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春、房総の海はひじきの香り【ひじき】


房総半島南端にある千葉県の千倉町では、3月から4月にかけてひじきの刈り取りが行われる。刈り取り後すぐに、浜にある加工場でボイル、乾燥し、1年分のひじきを生産する。

春の大潮の頃に


千葉県房総半島の南端、南房総市の千倉町と白浜町は、「房州ひじき」の産地として全国に知られている。春分が近づく大潮の日、潮が引いていくと、平らな岩場を覆う、長くふさふさとした黄金色のひじきが現れる。

ひじき漁は年に3回、3月半ばから4月にかけて。潮の引きが最大になる大潮の時季に集中して行われる。5月になると、葉先が膨らんできて価値がなくなってしまうからだ。潮が引き始めると、漁師は竹かごを背負い、片手に鎌を持ち滑りやすい足元を気にしながら岩場を歩いて行く。長く伸びたひじきが、根を岩に残したままどんどん刈り取られていく。潮が満ちてくるまでの3時間余り、漁師は休むことなく刈り取りを続け、岸壁で待つトラックに運ぶ。
3回で1年分を刈り取るが、予定していた日に天候が悪かったり、海が時化(しけ)た時は中止になる。また、夏の終わりから秋の初めにかけて発芽するひじきは、前の年に台風などで海が荒れると、思うように成長しないことがある。

2019年、台風19号が関東平野を北上し、南房総でも最大瞬間風速が60メートルに達した。「波のうねりが大きくて、次の年のひじきは短く、収量の確保に苦労しました」と東安房漁業協同組合(東安房漁協)の南房総支部長、長谷川繁男さん。19年の台風被害は漁協の施設にも及んだ。「蓄養施設やしめさばの加工場、倉庫の屋根が飛んでしまいました。出荷前のひじきが入った箱を開け、ひじきにかかわる生産者全員で再検品をしました」。防ぐことのできない自然災害には、若い頃から何度も立ち向かってきたと言う。

今年の1回目も時化のため、浜へ出ることができなかった。「でも後の2回は、長くておいしそうなひじきが刈りきれないほど育っていました。時間が足りないぐらいですよ」と、千倉町千田地区の漁師の山口勇治さん。「こんな年は、加工の能力が許せばもっと刈り取りの回数を増やしてもいい」と言う。
東安房漁業協同組合南房総支部長の長谷川繁男さん。長年、漁協の職員として千倉の海とつきあってきた。「いつも、この海が豊かであるようにと考えてきましたよ」

ひじき刈りは共同作業

漁師の山口勇治さん。「今年のひじきは長くておいしそうですよ」

千倉町には八つの地区がある。ひじきの刈り取りは個人では行わず、地区ごとに若い人から年配の人まで浜に集まり、助け合いながら行う共同作業だ。収益は労賃の他に、地区によっては行事のために使われることもある。年に一度のひじき刈りは、地区のコミュニティーを保つための交流の場でもある。

千田地区は千倉町で一番広い刈り場を持ち、以前は1日に200人以上が参加した。「その頃は釜蒸しも乾燥も24時間体制でしたよ」と山口さん。今年は約40人。高齢になると岩場の作業やひじきを入れた重いかごを背負って歩くことが難しくなる。それでも他の地区からの応援があり、若い漁師は20キロものひじきを入れたかごを20往復も運び、例年と変わらない収穫量を確保した。

10年前から浜へ出ている山口さんにとって、ひじき刈りは小さい頃から見慣れた当たり前の風景だ。「都会の人は、ひじきがどんな姿でどんなふうに育っているかも知らないでしょうね」。さらに、「かごを背負い鎌を持って海で仕事をしているのが奇妙に見えるらしいです」とも。浜にあるひじきを刈り取り、蒸し、乾燥して消費者の手元に届くまでどれだけの人の手がかかっているかを伝えたいそうだ。

栄養分がそのまま、「房州製法」

ステンレス製の釜で、ひじきに蒸気をあててボイルする
刈り取ったひじきは、浜のそばにある東安房漁協の千田水産加工場に運ばれ、すぐに加工工程に入る。

まず、一度に2トンのひじきを処理できる二つのステンレス製の釜で、蒸気を通しながら4時間をかけて軟らかくする。ひじきから出てきた水分が沸騰し、それでボイルすることになるので、含まれる栄養分はそのまま残る。

