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【寄稿】経済アナリスト・獨協大学経済学部教授 森永卓郎さん「アフターコロナの経済」


安倍総理が今年8月28日に体調不良を理由に総理大臣の辞任を表明しました。ポスト安倍が誰になるのか、まだ分かっていませんが、誰が後任になるとしても、確実に起きるとみられるのが、財務省支配の復活です。安倍総理は、自民党のなかでも数少ない「反財務省」の政治家でした。消費税率引き上げを二度も延期したのが、何よりの証拠です。

消費税率の引き上げは完全な失敗

安倍総理は、それまでの圧倒的な財務省支配の霞が関を変えるため、内閣人事局を作って官邸に人事権を集中したうえ、経済産業省出身の今井尚哉氏を官邸内事務方トップの政務秘書官に任命しました。今井尚哉氏は、2012年に就任して以降、8年近くにわたって総理秘書官を務め続けただけでなく、2019年からは総理大臣補佐官も兼務しています。このことによって、安倍総理は重要政策を財務省ではなく経済産業省に委ねたのです。

ただ、権力が長期間続くと必ず腐敗が生まれます。安倍総理も、この数年は、森友学園や加計学園の問題、そして桜を見る会の問題と、政権の私物化とも言われる問題を次々に引き起こしました。今井秘書官も同様です。コロナ対策で国民の不興を買った、学校の一斉休校、アベノマスク、星野源氏と総理のコラボ動画、そして困窮世帯に限った30万円給付などは、すべて今井秘書官が主導したものといわれているのです。ただ、安倍総理の反財務省政策が完全に行き詰ったのは、森友学園問題で、財務省に大きな借りを作ってしまったことです。「私や妻が関与していれば、辞任する」と大見得を切った総理を守るため、財務省は偽証や文書改ざんまで行ったのです。

2019年10月からの消費税率引き上げは、完全な失策でした。日本の景気は2018年10月から後退過程に突入していたからです。景気が悪い時に消費税を増税してはならないというのは、これまでの経験から得た大きな教訓です。安倍総理もそれは分かっていたはずでしたが、財務省からの圧力に抗しきれなかったのでしょう。案の定、消費税増税で昨年10~12月期の実質GDPは、前期比マイナス1.8パーセント(年率換算でマイナス7.0パーセント)と大きく落ち込みました。そこに新型コロナが襲ったのです。今年1月~3月期のGDPは前期比マイナス0.6パーセント(年率換算でマイナス2.5パーセント)、そして緊急事態宣言が行われた4~6月期にはマイナス7.8パーセント(年率換算マイナス27.8パーセント)と転落を続けています。

財務省は対策費の57兆円を必ず取り戻しに

「コロナウイルスの感染拡大は不可抗力だから、仕方がない」と思われるかもしれません。しかし、そうでもないのです。確かに、米国の4~6月期のGDPはマイナス32.9パーセント、ドイツはマイナス37.3パーセントと、日本の4~6月期のマイナスは、欧米よりも小さくなっています。しかし、新型コロナに関しては、欧米と比較してはいけないのです。なぜなら、日本を含む東アジアとオセアニアは、欧米と比べてけた違いに新型コロナに感染しにくく、重症化しにくく、死亡しにくいという特徴を持っているからです。なぜそんな特徴があるのかについては、結論が出ていません。BCG仮説や交差免疫説など、様々な見方がありますが、いずれにしても新型コロナの被害を東アジアとオセアニアが受けにくいことは、確実なのです。

そうなると、経済の比較は、感染の被害の小さいアジアのなかで比べないといけません。日本の4~6月期の実質GDPは、前年同期比マイナス9.9パーセントです。1年前と比べると1割もGDPが減少しているのです。一方、お隣の韓国はマイナス0.8パーセントと、ほとんど経済は縮小していません。中国にいたっては、プラス3.2パーセントと、すでにプラス成長に復活しているのです。


これはいったい何故でしょうか。一つは新型コロナ対策の失敗です。世界の標準的な対策は、①流行地域を封鎖し、②そこで徹底的なPCR検査を行い、③感染者を隔離するというものです。しかし、日本は都市封鎖をせず、PCR検査も抑制して、感染を蔓延させてしまいました。そして、新型コロナ対策として、国民に自粛を求め続けたことによって、経済を失速させてしまったのです。

