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生協の食材宅配【生活クラブ】
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パン粉が語る、食への想い【パン粉】


大規模工場で外国産小麦を使い、大量生産するのが一般的なパン粉。生活クラブ連合会の提携生産者「味輝(みき)」では、国産小麦を原料に、焼いたパンを砕いて作る。酵母も、自家製の米こうじと蒸し米を仕込んで育てる。3週間をかけた、「味輝」の食への想いの結晶だ。

米こうじで造る天然酵母

代表取締役の荒木和樹さん
昨年10月、関東地方を襲った台風19号が、長野県、埼玉県などに大雨をもたらした。パン粉の提携生産者「味輝」は、埼玉県北部の上里町にある。代表取締役の荒木和樹さんは、真夜中、近くを流れる利根川水系の神流(かんな)川上流にあるダムの放流を心配していた。

「放流により堤防が決壊したら、群馬県の高崎市や藤岡市を含めてこのあたりがどうなっていたかわかりません。小麦粉が水につかって、しばらくパンの製造は止まっていたでしょう」。さらに続ける。「水田は水を蓄え自然界でダムの役割を果たします。付近の本庄市や児玉郡の米を使うパン作りは、少しは災害防止に貢献しているのかなと思っています」

なぜパン作りに「米」なのか。
パン酵母をイーストというが、イーストには、人工的な培地で培養する工業用イーストと、穀物や果実の糖分を栄養に育つ天然酵母がある。現在では、イーストといえば、前者を指すようになった。

イーストは、糖蜜に塩化アンモニウム、炭酸カリウム、リン酸塩などのイーストフードを加えた培地で、特定の酵母を大量に培養して作られる。発酵力が強く、パン生地の発酵時間を短縮できる。

一方、天然酵母は、季節や小麦の品質の違いによりその働きが変わる。安定的に大量にパンを焼くことが難しいため、ほとんどのパン製造には、短時間に生地を大量生産できるイーストが使われる。さらにパン生地に、酸化防止剤や保存料などの添加物を使うものも多い。

味輝の創業は1973年。和樹さんの父の健至さんは、「粉に酵母を入れるのは、土地を耕し、種をまくのと同じ。水やりをして手塩にかけて育てれば、やがておいしいパンが焼ける。添加物は農薬といっしょ」と、当時製造されていた唯一の天然酵母を使い、国産小麦粉で無添加のパンを焼いていた。

その後、自分たちで天然酵母を造ることになる。その時、日本で初めて国産の工業用イーストが培養される昭和初期までは、パンの発酵工程には米とこうじが使われていたことを知った。

味輝が製作したパンフレット「旅するポコの出会いのストーリー」より。ポコは酵母、味輝のオリジナルキャラクターだ。
Ⓒ株式会社味輝 ⒸCreatireOffice HAPPY&SMILE

米こうじも自家製

味輝は、酵母をおこす材料として米を選んだ。和樹さんは「米は日本人の主食です。タネを絶やすことなく、継続して使うことができます。農薬の使用が管理され、遺伝子組み換えの対象としても考えにくい作物であることが選んだ理由です」

自家製の酵母は埼玉県中南部の山間地、越生町にある蔵で仕込む。米こうじと蒸した山形県産の米に水を加えて甘酒を造り、乳酸菌がつくのを待つ。酵母が生まれて発酵を始めてから1週間。健至さんが、温度を調整しながら育てるのが味輝の酵母だ。

2010年より、米こうじも自家製に変えた。近隣の埼玉県産で、顔が見える生産者の米を蒸し、こうじ菌を独自に入手し、まぶして造る。「一般的に使われる白いこうじ菌は、菌株を造る時に人工的な処理を施しています。人の手が加わっていないこうじ菌で造った米こうじを使いたくて自家製の米こうじを造り始めました。フルーティーでとてもおいしいものになりましたよ」

自家製の米こうじを造ることで、酵母の仕込みには、さらに6日間の時間が費やされることになる。

築いた信頼関係

小麦粉は主に北海道産。信頼のおける製粉会社より仕入れる。粉は、味輝仕様にブレンドされている

小麦の生産地は主に北海道。農協を通して仕入れた小麦を、北海道の製粉会社が製粉する。中力と強力のさまざまな品種の小麦を挽(ひ)き分けて粉にし、タンパク質やでんぷんの量のバランスなどを考え、味輝仕様にブレンドする。「仕入れ先の農協、原価、製粉した日付やブレンドの割合など、すべてをトレースできます。生産農家を訪ねて、収穫現場に立ち会うこともありますよ。製粉会社と直接話せるような信頼関係を築くのに10年がかかりました」と和樹さん。

