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【連載】斎藤貴男のメディア・ウオッチvol.3 ワクチン接種報道の陰に潜むのは ――


欧州医薬品庁(EMA)は2021年3月18日、英国アストラゼネカ社製新型コロナワクチンの安全性を確認したと発表した。これまで同社製ワクチンが血栓を引き起こす副反応を警戒し、接種を中断していたヨーロッパ十数ヶ国のうち、ドイツやフランス、イタリアが、また域外のインドネシアなども、翌19日から接種再開に踏み切った。EMAは同社のワクチンを接種した英国を含むEU各国の約2000万人のうち、169人に血栓障害が顕れた事実を検証したが、因果関係は証明されなかったという。

アストラゼネカ社製ワクチンの接種を中断していた各国は、当初から血栓の発生を副反応と決めつけていたわけではない。WHO(世界保健機関)も当面は問題視しない方針だった。とはいえ、接種前には存在しなかった血栓が、接種後に発生する事例が相次げば、副反応が疑われるのも無理はなく、少なからず死亡例もある。こうなると因果関係があった可能性を完全には排除できないため、EMAは今後も調査を継続すると発表。スウェーデンやノルウェーなどは接種再開に慎重な姿勢を崩していない。

短絡と安易な楽観論に警戒感を

アストラゼネカ社製以外の新型コロナワクチンにも不安は残る。米国のファイザー社やモデルナ社製のワクチンについても、接種後の異変を伝える報告が少なくない。こうしたなか、日本国内でも医療従事者への先行接種が2月にはじまり、3月に本格化したのにつれ、副反応を疑わせる報告が増えてきた。『読売新聞』の調査(2021年3月13日付朝刊掲載)によれば、今年3月11日までにファイザー社製のワクチンが18万1184回接種され、アナフィラキシー(じんましん、吐き気、めまい、息苦しさなど、急性の激しいアレルギー症状)の報告が36件あった。

約5000人に1人の確率ということになり、100万回に5件とされる米国よりも、かなり高い計算になる。ワクチン調達で出遅れた日本は、疫学的な判断に求められる接種実績に乏しいため、短絡は禁物だが、安易な楽観論にも用心しておく必要がある。

厚生労働省の調査によると、ある60代の女性は、接種後3日目にくも膜下出血で亡くなった。海外に同様の報告例がないため、目下のところは偶然が重なった “紛れ込み事案” ではないかと見られている。

新型コロナウイルスが世界の脅威になってから、まだ1年半ほどしか経っていない。通例だと10年かかるといわれるワクチン開発が、今回はその10分の1の超短期間で実用化された。米英のみならず、フランス、中国、ロシア、インドにおけるワクチン開発も同様だ。この流れに取り残された日本では、塩野義製薬や第一三共をはじめ、AI(人工知能)を使った創薬事業に進出したNECなどが挽回に懸命になっている。

新型コロナウイルスの感染拡大を収束させるには、有効かつ安全なワクチンと、その接種体制の整備が不可欠となる。開発サイドやWHOがいかに有効性と安全性を強調していても、現状はまだ、期待と不安が錯綜(さくそう)し、心理的にも混沌(こんとん)としている段階だ。絶対視はできないし、されるべきでもない。

誰もが情報を欲する。報道にはそれに応える責務がある。ところが――。
 

相次ぐ「バッシング」と削除

朝日新聞社の完全子会社が発行している週刊誌『AERA』は、2021年1月25日号で、新型コロナウイルスに関する医師1726人のアンケート調査結果を特集した。収束はいつ頃になりそうか、コロナ禍で新しく始めた取り組みは、就労環境はどう変わったか、等々の設問が並ぶ。

当然、ワクチンに関する質問もあった。国内では翌々月の下旬に医療従事者から優先的に接種するという予定だけが決まっていた時期で、医師たちに接種の意向を尋ねたところ、
・「接種する」31.4パーセント
・「ワクチンの種類によっては接種する」27.3パーセント
・「接種しない」11.8パーセント
・「わからない」29.5パーセント
との結果が出たという。だが、家族に接種を勧めるかという問いでは微妙に反応が変わり、「接種する」から順に、27パーセント、23.5パーセント、15.5パーセント、34パーセントとなっている。

同じ誌面に載った回答者らの意見が興味深い。「国民全員が接種すべき」(埼玉県 勤務医 代謝 内分泌科40代男性)「接種せずに重症化してICU(集中治療室)などで治療を受けられると思わないでもらいたい」(奈良県 勤務医 小児科30代女性)などといった “勇ましい” ものがある一方、「まだ様子を見たいが本音です」(沖縄県 勤務医 消化器内科60代男性)という感じのコメントも目立つ。全体的に中立・客観の立場が貫かれた、上質のレポートに仕上がっている印象を受けた。

問題はここから先である。
この記事には新聞広告や電車の中吊り広告で、〈医師1726人の本音「いますぐ接種」3割〉といタイトルが冠された。調査結果から、読者の関心を惹(ひ)きそうな事実を抽出したのは編集長だ。

