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いまなぜ、国連「家族農業10年」なのか?

農民運動全国連絡会
国際部副部長 岡崎衆史さん
農民連食品分析センター所長 八田純人さん


2020年8月、農民運動全国連合会(農民連) は「国連家族農業10年 コロナで深まる食と農の危機を乗り越える」(かもがわ出版)を刊行した。その編集の中心となった若手職員を代表して国際部副部長の岡崎衆史さん(47) と農民連食品分析センター所長の八田純人さん(46) に、いまなぜ「国連家族農業の10年」なのかを聞いてみた。

世界のトレンドは大規模農業ではない


――「国連家族農業10年 コロナで深まる食と農の危機を乗り越える」を拝読しました。最初に今回の出版に込めた思いを聞かせください。

岡崎 農民運動全国連合会(農民連) は日本の農業と農家の経営を守っていくことを目的に1989年に結成され、日本で唯一の「ビア・カンペシーナ」加盟団体です。スペイン語で「農民の道」という名前の世界的な農民団体で約2億5千万人の農業従事者が加入しています。
設立は1993年。新自由主義に立脚した巨大グローバル企業の農業進出が世界各地の家族農業を危機的な状況に追い詰めている状況を打破していくための活動に取り組みつつ、国連への働きかけにも力を入れています。こうした働きかけもあって国連は2014年を「国際家族農業年」と定め、さらに2017年には2019年から2028年までを「国連家族農業の10年」と位置付けました。それは世界の食料生産の大部分を担い、地域の環境や固有の伝統文化を守っている家族農業をグローバルな連帯で支援していこうとの提案に他なりません。


国連の提案に私たち農民連も共感し、さまざまな活動に取り組んできました。その企画の一つが今回の本の発行です。いまも日本では「家族農業は時代遅れ」という考えが根強く、成長産業化(アグリビジネス化) を目指すと安倍前首相は主張しましたし、同じ路線を菅首相も継承すると明言しています。それは家族農業の価値と可能性をまったく顧みようとせず、平然と切り崩していこうとする政治です。これで本当にいいの?と多くの人に考えてもらう契機を提供したいと考えました。

八田 大規模・機械化を大前提とする「アグリビジネス」は化学合成農薬と化学肥料の大量散布による環境破壊を招き、気候危機の要因にもなっています。おまけに人々の健康を脅かし、自然の摂理をゆがめてもいます。その代表例が遺伝子組み換え種子と除草剤のセット販売、ゲノム編集食品でしょう。本来は「人類の共有財産」であるはずの作物の種子に複数の知的所有権を設定し、ビジネスの道具に利用する行為が世界的な規模で進められているのも問題です。 


こうした動きとは対極的な価値観に立ち、誤った流れを押しとどめる主体となるのが家族農業の担い手たちです。そのことに気づき、身近にある農業の良さを見つめ直してくれる人を何とか増やしたい、世界のトレンドは大規模・機械化の農業ではなく家族農業だと知らせるタイミングは「いま」だと思ったのです。

――編集ではどんな点に力を入れましたか。

岡崎 伝える活動は運動の根幹部分と考え、とにかく読みやすくわかりやすい本にすることを心がけました。国連でも家族農業に関する知識や情報を共有するための「ノリッジプラットフォーム」を設立しました。世界各地の農民の声をはじめ、各国の研究者やNGOからの情報を集めるための仕組み作りです。集められた情報は公開され、どんな重要な役割を家族農業が果たしているかを容易に知ることができます。それらも活用しつつ、家族農業の重要性を伝えるためのデータづくりについて知恵を出し合いました。

八田 家族農業の価値を考えてもらうための新たな視点を提示できないかと悩みましたね。持続可能性を担保するには環境問題を解決するしかなく、気候危機への対応が不可欠になります。この点は編集メンバーの共通認識でもあり、議論を重ねた結果、環境保全型の家族農業が果たしているエコロジカルな役割と産直や地産地消によるフードマイルの削減効果に注目しようということになったのです。
海外から食料を運ぶ、しかも常温品だけではなく冷凍・冷蔵品を大量に運んでくるのですから、大量の二酸化炭素が排出されます。農民連も産直食品の流通に取り組んでいますが、以前は「産直野菜は地球を冷やす」を合言葉にして活動していた時期もあり、その意味を再確認する機会になりました。

