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[本の花束2021年9月] 食べることを考えれば考えるほど、社会が見えてくる。


京都大学 人文科学研究所准教授 藤原辰史さん

ひとりぼっちの「孤食」でもなく、強い関係性を求める「共食」でもなく。
お互いにそこそこ意識をしつつ、一緒にご飯を食べてさっと去れるような、食を通じたゆるやかな人間関係を「縁食」と呼ぶ藤原辰史さん。「縁食」からは新しい社会のあり方が見えてくると言います。
 
●新たな食の形として「縁食」に注目されたのは、どうしてですか?

今はサザエさん一家のように家族団らんで同じ時間に同じものを食べることはイメージしにくい。食べ方が多様になりました。そのなかで求められているのが「縁食」です。家族以外の人が入ってきたり、何かしゃべらなくてもかまわない、食べたらサッと帰れたり、安い値段で食べられる……。そういう場所が、今の時代を象徴するような食のあり方だと思うんです。

●本のなかには、炊き出し、町の食堂、居酒屋、縁側など、様々な「縁食」の話が登場します。
最初に出てくるのは、子ども食堂ですね。


子ども食堂は「縁食」のわかりやすい形です。その数は全国で5000を超えて、児童館の数を上回るほどに求められています。あるテレビに出演して、おじいちゃん、おばあちゃんたちがはつらつと働いている鳥取県の子ども食堂の映像を見たことがあります。運営する方の話では、お年寄りは「無料でご飯を用意してるから来てください」と言っても来ない。「ちょっと手伝ってくれますか」と言うと来てくれるそうです。つまりギブアンドテイク、一緒に食べるのだけれど、参画している感覚が「縁食」を招いているんです。

●食事を提供するだけではなくて、来る人、関わる人の居場所でもあるわけですね。
かつてその役割を担ったのが共食ですか。


共食は人類学の用語で、共通で崇拝しているご先祖様や神様に収穫物を供えて、その残りを皆でいただいたのが原型です。
共通の守るべきものを持つ人たちが、その下で一緒に食べる。その集団の典型が宗教と家族。
けれども今はそれも失われ、家族の負担ばかりが大きくなった。少ない給料でやりくりし、子どもやお年寄りの面倒も見て……。

●自己責任論の声も強いですね。

人権よりも経済活動を重視する新自由主義の方向に世界が流れ過ぎてしまったために、縁なる空間が壊滅的になってきたと思います。
国家はできるだけ小さくなりたいのが時代の趨勢で、福祉から撤退し始めている。家族も鉄壁な砦ではなく、国家も守ってくれなくて、格差が広がる一方というときに出てきたのが子ども食堂で、「縁食」というのは新しい社会づくりなんですね。国家にお膳立てされたものではなく、自分たちが居たい場所をつくっていく実験として登場している。
「縁食」は現状への対抗として存在するのではないかとも思っています。

●新型コロナウイルスの流行から、現状はさらに厳しくなっていると感じます。

新しいウイルスの流行を経て、これまでの社会の矛盾がより拡張するなか、縁食的な空間は広がっていくでしょう。ただ、そうした自助的な空間を、福祉政策に熱心でない国が「これこそが福祉のあり方だ、税金は投入しない」と悪用するかもしれません。一方で全国民に一律7万円位をベーシックインカムとして支給し、国は福祉から撤退するという議論もありますが、これでは人と人とのつながりが分断されて終わります。金で解決すべきではないところです。

●展望はありますか?

たとえば、学校給食は文科省が責任を持つ制度です。子どもの貧困が問題になるなか、学校給食が1日のうち唯一のまともな食事という子もいます。週に1度の子ども食堂は、毎日の空腹を満たしてくれるわけではありません。ですから最近の給食民営化の流れとは逆に、朝ご飯給食とか夏休み食堂とか、国や地方自治体がもっと充実した制度に変えていく。地域の人たちはそのための場所を創意工夫でつくっていく。双方向的な動きになる、そんな新しい社会のあり方をみんなで築いていきましょうというのが「縁食」から広がってほしいメッセージです。

ふじはらたつし/1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年『ナチス・ドイツの有機農業』で日本ドイツ学会奨励賞、2013年『ナチスのキッチン』で河合隼雄学芸賞、2019年日本学術振興会賞、同年『給食の歴史』で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』でサントリー学芸賞を受賞。『食べること考えること』『食べるとはどういうことか』『農の原理の史的研究』など著書多数。


 
インタビュー:新田穂高
取材:2021年6月
書籍撮影:花村英博
『孤食と共食のあいだ 縁食論』
藤原辰史 著 ミシマ社(2020年11月)
18.9cm×13.2cm 189頁
 
図書の共同購入カタログ『本の花束』2020年9月3回号の記事を転載しました。

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