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【連載】 斎藤貴男のメディア・ウオッチvol.2 東京五輪・パラリンピックのゆくえと徹底的な「無責任」が必須条件の「偉い」者たち

新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言が今年(2021年)2月2日、東京都、大阪府など10都府県で延長されることが決まった。期限は3月7日までとされ、栃木県は延長の対象とならない。予定の一カ月間で感染拡大を抑えられず、宣言を解除できなかったことについて「大変申し訳なく思う。責任はすべて私が背負う」と菅義偉首相は記者会見で述べた――。


何が何やら、まったく理解できない。冬になれば新型コロナウイルスは再び猛威を振るうに違いないと、だれの目にも明らかだったにもかかわらず、巨額の国費を費消して人々の大移動を煽り立てる「Go Toキャンペーン」を強行。積極的に感染を拡大しておきながら本気で責任を負う気でいるのなら、まずは自身の引責辞任、さらには引退以外の道などあるはずがないではないか。

しかし、この話を本稿ではこれ以上引っ張らない。いや、大いに関係はあるのだが、とりあえず俎上に載せなければならないのは、東京五輪の問題だ。

「中止」「延期」求める声が高まるなか

朝日新聞社が今年(2021年)1月23、24の両日に実施した全国世論調査によると、「東京五輪をどのようにするのがよいと思いますか」という3択の問いに、「(予定通り)今年の夏に開催する」は、わずか11%にとどまり、「中止する」が43%、「再び延期する」が39%を、それぞれ占めた。また、同月9、10両日の共同通信の世論調査は「開催」が14%で、「中止」35%、「再延期」45%。調査の主体が別の会社なので単純な比較はできないにせよ、五輪に拒否反応を示す人が、この2週間のうちにも増加していると考えてよいのではないか。妥当な結果と言わざるを得ない。

そもそも今現在、人類はコロナに打ち勝ってなどいないし、背走に次ぐ敗走を重ねている。安全で有効なワクチンや、感染しても治癒できる医薬品が世界に行き渡るまで、あと何年を要することか。

にもかかわらず、五輪が開催されれば、世界中と、日本全国からとてつもない数の人々が東京に集まってくる。コロナ禍以前の政府は2020年度の訪日観光客約4000万人を目論んでいたほどだ。従来はなかった型のウイルスが持ち込まれて日本の風土で培養され、あるいは別の変異を起こして再び世界中にバラ撒かれることになる可能性を、何人も否定できない。

しかも現在の日本、とりわけ東京では、多くの人が疑心暗鬼に陥っている。もしもコロナに感染し、重い症状が顕れても、自分は検査も受けられないだろう、運よく検査できて陽性と判明しても、どうせ在宅扱いで治療もしてもらえない、入院なんて絶対に無理だ、と。そうした現実が実際にあり、では近い将来の最大の不安要因はといえば、東京五輪に他ならないのではあるまいか。

東京五輪の開催見直しを求める世論は、日本国内でだけ高まっているわけではない。この間には米紙『ニューヨーク・タイムス』、仏紙『ル・モンド』など、海外の主要メディアも、相次いで中止の見通しを報じている。連立与党幹部に取材したとして、〈日本政府が東京五輪を中止せざるを得ないと内々に結論づけた〉と伝えたのは、英紙『タイムス』(1月21日付)だ。

ところが菅政権は、この期に及んで五輪を強行する構えを崩さない。世論の動きを熟知しながら、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして」の五輪開催の「準備を進めてまいります」と、安倍晋三前首相以来の定型文を反復したのは1月18日の施政方針演説。27日には橋本聖子五輪担当相(元ピードスケート銅メダリスト)が、「五輪の競技スケジュールは決まっており、開催は決定している」と強調してみせた。

五輪相はさらに、開催には延べ約1万人の医療スタッフが必要だとして、「1人5日間程度の勤務をお願いする」方針を明言した。真夏の大都会に天文学的な人数が関わり、動員される大会なのだから、開催するなら万全な医療態勢が敷かれるのは当然だが、それは同時に、コロナ禍でただでさえ崩壊しかけている医療体制が、公権力によってさらに縮減されるということでもある。

