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国産小麦、一筋に 前田食品【菓子、麺類などの原料小麦粉】


「朝まんじゅうに昼うどん」。関東北部はそんな言葉が伝えられるほど、粉食文化が栄えている。消費者の細やかな味覚に合わせて小麦粉を提供するのは、埼玉県で製粉業を70年以上営む前田食品だ。

小麦粉を地産地消

前田食品は埼玉県の北東部、幸手市にあり、創業は1946年。製粉、製麺の両方を営んでいた。当時は、前田食品の他にも、地元で採れた小麦を挽き、うどんなどに加工する多くの製粉所や製麺所があった。しかし60年代の高度経済成長期以降、農業の後継者が減り、農地の宅地化が進み、88年をピークに、小麦の生産量は急激に減っていった。現在、埼玉県内の製粉工場は2社のみ。そのひとつが前田食品だ。県産小麦を中心に製粉し、地産地消を進めている。

前田食品が提供する小麦粉は、生活クラブの多くの提携生産者にも愛用されている。美勢商事の餃子、共生食品の「ゆでうどん」、二葉製菓の「たまごパン」などに使われ、国産小麦の魅力を伝える縁の下の力持ちだ。

前田食品の製粉工場内。小麦はロール機やふるいにかけられ、1粒が45種類の上がり粉に分けられる(左写真)、ここで製粉の工程を管理する。小麦の製粉は、品種や、生産地、その年の気候によって調整が必要だ(右写真)

超強力粉、ハナマンテン


現在、埼玉県で栽培されている小麦は、「さとのそら」「あやひかり」「農林61号」など、麺類や菓子の原料になるものと、タンパク質含有量が多く、パンや中華麺を作る「ハナマンテン」だ。

従来、日本の気候風土は、パン用の小麦の生育には適さないとされていた。しかし90年代に入り、品種改良の技術が進み、国内でもパン用小麦の開発がさかんに行われるようになった。現在、小麦の主産地北海道では、「ハルユタカ」や「春よ恋」などの強力タイプのパン用小麦が作られている。

前田食品は、関東でもぜひパン用小麦の栽培を、と切望していた。そんな時、長野県で育種されたハナマンテンを、埼玉県で試験栽培するかどうかが検討されることになった。しかしその矢先、国が新しく育種した「超強力小麦」として、ハナマンテンの特許を取っていることがわかった。特許料の発生などもあり、その年、埼玉県は試験栽培を見送った。

しかし、前田食品はハナマンテンを諦めきれず、特許料を払い、栽培することを申し出た。常務取締役の入江千賀子さんは、「埼玉県の小麦は麺用が主流でした。すでにパン用小麦としてハルイブキがありましたが、いまひとつ満足な品種ではありませんでした。特許料を払ってでも、その当時はパンを作れる強力小麦がほしかったのです」

埼玉県幸手市で国産小麦を製粉する前田食品の創業は1946年。代表取締役の入江三臣さん(中央)、常務取締役の入江千賀子さん(右)、執行役員の山中康裕さん(左)

農家とともに

2005年、前田食品の要請を受け、ハナマンテンの栽培を快く引き受けたのが、埼玉県坂戸市で50年以上農業を営む原農場だ。小麦、米、大麦を、合わせて103ヘクタール栽培する。ハナマンテンのほ場は60ヘクタール、埼玉県産ハナマンテンの約6割を占める。「お父さんの原秀夫さんは新しいことを拒まずに、いろいろ挑戦します。息子さんの伸一さんがそれをひろげてくれています。それで今があるんですよ」と入江さん。

昨年10月に台風19号が来襲した時、原農場の近くを流れる越辺川(おっぺがわ)の堤防が決壊した。一時は畑が水深3メートル以上にもなり、小麦などを乾燥する機械や刈り取った30トンの米も水をかぶってしまった。前田食品からは車で約1時間ほどの場所。社員が復旧の手伝いにかけつけた。元気を得た原さんたちは、畑の土壌改良を続け、例年なら11月中旬に行う小麦の種まきを12月下旬にようやく終えた。幸いに暖冬だったこともあり、小麦は順調に生育し、6月、無事に刈り取りの時季を迎えた。

黄金色に波うつ麦畑を前にして、「種まきがとても遅かったのですが、追肥や生育管理など、自分たちでできることはすべて試みました」と伸一さん。ハナマンテンに関わるたくさんの人たちの応援があってこその実りでもあったと言う。

前田食品が原さんらとともに開発、栽培したハナマンテンを製粉した超強力粉は、現在、地域の多くのパン製造業者やラーメン店に愛用されている。生活クラブの提携生産者の共生食品では、消費材の「国産小麦のむし焼きそば麺」の原材料としてハナマンテンがブレンドされた粉を使う。

原農場の代表取締役、原伸一さん(左写真)、埼玉県坂戸市にある原農場。麦秋の6月、梅雨とにらめっこをしながら刈り取りを進める(中央写真)、原農場の取締役会長の原秀夫さん(右写真)