このように、刈り取り後すぐに蒸す加工の仕方は、房州製法と呼ばれる。他には徳島県の一部で行われているにすぎない。加工場長の鈴木貢さんは、「栄養分とおいしさがそのまま閉じ込められ、磯の香りが残る製品に仕上がります。一般の製法は、まず刈り取ったひじきを洗って素干しし、保存します。それを必要に応じて水で戻し蒸してからもう一度乾燥させるのです。加工には便利ですが手間がかかるうえ、水戻しをしたときに栄養分が流出してしまうこともありますよ」

加熱が終わると、冷ましてから乾燥機にかける。乾燥しやすいように人の手でトレーに広げられたひじきは、125度の熱風がかけられ、30分で乾き、10分の1の量になる。その後、手選別により異物や似た海藻類、残った根などが取り除かれる。時々白い粉がふいたように見えるひじきがあるが、それは「マンニトール」といううま味成分と塩分で、生産地では「しおのこ」と呼ばれる。 
日本で流通しているひじきのほぼ9割は外国産。1割の国内産のうち、房州ひじきはさらにその1割ほど。「昔はひじきが採れても、こういった施設はありませんでした。このあたりではドラム缶でボイルしていました。一晩中グツグツと煮てから天日干しをするんです」。鈴木さんが房州製法のルーツを教えてくれた。

東京から車で1時間半あまり。潮の満ち引きや四季の移り変わり、日々の天気など自然を相手に暮らし、豊かな海がもたらす食の文化を消費者に届ける生産者がいる。
蒸気があたったひじきは一瞬エメラルドグリーンに変わる。「色がきれいでも、食べてみると渋くて硬いですよ」と、千田水産加工場長の鈴木貢さん。4時間加熱する間に渋みが抜けて軟らかくなる
ボイルを終えたひじきを手で広げながら乾燥機にかける
乾燥を終え粗製品として保存しておいたひじきは、異物を取り除き、長ひじき、中芽、芽ひじきに選別し、製品にする。根気のいる手作業が続く
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

海からの使者


手元にあるひじきは黒くて細い針金のよう。水で戻しても真っ黒いまま。海の岩場に生えているひじきからは想像もつかない。その栄養分をそのままに、乾物に加工するのが千葉県にある東安房漁業協同組合だ。

東安房漁協がある南房総沿岸では、ひじきの他にも、アワビ、サザエ、イセエビなどが豊富にとれる。漁協は資源が枯れないように乱獲を防ぐほか、海を守る活動にも力を入れてきた。1960年代、合成洗剤の環境に及ぼす影響が問題になってくると、漁村の生活排水が海を汚さないように、近隣の漁家にせっけんの利用をすすめていった。

その後、千葉県漁連が窓口となり、ヱスケー石鹸(せっけん)(東京都北区)と共同で「わかしお石鹸」を開発する。それは全国の漁協に広まり、漁師が海を公害から守る活動の原点となった。

東安房漁協南房総支部長の長谷川繁男さんは、「海は自分たちの生産の場です。豊かな資源をもたらす海を、生産者自らが守ろうという強い気持ちがあったのでしょう」と振り返る。「あの頃から世代が3回交代していますが、海を守り、この地の食文化を伝えていこうとする想(おも)いは、確かに受け継がれています」

長谷川さんが漁協に就職したのは1982年。その年の3月21日に、微炭粉を積んだ3万7千トン、全長三百数十メートルのタンカーが、漁協のある千田地区の沖合で座礁した。

ちょうど刈り取りの時期に入っていたひじきは、流出した重油で真っ黒に汚れてしまった。ひじきはその年に刈っておかないと、翌年の生育が悪くなる。「干潮の時にみんなで海へ入り油まみれのひじきを刈りました。来年の収穫のため、という想いでね」。刈ったひじきは海へ流したそうだ。

ひじき刈りができるのは1年のうちでも限られた時期、春先の3回だけ。ひじきの成長が気になるのはもちろんだが、近年、長谷川さんが一番心配しているのは潮の引き方が少ないこと。以前は大潮の時に、標準より低い水位まで引くこともあったが、このところ17センチから20センチも高いことが続いている。潮が引かなければ刈り取りが難しくなる。ひじきの生育にも影響が出てくるのではないかと考えている。

乾燥した房州ひじきは、水で戻すと数倍に膨れる。芯まで軟らかく、煮物やサラダなどの材料として食卓を彩る。とりまく自然環境の影響を受けながらも、ひじきは人の手で守られ、海の恵みを届けている。
 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2021年6月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。

【2021年6月20日掲載】

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