失策は、もう一つあります。それが新型コロナ対策の中身です。本来であれは、最も効率的かつ効果的かつ公平な景気対策は、消費税の凍結あるいは税率の引き下げでした。例えば、批判が集中した「Go Toトラベルキャンペーン」の観光振興策の代わりに、欧州では宿泊費や交通費への付加価値税率を引き下げるという対策をしています。もちろん、ドイツのようにすべての品目の付加価値税率を引き下げた国もあります。いずれにせよ、消費税率の引き下げであれば、旅行に行くタイミングは、国民自身が選べるのです。また、事務作業を委託するコストも時間もかかりません。

なぜ、世界の常識である消費税率引き下げができなかったのか。私は、二つ理由があると思っています。一つは官僚の利権です。例えば経済産業省所管の持続化給付金の審査・給付事務は、サービスデザイン推進協議会に委託された後、経済産業省と「仲良し」の電通に再委託され、さらにこれも仲良しのパソナに再々委託されています。「Go Toトラベルキャンペーン」も同じ構造です。もう一つの理由は、財務省が消費税率の引き下げを断固拒否したからです。

安倍総理の後任が誰になっても、反財務省の候補者はいませんから、財務省の方針は貫かれます。つまり、世界の常識である消費税減税は、完全に消えたということになるのです。それだけでは済みません。財務省は一次補正と二次補正で予算化した57兆の新型コロナ対策費を取り戻しにくるでしょう。東日本大震災後の復興特別所得税が、いまだに課税され続けていることを忘れてはなりません。消費税率をさらに引き上げるという暴挙に出る可能性さえあります。

テレワークの急拡大で東京一極集中に変化も


この財務省の緊縮政策が、いかに経済を傷つけるのかを示すデータがあります。1995年に日本のGDPは、世界の18パーセントを占めていました。それが直近の2019年には6パーセントを切るところまで転落しているのです。日本経済は3分の1に転落したのです。

本当は、増税の必要など皆目ありません。今回のコロナ対策で発行された国債は、事実上全額日本銀行が買い取っています。その国債を日銀が永久に保有し続ければ、借金は誰も返す必要がないのです。そういうことをすると、国債の金利が上がり、インフレになるという批判もありますが、今回の大型補正予算で国債を増発したにもかかわらず、国債金利はほぼゼロですし、物価上昇率もゼロです。ただ、この仕組みを財務省や政治家はなかなか理解しないので、いたずらに増税と歳出削減を繰り返して、経済をダメにしてきました。それが、今後も続くどころか、加速する可能性が高いのです。

新型コロナは惨禍をもたらしましたが、ひとつだけ大きな効果をもたらしました。それは、テレワークが急速に進んだことです。正確な統計がないのですが、おそらく緊急事態宣言解除後も2~3割くらいの労働者がテレワークを続けています。テレワークであれば、オフィスや住宅を都心に構える必要はありません。実際、東京都心部のオフィス空室率は新型コロナの感染拡大後も上昇しつづけ、5月には東京都の人口が前月比で3405人も減少しました。四半世紀続いてきた東京一極集中に変化が現れているのです。

私自身も東京と埼玉の二重生活だったのを、埼玉中心に変更しました。そして、家の近所に畑を借りて、早朝に起床して農作業をする生活に変えました。畑でマスクは不要です。ソーシャルディスタンスも気にする必要がありません。農作業で筋力は大幅に強化されました。そして何より、畑の仲間が増えました。地代は無料、肥料も、麦わらも、種も、苗も、収穫物さえもただでもらえます。弱肉強食の資本主義とは別の世界が存在したのです。

おかげで、緊急事態宣言の時も、私は毎日楽しい作業を忙しくしていました。そんな暮らしをする人が、少しずつ増えていくのではないでしょうか。
 


撮影/魚本勝之
取材構成/生活クラブ連合会 山田衛

もりなが・たくろう
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁、UFJ総合研究所を経て現職。執筆のほか、テレビやラジオ、講演などでも活躍。著書多数。『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『なぜ日本だけが成長できないのか』『消費税は下げられる』(角川新書)、近刊に『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(集英社インターナショナル新書)がある。

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