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続く流通資本の「買いたたき」 漁業者の「自治」と共販制度つぶしの規制改革

対談 鳥羽磯部漁協組合長 永富洋一さん  東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん

本日の感染者数に重傷者数、亡くなった人の国内総計。解除されたと思ったら再び発出される政府宣言に「まん延防止等重点措置」。ワクチン接種の混乱に苦境にあえぐ飲食店経営者の声、医療と介護崩壊の危機がマスメディアを通して連日のように叫ばれています。それでも食料供給が滞ることがないからでしょうか。この背景には一次産業従事者に配送事業者というエッセンシャルワーカーの存在がありますが、彼らの直面する現状を広く報じるメディアは限られています。こうしたなか、自身が漁業権を有する漁家のひとりでもある東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんが郷里に程近い三重県鳥羽市の鳥羽磯部漁協を訪ね、組合長の永富洋一さんと水産業の現状について意見を交わしました。(2021年3月8日取材)
 

現場の実情を度外視した「はじめに売価ありき」

永富 はじめまして。いま、日本の漁業はどうなっているのか、今後どうしていけばいいのかについて、鈴木宣弘先生と意見交換できる場を頂戴し、大変うれしく思っています。どうぞ、よろしくお願いします。

いうまでもありませんが、この1年半は新型コロナウイルスの感染拡大で手痛い販売不振に見舞われています。これまで材料を仕入れてくれていた飲食店が買ってくれないわけです。それでも私たちは漁業者が水揚げした魚を何としても出荷しなければなりません。漁協の責任は実に重いと痛感しています。

現在、日本には約13万人の漁業者がいます。この人たちが日本の食料自給のみならず、領土保全の責務を担っているわけです。日本の食料自給率はカロリーベースで38パーセント。これを13万人の漁家と200万人の農家で支えているという現実にもっと目を向けていただきたいですし、漁家と農家は国土ならびに環境保全の担い手でもある点を忘れてもらっては困ります。そんな一次産業従事者たちが新型コロナ禍で一層厳しい経営を強いられています。このままでは先進国のなかでは恐ろしく低水準な食料自給率のさらなる低下のみならず、国土の荒廃も避けられないと危機感すら覚えます。
 

 
日本には6852の島があり、うち431島が国境に面しています。ここに漁業者がいて、魚介類を水揚げして出荷する海辺の暮らしが続いているからこそ、排他的経済水域(EEZ)の広さは世界6番目の海洋国家として世界に認知され、そこからいのちの源となる食料を得ることもできるのです。こうしたことに目を向けてくれる人が増えてくれるといいのですが……。

鈴木 今日は貴重な機会を頂戴しありがとうございます。いろいろ勉強させていただきたいと思います。新型大手流通の力が強まり、漁業者は一方的な「買いたたき構造」の渦中にあると聞きますが、実際はどうなのですか。

永富 はじめに売価ありき。最初に小売価格が設定されていて、逆算で原価はいくらという方式で水揚げした魚の値段が決められるという流れが固定化しつつあるのは間違いありません。おまけに買い手が望む量をしっかりそろえて出さないと取引してもらえませんし、小さな魚は敬遠されてしまいます。

私が全国漁業協同組合連合会(全漁連)の副会長を務めたとき、国内流通最大手の会長と直接話す機会がありました。「ロット(最低取引量)を満たさない魚は扱わないとは何事か。小さくて規格に達しない魚は不要という姿勢も是正すべき」と率直に意見させてもらったことがあります。「大きいやつは大きいなりに、小さいやつは小さいなりに販売して欲しい」と申し上げたのですが、残念ながらまったく聞く耳を持っていただけなかったです。

鈴木 漁協の組合員は水揚げした魚介類を漁協に出荷し、それを漁協が責任を持って販売するという共販制度がとられています。この仕組みは個々の漁業者が大手流通資本と直接取引すれば、対等な関係性が保持できなくなり、買いたたきが常態化するのを防ぐための防波堤ともいえるものです。にもかかわらず、「漁協の共販制度は独占禁止法に抵触している」と規制改革推進論者は主張し、漁業者との直接取引を幅広く認めることを政府に求めています。規制改革推進論者には大手流通資本の経営者も名を連ねています。狙いは協同組合つぶしにありというしかないでしょう。はじめに売価ありきも共販制度くずしですね。
 

漁業者主体の「資源管理」を否定する流れも

この間、日本の漁業者の乱獲が資源量の減少枯渇を招き、魚が獲れなくなったという声を頻繁に耳にするようになりました。近年の不漁は漁師自身が招いたものだというのです。それが漁船1隻あたりの漁獲量の枠を定める「IQ制度」の導入という漁業法改正の根拠になってしまっている感もあります。輸入自由化や「買いたたき」で暮らしが苦しくなり、漁業者が減り、気候危機の影響で海洋環境が大きく変化したために漁獲量が減少しているのに、あたかも漁業者だけの責任にしようとしている気がしてなりません。
 

永富 共販を弱体化させるという意味では、漁業者自身にも問題がないわけではないのです。自分が出資金を納めて組合員になったのに、その意識が希薄な漁業者もいて共販を利用しないケースも少なからず見られるようになってきました。そういう組合員には「あんたの漁協じゃないか。自分たちの漁協の事業を使わないでどうするのか」と話すのですが、一筋縄ではいきません。

