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人間を人間とも思わない経済への批判貫く

金子勝さんに聞く――内橋克人さんの仕事――

経済評論家の内橋克人さんが2021年9月1日に89歳で他界されました。その1週間後、朝日新聞文化欄に追悼文を寄稿した立教大学大学院経済学研究科特任教授の金子勝さんに、内橋さんの仕事への思いをあらためて伺いました。
 

内橋克人さん 撮影:田嶋雅巳

孤立を恐れず、地道な取材をもとに

――寄稿文に内橋さんの仕事ぶりに真のジャーナリストの姿を見たと書かれています。

内橋さんはまさに余人をもって代えがたい仕事をされ、常に庶民の立場に寄り添い続ける姿勢を失わなかった立派なジャーナリストだったと私は思っています。1990年代にバブル経済が崩壊し、経済企画庁(当時)は91年を「平成不況のはじまり」と位置付けました。そうしたなか、幅を利かせてきたのが「例外なき規制緩和」という言葉です。政府による規制を撤廃し、民間活力を導入すれば市場原理が働き、企業間競争によって物価も下がり、人々の実質所得も向上するという「わかりやすい」論調がマスメディアにもてはやされ、瞬く間に社会に浸透していきました。

しかし、内橋さんは違いました。いち早く規制緩和一辺倒の経済政策を鋭く批判し、それが社会の弱い部分を大きく揺るがす「劇薬」になりうると警鐘を鳴らしたのです。1995年には『規制緩和という悪夢』(文芸春秋)を上梓(じょうし)し、安全運航のための対策よりもコスト削減を優先する米国航空業界の現実が浮き彫りにした規制緩和の暗部を明らかにしました。大多数のメディアと多くの経済学者がこぞって規制緩和を歓迎するなか、内橋さんは孤立を恐れず、地道な取材に基づく事実をもとに忌憚(きたん)のない批判を展開したのです。これぞジャーナリストの真の姿だと感服しました。
 

「FEC自給圏」と「自覚的消費者たれ」の提言

――寄稿文では内橋さんの先見性、未来を読み解く力の見事さについても言及されています。

すでに『規制緩和という悪夢』のなかで、格差社会の到来を示唆していました。その正しさは以後の歴史と現在の日本社会を見れば明らかです。同じ年に上梓した『共生の大地 新しい経済がはじまる』(岩波新書)では、低迷を続ける日本経済のなかで、胎動を始めたベンチャー(新興)・中小企業や市民事業の現場を歩き、環境負荷ゼロ、エネルギー自給や途上国との「共生」を目指して活動する人々の姿を克明に伝えています。いまから26年前の論考ですが、未来を先取りする視点と改革のための代替的なビジョンにあふれています。

その後、2000年には『浪費なき成長 新しい経済の起点』(光文社)を上梓し、地球環境の破壊をいち早く防ぐ実践の必要性であり、規制緩和による市場原理主義に立脚した「新自由経済」からの脱却を提案しています。具体例として北欧デンマークの実践を取り上げ、F(食料)、E(エネルギー)、C(ケア・コミュニティ)を柱とする自給圏の創出を力強く訴えたのです。その根底には規制緩和と市場原理に依拠した新自由主義経済がこのまま「是」とされ続けるならば、地域の暮らしと尊厳ある労働は失われ、人が人らしく生きていける社会が消えるという強い危機感がありました。そんな事態に陥らないようにするにはFECを軸に地域の産業を生み出し、地域で雇用を創出していくしかないと内橋さんは説いたのです。その主たる担い手として期待されたのが、農協や生協などの協同組合とNPOなどの非営利法人でした。その後、ドイツのエネルギー転換は協同組合が主要な担い手になりました。実に先見的でした。

同時に内橋さんは読者に向かって「自覚的消費者たれ」と呼び掛けました。何かを買い求めるとき、その「安さ」がだれかの犠牲の上にあるものではないかを見極めてほしい、そのうえで購入するものを選択してほしいということです。その価格が環境破壊や経済格差、人権侵害の原因になっているのなら、買わないことが未来を変える力になるのです。そうした内橋さんの提案に触発され、私も2011年3月11日の福島第一原発事故以後に、農業、自然エネルギー、福祉を基盤とする「地域分散ネットワーク型経済」が、日本経済再生の突破口になると積極的に発言してきました。
 

悲惨な現実を前に、理論は間違ってないとは何事か!