製粉業が伝える「食」

小麦の国内自給率は約14%。特に、パン用小麦は90%以上を輸入に頼っている。主な輸入先は、米国、カナダ、オーストラリアだ。だが、米国、カナダでは一般に、小麦の収穫直前に農薬を使う。農薬に含まれるグリホサートは除草剤ラウンドアップの主成分で、遺伝子組み換え大豆とセットで使われる。小麦は遺伝子組み換え作物ではないが、収穫直前に散布すると、雑草も含めて小麦の茎や葉もすべてが枯れ、機械での収穫を効率よく行うことができる。近年、人体への影響が懸念され、欧州では使用を減らす方向にある。しかし日本は17年、輸入小麦に残留するグリホサートの基準値を、5ppmから30ppmに緩和した。

前田食品では輸入小麦も製粉していたが、18年より、製粉する小麦はすべて国産とした。さらに19年8月には有機加工食品の認証を取得する。そこには、農薬や化学肥料を使わない原料を扱いたい、そのためにそのような小麦を生産する農家を国内に増やしたいという食品会社としての想いがある。
入江千賀子さん。「昨年4月に社員食堂を始めました。生活クラブの消費材を使って、自分たちの健康も確保するようにしています」
 
入江さんは、「加工食品の有機認証を取りはしましたが、原料の有機小麦が手に入らないという現実に直面しています」と、生産者を探して全国行脚のまっ最中だ。「農薬を使って一番被害を受けているのは農家自身です。でも、慣行栽培を続けている人に有機栽培をすすめても、最初は『ムリムリ』と言われるだけです」。収穫量が落ちたり、タンパク質の含有量が上がらなかったりするからだ。「無理という考え方が少しずつ変わり、 慣行栽培から有機栽培へ切り変えてもらうには、収量の安定など栽培に関する知識も得ていきたいと思っています」。つてをたどりながら、有機小麦が栽培される産地を広げている。

「人の体を作るのはその人が『食べたもの』です」、と入江さん。食べものを作るために、原料を提供する農家と気持ちを通い合わせていきたいと言う。前田食品は、製粉という仕事を通して、こうありたいと思う「食」を伝えている。

撮影/田嶋雅已
文/本紙・伊澤小枝子

小麦の風味をそのまま食卓へ

前田食品の工場責任者、北村京子さん

「今、33度。ちょっとつまりぎみ」。製粉工場内を案内している途中に、工場責任者の北村京子さんがつぶやいた。気温が高かったり、機械の摩擦熱によって粉の温度が高くなると製粉がスムーズに進まない。小麦の風味がとんでしまうこともある。

6月の工場内は蒸し暑く、声は機械音にかき消される。通常1日に1種類、農家が丹精込めて育て収穫した小麦を製粉する。品種、土地の条件、その年の気候などにより品質に差が出るので、製粉するにはさまざまな調整が必要だ。その日の外気温や湿度によっても大きく左右される。「小麦が持っている美味しさや風味を最大限に引き出すのが、私たちの仕事です」と、入社16年目の北村さん。今では工場を任される小麦製粉の職人だ。
小麦はロール機で砕き、ふるいにかける。さらに繰り返しロール機で挽き、ふるいにかけ、粉の特性によって仕分けていく。

小麦はタンパク質の含有量により、麺にむく小麦、菓子作り用の小麦、パン用小麦などに分けられる。しかし一粒の麦の中にもパン、麺、菓子、それぞれに適した部分がある。中心部の粉は白く、外側のふすまに近くなると色がついて味や風味が強い粉ができる。最終的には1粒の麦が45種類もの「上がり粉」に分けられる。

「この45種類の上がり粉をブレンドして、さまざまなニーズに応えられる前田食品の粉を作ります」。製粉とは、単に小麦を挽くことではなく、挽いた粉をふるいにかけ、仕分けして用途に応じてブレンドすることだと言う。

小麦は、米のように炊いてそのものの味を楽しめることはほとんどない。収穫された小麦は製粉工程を経て、加工され、さらに調理されてはじめて消費者が味わうことができる。たとえば、色の白い小麦の中心部の粉を使ったうどん、皮に近い、ちょっと色が付いた部分の粉で作る素朴なまんじゅう、色がくすんでも栄養としっかりした味がある全粒粉を使ったパンなどだ。製粉業者は、そんな消費者の細やかな味覚に応える粉を作る。

工場内を縦横に走る金属の管、並ぶローラーやシフターを見ながらあれこれ質問をしていたら、「前田食品に就職して3年間修行すると全部頭に入りますよ」と北村さん。製粉の職人が、パン、うどん、焼き菓子などの、豊かな小麦粉の食文化を支えている。

小麦は最初にロール機にかけて粉砕し、皮と胚乳に分ける

撮影/田嶋雅已
文/本紙・伊澤小枝子

『生活と自治』2020年8月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2020年8月20日掲載】

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