次に資源管理の話ですが、私たち漁業者は、たとえばイワシが獲れすぎたら、漁に出るのを休みます。それを皆で話し合って決めるのです。三重県のアワビの出荷基準は10.6センチ。1ミリでも足りなければ放流しています。これも漁業者が主体的に話し合って決めたことです。このように微妙なところを調整しながらみんなで話し合ってやっているのです。国内で最も資源管理に力を入れているのは瀬戸内でしょう。日本でいちばん厳しいですよ。エンジンや網の制限まで自主的に設けています。やはり資源管理は漁師の「自治」でやらなければいけません。法律を定め、各地域の現状を度外視した上から目線の押し付けるような手法は絶対にいけませんよ。

日本の水揚げ量が減ったのは、日本人が獲る魚が減ったということです。漁業者が70万人から13万人に減れば、総漁獲量が減るのは当然ということです。ただし、当漁協の管内の伊勢海老漁のように漁家数は半分になりましたが、水揚げは横ばいか右肩上がりになっています。船や漁具の性能が良くなったのもありますが、漁家が頑張っているのは間違いありません。先に鈴木先生が海の環境変化の問題に触れておられましたが、伊勢湾では「貧酸素水域」が問題になってきました。酸素がなくなると、そこに生息している魚が死んでしまい、回遊魚も酸素が無いところにはいきません。伊勢湾の貧酸素は最近20年くらいに見られるようになった現象です。

かつては漁家と共存共栄だった取引先が

鈴木 とりすぎたから魚がいなくなったのではなく、環境が変わったのが大きいということですよね。にもかかわらず、親魚も子魚も一網打尽にとるから減ったとして、法改正で政府は漁獲量制限の枠をはめようとしているのです。そうしたなか永富さんたちの鳥羽磯部漁協では「トロサワラ」のブランド化と「エコラベル」認証を得た養殖ワカメの出荷にも力を入れていると聞きました。

永富 サワラは毎年7月に解禁で10月頃がいちばんうまい時期です。地元の漁業者は昔から「秋のサワラはトロのようにうまい」と言っていました。ところが、地元以外ではサワラを刺身で食べるという発想はまったくなく、西京漬が一般的。サワラは煮付けにしても、刺身にしても、焼いてもうまい。そこで「トロサワラ」の商品化を提案しました。漁協が漁業者に糖度計ならぬ脂肪濃度の計測器を配布し、漁獲したサワラの脂の乗り具合が基準値を下回らないよう測定してから出荷してもらうようにしたのです。




当漁協は2002年に鳥羽市の16漁協と磯部町の6漁協の22漁協が合併して設立されました。今後も地域の漁業者を保護する防波堤、地域密着型の漁協でありたいとの思いが結実したのが、トロサワラと養殖ワカメのエコラベル認証です。エコラベルを付けたからといって高く売れるわけではありませんが、その事業化を通して漁業者の間に活力と自信が生まれてきました。

現在はワカメ養殖、サワラで安定して1人あたりの収入がいちばん良い状態です。年収が300万から1000万になった人も少なくありません。組合員の平均年齢は60歳くらいです。今後、世代交代を進めていくには、やはり魚価を何とか上げていくしかないのですが、入札がネックになっています。




鈴木 入札であれば売り手と買い手の間に平等な力関係があると思っていましたが……。

永富 とんでもない。1週間30パーセント引きで入札されたことが実際にありました。入札は一番先に札を置いた者が権利者で、まず札を開け、別の札を順次開けていきます。ここで初めて「勝った」「負けた」となるのですが、最初から30パーセント引きの価格が決まっているかのような状態が続いたのです。

鈴木 商人、買う側が談合して入札価格を決めているということですか。

永富 そうです。だれかがサインを出していて、最初から30パーセント叩(たた)くという「談合」めいた動きがあってもおかしくないと私は見ています。かつては漁師の暮らしを思い、お互いさまでやっていこうと考えてくれる商人も少なからずいましたが、その関係が大きく変わってきているのです。漁業者とともに生きようとしていた流通事業者が大きく「変節」しつつあるというほかありません。


鈴木 漁業者に最も近い商人が、談合まがいの入札をしなければならない背景にも、「はじめに売価あり」の手法で自分たちのマージンだけはしっかり確保し、納入価格を設定するという大手流通資本の買いたたき構造があるということでしょう。それが家族経営の漁業者に廃業を迫り、海という私たちの「公共財」を荒廃に導く要因ともなっているという現実に、私たちはもっと厳しいまなざしを向ける必要があります。

それだけではありません。上意下達の法制度による資源管理を目指す今回の漁業法改正が、漁協を核とする漁業者の「自治」による資源管理を衰退させる可能性が高まっているのです。いわば資源管理の名を借りた協同組合つぶしです。また、漁船別の漁獲割当制度が、大手資本型漁業により有利に働き、中小零細規模の漁業者の退場を迫る可能性は否定できないと思います。そうなれば海という公共財まで大手資本の独壇場と化してしまいます。そんな危機的状況に私たちは立たされている気がしてなりません。

永富さん、今日は大変勉強になりました。これからも私たちの財産、公共財である海を守るためにご尽力ください。私も精いっぱい頑張って、微力ながら力になりたいと思っています。

左から永富洋一さん、鈴木宣弘さん、
鳥羽磯部漁協常務理事の藤原隆仁さん

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