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常滑焼の急須で、お茶を淹れる楽しさを


 
愛知県知多半島の西岸にある常滑市は、焼き物の里だ。陶器製造は九百年以上の歴史があり、現在は、おいしいお茶を淹れるには欠かせない道具、急須を中心に製造される。ペットボトル入りの飲料が普及する中、焼き物を使う暮らしの味わいを伝えている。

急須の魅力

急須に茶葉を入れ湯を注ぎ、蓋(ふた)をして蒸す。湯のみにつぎ分け、香りを楽しみながらお茶を飲む。愛知県常滑市で常滑焼を販売する「とこ販」の代表取締役を務める榊原直也さんは、「お茶を飲む楽しさは、急須で淹れたお茶をみんなで話をしながら飲むところにあります」と言う。とこ販は、直也さんの父、一教さんが、それまで働いていた焼き物問屋から独立し、1990年に創業した会社だ。直也さんが2004年より引き継ぎ、地元の窯元が作る製品の卸販売を担い、常滑焼の魅力を全国に伝えている。

常滑市は、伊勢湾に面したなだらかな丘陵地帯にある。古くから、傾斜を利用して陶器類を焼く窯がつくられ、常滑焼の街として知られている。平安時代や鎌倉時代から現在まで焼き物が作り続けられている地域は、日本全国に6カ所あり、「日本六古窯(ろっこよう)」と呼ばれている。その中でも最も規模が大きく、丹波や信楽などの、他の産地にも影響を与えてきたのが常滑焼だ。

「常滑焼の急須の特徴の一つは、『土もの』といって、釉薬(ゆうやく)をほとんど使わない焼き物であることです」と、直也さん。釉薬を使うと水もれを防ぎ、強度が増し光沢が出る。しかし常滑焼は粒子が細かい粘土を使い、硬く焼き締めるので釉薬が必要ない。「釉薬を使わない土ものは手触りがザラザラしていますが、それがお茶の渋をよく吸着するのでおいしいお茶になるのです」

もう一つの特徴は、本体と同じ生地でできた茶こしが、直接胴についていることだ。そのため、茶こしを取り外す手間がない。また、味に影響があるといわれるステンレスなど他の材質を用いた茶こしも必要ない。以前、陶器についた茶こしの穴は、一つ一つ手作業であけていた。常滑では1980年代の終わり頃から、他の産地に先駆けて、粘土の生地に一度に多くの穴をあける機械が導入された。そのため、茶こしの部分も陶器製の急須を量産できるようになった。
 
「とこ販」創業者の榊原一教さん。他社との共同で、茶殻を流し出しやすい急須を作った。「館長の急須」と名前がついている

朱泥急須

急須が常滑で作られるようになったのは、江戸時代後期。「朱泥」と呼ばれる粘土を使い急須を作る技術が完成してからは、朱泥急須の生産が主流になる。朱泥は粒子が細かく鉄分を多く含み、焼くと赤く発色する粘土だ。だが、近年、その入手が困難になる。

かつては、知多半島で多く利用されていたため池の水から分離して原料土を採取していた。愛知用水ができると、ため池は放置されるようになる。周囲の開発造成も進み、朱泥の原料土は激減してしまった。現在は、常滑焼の生産者が集まってつくる「とこなめ焼協同組合」の工場で、他の産地から土を取り寄せ、赤色顔料である弁柄(べんがら)などを使い、朱泥と同じ成分の粘土を生産している。

急須は、最初に胴、蓋、注ぎ口、持ち手、茶こしの部品を作る。ゆっくり水分を蒸発させながらこれらを組み合わせ形にし、窯に入れて高温で焼く。この手順で作られるのが、常滑で一般的な朱泥急須だ。これを、さらに木炭が敷いてある窯で焼くと黒い色に変わる。伊勢湾で採れる海藻をのせて焼き、模様をつける藻掛(もがけ)、縄を巻きつけて焼く火襷(ひだすき)など、窯元はさまざまな技法を使って独自の常滑焼の急須を作る。

窯元の仕事

まだ焼成前の軟らかい胴に金属の道具を当てて模様をつけるのは、「盛正」という窯元の代表の磯村義則さん。「飛び鉋(かんな)」という技法を使い、胴を回転させて連続模様をつける。生地の乾き具合や刃の当て方により、作られる模様は全く違う。あっという間にできる、熟練の技だ。

盛正では、あらかじめ成形型で形を作る鋳込み成形によって作られた部品を組み合わせて急須を作る。ある程度、量産ができる窯元だ。作業はそれぞれの部品の乾燥の状態などを確認しながらの手作業で、つけても焼いた時に離れてしまうことがある。作業を受け持つ一人一人が何年も経験を積み重ね、失敗のない正確な仕事に取り組んでいる。
窯元の「盛正」の磯村義則さん。古くからある「飛び鉋(かんな)」という技法で急須の胴に模様をつける。「同じ模様はできません。おもしろいですよ」
 