きわめて重大な橋本発言を、だが新聞もテレビもほとんど報じなかった。1万人という数字が初めて公にされたわけではないけれど、目下の状況で当局者の口から確認された意味は、あまりにも大きい。報じない理由などあり得ないはずなのに――。

どれだけの犠牲を強いられるというのか

前記『タイムス』の報道を受けて、在京紙では朝日、毎日、産経、東京の各紙が、東京五輪に関する社説を掲げている。朝日はいかにも優等生らしく、〈ここは「ゼロ」を含む大幅な観客制限を始めとして、状況に即した合理的な判断が求められよう〉などと書いている(1月27日付朝刊)。抽象的に過ぎ、何か言いたいのかよくわからない。

毎日、東京もさほどの差はない。前者は〈訪日客を含めた観客制限の可否と、選手や関係者の感染防止策〉こそ〈最優先で検討すべき課題〉であるとし(1月25日付朝刊)、東京は〈遅まきながら、感染状況に応じた縮小案や中止案について検討し、準備状況や影響予測なども合わせて公表する。そのうえで、どの案を選ぶか丁寧に説明するべきだ〉と、朝日よりは具体性を持たせていた(1月25日付朝刊)が、何を今さらの感が強い。

私はネットメディアが嫌いである。プロのジャーナリストが尊重されず、素人の与太話が幅を利かせていることが多いからだ。

ただ、東京五輪の問題について、最近、私が深く頷くことができたのは、「ダイヤモンド・オンライン」で2月1日に配信されたた記事だった。食品表示アドバイザーで、「食品問題研究所」代表の垣田達也氏による論考「東京五輪には「もう1年延期」の選択肢しか残っていないといえる理由」である。

タイトルに込められた論旨に、私自身は必ずしも同調できない。私が重要だと感じたのは、五輪を開催し、本気で各国の選手団やマスコミ等を受け入れるためには、以下の事柄を、せめて2月中には明らかにしておかなければならないとの指摘である。

〈・ワクチン接種やPCR検査の義務化を求めるのか
・各国の出国前2週間の隔離や日本入国後の2週間隔離が必要なのか
・競技前のいつから入国できるのか、日本での事前の合宿は可能なのか
・選手団は選手村に缶詰にされるのか、帰国は競技後すぐなのか
・外出はどこまで制限されるのか、観光はできるのか
・食事は食堂でするのか個室でできるのか
・接触プレーの多い競技の感染対策はどこまでできるのか
感染対策も含め、具体的な内容を提示できなければ、各国は選手団や観光客を日本に送り込んでいいのかどうかの判断ができない。〉

もっともすぎて涙も出ない。こんなにも基本的な、というか、最低限の条件を、この国のマスメディアはまったくといってよいほど伝えてこなかった。では政府部内で極秘のうちに検討されているのかというと、それも怪しい。いや、コロナの不安に慄く国民を差し置いて、万が一にもそんな勝手なことをやられているとしたら、それもまたそれでとんでもないことだ。何よりも、この程度の準備さえできていない政府に、これからわずか数カ月間で、東京五輪という国際的なビッグ・イベントを強行されるとしたら、私たちはいったいどれほどの犠牲を強いられることになるのか、見当もつかない。
 

使命忘れたメディアとJOC会長交代劇

産経新聞の社説(1月23日付朝刊)が、実に興味深いことを書いていた。まず書き出しが、〈東京五輪は国民が前を向くための希望であり、厄介者にはしたくない〉。保守系と呼ばれる同紙らしく、その主張は朝、毎、東のリベラル派とは異なり、〈五輪まで半年、憶測に惑わされず準備を〉と、菅政権に強行突破を促すものなのだが、その補強として挙げられたコメントが凄まじい。

