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生協の食材宅配【生活クラブ】
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丸大豆醤油、秋の仕込みから小麦は国産100%で


 
千葉県北東部の匝瑳市(そうさし)八日市場に、112本の木桶が並ぶ蔵がある。生活クラブ連合会の提携生産者タイヘイは、この木桶で1年間をかけて天然醸造の「丸大豆醤油」を造る。10月の仕込みから、原料の小麦が国産100%となる。

木桶で造るしょうゆ

大豆と小麦と塩。丸大豆醤油は、シンプルな材料にこうじ菌を働かせ、微生物の力を借り、時間をかけて発酵、熟成させて造る。まろやかなコクと華やかな香りを持ち、毎日の食卓に欠かせない調味料だ。

造るのは生活クラブ連合会の提携生産者、タイヘイ。大豆と小麦を使ってもろみを造り、杉の木桶の中で1年間をかけて醸造する。大正から昭和初期にかけて造られた蔵には、直径、高さともに3メートルの木桶が112本も並ぶ。1本の桶の容量は60石。約1万800リットルで、丸大豆醤油が1万2千本生産される計算だ。蔵や木桶にはさまざまな微生物が棲みつき発酵や熟成を助け、豊かな味わいを生み出していく。

江戸時代に作られた木桶(きおけ)も含めて蔵には112本の木桶が並ぶ。階段を上るとこのページのトップ画像の光景が広がる。直径、高さともに約3メートルの木桶で、もろみが息づいている

大豆はNON-GM

しょうゆの原料となる大豆には、丸大豆と脱脂加工大豆の2種類がある。

一般に流通するしょうゆの8割以上は、薬品を使って大豆から油脂を抽出し、その後、タンパク質などの成分を調整した脱脂加工大豆を使う。

タイヘイも以前は脱脂加工大豆を使っていた。しかし薬品の残留を懸念する組合員の声が高まり、1996年に原料を、大豆をそのまま使う丸大豆に切り替えた。丸大豆で造るしょうゆは醸造中に、大豆の油分が甘みのもととなるグリセリンに分解され、まろやかな風味とコクを生み出す。

大豆の自給率は、食用、油脂の原料を合わせても約7%しかない。丸大豆醬油の原料大豆は国産が3割、あとの7割は外国産だ。以前は米国の農家が契約栽培した遺伝子組み換えではない(NON-GM)大豆を、収穫後に農薬を使わず輸入していた。

しかし2000年代の半ばに、米国では大豆からトウモロコシへの作付け変換が急速に進み、NON-GM大豆を栽培する農家がなくなっていった。トウモロコシなどから作るバイオ燃料の需要が世界的に高まったからだ。

米国からのNON-GM大豆が手に入らなくなり、代わりの生産地を探したところ、みその提携生産者、マルモ青木味噌(みそ)醤油醸造場が使っていた、中国産の有機大豆を分けてもらえることになった。当時工場長だった伊橋弘二さんが現地に足を運び、栽培方法や大豆のタンパク質含有量などを確認し、09年より、中国産有機大豆7割、国産大豆3割でしょうゆを仕込むようになった。

タイヘイが遺伝子組み換え(GM)大豆を使わない理由は二つ。一つは、GM作物そのものの影響が未知であり、その安全性が確かめられていないこと。もう一つは、除草剤の影響を考慮するためだ。
GM大豆には、除草剤「ラウンドアップ」の主成分であるグリホサートに耐性を持つ土壌菌が組み込まれている。大豆畑に除草剤を散布すると雑草だけ枯れてGM大豆には影響しないため、加減しないで使われることも多く、残留が懸念される。グリホサートは、国際がん研究機関が発がん性の恐れがあるグループに分類したことから、安全性をめぐって議論がある成分だ。

現工場長の高山薫さんは、「国産大豆の安定した確保は難しい状況です」と言う。「しょうゆ造りにはタンパク質含有量の高い品種の大豆が向いています。そういった大豆の契約産地もありますが、収穫期に台風が通過したり、連作障害に悩まされたりするのです」。しかし生産者として、丸大豆醤油を利用する組合員と共に、国産を使い、国内の一次産業を支えていきたいと考えている。
食品事業部第一工場・工場長の高山薫さん。「新しい原料を使う時はいつもそうですが、試作に時間をかけます。原料は農産物です。安定はしないもの、ということを感じています」

輸入小麦の不安

丸大豆醤油のもう一つの主原料が小麦。日本の小麦の自給率は約12%だ。現在、タイヘイでは3割を国産で賄っているが、残りの7割は外国産だ。

輸入先の米国やカナダでは小麦の刈り取りの時期になると、除草剤のラウンドアップを散布し、雑草も含め小麦の茎や葉をすべて枯らす。そうすると、機械による収穫を効率良く行うことができる。GM大豆の畑でも大量に使われるため、徐々に耐性を持つ雑草も多くなり、米国では残留基準が緩和の方向へ向かっている。17年、日本は輸入小麦のグリホサートの残留規制基準値を、5ppmから30ppmに緩和した。

ラウンドアップは収穫直前に使用されるため、小麦には主成分のグリホサートが残る危険性がある。残留を懸念した生活クラブ連合会は検査を行った。製品の丸大豆醤油からは検出されなかったが、原料の小麦からは0.12ppmが検出された。