ある時、和樹さんは、生地を作っている時に、いつもと違う感覚であることに気づいた。そこで、新麦が入っているのではないかと、製粉会社に問い合わせた。新麦は、製粉後も酵素が働き、落ち着くまでに1カ月ぐらいかかる。その間、製パンに影響を及ぼすことがある。そこで、新麦がブレンドされた時は、製粉会社が直接味輝に連絡するが、その時はそれがなかったのだ。小麦の状態を感覚で言い当てた和樹さんと製粉会社が改めて信頼関係を深め合う出来事となった。

こだわりのパン粉

焼いたパンは一晩室温に置いておく(左写真)、パン粉用のパン。強力粉で作ったパンは、生地が縦にさけて衣がひし形にそそり立ち、ボリューム感のあるフライができる(右写真)
パンを削りながら砕き(左写真)、熱風乾燥させて(中央写真)ふるいにかける(右写真)。パン工場は、昼の出荷に間に合わせるために真夜中に動き出す。従業員は午前2時ごろからパンを焼く準備を始める

パン粉の製造は、越生町で仕上がった酵母を上里町の工場へ運び、パンを焼く、というところから始まる。

酵母と小麦粉を合わせ、15時間をかけてゆっくり発酵させ、元種を造る。その元種に小麦粉を加えてこね、成型した後焼き、一晩冷まして粉砕する。米こうじを造る作業を始めてから3週間後に完成するパン粉だ。味輝は、食べて安心な食べものを作るために、これだけの時間と手間をかける。

市販のパン粉用のパンは、発酵させる時間をとらない「ゼロタイム製法」が主流になっている。短時間できれいなきつね色に揚がり、ソフトで口どけのいいものが増えた。生地に油脂を加えればやわらかいパン粉ができる。砂糖を足すと、きれいな揚げ色がつき、食感が軽くなる。

米こうじ造りからすべての工程で、化学物質を使わずできるだけ砂糖も油脂も使わない。そのため、これまでの経験と、研ぎ澄まされた五感を駆使するのが味輝の職人のものづくりだ。和樹さんは、油脂や砂糖を足して、揚げ色がつき食感もよくなるパン粉を作ることに抵抗がないわけではない。

それでも、小麦粉本来の旨みや天然酵母の香味を感じるパン粉の良さを、より多くの人に知ってもらうことが大切であると考え、砂糖や油脂の力も借りようと試みている。納得のいくパン粉の完成へ、試行錯誤の日々だ。


撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

流れる豊かな時

「味輝酵母」はフルーティー。自家製の米こうじを使うようになってから、味が変わっておいしくなった

埼玉県越生町にある仕込み蔵の室に、ぷくぷくと酵母が育つ24の樽が並ぶ。

黙々と櫂棒(かいぼう)で樽の中をかき混ぜるのは、今年80歳の荒木健至さん。40年以上、自家製酵母を造っている。10年前に腰を痛めたが、まだまだ現役だ。20キロの荷物を両手にひとつずつ運ぶ。

酵母造りは水くみから始まる。以前は井戸水だったが、枯れてしまい、今は浄水器を通した水道水を使う。

米を洗い、蒸して、米こうじをあわせて60度に保温すると、12時間ぐらいで甘酒ができる。そこに乳酸菌がつくのを2~3日じっと待つ。酸により殺菌された甘酒の中に酵母が生まれると、ぷくぷくと泡が出てくる。その泡の状態を見ながら1週間、温度や湿度を調整しながらつきっきりで酵母を育てる。

味輝(みき)の酵母を失敗なくおこせるのは、今のところ健至さん一人。長男の和樹さんは、理論は知っているが、少し前までまだ経験がなかった。
「自分が『酵母をおこしてごらん』と言われたら、失敗した時のことを考えると恐怖以外ありません」。酵母をおこせなかったら、毎日工場で焼く1トンのパンができなくなる。一方、健至さんはストレスなく仕事をしている。「オレの天職だから」、と。

和樹さんは、「ある時、神さまが、父の肋骨を3本折ってくれました」と言う。健至さんが脚立を踏み外してしまい、しばらく動くことができなくなった。その時1回だけ、和樹さんは父の指示を受けながら酵母をおこした。

パン工場のある上里町から車で1時間ほどの距離にある仕込み蔵を、1日に何度も往復しながらの作業だった。その時の樽の中の状態を健至さんに報告し、冷暖房装置がない蔵の、戸を開けたり閉めたりしながら、子どもを育てるように酵母の面倒をみた。それは一度だけの貴重な体験だった。

味輝の職人が想いをこめて作ったパン粉の最後の仕上げは、食べる人の手にゆだねられる。厚切りの平田牧場の豚肉に、小麦粉と溶き卵を絡め、味輝のパン粉をたっぷりまぶして、米澤製油のなたね油で揚げてみよう。油がはねる音を聞き、香ばしい匂いの中、火が通るのを待つ。

越生の蔵で、健至さんが子どもを育てるように酵母の世話をし、酵母が風味豊かなパンの生地を作るのをじっと待つ和樹さん。流れた豊かな時間までも味わいたい。

撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

『生活と自治』2020年12月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2020年12月20日掲載】

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