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【連載】東日本大震災から10年 Vol.2


経済学者・立教大学特任教授 金子勝さんに聞く

メガリスク時代備えよ再エネをベースに「地域循環型経済」をつくる

菅義偉首相は「縦割り行政」の弊害を取り除くという目標を掲げて「デジタル庁」設置に動きました。デジタル化という言葉は嫌になるほど耳にする機会が増えましたが、その中身となると即座にイメージしにくいというのが正直なところ。ただデジタル情報技術(IT)で情報と物事をつなぐ「IOT」、デジタル情報によるコミュニケーション「ICT」などの技術を活用して「農」=食料生産と「食」=加工、物流・小売、医療と介護の現場を結べば、地域循環型経済のモデルとなりうるイノベーションが生まれると経済学者で立教大学教授の金子勝さんは近著『メガ・リスク時代の「日本再生戦略」』(筑摩選書)で提案。むろん、その仕組みを動かすのは再生可能エネルギーです。

再エネ・食料の生産加工・流通消費をIT でつなぐ

――社会のデジタル化の核となるIT(情報技術)を活用し、地域において「食」の生産加工、流通消費の6次産業化を進めるネットワークの設立を提唱しておられますね。それは具体的にいうとどういうことですか。

デジタル化された情報と技術の連携である「IoT」とデジタル化された情報の発信者と受信者をつなぐ「ICT」を使った「地産地消」のススメといえば、わかっていただけるかと思います。太陽光、風力、小水力を利用して生まれる再生可能エネルギーによる発電施設を立地し、そこで作られた電力を農林水産業の生産に役立てる。さらに産品の加工流通にも地元産の電力を使い、地域の中でどんなものがどれだけ生産されているかという情報を道の駅のような直売所が常にリアルタイムで把握できるようにしておき、インターネットを使った販売につなげるというイメージです。

これを地域医療と介護の連携にも適用し、地域のニーズに即応できるようにもしていく。これぞが、私が切に求め続けているイノベーション(技術革新)の姿であり、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)などの多国籍情報産業に対抗するための地域循環型経済のモデルになりうると信じているものです。情報通信技術が発達すれば、たとえ小規模で分散型の経済であっても十分効率的なものになります。それが今の時代に合っているわけです。新型コロナ禍が明らかにしたように大都市一極集中はリスクが高く、やはり分散型にしなきゃいけないんです。その点に私たちは東日本大震災の際に気づき、深く内省もしたはずなのですが、残念ながら一過性のものにしてしまった感があります。


――ITを小さい単位で使いこなせば、グローバル企業に対抗できるようになると?

「(対抗)できる。できますとも。その点は飯田哲也さんとの共著で近刊の『メガ・リスク時代の「日本再生計画」』(筑摩選書)で詳しく言及しましたので、ご一読願いたいと思います。さて、私が論壇デビューしたのは1997年の11月ですが、そのとき金融危機の到来を予言しました。当時、感じていた問題と福島第一原発の事故は非常に似ていました。そこには日本社会の悪しき体質のごときものが潜んでいます。

それは戦後の戦争責任を曖昧にしたまま成長した証しであり、その体質はドイツとはまったく違うものです。とにかく成長している時はいいのですが、いざ大きなリスクと遭遇した時、どうしようもない失敗のドロ沼に入ってしまうのです。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)は第二次世界大戦における日本の失敗を分析した本です。そのなかに将校は責任を取らないが、兵隊は規律正しいという米国による分析が掲載されています。その通りなんです。戦艦武蔵が沈没した時も艦長を残して将校は真っ先に逃げ、生き残った兵隊はルソン島の戦闘に投入された。それは「不沈艦」と称されていた巨大戦艦が沈んだのを知られたくなかったからです。つまり箝(かん)口令を敷いたわけですよ。

バブル経済崩壊後の不良債権処理に際しても、政府と財務省も金融機関も不良債権を査定しませんでした。本来であれば、しっかりとデータを取って、経営者が責任を取って、公的資金を注入し、一気に経営処理をすべきだったのです。それを自民党から共産党に至るまで、「大手銀行に公的資金を入れるとは何事か」と金融機関と自分たちの責任を曖昧にし、ずるずると金融と財政を退行させました。このあり様は第二次世界大戦の負け同様、『失敗の本質』に書かれていることと変わりません。そのとき僕は「公的資金の60兆円強制注入によって不良債権の抜本的処理が必要」と指摘したのです。