――2000年以降の21年間、内橋さんはお亡くなりになるまで新自由主義経済を厳しく批判され続けました。

内橋さんとお付き合いいただくようになったのは2000年以降でした。当時の小泉政権の構造改革路線を私が徹底的に批判したのが契機となり、対談などもご一緒させていただきました。私は経済学者としての視点で「自己責任」という言葉に象徴されたセーフティネットなき規制緩和の問題点を理論的に解き明かすことに腐心しました。対して内橋さんは常に人が生きている現場に入っていき、そこでどんな問題が起きているかを具体的なルポルタージュにまとめて問題点を浮き彫りにしていくことに尽力されたのです。

経済学者としての私の仕事は、新自由主義経済の理論がいかに根本的に間違っているかを別のメカニズムとの比較で明らかにする、いわばメカニズムに対してメカニズムを対置させるものです。その誤ったメカニズムが政策になったとき、人間社会にいかなる被害をもたらすかを明示し、それをどうやって克服していけばいいのかという道筋をわかりやすく示したのが内橋さんでした。その仕事は理論が正しくて、現実が間違っているなどということはないという信念に裏打ちされていたと思います。
 

先に申し上げたように、1990年代半ばに著名な経済学者とマスメディアはもろ手を挙げて「例外なき規制緩和」を歓迎し、その経済理論と政策を正しいと声高に主張しました。しかし、その後の現実はいかなるものになったかといえば、人件費削減を進める企業が続出し、2002年には失業率は過去最高の5.4パーセントを記録しました。安定雇用が失われ、派遣労働が急速に増加し、固定費と考えられていた人件費が調整可能な変動費に置き換えられました。国民の平均所得は減少し続け、所得格差も拡大しています。世帯所得が可処分所得の中央値に満たないことを意味する相対的貧困率も上昇しています。まさに誤った理論が悲惨な現実を生んだというしかないでしょう。

そんな人間を人間とも思わない経済理論を断固容認するわけにはいきません。内橋さんが遺(のこ)してくださった数々の貴重な提言を胸に、私も戦い続けねばと思っています。


かねこ・まさる
1952年東京都生まれ。東京大学経済学研究科博士課程修了。現在、立教大学大学院特任教授、慶應義塾大学名誉教授。文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」毎週金曜日紳士交遊録出演、日刊ゲンダイ水曜日隔週「天下の逆襲」など連載多数。
近著に『平成経済 衰退の本質』『悩みいろいろ』(岩波新書)『メガ・リスク時代の「日本再生」戦略 分散革命ニューディールという希望』(共著、筑摩選書)などがある。


すっと心に届く、勇気の湧く言葉に

生活クラブ連合会会長
代表理事 伊藤由理子

内橋克人さんが提唱された「FEC自給圏」という言葉を生活クラブ連合会が使わせていただくようになったのは、2015年7月に開催した連合総会の特別決議からです。その後、生活クラブ連合会は2017年から21年までの「第6次中期計画」を策定し、「FEC自給ネットワーク」の構築に向けた歩みを重ねてきました。

食料(Food)、エネルギー(Energy)、相互扶助(Care)を自給できる地域が増えていけば、新自由主義に立脚したグローバル経済がもたらす深刻な弊害から私たちの暮らしを守る大きな力となり、安定した雇用(Work)も確保できるという内橋さんの提言に深く共感したからです。それは生活クラブの歩みと軌を一にするものであり、すっと心に届く言葉でした。さらに内橋さんは「FEC自給圏」を生み出すための中心的な役割を担えるのは協同組合であると私たちの背中を押してくださったのです。

生活クラブは1960年代の半ばから「食」の共同購入に取り組み、商品社会が顧みなかった価値を反映した「消費材」を開発してきました。同時に一般の商取引では前例のない「対等互恵」の原則に立った「産地提携」を実現してきたのです。この過程で培われたのが、食料は単なる「もの」ではなく、人と人との関係性(つながり)の結晶であるとの意識でした。

だから私たちは生産者とともに豊かになる道を探すことに尽力し、私たちの「食」の選択が何かを破壊してはいないか、だれかに犠牲を強いるものでないかと常に問い続ける「食卓から世界を見つめる眼差(まなざ)し」を持とうと努めてきたのです。それを「自覚的消費者」という言葉で内橋さんは表現してくれました。大変うれしく、ありがたいことです。
 

私たちが求める「もの」や仕組みが社会に存在しないのであれば、私たち自身でつくりあげていくしかないという生活クラブの基本姿勢は地域における福祉・たすけあい(ケア)の仕組みづくりにも受け継がれました。政府が2000年に介護保険制度を導入する以前に生活クラブは独自の地域福祉事業を構築し、そのネットワーク化に取り組み続けてきています。

また、チェルノブイリ原発事故(1986年)を教訓に、泊原発の稼働に異議申し立てをしていた生活クラブ北海道が中心となって立ち上げた「北海道グリーンファンド」が広く市民に融資を呼びかけ、集めた資金で2001年に風車「はまかぜちゃん」が完成し、再生可能エネルギーによる発電事業を開始しました。さらに東日本大震災による福島第一原発事故の翌年の2012年には東京、神奈川、埼玉、千葉の生活クラブが秋田県にかほ市に風車を建設し、再生可能エネルギーから生まれた電力の供給事業を担う関連会社「生活クラブエナジー」も設立されています。

こうした実践の渦中に身を置く私たちは、その意味と価値を的確に表現した「FEC自給圏」や「自覚的消費者」という内橋さんの言葉に勇気と活力をもらうとともに、これまでの生活クラブの歩みが間違っていないと再確認することができたのです。内橋克人さん、本当にありがとうございました。今後も私たちは内橋さんの言葉をかみしめながら「より良い社会」の実現を目指していきます。(談)
 
撮影/魚本勝之
取材構成/生活クラブ連合会 山田衛

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