メディアにとってはルーティンそのものの営みといえるが、これが想定外の結果を招いた。担当した編集者F氏のSNSが大炎上したのである(記事は署名入り)。

不安を煽るな、ワクチンをネガティブに伝えるな、というわけだ。F氏個人に対する誹謗(ひぼう)中傷は激しく執拗(しつよう)で、ウェブ版の『AERAdot.』では〈ワクチン「接種」「種類により接種」は6割〉への変更を余儀なくされた。
翌週号には「ご批判があれば編集部が承ります」と、悲鳴のような編集後記が載った。

『AERA』はほんの一例だ。2020年末から今年2021年初めにかけて、新型コロナワクチンに懐疑的な報道は、ことごとく集中砲火を浴び、編集部が記事の削除や謝罪に追い込まれている。オンラインマガジン『バズフィード・ジャパン』が、1月21日・26日の配信記事で要領よくまとめていたので紹介しよう。

それによれば、『週刊新潮』(新潮社)が1月28日号に〈コロナワクチンを「絶対に打ちたくない」と医師が言うワケ 感染予防効果はなし〉と題する特集を掲載。
ウェブ版の『デイリー新潮』にも同月20日付で同じ記事を配信したところ、「誤った情報を伝えている」と批判が殺到し、後者が26日までに削除されている。

『女性セブン』(小学館)も2月4日号で〈本当に怖いワクチン後遺症〉を特集し、ウェブ版の『NEWSポストセブン』でも配信したが、やはり批判を浴びて削除。
また、女子高校生100人に早期のワクチン接種を希望するか否かを問い、6割が「受けたくない」と答えたとする『オリコンニュース』(1月20日配信)と、これを自社サイトに転載した毎日新聞社がやはり削除・謝罪する羽目に陥った。

新型コロナワクチンの有効性や安全性が、いまだ十分に裏付けられていない現実は前述した通りだ。にもかかわらず、この状況は何事なのだろう。いささか異常ではなかろうか。

自粛警察、マスク警察、帰省警察……。コロナ禍は人々の独善的な “正義感” を肥大化させ、日本社会に深く根を張る同調圧力を、いっそう凶暴化させてきた。
そして、ついに「ワクチン警察」の登場と相成った。

本稿で取り上げた雑誌メディアのなかには、確かに副反応の可能性を強調しすぎた感があるものもなくはない。ではあるけれど、不安を不安として報じるとふくろだたきに遭う社会は果たして健全といえるのか。人間にはさまざまな考え方やバックグラウンドがあり、とりあえず健康な体に異物を注入するワクチンは、病気になってから投与される治療薬とは、根本的に異なる本質を備えていると、筆者は考える。

感染症ワクチンの接種には、個人防衛と社会防衛という、大きく2つの目的がある。新型コロナウイルスの予防といえども例外ではない。後者を重視するあまり前者を軽んじれば、それは全体のために個の意志も生命も犠牲にして構わない、報道・表現の自由など唾棄すべきだという思考に限りなく近づき、ファシズムにも通じてしまう危険を帯びることになる気がしてならない。

ワクチン接種とマイナンバー


目下、菅義偉政権の支持率が急回復しつつあるらしい。読売新聞社が3月5日から7日にかけて実施した全国世論調査では48%で、前回(2月5~7日調査)の39%から9ポイントも上昇した。自民党への支持も40%と、37%だった前回より3ポイント増となった。

東京五輪をめぐるゴタゴタや、首相の長男・正剛氏と総務省幹部らへの違法接待問題など、政権にはマイナス要素ばかりかと思いきや、調査結果を報じた『読売新聞』(3月8日付朝刊)によると、〈ワクチン接種の開始も支持率を押し上げる一因となったようだ〉という。これとても当初のアナウンスより遅れに遅れ、逆に支持率低下の要因となってもおかしくないはず。ところが、長引くコロナ禍で疲弊した人々は、こんなところにも一筋の光明を見出そうとするものなのだろうか。

そのためだろうか。菅政権はワクチン接種の推進こそ政権浮揚の切り札と位置付けているらしい。『日本経済新聞』(3月10日付朝刊)によれば、彼らは有権者が最も強く望んでいるのは新型コロナ対策と認識。7月下旬に予定されている東京五輪の開会式までに、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人々への接種を終わらせ、9月の自民党総裁選、10月の衆院議員任期満了・総選挙につなげたい考えとの風聞もある。

ワクチン摂取への不安は尽きない。それでも報道は制約されがちなのが実情だ。
菅政権の意向と「ワクチン警察」の存在とが、今後、どう絡まり合っていくのかが気になる。

もっとも、日本の状況はまだしも生易しいほうかもしれない。新型コロナワクチンの接種が最も進んでいる国のひとつとされるイスラエルでは、接種の完了を公的に証明する「グリーンパス」が生活に浸透しつつあり、これに倣おうとする動きが世界中で広がっている。