産廃処分場、基地、原発の次は原発という金目の連鎖

――それが日本の大企業の国際的競争力の低下にも関連してくるわけですか。

そう。福島第一原発事故も本当は東電がしっかりと責任を取らなければならないのです。にもかかわらず、東電の株主総会直前に生き残りのために1兆円もの公的資金を投じたばかりか、メルトダウン(炉心溶解)まで隠しました。そして株主総会を乗り切った2ヶ月後に「実はメルトダウンでした」と言ってのけたのです。いわば民主党政権は騙(だま)されたわけです。騙したのは安倍内閣の中枢にいた人物とされており、その人は民主党の幹部との関係が深いと目されています。

――お友達関係ですね。これも引きずってますね。

その人物は事故発生から2~3ヶ月後にデータを出して「地震じゃなくて津波のせい」という発言を始めました。確かにデータは提示されましたが、にわかには信用できません。原発の事故やトラブルについては、データ改竄(かいざん)が何度も行われてきたことはメディアに暴露されています。あの福島第一の事故でもそういうことがなかったという保証はどこにもないはずです。

国会事故調査委員会の報告によれば「実は第一号機の非常用電源が全面的に喪失していた」といいます。福島原発は立地のミスで、一つは高台にあったのに海水を使うためにあえて低い土地に移しています。さらに湾に面していました。第二原発は5mの津波だったのに、第一にはなぜ約10mの津波が到達したかといえば、湾ですから津波が両側から向かってきたのです。三陸の津波が高くなったのと同じ原理です。ところが、そういうことが起きると想定されていなかった。にもかかわらず、津波は「想定外」だったか「想定内」だったかと本質から外れた「目くらまし」のごとき論争が繰り返されたのです。

――福島の原発が生む電力をもっぱら東京が消費していた。この事実一つとっても都市は単独で成り立つものじゃない。周辺部に支えられているはずなのにどうして都市ばかりが栄え、周辺部は衰退していくのでしょうか。そんな周辺部の衰退が、福島原発の立地につながっているわけですよね。
 

事故前の2008年、福島県双葉町の町長と話をする機会がありました。そのとき、私が突きつけられたのは一度原発に依存すると補助金漬けと税収依存になって抜けられなくなるという切ない現実でした。福島第一原発はトラブル発覚後の2002年から順次停止、2003年に4月に最後の6号機を停止しました。その途端に双葉町の収入が激減するわけです。町長は「双葉町は東北のチベットですから」と言いました。彼もほうれん草の産地を作ったりして、原発依存から抜け出したいともがいていたのです。過疎状態になると「産業廃棄物」か「原発」か「基地」に依存しなければならなくなります。この間、核廃棄物の最終処分場立地をめぐり、候補地として名乗り出た北海道の寿都町が話題になりましたが、かの地のように人口減に陥ると税収が減り、消滅してしまう恐れまで出てきます。
そのような苦悩を抱えた地域を狙い、補助金という金目で立地を促すのです。

青森県の六ヶ所村に行けばわかりますが、農道が県道より立派なんです。建設が決まると、固定資産税が膨大に入ります。それが減価償却も含めて40年間でつきます。すると次の原発を建てたくなるわけです。

――ある種の麻薬性ですね。

最もひどいのは柏崎刈羽原発。7号機まであります。双葉町は事故トラブル隠しで、いきなり酸素吸入器を外されたように苦しくなったわけです。5号機、6号機の建設計画があったなか、私と面談した相手が町長になり、何とか立ち止まろうとご苦労されていた状況と聞いてインタビューに出向きました。

原発の麻薬性はアベノミクスと似ていると私は考えています。GDP(国内総生産)の1.37倍も中央銀行が国債や株・社債などの資産を購入している国家は日本しかありません。どこかで破綻するリスクは常にあるのに「持っているのだからよしとしよう、まだ大丈夫」と安閑としているのです。未来がどうなるのという話は無い。出口の話も無い。今もそうです。菅さんも同じ。

かつて私は『地域切り捨て』(岩波書店)という共著の5章で、「原発の次は原発」を書きました。補助金の仕組みがどうなっているかをルポしたわけです。
あれは確か2008年でした。財政が苦しい市町村を狙って補助金をえさに釣り糸を垂らす。固定資産税や医療を無料にして、おまけに電力会社から給付金を湯水のごとく出す。それが切れたら、また次また次です。

