わかって食べる権利の「砦(とりで)」、 遺伝子組み換え表示を続けるために
生活クラブ連合会は、「消費材10原則」の2番目に「遺伝子操作された原材料は受け入れません」と掲げ、その理由を「生命の倫理に反し、企業による種の支配を招く“食べ物の遺伝子操作”に反対します」とする。原材料だけでなく、飼料においても使わないとするため、生産履歴の追跡と分別管理、情報公開を徹底してきた。だが、表示制度の改定により、2023年からは「遺伝子組み換えでない」という表示ができない品目が生じる見通しだという。原則を貫くために、今、何が必要なのか。
課題が多い現行表示
日本は遺伝子組み換え(GM)作物の最大の輸入国と言われる。大豆やナタネ、トウモロコシの自給率はいずれも1割以下で、これらの多くをGM栽培の割合が高い国々から輸入しているからだ。しかし、その割にスーパーなどで「遺伝子組み換え」という表示を目にすることはほとんどない。そこには、現行の表示制度における課題がある。
1996年、厚生省食品衛生調査会(当時)は、大豆、ナタネなどGM作物の日本への輸入を認可したが、そもそもそれを表示する必要はないとしていた。だが、生活クラブ連合会では輸入認可の翌年、「GM技術によって生産された作物・食品とその加工品を取り扱わない、やむを得ず使用する場合は情報公開する」とした基本方針を決定、提携生産者と話し合い、原材料を追跡し、国産原料への切り替えなど対策を進め、情報公開として2000年より自主表示を開始した。
これと平行して各地の生活クラブ生協は、表示しないとする国の姿勢に異議を唱え、さまざまな団体とともに署名活動を展開、東京都議会が国会に意見書を提出するなどの動きに発展し、輸入認可から5年後の01年、GM食品表示制度がスタートした。
だが、制度はできたものの、表示が義務付けられたのは、大豆など8農産物とこれらを原材料とした33の加工食品群のみ。しかも加工食品の重量比5%以上で、上位3品目までに限ると規定された。GM作物を飼料とした畜産品には表示義務がなく、同じ大豆の加工食品でも豆腐には表示が必要だが、しょうゆは、加工の工程でDNAやGM由来タンパク質が壊れて検出されないという理由で表示義務はない。原料大豆がGMか否か、まったく表示がない豆腐としょうゆでは、その意味するところは逆になってしまうような混乱も発生する。
表示は義務化されたが、消費者が実体を把握し選択するには不完全なものだった。
1996年、厚生省食品衛生調査会(当時)は、大豆、ナタネなどGM作物の日本への輸入を認可したが、そもそもそれを表示する必要はないとしていた。だが、生活クラブ連合会では輸入認可の翌年、「GM技術によって生産された作物・食品とその加工品を取り扱わない、やむを得ず使用する場合は情報公開する」とした基本方針を決定、提携生産者と話し合い、原材料を追跡し、国産原料への切り替えなど対策を進め、情報公開として2000年より自主表示を開始した。
これと平行して各地の生活クラブ生協は、表示しないとする国の姿勢に異議を唱え、さまざまな団体とともに署名活動を展開、東京都議会が国会に意見書を提出するなどの動きに発展し、輸入認可から5年後の01年、GM食品表示制度がスタートした。
だが、制度はできたものの、表示が義務付けられたのは、大豆など8農産物とこれらを原材料とした33の加工食品群のみ。しかも加工食品の重量比5%以上で、上位3品目までに限ると規定された。GM作物を飼料とした畜産品には表示義務がなく、同じ大豆の加工食品でも豆腐には表示が必要だが、しょうゆは、加工の工程でDNAやGM由来タンパク質が壊れて検出されないという理由で表示義務はない。原料大豆がGMか否か、まったく表示がない豆腐としょうゆでは、その意味するところは逆になってしまうような混乱も発生する。
表示は義務化されたが、消費者が実体を把握し選択するには不完全なものだった。
存在を隠す改定?