小麦を100%国産へ

栃木県南東部、芳賀付近で栽培される小麦、タマイズミ。6月中旬、手入れの行き届いた麦畑は収穫の時季を迎えた。この小麦は、JAはが野を通してタイヘイへ届けられる

消費者からもグリホサート残留についての問い合わせが相次ぐようになり、タイヘイでは、この10月の仕込みから、小麦を国産100%に切り替えることを決めた。

大豆と同じように、小麦もタンパク質含有量が多いほどうま味のあるしょうゆができる。そのような小麦は主に北海道で生産、製粉され小麦粉として使われることが多い。産地を指定し、大量に安定的に手に入れるのは困難だった。
そこで、以前北海道産の小麦とともに原料にしていた栃木県産の小麦を増やそうと考えた。11年に発生した東日本大震災の際に起こった原発事故のため一時中断したが、ここ数年、放射能が検出されなくなり、契約栽培を再開していた。伊橋さんは「タマイズミという品種の小麦で、北海道産の小麦に比べてタンパク質の含有量は若干少ないですが、醸造するには十分です。小麦は1年間を通して300トン必要ですし、木桶で造るしょうゆは醸造期間が長いので、品質が一定のものを使いたかったのです」

6月に、真岡市にあるJAはが野から届いたタマイズミは約68トン。北海道産150トンを足してもまだまだ足りないが、国産小麦で安定した生産を続けるように、小麦生産者との関係を深めていくつもりだ。
食品事業部・事業部長付の伊橋弘二さん。「しょうゆのうま味や香りは、蔵や木桶に棲みついた微生物の働きによっても生まれてきます」。前工場長であり、長い間蔵を見守ってきた

出会いから半世紀

タイヘイと生活クラブとの出会いは1974年。当時、しょうゆの生産は、合成保存料や合成添加物を使用し、プラスチック製の容器で6カ月醸造し製品化するのが当たり前の時代だった。組合員との交流会にも多数参加している食品事業部営業部の坂本江里さんは、「提携がきっかけとなり、それまで使っていた化学調味料や防腐剤など添加物の使用をやめたと聞いています。脱脂加工大豆も切り替え、それからさまざまな問題を解決して今があるのですね」と言う。
安全性が確認できないからとGM大豆は使わず、製品からは検出されないが、原料小麦に薬品の成分残留の懸念があるからと、国産のものに変えた。坂本さんは、小麦の国産化は生産者としての一つのターニングポイントだと受け止める。

タイヘイと生活クラブの提携の歴史は、消費者が日々の食卓を用意しながら、望む「食」のありかたを、生産者と共に実現してきた道のりでもある。
食品事業部営業部の坂本江里さん。「しょうゆの原料や貴重な木桶での醸造など、多くの人に伝えていきたいです」
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

もう一つの木桶


2004年、「丸大豆醤油」の提携生産者、タイヘイと生活クラブ連合会は、提携30周年を迎えた。それを記念して、生活クラブは新しい木桶をタイヘイへ贈ることを決めた。60石(容量1万800リットル)の大桶が並ぶしょうゆ蔵の片隅に、一回り小さい、その木桶が置かれている。

大桶を作るのは20年ぶりという木桶師が、もう最後かもしれないと気持ちを込めて製作にあたった。杉の大木、まっすぐに伸びた真竹、木の皮で作った縄など材料集めから始めて、完成まで9カ月を要した。

最も大変だったのは真竹探し。以前に比べ、台所用品などの竹製品がプラスチック類にとって代わり、竹の需要が減ってしまった。そうすると竹林は、手入れをする人がいなくなり、荒廃してしまう。大桶のタガを編めるような、15メートル以上もある真竹は、間伐が行われ、手入れが行き届いた竹林でないと育たないからだ。

竹で作るタガは大桶の木肌を傷めず、乾燥や湿気にも自在に対応して桶を適度に締めつける。2011年、東日本大震災が発生した時は、震度5強の揺れにも耐えた。しかし現在、「あれだけ大きい桶のタガを竹で編める人はいませんし、きれいで長い竹を育て、タガの材料を作る人もいませんよ」と、製作当時、工場長だった伊橋弘二さん。「今使っている木桶は鉄のバンドで補強しています。錆(さび)が出たら取り換える必要があります」

桶を作る杉板は、厚さ約6センチ、幅約15センチ、長さ3メートル。つなぎ目となる板の側面には、組合員がメッセージを残した。「1974年、生活クラブとタイヘイが出会い醤油の取り組み開始」「組合員の夢と誇り」「百年先まで食べ続けたい」。しょうゆ造りの木桶の耐用年数は150年といわれている。百何十年か後、この言葉を受け取るのはどんな人たちだろう。

50石の木桶に初めてもろみを仕込んで造ったしょうゆには、杉の香りが移っていた。組合員はその香りをも楽しんだ。時を経て、まっさらだった杉板には微生物が棲みつき、木目が黒ずんで、風格を感じさせる。

7月半ば、蔵の中では、優しい雨が池に降り注ぐような音を響かせながら、もろみの熟成がすすんでいた。
 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2021年9月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2021年9月20日掲載】
 

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