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「平飼い」の試み、始まる【鶏卵】


生活クラブ連合会の鶏卵の提携生産者、生活クラブたまごが、採卵鶏の平飼いの実験を始めた。埼玉県入間郡毛呂山町にある養鶏農場で、「鶏が健康に暮らす環境やえさ、消費者が望む卵とは?」を、約2500羽の鶏と探っていく。

「初めて」ばかり

2021年10月15日。鶏卵の提携生産者、生活クラブたまごの埼玉県入間郡毛呂山町にある養鶏農場の鶏舎に、生後71日の採卵鶏「もみじ」のヒナ、2520羽が入った。

生活クラブたまごは、埼玉県深谷市榛沢(はんざわ)と同県入間郡毛呂山町(もろやままち)に養鶏農場を持つ。合わせて約23万羽の採卵鶏を飼養し、年間約5千万個の鶏卵を、首都圏を中心とする生活クラブの組合員に届けている。

今回ヒナが入った鶏舎は、奥行き約53メートル、幅15メートルの広々とした空間だ。六つに仕切られており、鶏はその範囲を自由に動き回ることができる。
木製の止まり木があり、片側の壁の下部には、外の運動場に出られるように、開閉式の窓が並んでいる。反対側の壁には巣箱が並び、鶏はここで卵を産み、卵はベルトコンベヤーで集められる。

きちんと巣箱の中で卵を産むよう訓練されるが、鶏は巣箱外でも卵を産む。こちらの卵は一つ一つ手で拾ううえ、いつ産卵されたか、また卵殻に付いた微生物がどのような状態なのかを確認できないため、生食用には適さず、液卵にして加工に利用される。「こういった卵を巣外卵と言います。安く引き取られるので、鶏が巣箱で卵を産み、巣外卵が発生しないような工夫をしていきたいです」と言うのは、生活クラブたまごの平飼い推進プロジェクトリーダーの牛窪康博さん。平飼いを始めるにあたっては、生活クラブの他の提携生産者の農場へ出向いて技術を学ぶなど、入念に準備を進めてきた。

鶏舎のコンクリートの床には、もみ殻や茶殻などに鶏ふんを合わせ、十分に発酵させて作った敷料が敷かれている。鶏が鶏舎で過ごす約470日間は敷料を交換することはない。「その間、臭いやハエの発生を防ぐ配慮が必要ですので、3カ月をかけて材料を発酵させて作りましたよ」と牛窪さん。上手に作られた敷料は、その上を鶏が歩き回るとふん尿と撹拌(かくはん)され発酵がすすみ、臭いや食中毒の原因となる菌の繁殖が抑えられる。採卵が終わると、敷料は埼玉県内の野菜の生産者や有機農家などに引き取られ、肥料として使われる。

「ケージ飼いの場合、生まれて120日後のヒナが入りますが、平飼いはそれより50日ぐらい早く入ります。自由に動き回れる環境に慣れてもらうためですよ。これも初めての経験です」と牛窪さん。表情は緊張と期待でいっぱいだ。
 
「自慢の敷料です。3カ月をかけて作りました。鶏舎に敷いて、鶏は1年半ぐらいこの上で過ごします」。

生活クラブたまごの平飼い推進プロジェクトリーダーの牛窪康博さん

鶏が暮らす環境を整える


 
現在、欧州連合(EU)を中心に「アニマルウェルフェア(動物福祉)」という考え方が広がっている。家畜やペットができるだけストレス少なく健康的に暮らせることを目指す考え方だ。畜産現場でもこれに配慮し、行動欲求を満たせるような飼育法の模索が始まっている。

代表取締役専務の工藤一さんは、「鶏が健康に暮らせるようにと考えた時、平飼いに目をむけると同時に、これまでの飼育環境も改めて見直していかなければなりません」と言う。

生活クラブ連合会が生活クラブたまごの前身、鹿川養鶏場(2013年より鹿川グリーンファーム)と提携し鶏卵の取り組みを始めたのは1974年。その時選択したのは開放鶏舎だ。太陽の光や風が入り、できるだけ自然に近い環境の中で鶏が過ごせるようにと考えた。採卵鶏の多くは、外部と遮断されたウィンドウレス鶏舎で育てられる。動物の侵入を防ぎ、天候に左右されないように機械的に空気の流れと光量を調節するなど、鶏舎の管理が容易だ。

「現在、気象条件が変わり、開放鶏舎は鶏にとって過ごしやすい環境とは言えなくなってきていますよ」と工藤さん。提携当時より40年以上がたった現在、夏の期間の自然環境は鶏にとってはとても厳しいと言う。「一昨年、近隣の熊谷市では、8月の最高気温の平均が35度を超えました。鶏舎の中は39度にもなり、暑さにより死んでしまう鶏もいました」。鶏は25度を超えるとだんだんえさを食べなくなり、卵を産む間隔も長くなる。たとえ送風機を作動させたりミストを発生させたとしても、体が小さい鶏にとっては、外気温に左右される開放鶏舎の中で35度を超える夏を過ごすのはとても過酷だ。