中国では2021年3月から、ワクチンの接種履歴やPCR検査の結果を示す「国際旅行健康証明」の発行が、電子版と印刷版の双方で始まった。アストロゼネカ社製ワクチンの副反応問題で揺れているEUでも、加盟国共通の「デジタル・グリーン証明書(ワクチン・パスポート)」発行のための関連法案が公表されており、バカンス・シーズンを控えた6月中旬の実用化が目指されているという。

本稿執筆の時点(3月20日)では、日本政府は証明書の発行に否定的な立場を表明している。差別の元凶になりかねないからだが、それが世界のスタンダードになった場合は、どうなるかわからない。政府は一方でワクチン接種と “マイナンバー” を紐づけ、データベース化する方針も打ち出している。準備は整えられつつある、と見るのはうがち過ぎだろうか。

あえて繰り返すが、新型コロナウイルスワクチンの有効性も安全性も、いわんや新型コロナウイルスの正体そのものも、まだまだ何もわかっていないことが多すぎる。南米のチリでは、セバスティアン・ピニェラ大統領のリーダーシップの下、親米政権ながら中国などからも積極的にワクチンを調達。人口の4分の1以上が1回目の接種を終えた。

接種後、米国のCNNやAP通信によって「世界でも有数のワクチンのリーダー」と讃えられていた。しかし、そのチリでも今なお感染拡大は収束していない。
2021年3月に入っても感染者数が5000人を超える日が続き、累計感染者数は90万人を突破したと3月20日の朝日新聞電子版が報じている。科学を妄信していればよい場合ではない。それだけは間違いないはずだ。
 

追記

本稿は執筆から掲載までにやや時間がかかった。そこで、この間における新しい情報をいくつか追記しておきたい。
 
デンマーク政府は今年4月14日、アストラゼネカ製新型コロナワクチンの接種を取りやめると発表した。本文の冒頭で紹介した、接種後に血栓ができる症例や、それとの関連が疑われる死亡者の報告が増えたことを受けた措置である。「深刻な副反応のリスクがあると判断した」と、政府高官が述べたという。

同じ14日、日本でも長崎県に住む医療従事者の女性(60歳代)が、接種後に脳出血を起こして死亡したと発表された。基礎疾患はなかったようで、摂取との因果関係は不明。報道によると、厚生労働省には同月7日までにコロナワクチンの副反応の可能性がある死亡事例が6件報告されているが、この女性が含まれているかどうかは明らかにされていない。

厚労省は、すでに2回目の接種を終えた医療従事者約4000人についての調査結果も公表している。3月26日の発表では、35.6%の人に、37.5度以上の発熱があり、その半数以上の人が38度を超えていた。

また、67.3%の人が「倦怠感」を覚え、49%の人が「頭痛」を感じた。いずれの症状も、1回目の接種時における調査結果の10~20倍。発熱や倦怠感のために予期せずに仕事を休んだ人も全体の5.5%に及んだそうである。「高齢者より若者、男性より女性が多い」と、分析を担当した専門家が述べている。

一方、今年4月12日からは、高齢者への新型コロナワクチン接種も始まっている。本格化するのは5月のGW明け以降。先行した医療従事者への接種も全体の1割強程度しか進んでおらず、今後の「持病のある人」、「高齢者施設などで働く人」、「60~64歳の人」、それらに該当しない「一般の人」への接種は、目下のところ、何もメドが立っていない状況という。

政府によるワクチン確保が欧米先進国などより大幅に遅れたためである。本稿では副反応の問題をめぐるメディアの状況を検討してきたが、この国ではまだ、そうした問題を論じるレベルにも達していないのかもしれない。

にもかかわらず、菅政権には勇ましい言葉ばかりを発したがる人が後を絶たない。河野太郎ワクチン接種担当相は4月17日、日本テレビ系列の番組に出演し、会社員らの職場をワクチンの接種会場にすることも検討したい意向を語った。

民間では、星野リゾートの星野佳路代表が同月14日、政府の観光支援事業「Go To トラベル」再開の暁には、その対象を「コロナワクチンを接種した人だけに絞るべき」との考えを提唱した。接種を促進するためだけでなく、「現場のスタッフが安心してお客様を迎え入れることにつながる」と報道陣に語ったという。
実質的な「ワクチン・パスポート」とも言える。新型コロナワクチンをめぐる議論は、どこまでも広がっていきそうだ。
 
撮影/魚本勝之
担当/生活クラブ連合会 山田衛


さいとう・たかお
1958年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。日本工業新聞記者、「プレジデント」編集部、「週刊文春」記者などを経て独立。『機会不平等』(岩波現代文庫)『 ルポ改憲潮流』(岩波新書)、『「あしたのジョー」と梶原一騎の奇跡』(朝日文庫)、『子宮頸がんワクチン事件』(集英社インターナショナル)、『決定版消費税のカラクリ』(ちくま文庫)など著書多数。

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