IOC(国際オリンピック委員会)の委員である渡辺守成氏が、こう語っているというのだ。「この逆境でも五輪を成功させたら、日本のプレゼンス(存在感)は上がる」。

東京五輪がとうの昔に「厄介者」になってしまっている実態を承知の上で、それでも国威発揚にこだわり抜く政府の姿勢が、もろに伝わってくる。開催によって感染爆発が導かれ、世界中を道連れにしかねないのではないかという、ごく当たり前の懸念を、彼らは共有できない。考えたくもないらしい。

産経の社説を読んでいると、どうせまた春になったら感染者や死者の人数が操作され、小さくより小さく見せかけられて、日本ではもう新型コロナウイルスなどたいしたことはなくなった、との大宣伝が始まるのだろうと思わせる。いざ本番ともなればなおさらだ。人がどれほど苦しもうと、どれだけの人が死んでいこうと、正確な報道は抑えられ、何もなかったことにされていくのではないか。

うがち過ぎの見方だ、陰謀史観だと思われる読者に、あの戦争を想起せよとまでは言わない。ただ、安倍政権時代からこのかた、この国の統計は偽造、公文書は捏造、各種審議会の議事録は残さない、という無惨が常態化している。

そしてまた、2013年9月のIOCブエノスアイレス総会の記憶も生々しい。
プレゼンテーションに立った安倍首相(当時)は、あのような場でさえも、原発事故で破壊された福島を、「アンダーコントロール」だと偽証して、2020年東京五輪招致を“勝ち獲った” といわれても仕方あるまい。

この状況で東京五輪に関わる社説を載せようとしない読売新聞や日本経済新聞はもちろん、政府に批判的なポーズで、その実何も語っていない朝日、毎日も、しかし、本質は産経とさして変わらない。彼ら全国紙5紙と北海道新聞は、JOC(日本オリンピック委員会)との間で2020年東京五輪・パラリンピックのスポンサー契約を結んでおり、ということはコカ・コーラやトヨタ自動車、パナソニックなどと同様の、五輪商売の当事者でしかありはしない立場なのである。報道機関としてのアイデンティティを放棄してしまっている。

大切なことは、したがって何ひとつ書けないし、報じられない。真っ当な報道というチェック機能が働かない世界で、私たちは今、“人類が新型コロナウイルスに完敗した証し” としての東京五輪向けて突っ走らされている。

今年(2021年)2月3日に開かれたJOCの臨時評議会に出席した東京五輪・パラリンピック委員会の森喜朗会長(83)が、「女性がたくさん入る理事会は時間がかかる」と述べ、世界中の非難を浴びた。JOCが女性理事を増やす方針であることに対する私見とされるが、男女平等を謳うIOCの理念に反しているばかりか、公人としての責任感が著しく欠落した発言と断じざるを得ない。

森氏は翌4日に発言を撤回し、それゆえ辞任する考えはないとの意向を記者会見で示したものの、国際世論の猛反発を食い、11日には辞任に追い込まれた。
とはいえ、それで済まされてはならない。このような人物にかつては総理大臣の座を与え、今なお要職に就かせ続けている日本に、五輪のような大事業を成し遂げる能力も資格もないのだという現実を、私たちはよくよく直視すべきなのである。

なお森氏には、昨年(2020年)3月、東京五輪の1年延期が決定した際にも、「神頼みみたいなところがあるが、来年夏の開催に不退転の決意で臨む」と語った“前科” がある。「不退転の決意」に「神頼み」はあり得ない。徹底的な無責任は、この国で高い地位に就く者の共通項、必要条件であるらしい。
 

撮影/魚本勝之
担当/生活クラブ連合会 山田衛


さいとう・たかお
1958年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。日本工業新聞記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経て独立。『機会不平等』(岩波現代文庫)『 ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『「あしたのジョー」と梶原一騎の奇跡』(朝日文庫)、『子宮頸がんワクチン事件』(集英社インターナショナル『) 決定版消費税のカラクリ』(ちくま文庫)など著書多数。

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