――ほぉ「産直野菜は地球を冷やす」ですか。


岡崎 ビア・カンペシーナも「小規模家族農業は地球を冷やす」「アグロエコロジーは地球を冷やす」という言葉で、地産地消を軸とする生産者と消費者との身近な提携関係の重要性をアピールしています。いわば家族農業を主体とする食料の地域内自給の勧めですね。その実現には政府による農産物の価格保障や農家の所得補償政策が要になるはずですが、日本政府は手をこまねいているばかりです。
もっと日本農業の価値に目を向け、家族農業への所得補償を含めた直接支払い制度の拡充に尽力してもらいたいと思います。現行の直接支払い制度などを使って農民連の会員農家も里山再生事業に取り組み、地域の環境保全と雇用促進に努めていますが、金額が全然足りないのが実情です。おまけに農業予算全体が減っていて、現在は最も多かった年の6 割程度の水準まで落ち込んでいます。農業軽視の表れというしかありません。新型コロナ禍は「このままで本当にいいのか」と問いかけているのではないでしょうか。ぜひ多くの人に身近な家族農業の価値を見つめ直してもらいたいと願っています。


まずはクイズにお答えいただきたい。日本の総人口は約1億2千万人。では2019年現在の農業就業人口は①約55万7千人②約56万2千人③約168万1千人のいずれだろうか。うち家族労働が過半を占める「家族農業」の割合は①約37パーセント②90パーセント③98パーセントのどれだと思われるだろうか。
ともに正解は③。ちなみに1問目の選択肢①は2017年現在の新規就農者数で、②は当時の農業就業人口における女性の人数だ。2問目の選択肢①はカロリーベースで算出された日本の食料自給率で、②は世界の農場において家族農業が占める割合を示している。戸数にして約5億という数字にも驚かされるが、この人たちが世界の食料生産の80パーセントを担ってくれていると聞けば、あらためて感謝の念が湧いてくるというものではないか。

ところが、そんな大切な家族農業が巨大な多国籍資本が展開する「アグリビジネス」の攻勢にさらされ、危機的状況に立たされている。広大な農地を大型機械で耕し、農薬と化学肥料を多投する生産効率至上主義に依拠したアグリビジネスは苛烈な環境破壊を繰り返し、その現場で働く者の「基本的人権」を度外視した低賃金長時間労働を常態化させてきた。それは世界的な飢餓の要因ともなり、2018 年現在、約8 億2 千200 万人が日々の食料不足にさいなまれる事態に陥っている。

この現状を打開するため、国連は2014年を「国連家族農業年」と定めて家族農業の価値を世界に向けてアピールした。さらに2017年12月には「国連家族農業の10年」の実施を決議し、世界各国が2019年から2028年までの10年をかけ、家族農業を守り発展させ、持続的な社会づくりに向けた歩みを進めることを強く呼びかけている。その心は「農村地域の発展と持続可能な農業に資源を充て、小規模農民、特に女性農民を支援することが貧困を根絶するカギ」となるという点にある。

その後、国連は「農民の権利宣言」を2018 年12 月に大多数の参加国の賛成を得て採択し、農地・水・種子に対する小規模農民の権利と農民自らが食料を恒常的に得るための食料主権を守っていくことの重要性を訴えた。この権利宣言が採択された国連総会での採決を棄権し、家族農業の10 年の提案国であるにもかかわらず、いまだに家族農業振興のための農業政策の検討には及び腰なのが日本だ。

さて、ここでもう一度クイズを出題させていただこう。2018年現在、カロリーベースの食料自給率が①264パーセントの経済協力開発機構(OECD) 加盟国 ②223パーセントの加盟国 ③130パーセントの加盟国 ④127パーセントの加盟国⑤95パーセントの加盟国 に当てはまる国名を以下の中からそれぞれ選んでいただたい。米国、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア。これまた驚いたことに米国も大規模農業は実は少数派で、どの国も農家を社会経済活動を支えるためには不可欠な仕事をしている「エッセンシャルワーカー」と位置付け、独自の農業保護政策を講じている。

最後のクイズの答えは、農民運動全国連絡会( 農民連) の『国連家族農業10年コロナで深まる食と農の危機を乗り越える』(かもがわ出版) を手にして確認していただきたい。同書は興味深いデータと図表満載で、話題の「種苗法改正」をはじめ、増え続ける輸入食品のリスクに「半農半X」の可能性、韓国、ドイツ、米国の農業の現況と日本各地で展開されている家族農業による持続可能な社会づくりがわかりやすく書かれた良書に仕上がっている。

撮影/ 魚本勝之
取材構成/生活クラブ連合会 山田衛

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