潤追求を優先し、国民の生活基盤を弱体化させる政策を続けるかぎり、日本が食料危機に陥る可能性は着実に高まり続ける」と東京大学大学院農学生命研究科教授の鈴木宣弘さんは懸念する。

「お友だち」に国民の「共有財」差し出す

――新型コロナウィルスの感染拡大で浮き彫りになったのは、国内の一次産業の保護と育成を二の次、三の次にしてきた日本の政治の危うさだったと思いますが、どうでしょうか。

これまでも再三指摘してきましたが、現政権はあたかも国内の一次産業がつぶれてもかまわないといわんばかりの政策を進めています。国民の生命に健康、自然環境やコミュニティー、国境を守ってくれている家族経営の農家に漁業者、林業家を大事にしようとはせず、とにかく「お友だち企業」のもうけを最優先しているのです。

農地法に漁業法、林業関連法が続々と改正され、企業の一次産業参入が容易になりました。それはとりもなおさず、これまで頑張ってきた一次産業の担い手たちに退場を迫り、田畑や海に山林も「商売道具」にしてしまおうという許しがたい振る舞いです。ビジネスのうま味があるところだけは企業が引き継ぎ、これまで頑張ってきた人たちにはやめてもらったほうがいいという実にごう慢な対応というしかありません。


そこに新型コロナウィルスの感染拡大です。幸い、目下のところは食料供給が滞る事態には至っていません。ですが今後も政府が「お友だち企業」の利潤追求を優先し、国民の生活基盤を弱体化させる政策を続けるかぎり、日本が食料危機に陥る可能性が着実に高まり続けることを私たちは肝に銘じる必要があると思います。

水道行政も揺れています。この分野にはフランスのヴェオリア社が参入していますが、同社は経産省と総理官邸との結びつきが強い企業です。静岡県の浜松市では、水道設備や関連施設は自治体が所有し、事業運営を企業に委ねる「コンセッション方式」を導入しました。その際、企業連合を発足させましたが、そこにも現政権の「お友だち企業」が入っています。

すると今度は「森林行政もコンセッションでやればいい」という動きが出てきました。森林資源は政府の所有ですが、そこを使って儲ける権利を企業に売り渡そうというのです。こんなに「おいしい」仕組みはありません。特定企業が国民の「共有財産」を自由に使い、投下したコストを埋めて余りあるほど徹底的に利潤を追求できるようになるわけです。おまけに伐採は自由。植林義務は一切免除だといいます。

おそらく植林には税金を投入し、実務を森林組合が請け負うことになるでしょう。そのための財源に政府は復興税や森林環境税を充てるつもりだと聞いています。しかし、実際に植林が実施されるかといえば、皆伐のまま放置される可能性が高いと私は見ています。カジノも同じでしょう。用地や施設は自治体が用意し、運営権を米国の大手企業に委ねるはずです。カジノのように外国の「お友だち企業」を優遇した場合、日本人の雇用には結び付かず、外国人観光客が増えるだけという事態になります。しかし、それも当てにならないことを今回のコロナ禍による入国禁止措置が明らかにしました。

高リスクの輸入食品に対抗するには

――過度な自由貿易の推進は食品のリスクを高めることになると鈴木さんは指摘されていますね。

牛海綿状脳症(BSE)対策として、米国からの輸入が認められていたのは、特定危険部位の検査を済ませた「20カ月齢以下」の牛の肉だけでしたが、その制限措置を政府は2018年に「30カ月齢以下」と大幅に緩和しました。日米交渉における最初のお土産です。BSEに感染した牛が確認されていないから「清浄国」と見なしていいとの判断でしょうが、もともと米国は十分な検査を実施していません。と畜後の処理も大ざっぱですから、危険部位が混ざる可能性も高いのです。
エストロゲン、ラクトパミンといった牛の成長促進剤の問題もあります。これらを投与したことで生じる牛の体への影響や人への健康リスクについて、米国は「因果関係が完全に特定できるまでは安全だ」と断言。いまも世界に圧力をかけているのです。これに欧州連合(EU)は、疑わしきは使用せずの「予防原則」を貫いて対抗していますが、日本は米国のいいなりです。

