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昔から海の世界に「成長」という概念はない

【対談】元水産庁資源管理推進室長・前鳥羽磯部漁協監事 佐藤力生さん
東京大学大学院教授・鈴木宣弘さん

 

サンマにスルメイカ、サケの不漁やウナギの稚魚の減少をマスメディアが報じる機会が増えています。そうしたなか、政府は2020年に改正漁業法を施行し、魚種別の漁獲枠を漁船ごとに配分する「IQ制度」の導入を決めました。その割当量の根拠となるのが、科学的知見に基づく数式から算出された資源分布予測です。この資源管理手法が日本の漁業者に与える影響について、元水産庁資源管理推進室長で現在は鳥羽磯部漁協(三重県鳥羽市)監事の佐藤力生さんと東大大学院教授の鈴木宣弘さんが意見を交わしました。
(2021年11月取材)

実質賃金低下と人間を外に置いた「資源管理」

鈴木 日本の漁業者が年間7000人近く減り続けていることは、ほとんど社会の関心事になっていません。それでも水産物の自給率(供給量)は55パーセントの水準にあるのは、漁船や漁具の進歩によるのでしょうが、それらを駆使して漁をするのは漁業者です。彼らがいなくなってしまったら、私たちは「いのち」の糧を失うことにもなりかねません。なぜ漁業者が減り続けているのでしょうか。
 

佐藤 最大の要因は魚価(浜値)が下がり続けていることにあると思います。魚価が一向に上がらないのは、買って食べてくれる人がいないからですよ。それだけ勤労者が給料をもらっていない、賃金が低い状態に据え置かれていることこそ問題なのです。

1997年を100とした日本の実質賃金指数(2016年現在)は、世界の先進国でもまれに見るマイナス10.3パーセント。対して米国はプラス15.3パーセントでドイツはプラス16.3パーセント。フランスはプラス26.4パーセント、オーストラリアがプラス31.8パーセント、スウェーデンはプラス38.4パーセントとなっています。日本以外の先進国はプラス、おまけにトップのスウェーデンとの差は約50パーセントもあります。要するに日本の勤労者はそこまで安く働かせられているということです。この問題が大きく改善され、消費者の実質所得が向上するなか、仮に魚価が20パーセント上がれば、まったく日本の漁業のありようは確実に変わってくるでしょう。
 

過去20年間で原油価格は倍の水準になりました。これは漁を続けるための経費が倍になったことを意味します。なぜなら、船の燃料はもとより、網や漁具のほとんどが石油から生まれる製品だからです。経費は倍になったにもかかわらず、この20年間で魚価は平均10パーセント下がりました。なぜかといえば、消費者の実質所得が上がらないからです。給与所得者こそが食料の最大の利用者です。その人たちの所得が向上しないから、食品価格が下がるのです。ところが、この悪循環について政治家や役人は口をつぐみ、「漁業者の経営努力が足りないからだ」といわんばかりの政策を採用し続けています。それをやめてほしい。漁業者に注文をつける前に、政治家や役人が経済全体の流れを変える努力をしなければ、今後も漁業者が減る構造は是正できないと思います。

鈴木 サンマやスルメイカ、サケの不漁やウナギの稚魚の減少が大きく報道され、海の資源枯渇の危機が叫ばれるなか、政府は漁船ごとに漁獲枠を定める資源管理制度を導入しましたね。

佐藤 魚がとれない原因を漁業者が資源管理をせず、乱獲に走ったからだと一方的に決めつけ、だから「お上」主導で科学的な資源管理手法を進めるというのはいただけません。漁業者が無節操に魚をとりすぎたから資源が枯渇したといわれていますが、彼らには厳然たる「経済的リミッター」がかかっていますから魚が安ければあえて出漁しません。たとえばカツオ漁の場合、一度漁に出れば500リットルぐらいの燃料を使い、それだけで3万円から4万円の支出になります。それで魚の売値が1キロ500円もしないとなれば、とても採算が合いません。とれる魚が少なくなったら魚価はある程度上がりますが、今度はそれにかかる運送費や仲買人の仲介手数料が増え、これも収益を引き下げる要因になります。

