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新型コロナ禍で民間在庫が膨張 政府の減反政策廃止から3年

【対談】東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん  生活クラブ連合会顧問 加藤好一さん


新半世紀以上にわたり続けられてきた政府による、コメの需給調整であった「減反制度」が廃止されて3年が過ぎました。その後もコメの需給バランスは供給過剰(消費激減)で推移するなか、新型コロナウイルスの感染拡大による外食需要の減少は、さらなるコメ余りに拍車をかけました。このまま年間10万トン超と試算される消費減が続けば、米価のさらなる下落を招き、農家の稲作離れを加速化する恐れが出てきました。この状況をどう捉え、どうしていけばいいかを東大大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ生協連合会顧問が語り合いました。

※この対談を実施したのは2020年度産米の収穫がほぼ終わった昨年11月でした。その後、さらに状況は悪化し、米価は1俵(60キログラム)1万円を割り、平均的な生産コストの1万2000円を下回る水準にあるとされています。まさに日本の持続可能なコメづくりが危機的状況に置かれています。

仕上げに入った「胃袋支配」が稲作つぶし

加藤 昨年(2020)から日本のコメが大変なことになっています。しかし、マスメディアがあまり取り上げないせいでしょうか、残念ながら消費者の関心事になっていません。コメの過剰在庫が深刻になるのは2018年の減反政策廃止で予想できてはいましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって拍車がかかった状態です。そうしたなか、今年3月にJA全中は今後のコメの需給見通し試算を公開し、6月末の民間在庫量は220万トンから253万トンとなり、政府見通しの195万トンから200万トンを上回る水準になるとしています。


鈴木 年間8万トン、近年では10万トンずつ国内消費量が減り続けるなか、政府は2018年からコメの需給調整をやめました。いまも需給計画は決め、一定量の減産を求めてはいますが、あとは農業組織と現場でやってくれということです。

これを受けた現場は需給均衡を目指して努力したのですが、「もっと作ろう」という動きが止まらないのです。それでも不作気味なら何とかなるのですが、2020年の作柄は豊作に転じました。需要が10万トンずつ減っているのに豊作です。そこに新型コロナウイルスの感染拡大で外食、中食向け需要が12万トン減り、計22万トンが過剰在庫になったのです。

加藤 1995年に食管法が廃止され、食糧法が施行されました。93年には平成のコメ騒動があり、緊急輸入措置がとられています。その後もコメの輸入自由化に向けた動きは着々と進められ、作付けと販売の自由をうたった競争原理を説く政府は、生産調整の責任を体よく放棄したといったら言い過ぎでしょうか。

鈴木 いやいや、仕上げですよ。1993年にウルグアイ・ラウンド合意がありましたね。その際、政府がコメの価格を決め、在庫を維持しながら価格の下落を防ぐ政策は採用してはならないと世界貿易機関(WTO)が判断し、それに従順に従ったわけです。しかし、他国は現在でも自国産品の価格支持政策を放棄してはいません。日本政府はバカ正直にやめなきゃいけないと動いたわけです。

そこに輸入自由化の圧力が加わり、民間からの圧力で規制改革が進んでいきました。コメ農家は自民党にとって重要な票田だったのですが、だんだんと戸数が減ってきていたため「もういいか」となったのです。農業について、それほど重視しなくていいという条件が整ってきたといっていいでしょう。現在もコメ農家は多いのですが、他の農産物に比べると票に結びつく力は雲泥の差で、そこに頼らなくてもやっていけるとなったということ。だから自由化や規制改革をどんどん進めて、あとは自己責任でやってくれということでしょう。


加藤 「仕上げ」ですか。

鈴木 そう。米国の占領政策の総仕上げ。コメ・小麦・大豆・トウモロコシは米国で余っているのだから、日本で作るな、100パーセント輸入せよということです。そうしたなか、日本政府は「コメだけは守る」と言い続けてきたのですが、もともと米国はコメを日本にもっと買わせたいと考えていたのです。「胃袋」をがっちり握って言うことを聞かせるのが米国流の支配ですからね。その後、ウルグアイ・ラウンドで77万トンのコメ輸入枠が決まり、うち36万トンは必ず米国から買えということになったのです。