工藤さんは、「鶏が健康に生きる環境を整えるのが私たちの仕事です」と、平飼いを含めて、現在の環境に合った飼育方法を探っていきたいと考えている。


ここから外の運動場へ出る。
鳥インフルエンザ感染の心配がなくなる来春が待ち遠しい

平飼いで試す

「生活クラブ連合会では『2030行動宣言』を出し、生活クラブならではのSDGSを提案しています。その中にある、『持続可能性に配慮した鶏卵の生産』については、生産者として鶏卵政策を意識していかなければなりません」と工藤さん。ヒナを購入し、育て採卵し、卵を販売し、廃鶏をどうするか、鶏ふんの処理など、それらを全部含めた鶏卵政策が、持続可能な鶏卵の生産につながると言う。

「組合員価格の面でも努力していく責任があります」とも言う。「巣外で産む卵を減らし、鶏舎は重機が入れるような構造にして、掃除や敷料交換の手間を省くなど作業効率を上げ、人件費がかからないように工夫します」

飼料は飼料用米など国産のものを増やす方向だ。現在の配合飼料は、ポストハーベストフリー(収穫後農薬不使用)、遺伝子組み換えがされていないトウモロコシや大豆かすなど輸入するものに加え、国産の飼料用米を30%含む。鶏を平飼いすると、ケージ飼いに比べ運動量が増え、えさをよく食べる。そうすると、相対的に国内産の飼料の需要は増える。また、基本の配合飼料も、配合の数%であれば、他の材料に置き換えても問題がないことがわかっている。工藤さんは、さらに飼料の自給率を上げるために、輸入するものを、緑餌や生活クラブの提携生産者が提供するごま油の搾りかすなどに置き換えることも考えている。

鶏が健康に暮らせる環境とはどういうものなのか、食べる人たちからはどんな卵が求められているのかは、鶏卵を利用する組合員とともに探っていくつもりだ。さまざまな可能性を秘めた平飼いの実験は、まだ始まったばかりだ。
 
生活クラブたまごの代表取締役専務、工藤一さん。
「これから、私たちの『平飼い』をつくっていきます」
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

たまごはどこから


毎日の食事や菓子の材料として欠かすことのできない卵。殻の色が白っぽいもの、褐色のもの。黄身もレモンイエローや濃いオレンジ色などさまざま。何を基準に選ぶかは、人それぞれだ。

卵の自給率は95%。輸入とは関係のない数字のように見えるが、飼料の多くは輸入だ。さらには、主に卵を産む鶏(採卵鶏)の親の親(原種鶏)の鶏は96%を輸入に頼る。ドイツやオランダなどの大規模な育種会社で育種改良された原種鶏が輸入され、日本で採卵鶏がつくられ、その鶏が産んだ「国産卵」が販売される。この場合、原種鶏など鶏の輸出国で鳥インフルエンザなどの病気が大規模に発生したり、世界的にヒナ鶏の価格が高騰したりすると、輸入が途絶えてしまう可能性がある。
 
生活クラブ連合会が提携する鶏卵生産者の採卵鶏は、純国産鶏種の「もみじ」と「さくら」。岐阜県にある後藤孵卵(ふらん)場で何代にもわたって育種改良が積み重ねられた、日本の気候風土に合った品種だ。夏の高温多湿の環境にも強く、何世代もさかのぼって素性を確かめることができる。このような純国産鶏種の採卵鶏は4%しかなく、育種を行う民間事業者も、後藤孵卵場1社のみ。白い体のさくらが産む卵は白から薄いピンク色、あめ色や亜麻色の卵を産むのは褐色の体のもみじだ。

一方、卵の黄身の色は鶏が食べるえさによって変わる。たとえば、トウモロコシをたくさん食べる鶏の卵の黄身の色は鮮やかな黄色だ。一般市場では、黄身の色がより濃いものが好まれる傾向にある。そのため、えさにパプリカや飼料添加物を加え黄身の色を調整するものもある。
さくらやもみじの卵の黄身の色が薄いのは、飼料用米を食べているから。飼料用米の給餌が始まったのは2008年。米国から遺伝子組み換えでない(NON‐GM)トウモロコシを輸入していたが、トウモロコシから作るバイオディーゼル燃料の需要が世界的に高まったこともあり、価格が高騰した。

そのため、当時、飼料の国内自給を高めようと、平田牧場、JA庄内みどり、遊佐町と生活クラブ連合会が取り組み、その価値が全国に認められていた飼料用米に注目した。埼玉県の羽生市や鴻巣市の米農家に飼料用米を栽培してもらい、配合率1.5%から配合し始めた。徐々に割合を増やし、現在は30%。黄身の色も、薄いレモンイエローに変わった。白っぽいという声も聞かれるが、栄養価に変わりはない。

何を食べているかがわかるさくらともみじが、いつどこで産んだかを確かめることができる卵を食べ続けたいと思う。
 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2021年12月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2021年12月20日掲載】
 

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