[本の花束2021年2月]個性豊かな女性たちが満載の女性たちによる画期的な世界史 東大生産技術研究所准教授 戸矢理衣奈さん
本書は、世界史のなかの女性をテーマに解説したオールカラーのビジュアル図鑑です。
日本語版を監修された戸矢理衣奈さんに寄稿いただきました。
「女性史」のイメージが変わる
「女性史」というと、女性解放運動をはじめフェミニズムの視点からの歴史を想像されるケースが少なくないのではないでしょうか。本書はよい意味で、そうしたイメージを裏切ってくれる一冊です。
ページを開けば、時代も地域も超えて個性豊かに活躍した150か国、600名におよぶ有名無名の女性たち。クレオパトラ、ジャンヌ・ダルク、清少納言といった「歴史上の人物」から、現代の私たちにもおなじみのマーガレット・サッチャー元英首相や「マララさん」ことユスフザイ・マララ、日本からは登山家の田部井淳子と、才人あり豪傑あり、実に多彩なのです。
もちろん著名人ばかりではありません。無名の人々に加え、日本の私たちには馴染みがうすい、アジア、アフリカ、南米に至るまで全世界の女性史が対象とされ、彼女たちが活躍した時代背景も偏りのない視点で記されています。
また、本書には「言葉の達人」「恐れ知らずの探検家」などと題した、女性史全体を横断的に扱う半頁ほどのコラムがいくつか掲載されています。例えば「美の先駆者たち」に登場するのはソマリア出身のモデルの「イマン」ことザラ・モハメド・アブドゥルマジド(1955~)や、アメリカ出身のプラスサイズモデルの草分け、アシュリー・グラハム(1987~)。 「映画」の項目では「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン監督(1954~)やボリウッド映画のゾーヤ・アクタル監督(1972~)などが掲載されています。従来の「女性史」で触れられる女性のステレオタイプが痛快に打ち破られているようで、これも本書の斬新かつ楽しいところです。
個性は時空を超える魅力を持つ、と改めて感じるのですが、様々な制約はあろうとも、個性豊かに活躍した女性たちとその社会的背景を、ファッションや音楽をはじめその日常的な感覚にも留意しながら描いた、時代のいわばライブ感に満ちた世界史となっています。
ページを開けば、時代も地域も超えて個性豊かに活躍した150か国、600名におよぶ有名無名の女性たち。クレオパトラ、ジャンヌ・ダルク、清少納言といった「歴史上の人物」から、現代の私たちにもおなじみのマーガレット・サッチャー元英首相や「マララさん」ことユスフザイ・マララ、日本からは登山家の田部井淳子と、才人あり豪傑あり、実に多彩なのです。
もちろん著名人ばかりではありません。無名の人々に加え、日本の私たちには馴染みがうすい、アジア、アフリカ、南米に至るまで全世界の女性史が対象とされ、彼女たちが活躍した時代背景も偏りのない視点で記されています。
また、本書には「言葉の達人」「恐れ知らずの探検家」などと題した、女性史全体を横断的に扱う半頁ほどのコラムがいくつか掲載されています。例えば「美の先駆者たち」に登場するのはソマリア出身のモデルの「イマン」ことザラ・モハメド・アブドゥルマジド(1955~)や、アメリカ出身のプラスサイズモデルの草分け、アシュリー・グラハム(1987~)。 「映画」の項目では「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン監督(1954~)やボリウッド映画のゾーヤ・アクタル監督(1972~)などが掲載されています。従来の「女性史」で触れられる女性のステレオタイプが痛快に打ち破られているようで、これも本書の斬新かつ楽しいところです。
個性は時空を超える魅力を持つ、と改めて感じるのですが、様々な制約はあろうとも、個性豊かに活躍した女性たちとその社会的背景を、ファッションや音楽をはじめその日常的な感覚にも留意しながら描いた、時代のいわばライブ感に満ちた世界史となっています。
気軽に楽しめる
300ページを超える本書はまさに「大図鑑」なのですが、2~4ページで項目ごとに読み切りになっているのもよいところです。ぜひ気軽に手にとって、興味の赴くままにぱらぱらと見て読んで、楽しんでいただきたいと思います。