加藤 そのことを日本の消費者はほとんど知らないわけですね。

鈴木 米国におけるコメの生産コストはベトナムやタイに比べて高いのですが、実に安くコメを売れるようにしており、その差額を全額、農家に払っています。

小麦・大豆・トウモロコシ・綿花についても同様の措置を講じています。穀物3品だけで多い年では1兆円を差額補填に使っているくらい徹底的に国費を投入しているわけです。それで日本人の胃袋を牛耳って、うまくいけば同様の方式を他国に広めていくという国家戦略ですね。そのために「農家は頑張れ」と大学でも教えているくらいです。

巨大な輸出補助金制度ですよ。日本はもともと輸出補助金ゼロ。新たに制度を設けてもいけない、在庫を持って買い取る政策もやってはいけないと判断して、全部やめました。現在は備蓄米を100万トン買うだけで、他の助成制度はほとんど機能していません。米国では農家自身が判断できるようになっていて、最低価格が決まっており、それより下がらないようにしています。それがローンレート。

お金を貸してくれるシステムですね。たとえば一俵(60キログラム)預けて1万円借りる。市場価格がそれより下がったら、質流れさせて政府が在庫を持つ。実質的に1万円で買い取っているようなものですが、そういう仕組みを持っているのです。
 

なぜ、海外への食料支援を進めないのか

加藤 同様の助成制度が日本にないということですか。

鈴木 そう。何ないのは日本だけです。米国、カナダ、EU も全部、政府が最低価格で買い取っています。用途の基本は援助。米国はまず援助です。国内援助もあるし、貧困家庭支援も充実しています。あとは海外援助。海外援助は究極の輸出補助金に相当します。米国が得意なのは、コメを食べるアフリカ諸国に対する信用売りです。たとえ支払いが焦げ付いても、政府が輸出企業への支払いを肩代わりしています。それでも最終的に余ったものは政府が責任を持って処理するというように、海外も含めて需要創出しています。

加藤 一方、日本に目を転ずれば民間在庫の過剰です。JA グループは在庫を持ち越し、自主的に2021年の作付けを減らす方向で動きました。なぜ、米国のように海外援助などに活用しようとしないのでしょうか。

鈴木 米国に忖度(そんたく)しているのではないですか。日本が支援物資としてコメを拠出すれば、米国の市場を脅かすことになると、彼らの顔色を伺っているとしか思えません。2008年の食料危機の際、日本が「備蓄米をフィリピンに30万トン送る」と言っただけで、急速に国際相場が下がりましたからね。

加藤 平成のコメ騒動でタイ米を輸入した際には、国際相場が逆に上がりました。

鈴木 やはり安全保障の視点からコメの備蓄を考えるのも重要な課題なのです。

コメの国内備蓄が100万トンでは足りないことをタイからの輸入は明らかにしました。しかも買っておきながら食べなかったのですから実に迷惑な話というしかありません。日本はコメを対象とする「東アジア備蓄機構」の設立を提案しています。せっかく良い政策を持っているのですから、コメの備蓄は300万トンあってもいいと見立てて、国家戦略で食料安全保障の大義名分を立てたらどうかと思います。防衛費に5兆円超の予算を使っているのですから、コメで安全保障に貢献できると考えれば安いものではないですか。

日本国内でも、コロナ禍で一日一食しか食べられない人が増え、苦しんでいます。実は、コメは余っているのでなく、足りていないのです。減反している場合ではありません。コメをしっかり生産して、米国のように政府が買ってフードバンクや子ども食堂に届ける人道支援を、日本政府はなぜ拒否するのでしょうか。消費者を救えば生産者も救われます。