大丈夫、そのうちなんとかなるさの指導者たち

――恐ろしいのは原発立地自治体が食の産地であることです。魚もコメも野菜も酪農も畜産も、ひとたび事故が起きればすべて駄目になってしまう。それは東日本大震災の大きな教訓の一つなのに。

高度成長期に自民党政権はさまざまな事業を地域に分け与え、国民所得を上げていくやり方を徹底してきました。工場立地政策もそう。それを最終的に田中角栄元総理が完成せました。道路と鉄道を通して、工場を移転させる。「全国総合開発計画」が代表例ですね。それで自民党代議士の後援会ができ、各省に利益政治のメカニズムが生まれたのです。だから、過疎化が進み窮地に立たされた自治体には「産業廃棄物処理場」「基地」が送り込まれる。原発だけじゃないんです。合わせて道路や工場の立地誘致政策をやってきた。そこに依存して実質的に麻薬漬けになってしまった。その典型が原発です。
 

――震災前と震災後、金子さんからご覧になって、どこが変わり、どこがおかしくなったと思われますか。

2008年のリーマンショックと、2011年の震災は連続していると思っています。世界的に、です。日本の産業構造の深刻な衰退が始まったのが、08年からの3年間。ここが転機でした。リーマンショック以前に円安誘導していたものが、円高に振れて世界中が金融危機に陥り、実体経済の空洞化が始まりました。貿易赤字が悪化し、バブルが崩壊すると日本の銀行は稼げなくなり、米国の株高に依存して儲けていましたが、とうとう経常収支も赤字になりました。それまでは貿易は黒字で、日本は加工貿易の国だと称していましたが、08年以降まったくダメになりました。2016年と2017年だけ約5兆円の黒字を記録していますが、08年以降は基本的に赤字基調に変わりました。

――その3年間で中国と韓国は成長したわけですね。

「伸びました。なぜかというと、1986年から1991年に日米半導体協定で半導体が崩れ、90年代にコンピューターの変化についていけず、日本は情報通信産業で決定的に遅れ出しました。対して、この時を転機に韓国のサムソン電子が半導体に投資を始め、大きく成長し中国も台頭してきます。日本が米国に叩(たた)かれている間隙(かんげき)を縫って、中韓が情報通信産業や半導体で伸びたわけです。愚かなことに日本は重要な生産拠点を、中国や韓国に移して技術をどんどん盗まれてもいます。米国では、現在でもインテルなどの戦略的な半導体技術は、国内で守っていて他国には出しません。

実態とはかけ離れた、米国の市場原理主義と新自由主義のイデオロギーを日本に蔓延(まんえん)させたのが米国帰りの経済学者。彼らは優秀な人材を米国のビジネススクールに通わせ、「選択的集中」とか称して羽振りが良かった。この結果、日本の優秀な技術者がどんどん海外流出するというブレインドレイン(頭脳流出)が定着し、シャープが台湾資本の鴻海の傘下になるような逆転劇が起きました。そこに日本の未来を見据えた戦略性など皆無です。1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン、2011年の原発事故、2020年の新型コロナ、これらのメガリスクはみな似ているじゃないですか。原因解明を徹底することなく、作戦失敗で負けていく。それを認めないまま、反省無きまま、悪いほうへ向かっていくパターンですね。

たとえば原発事故を機に、私たちが説いてやまない再エネをベースにした食とエネルギー、医療介護の地産地消を復興予算で実行していれば、大きく日本の未来は開けたはず。それは世界で起きていることだった。チャンスだった。この提案を飯田哲也さんは2000年から続けていますし、私も共感して2011年に本を出しました。当時はイラク戦争で原油が高くなり、化石燃料の時代の終わりが見えた。だから再エネ転換しないと駄目。すでに世界はそっちに向かっていると書きましたが、社会の理解は進みませんでした。今もそうですが、起きていることを戦略的に読む能力がリーダー層に大きく欠けているのです。
 

規模の経済は限界。だから地域で立ち上がろう

――サプライチェーン(流通網)の整備は電力、エネルギーと同じで広域でやってはいけないのではないですか。ところが、小規模でという話は一つも出なかったですね。

「その最たる失敗例が北海道の胆振地震の被災地です。大規模火力に依存したため大規模停電になった。その失敗の責任を誰も問われていないのも問題でしょう。原発事故で死者や多くの避難者を出したのに誰も責任を問われない。交通事故で死者を出せば即逮捕されますよ。それどころか、同じ経営陣に柏崎刈羽の再稼働を認めようとしている。このように誰も責任を問われないから大変な失策が正当化されていくわけです。とにかく福島原発事故の際の経営陣に刑事罰を課さなければならなかったと私は思っています。もちろん会社は民事再生法などを適用して解散させ、資産を投げ売りし、新しい会社を設立し、その株を売った代金を事故処理と賠償にあてるべきですよ。

――その財源は?