ちなみに私は歴史を専門としていますが、きっかけは百人一首でした。小学校に入学してまもない頃、母が全部覚えたら好きなものを買ってくれるというので、すぐに暗記してしまいました。最初は「ご褒美」目当てだったのですが、同時に、華やかな衣装を着た人々や、意味はわからなくとも流麗な歌にすっかり惹きつけられたのです。その後も「恋の歌人」とはどんな人だろうか、などと主に人物への関心から、折々に作者の伝記や著作などを手にとるようになり、すっかり歴史好きになってしまったのです。
しかし、こんな経緯で歴史に関心を持った者には、教科書に出てくる「女性史」は参政権や教育の話が中心で、どうにも物足りない……。当時のこうした「女性史」への反発もあって自分ではファッションをはじめ美意識と社会に関連する歴史研究を行ってきました。それから20年超になりますが、特定の視点に縛られず、しかも世界を対象に、多様な人物に注目しつつ記された本書の刊行は、やはり画期的なことだと感じています。
これまでの「女性史」という枠を越えて、本書には「面白い人」が満載です。中学生以上が対象ですが、皆様がご覧になられたところから、あらたな出会いが生まれ、"化学反応" が起こる、それこそが歴史に触れる面白さではないかと思っています。
●とや りいな/東京大学文学部社会心理学科卒業。同大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(イギリス史)。英国サセックス大学(MA)、スタンフォード大学アジア太平洋研究所客員研究員を経て総合研究大学院大学(国際日本文化研究センター)にて博士号取得。東京大学EMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)修了。著書に『下着の誕生』(講談社)、『銀座と資生堂』(新潮社)など。現在、東京大学生産技術研究所准教授。
ちなみに私は歴史を専門としていますが、きっかけは百人一首でした。小学校に入学してまもない頃、母が全部覚えたら好きなものを買ってくれるというので、すぐに暗記してしまいました。最初は「ご褒美」目当てだったのですが、同時に、華やかな衣装を着た人々や、意味はわからなくとも流麗な歌にすっかり惹きつけられたのです。その後も「恋の歌人」とはどんな人だろうか、などと主に人物への関心から、折々に作者の伝記や著作などを手にとるようになり、すっかり歴史好きになってしまったのです。
しかし、こんな経緯で歴史に関心を持った者には、教科書に出てくる「女性史」は参政権や教育の話が中心で、どうにも物足りない……。当時のこうした「女性史」への反発もあって自分ではファッションをはじめ美意識と社会に関連する歴史研究を行ってきました。それから20年超になりますが、特定の視点に縛られず、しかも世界を対象に、多様な人物に注目しつつ記された本書の刊行は、やはり画期的なことだと感じています。
これまでの「女性史」という枠を越えて、本書には「面白い人」が満載です。中学生以上が対象ですが、皆様がご覧になられたところから、あらたな出会いが生まれ、"化学反応" が起こる、それこそが歴史に触れる面白さではないかと思っています。
●とや りいな/東京大学文学部社会心理学科卒業。同大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(イギリス史)。英国サセックス大学(MA)、スタンフォード大学アジア太平洋研究所客員研究員を経て総合研究大学院大学(国際日本文化研究センター)にて博士号取得。東京大学EMP(エグゼクティブ・マネジメント・プログラム)修了。著書に『下着の誕生』(講談社)、『銀座と資生堂』(新潮社)など。現在、東京大学生産技術研究所准教授。
書籍撮影:花村英博
『WOMEN 女性たちの世界史大図鑑』
ルーシー・ワーズリー 序文
ホーリー・ハールバート ほか 監修
戸矢理衣奈 日本語版監修
戸田早紀+中島由華+熊谷玲美 訳
河出書房新社(2019年11月)
26.1㎝×22.3㎝ 320頁
世界の偉大な女性たち約600名を紹介。
索引=約1,600項目、150か国を網羅。
図書の共同購入カタログ『本の花束』2021年2月4回号の記事を転載しました。