もうひとつ見落としてはならないのが、今回の政府主導による資源管理手法には人間を生態系の一部と捉える視点が欠落していることです。資源状況が悪くなれば、漁をする人間自体も減ってきます。この点がほとんど考慮されていないのが実に気になります。人間を生態系の外に置いたままで資源管理を進めるから、資源が回復して少しでも魚が増えたときに対応できなくなるのです。当たり前ですよね。すでに漁業者は激減し、漁業そのものが絶滅危惧状態に陥っていてはどうにもなりません。ですから、くどいようですが勤労者の実質賃金を向上させ、持続可能な魚価(浜値)にする政治の実現こそ急務なのです。
 

机上の論理で「ああすれば、こうなる」では……

鈴木 すごく重要な視点だと思います。これまで私は小売を頂点とした買い叩きが魚価低迷の背景にあると指摘してきたのですが、いわゆる先進国のなかで日本の勤労者の実質賃金だけが過去四半世紀で10パーセント以上下落した水準にあるという現実にしっかり目を向ける必要があると痛感した次第です。それが需要そのものを顕在化できない、買いたくても買えない状況に多くの人を追い込み、農林水産業の現場を苦境に立たせているわけですね。ここ2年は新型コロナウイルスの感染拡大による需要減少が取り沙汰されていますが、たとえコロナ禍がなくても、ここ20年以上、消費者は買えない状況に追い込まれ続けてきたということになります。

その点はよくわかりましたが、海の資源状況と政府主導の資源管理手法について、佐藤さんはどう考えていらっしゃいますか。

佐藤 確かに温暖化の影響は出ていますし、とれなくなった魚種も増えているのは事実です。しかし、逆にとれ過ぎて値が付かない「猫またぎ」の魚も出てきているのです。一口に資源状況といいますが、その数は実際に探索してみないとわかりません。探索といっても海の中を隅々まで肉眼で確認するわけにはいきません。漁業者は数十隻の船で大海原に出て、出漁先の海域を共同して見て回ります。あるところに反応があったら、全船に連絡して操業します。だから、一定数の漁船を維持していなければ魚群を発見する能力が極端に下がることにも通じてくるわけです。

資源分布といいますが、漁法を変えるか、場所を少し移動しただけでも全然違ってきます。たとえば海底の幅数メートルの岩の間に伊勢海老の通り道があります。そこから船の幅ひとつ外しただけで、ほとんどかからない。どんなプロの漁師でも、初めての漁場ではまったく通用せず、20年以上やって何とかなるのが現実です。研究者や役人は船を使って漁場を探査しているといいますが、それができるなら漁師は困ったりしません。伊勢湾でも毎日20隻くらいの船がサワラ漁に出ますが、2日前は400尾の水揚げがあったのに昨日はゼロというときもあります。魚群が船から目と鼻の先1キロにいるのか、2キロにいるかの差だけで大きく変わってくるのが自然相手の世界だということを忘れてはなりませんし、そのことを誰よりもよくわかっているのは他でもない漁業者自身でしょう。
 

資源管理というのは、来年の資源に対してどういうとり方をすればいいかというシミュレーション(仮説)です。それが実際に検証され、結果が再現できているかといえば、できているとはいえないわけです。今回導入された政府主導の環境管理モデルも、資源変動を一定のセオリー(数式)に当てはめた結果はこうなるから、これだけとってはいかんという理屈です。それなら過去の資源変動を、その数式では再現できるかといえば、ほとんど外れで、当たってるのは偶然に近いというしかないと私は考えています。サンマもスルメイカも基本的には過去に一度も資源枯渇を招くような量が漁獲されたことはなく、サケはどんどん人工的に放流展開していますから資源変動で減るはずがないのです。なぜなら子の放流数が一定だからですが、それが10分の1まで減ったのは環境要因というほかないでしょう。

この20年間の世界の漁獲量は約9000万トンと一定

佐藤 環境要因といえば海水温が上がっているため、漁の餌に使うコウナゴの稚魚がとれない問題があります。コウナゴを捕食する魚もいるわけですから、小魚がいなければ大きな魚もいなくなるという生物と生物の間の因果関係が色濃く出てきます。この視点が現在の「科学的数式」には欠落しがちなのです。対して漁業者はその因果関係があることを感覚的にわかっています。彼らは同じような船で同じような漁を一年中やっています。ほとんど同じ人間が同じ漁法、漁網で毎年同じことをやっているにもかかわらず、魚がとれたりとれなかったりするのは何が原因かということです。そういう変動のなかで自分たちは生きてることを漁業者は知っています。だから、良いときには悪いときを思い出し、悪いときには良いときを思い起こし、少なくとも10年単位で良いとき、悪いときがあると常に覚悟しているのです。
 