茶こしの部分に一度に穴をあける機械

胴と同じ生地でできた茶こしを、ていねいに取りつける
「玉光陶園」は、ろくろを回して粘土で急須の部品を作るところから始める手作りの窯元だ。1946年生まれの2代目、梅原廣隆さんが、胴、つまみがついた蓋、持ち手、注ぎ口と、30分ほどで、次々と4個分の急須の部品を作っていく。「私は職人です。作家ではないので同じものをいかに早く作るかが大事なんです」。この仕事を続けて60年になると言う。「今では手のひらも5本の指も、全部が道具の役割を果たしますよ」と言いながら、細い注ぎ口を形よくまとめた。

ペットボトルの出現で、急須の市場は小さくなりつつある。20年ほど前、常滑には70軒から80軒の窯元があったが、高齢になり後継者がいなかったり、生業(なりわい)として常滑焼の窯元を選ぶ人が少なかったりなどで、現在は50軒ほどに減った。直也さんと一教さんは、窯元や同業者といっしょに、常滑焼の伝統と磨かれてきた技術をひろめ、次の世代に伝えていきたいと願っている。
窯元の「玉光陶園」の梅原廣隆さん。粘土からすべて手作りで急須を仕上げる。伝統工芸士でもある

急須をもっと

「自分はお茶屋さんがあっての急須だと思っていましたが、お茶屋さんにとっては、おいしいお茶を淹れることができるしっかりした急須がなければ、お茶は飲まれないそうです」と、直也さん。とこ販は卸販売と同時に、窯元と連携してオリジナル品の開発にも挑戦してきた。

「今、急須で淹れるお茶が敬遠されている理由の一つに、茶殻を簡単に洗い出せないということがあげられます」。そこで考え出したのが、ふたが乗る肩の部分の一部を削った急須だ。これで、急須から茶殻を洗い出す時に、茶殻が水といっしょに流れ出て行きやすく、胴に残らないようになった。

また、蓋のない急須も考案した。使える茶葉は、深蒸し茶といって、製造工程で通常より長い時間をかけて蒸したもの。急須の中で蒸らさなくてもおいしく淹れられる。玉光陶園が作るこの急須はとても人気があるそうだ。

長い間、お茶を淹れて飲む、という豊かな時間をつくってきた急須だ。そんな道具を暮らしに取り入れてこそ、産地では技術が磨かれ伝えられていく。

 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

お茶屋さんが選んだ急須


 
常滑(とこなめ)焼急須を卸販売する「とこ販」が、生活クラブ連合会と出会ったのは30年ほど前。代表取締役社長、榊原直也さんの父、一教さんが、それまで勤めていた焼き物問屋から独立し、とこ販を創業して間もない2年目のことだった。

当時、生活クラブは、日常的に使う暮らしの道具の一つとして、急須の取り組みを始めようとしていた。全国のいくつかの焼き物の生産地から急須を取り寄せたところ、その中に、焼き物の一大産地である常滑の急須もあった。

生活クラブの担当者だった志村保幸さん(現・生活クラブ連合会加工食品生活文化部長)は、「形も材質もさまざまな急須が集まりました。なかでも常滑焼は蓋(ふた)がぴったりと閉じ、蒸すという機能を十分に果たし、注ぎ口の切れがよいものでした」
常滑のものを、と決めたところ、生産地からはたくさんの見本が届いた。茶こしがプラスチックや金属のもの、胴と一体になったものなど使い勝手がさまざまだった。そこで、お茶の提携生産者、わたらい茶の生産者に使ってもらい選ぶことにした。選ばれた急須は、茶こしの部分も陶器製のもの。志村さんは、蓋を取って中をのぞくと、この茶こしを通って、とてもおいしいお茶が出そうだったと振り返る。

生活クラブは、わたらい茶の生産者が選んだとこ販の急須を取り扱うことにした。

「最初の年は計画数の倍ぐらいの申し込みがあり、私も窯元もびっくりしましたよ」と一教さん。次の年はさらに多く注文があったそうだ。「お茶屋さんは、自分のお茶をおいしく飲んでもらうための急須を選びますね。その時選んだものは、胴の高さがありふっくらとして、湯を入れた時にお茶の葉がよく回り、口が広くなくて冷めにくい作りになっていました」
選ばれた急須は、常滑焼の伝統的な技法の一つ「いぶし」を使って焼いたもの。一度焼き上げた朱泥急須の一部をもみ殻の中に埋めて、再び低い温度で焼くと、埋めた部分だけに黒っぽい色がつく。色のつき方は、窯の中での位置や熱のかかり方によって、一つ一つ違う。一教さんが交流会などで組合員に会うと、この急須が話題になる。「大事に使ってもらっているようですよ」とうれしそうだ。

現在、この急須を生産する窯元は規模を縮小し量産はしていない。そのため生活クラブでの取り扱いはないが、今でも、とこ販が販売する製品が展示される常滑焼急須館の棚に並んでいる。
 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2022年3月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2022年3月20日掲載】
 

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