こうした課題に対し、もっときちんとした表示を求める声は当初からあり、輸入認可から約20年を経た17年、消費者庁はようやく「遺伝子組み換え表示制度に関する検討会」を設け議論を始めた。
だが、翌年公表されたその概要は、表示義務の対象や表示すべき原材料の条件などについては、現行と全く変わらなかった。唯一、大きく変わったのが「遺伝子組み換えでない(NON-GM)」という表現をめぐるものだ。
GM作物は、どんなに注意していても生産や運搬の途中で混入してしまうことがある。こうした意図せずに微量に混入したものについて、これまで5%以下は許容し「遺伝子組み換えでない(ものを分別)」と任意に表示できたが、今回の改定案はこれを許容せず、不検出の場合のみ表示できるとしている。厳格に表示するという意味では、一見、消費者にとって改善のように見えるが、現実はそう単純ではない。
冒頭紹介したように、日本は大豆とトウモロコシの7割以上を米国からの輸入に頼る。米国でのGMトウモロコシの作付面積は全体の約92%、大豆は約94%を占める。こうした状況でNON-GMトウモロコシや大豆を入手するのは容易ではない。
NON-GMの種子や、特別に契約し栽培してくれる農家を確保するのも困難だが、さらに生産・流通の段階での混入を防ぐには、細心の注意を必要とする。それでも偶然によるGM作物との交配や運搬上での混入がないという保証はない。実際、16年の調査では、大豆で平均0.1%とわずかながら混入が確認されており、これを根拠に今後は「遺伝子組み換えでない」という表示はできなくなる恐れがある。
生活クラブ連合会企画部長の前田和記さんは今回の改定について「労力と費用をかけ、細心の注意を払って分別しNON-GM作物を輸入しても、それを使って加工した食品だということが消費者に伝えられなくなります。事業者にとってはそれだけの手をかける意味がなくなってしまうでしょう」と危惧する。苦労してNON-GM作物を使おうという事業者が減ってしまえば、種子や生産農家の確保も困難になるだろう。
トウモロコシを原料に使用する主な製品
だが、翌年公表されたその概要は、表示義務の対象や表示すべき原材料の条件などについては、現行と全く変わらなかった。唯一、大きく変わったのが「遺伝子組み換えでない(NON-GM)」という表現をめぐるものだ。
GM作物は、どんなに注意していても生産や運搬の途中で混入してしまうことがある。こうした意図せずに微量に混入したものについて、これまで5%以下は許容し「遺伝子組み換えでない(ものを分別)」と任意に表示できたが、今回の改定案はこれを許容せず、不検出の場合のみ表示できるとしている。厳格に表示するという意味では、一見、消費者にとって改善のように見えるが、現実はそう単純ではない。
冒頭紹介したように、日本は大豆とトウモロコシの7割以上を米国からの輸入に頼る。米国でのGMトウモロコシの作付面積は全体の約92%、大豆は約94%を占める。こうした状況でNON-GMトウモロコシや大豆を入手するのは容易ではない。
NON-GMの種子や、特別に契約し栽培してくれる農家を確保するのも困難だが、さらに生産・流通の段階での混入を防ぐには、細心の注意を必要とする。それでも偶然によるGM作物との交配や運搬上での混入がないという保証はない。実際、16年の調査では、大豆で平均0.1%とわずかながら混入が確認されており、これを根拠に今後は「遺伝子組み換えでない」という表示はできなくなる恐れがある。
生活クラブ連合会企画部長の前田和記さんは今回の改定について「労力と費用をかけ、細心の注意を払って分別しNON-GM作物を輸入しても、それを使って加工した食品だということが消費者に伝えられなくなります。事業者にとってはそれだけの手をかける意味がなくなってしまうでしょう」と危惧する。苦労してNON-GM作物を使おうという事業者が減ってしまえば、種子や生産農家の確保も困難になるだろう。
トウモロコシを原料に使用する主な製品
食の自治を守るために
では今後、分別・管理したNON-GM作物を原材料としていることをどう消費者に伝えていけばよいのか。
消費者庁はこれについて次のような例文を提示する。義務付けられた項目を表示する一括表示欄には「トウモロコシ(分別生産流通管理済)」、欄外への任意表示であれば「○○(分別生産流通管理された飼料で肥育された牛の生乳を使用)」などというものだ。だが、いずれの例文にも「遺伝子組み換え」という文字はない。また、文字数が多いことから由来原材料が多い製品には対応できないなどの問題もある。
「『遺伝子組み換え』という文字があるから消費者は避けたいと思うのであり、なくなればいつのまにか抵抗感が薄れるという思惑もあるのかもしれません」と前田さんは懸念する。確かに例文では何を分別しているのかわからず、意識せずGM作物がいつのまにか浸透する可能性は高い。
一方、今回の改定を受けても生活クラブの自主表示の方針は変わらないと、前田さんは言う。それは商業流通が懸念されているゲノム編集食品についても同じだ。「表示は、消費者が何を選び、何を食べるかを自分で決められる権利を守る『砦』です。今後も原材料の分別管理と表示を徹底し、対策の状況を伝え続けることで、この砦を守っていく方向です」
わかりやすく正確に伝えられるよう、現在具体的文言について検討している最中だ。
「多くの組合員が、こうして確保されるNON-GM作物の価値を知り利用することがもっとも重要です」と前田さんは言う。NON-GM作物を求める人が多ければ取引量の増加となって生産者に届くからだ。その継続的な生産にもつながるだろう。
「自分が何を食べたいか。食を自治できるかどうかはその選択にかかっています」(前田さん)
消費者庁はこれについて次のような例文を提示する。義務付けられた項目を表示する一括表示欄には「トウモロコシ(分別生産流通管理済)」、欄外への任意表示であれば「○○(分別生産流通管理された飼料で肥育された牛の生乳を使用)」などというものだ。だが、いずれの例文にも「遺伝子組み換え」という文字はない。また、文字数が多いことから由来原材料が多い製品には対応できないなどの問題もある。
「『遺伝子組み換え』という文字があるから消費者は避けたいと思うのであり、なくなればいつのまにか抵抗感が薄れるという思惑もあるのかもしれません」と前田さんは懸念する。確かに例文では何を分別しているのかわからず、意識せずGM作物がいつのまにか浸透する可能性は高い。
一方、今回の改定を受けても生活クラブの自主表示の方針は変わらないと、前田さんは言う。それは商業流通が懸念されているゲノム編集食品についても同じだ。「表示は、消費者が何を選び、何を食べるかを自分で決められる権利を守る『砦』です。今後も原材料の分別管理と表示を徹底し、対策の状況を伝え続けることで、この砦を守っていく方向です」
わかりやすく正確に伝えられるよう、現在具体的文言について検討している最中だ。
「多くの組合員が、こうして確保されるNON-GM作物の価値を知り利用することがもっとも重要です」と前田さんは言う。NON-GM作物を求める人が多ければ取引量の増加となって生産者に届くからだ。その継続的な生産にもつながるだろう。
「自分が何を食べたいか。食を自治できるかどうかはその選択にかかっています」(前田さん)
文/戸田美智子
★『生活と自治』2021年8月号 「生活クラブ 夢の素描(デッサン)」を転載しました。
【2021年8月30日掲載】