旧東電は株主責任を問い、新しい東電を建てたら、その株を売れば。あるいはその資産を売ればいいんです。私が言っているのは、東京電力など電力会社の処理。責任の問い方の問題です。銀行の場合もそう。貸し手責任をしっかり問う。
他の電力会社は新株を発行して公的資金を入れ、原発を処理する。業績が改善したら、政府は同社の株を売り、国民負担が生じないようにする。つまり、原発を廃炉にする際、減価償却で足りない部分を新株発行で賄い、そこに公的資金を入れて政府が買えばいいのです。そうすれば経営が健全化されてきますから、電力会社の株はタダにはならず、それを政府が売っていけば、国民の税負担も少なくなるはずなのです。

今の大手企業は株高で潤い、本業が衰退するという空洞化状態にあります。本来は内部留保がたまれば設備投資や研究開発投資をしますが、現状はそうではなくてM&A(企業買収)で相手企業を吸収する方式が定着しています。百貨店、金融機関、製鉄、食品などが典型です。キリンやサントリーが代表格ですね。こうして内部留保を吐き出したようには見えていますが、相手企業を買うことによって自社の資産が膨らんでいき、株価も上がっていきます。

これではかつての日本のように技術開発投資をして良い製品を作り、企業価値を高めていこうというモチベーションが高まらず、どんどん競争力が落ちていくわけです。そうなると自社の株価をとにかく上げていかなければ他者に買収されてしまいます。

逆に買収をしかけたいなら自社株の時価総額を上げていくしかありませんから、内部留保に走り、それで自社株を買って、回っている株の数を減らして配当を増やし、株価を釣り上げる。それしかやらないから労働者の賃金は落ちていくばかりなのです。この20年間、継続的に賃金が下がっているのはOECD(経済協力開発機構)加盟国の中では日本だけ。ドイツや米国プラス。日本だけマイナスです。

――だからこそ地域で立ち上がろうというわけですね。

日本のように中山間地がとても多いと、中小零細の農業以外での農業は成り立ちません。家族農業ですね。農業法人ができても、米国や豪州のようには当然いかず、本州では40ヘクタールで大規模です。ドイツやフランスで50ヘクタールや70ヘクタールですが、米国や豪州には太刀打ちできませんから、環境支払い制度などで農家を補助しながら、6次産業化したり再生エネルギーを作ったりしています。日本の経営の実態、アジア的な農業に合わせて、農家経営のあり方を下から積み上げていこうというわけです。上から目線で農業をどうするかじゃなく、どうしたら地域で生活できるか収入が稼げるかが肝心かなめなんですよ。
 

周縁部で500万円の所得が得られれば、都市のサラリーマンより高い収入が平均でもらえます。たとえ耕作面積が2ヘクタールでも、努力すれば200~300万円は何とか稼げるでしょう。あとの300万円は小さい面積の直売所で販売し、産直で流通マージンを一定程度取られないようにするといった工夫をして。年間50~100万円の身入りがあるソーラーシェアリングができれば、収入は増やせるでしょう。そういう組み立てを最初からすべきなのです。だから、IoTとICTを駆使した再エネ創出を軸とする地産地消こそ、未来を切り開く鍵であり、これぞグリーンニューディールと呼べるものなのです。
 
撮影/ 魚本勝之
取材構成/ 生活クラブ連合会 山田衛

かねこ・まさる
1952年東京都生まれ。東京大学経済学研究科博士課程修了。現在、立教大学大学院特任教授、慶應義塾大学名誉教授。文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」毎週金曜日紳士交遊録出演、日刊ゲンダイ水曜日隔週「天下の逆襲」など連載多数。近著に『平成経済 衰退の本質』『悩みいろいろ』(岩波新書)『メガ・リスク時代の「日本再生」戦略 分散革命ニューディールという希望』(共著、筑摩選書)などがある。

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