いまが瀬戸際、耕畜連携と飼料用米普及がカギ

加藤 生活クラブ生協が山形のコメ産地である遊佐町と提携したのは減反が始まった年。産直提携は減反政策との戦いでした。最盛期には生活クラブの組合員は提携先のコメを16万俵購入していました。現在はコメだけでは9万俵を切るくらいですが、転作作物、飼料用米も含めて総面積に換算すれば、15万俵相当を購入しています。

鈴木 食管制度が良かったのは、生産者からは高く買い取り、消費者にはより安く販売するという点でした。政府も責任を果たそうとしていたわけです。生活クラブ生協の取り組む産直は「自主食管」とも呼べるものだと思いますが、それを政府がサポートするのが重要です。米国もそうですが、消費者が負担できない分は政府が補うのです。だから、みんなが応分の負担をしている。消費者もできるだけ持続的な生産支える仕組みを作る。それでも農家所得が増えず、なかなか続けられない状況になったとき、政府が応分の負担をするシステムができれば、もっと違うと思います。

加藤 2018の減反政策が廃止されてから飼料用米の作付面積が減っています。凶作まではいきませんでしたが、作況の悪い時期もあって米価が維持されたからです。米価が維持されれば飼料用米より、食用米がいいとなります。私には飼料用米の作付けに関しては常に危機的だという問題意識があります。いつ現行制度が改悪・解消されても不思議がないということです。事実、財務省は新型コロナ対策で巨額の財政支出が求められるなか「飼料用米の生産に助成金とはけしからん」という姿勢をとり続けているようです。

穀物自給の視点に立てば、飼料用米はまだ圧倒的に足りないのは明らかです。その栽培が転作の一環という位置づけも釈然としません。政府に自給飼料を作る覚悟があるのか。食料自給率、穀物自給率を本気で回復させる気があるのかと問いたいです。2020年の「食料・農業・農村基本計画」を読みましたが、今回は本気でやらないとダメな部分が相当あると思います。私は飼料用米を転作作物と位置付けるのではなく、飼料自給政策の柱とすべきだ、と考えています。

鈴木 同感です。国家戦略として飼料をどうするのか、どう自給していくのかを本気で考えない限り、いざというときに畜産がもちません。いちばん国内で生産できるのはコメ。だからコメを無駄にしてはいけないのです。
 

加藤 いまが瀬戸際だと思います。畜産物の輸入がどんどん増えてきました。このままでは飼料用米は不要ということになりかねません。

鈴木 やはり国内で循環できる体制を作っておかないと、何が起こるか分かりません。飼料にはコメをしっかり使い、私たちは不測の事態に備えるという意思を示さなければなりません。畜産についても、きちんとした政策を立案し、このままどんどん減っていくことにならないような対策が求められます。

加藤 耕畜連携ですね。農業のあり方として、そこに踏み込まなければならないということでしょう。同時に、国内で生産された自給飼料で育てられた国産の畜産物の価値を尊重する消費のあり方が、ますます求められると思います。

鈴木 「食」の安全の確立をテーマに欧州連合(EU))の委員会を動かしたのは消費者運動です。たとえ規制機関が安全だとしても認めない数多くの消費者がいたのです。彼らは「自分たちの命は自分たちで守る」と主張し、委員会が動かざるを得ないようにしたのです。一方、日本の食品行政は甘いというしかありません。
そうなれば日本の消費者を標的に、日本で儲けるしかないと多国籍資本は考えます。EUで禁止になった農薬を日本にせっせと売りつけているという話まで聞きます。こうしたなか、やはり最終決定権は消費者にあるのです。

生活クラブをはじめとする生協陣営が中心となって、その点を示していけば変わってくると私は信じています。日本の「農」と「食」を守るために多くの消費者が力を出し合う。その協同性こそ重要なんです。

撮影/魚本 勝之
取材構成/生活クラブ連合会 山田 衛

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