生物の遺伝子を操作する「ゲノム編集」についてもそうです。実施後に何らかの損傷や変成が起きたという多くのデータが出てきているにもかかわらず、日本政府は米国の圧力に屈し、あっという間に認めてしまいました。さすがに消費者庁は抵抗し「未知で分からないことが多いから、せめて選ぶ権利は残すべき」と主張しましたが、一瞬にして抵抗は終わりとなったのです。

レモンの防カビ剤として使われる農薬のオルトフェニルフェノール(OPP)やイマザリルの問題もあります。米国で収穫前のレモンに散布するイマザリルは日本では使用が認められない禁止薬物ですが、米国で散布してから輸入すれば食品添加物として扱うことができます。ならばレモンのパッケージに「イマザリル使用」と明示すべきですが、この対応を米国は「不当な差別」として一向に認めようとしません。

このように人の命や健康を度外視した輸入食品を喜々として受け入れ、自由貿易の名の下に国内産地を窮地に追い込んできたことを肝に銘じる機会を新型コロナウィルスが与えてくれたといえるかもしれません。

生産と消費の連帯による域内自給を

――では、私たちの暮らしの基盤がこれ以上壊されないようにするにはどうすればいいのですか。

まずは日米安保に対して抱いている幻想を見つめ直す必要があると思います。もともと米国に日米安保を順守する気があるかどうかといえば、ないはずです。米国は日本を盾にするだけ。日本を戦場にして敵を食い止め、米国本土を守ることに努めるでしょう。その証拠に北朝鮮のミサイルが日本周辺を飛んでいる際には静観し、サンフランシスコに届きそうなミサイルを開発していると知ると大騒ぎしますよね。つまり米国本土を守るために日本を使っているのです。

だとすれば米国に守ってもらっているから、かの国の言うことは聞かなきゃいけないと考える必要はないのです。ところが、政府はトランプ大統領の意向に唯々諾々と従うばかりで、日本の農畜産物市場を着々と開放してきました。この対価が日米貿易交渉で米国向けに輸出される自動車に課される2.5パーセントの関税撤廃でしたが、結局はあぶ蜂取らず。日本の農畜産物の関税率が引き下げられただけで終わりそうです。すでに環太平洋連携協定(TPP11)と日欧経済連携協定(EPA)が発効され、日本農業は痛手を受けているのに日米自由貿易協定を結び、かの国からの輸出攻勢にさらされれば日本の食料産地がどうなるかは火を見るより明らかでしょう。


そんな危機的な事態に対抗するには、カロリーベースで37パーセントという水準にある日本の食料自給率に私たちがもっと目を向ける必要があります。この数値の意味するところは、不測の事態に直面したときに国民が生きていくのに必要なカロリーの3割強しか国内調達ができないということです。おまけに家畜の飼料に野菜の種子は輸入に依存する構造にあります。この点は今年3月に閣議決定された新たな「食料・農業・農村基本計画」(新基本計画)にも反映され、食料自給率という言葉を飼料の自給率を含まない「食料国産率」と飼料自給率を含む「総合食料自給率」に置き換えました。

たとえば畜産物のなかで最も高い水準にある鶏卵の食料国産率は96パーセントですが、飼料自給率を考慮すると総合食料自給率は12パーセントに低下してしまうという現実が見えるようになったのです。今回の変更にはカロリーベースで自給率53パーセント以上の達成を断念するのかという批判もありますが、日本の厳しい食料事情を共通認識とする意味ではプラスであると私は受け止めています。この現実を踏まえ、国内各産地の農林漁家と消費者との関係を構築し、連帯していくことがますます重要になってきました。

米国では遺伝子組み換え作物の開発を推進している多国籍資本と食品医薬品局(FDA)が手を組み、遺伝子組み換え成長ホルモンが含まれる牛乳の表示が無効化されました。これに激怒した消費者が生産者と連帯し、自分たちが暮らしている地域で流通している牛乳から遺伝子組み換え成長ホルモンを徹底排除しました。彼らは乳業メーカーをはじめ、ウォルマート(流通)、スターバックスなどにも働きかけ、遺伝子組み換え成長ホルモンを含む牛乳を生産販売したら「私たちは買わない」と不買の意思を示したそうです。

まさに生産者と消費者の連帯から生まれた「不安のない食料の域内自給」の先行事例といえるでしょう。同様の動きが日本の各地で生まれることに期待したいと思います。

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