鈴木 だから共同体的な調整に基づく地域ぐるみの資源管理ができるわけですね。ところが、その方法では漁業の斜陽化・衰退化を防げないとして、それまでは都道府県知事が漁協を通じて漁業者にしか付与してこなかった「沿岸漁業権」を企業にも開放する「水産特区制度」の導入を安倍政権は2013年に認めました。この動きを海というコモンズ(共有財)を一企業に無償で譲り渡すという強権的収奪であり、内閣法制局長が憲法違反と指摘する違法行為だと私は再三指摘しています。

佐藤 どうやって漁業を残すか、持続可能なものとしていくかという考え方と、1人でどれだけたくさんの魚をとって、いかに利益を上げられるかというのはまったく別の世界の話です。まだノルウェーは後者に傾きがちですが、アラスカは前者。利潤追求のための生産性至上主義ではありません。あくまでも限られた資源の中で、どれだけ多くの人が、身を置く漁業コミュニティ(共同体)で生活していけるかどうかをしっかりと見極めて漁業のあり方を決めています。日本もアラスカと同様の方向に進んできたのですが、安倍政権は違う方向に大きくかじを切った形です。

彼らは漁業が衰退したのは、自分たちの経済政策が悪かったとは決していいませんし、自由貿易の名の下にひたすら外国からの輸入を増やし続けたことにも責任があるといいません。そこにはまったく触れずに「あなたたち漁業者が零細業者で能力が無いからです。だから企業にやらせましょう。漁業を成長産業にしましょう」という理屈にすり替えたことに他ならないと私は考えています。成長産業といいますが、この20年間の世界の漁獲量は約9000万トンと一定しています。むしろ、海の世界には昔から成長という概念はほとんど無いといってもいいかもしれません。
 

持続可能という意味では、自分たちの食料を輸入に依存していたら大変なことになる、まさに自分たちの暮らしが破綻(はたん)するということを一人でも多くの方にわかっていただきたいのですが、なかなか理解していただけないのがつらいところです。そうしたなか、私が思うのは、もしも火急の事態に陥り、万一、食料が配給制になるようなことがあれば「あなただけには優先的にお届けします」という仕組みがつくれないものかということです。「だから、いま私たちのとってきた水産物をしっかりと購入してくれる関係を築いていきませんか」と提案したいのです。すでにスイスではそうなっていると鈴木さんはおっしゃっていますが、それが日本でもできるでしょうか。その仕組みづくりに参加してくれる人は、消費を通して生産を担う人でもあると思います。たとえ遅々とした歩みでも、そういう形で生産現場と消費者がつながる日がくるといいのですが、ことは簡単に運びません。

鈴木 もうからなければやめるという資本の論理を超えてまで、企業が漁業を続けていくかといえば、そこには大きな疑問符が付いて回ります。ありえないとまではいいませんが、足るを知る、無理をしない、資源が枯渇するような強行的かつ破壊的な操業はしないという身体感覚を身に付けた漁業者で構成される共同体の「自治」に依拠した漁業こそ、真に先進的であり、自然の摂理にかなったものであると私は信じています。佐藤さん、今日は勉強になりました。本当にありがとうございました。

※今回の対談を終えて原稿内容を確認してもらい、掲載のための準備に入っていた2021年12月に佐藤力生さんが急逝されました。本原稿はご家族の了承を得て掲載させていただきました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会 山田衛



さとう・りきお
1951年大分県生まれ。東京水産大学を卒業後、水産庁に入庁。水産資源管理室長、水産経営課指導室長などを歴任し、2012年に定年退職。著書に『「コモンズの悲劇」から脱皮せよ」―日本型漁業に学ぶ経済成長主義の危うさ』(北斗書房)がある。ブログ「本音で語る資源管理」では水産行政を漁業の現場である「浜」からの視点で問い直している。2021年12月逝去。



すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。専門は農業経済学。東京大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て2006年から現職。主な著書に「食の戦争」(文春新書)、「悪夢の食卓」(KADOKAWA)、「農業消滅」(平凡社新書)がある。自身が漁業権を保有することでも知られている。

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