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私たちは人類存亡の「危機」に直面している

アメリカン大学 ピーター・カズニック教授に聞く ウクライナ侵攻と核戦争の危機 取材:大矢英代さん

「この世界は以前よりもずっと危険な状況になっている」
歴史学者で核兵器問題専門家の米国アメリカン大学のピーター・カズニック教授から届いたメールの文面には焦燥感が漂っていた。

ロシアによるウクライナ侵攻開始から1ヵ月。いまだ停戦のめどが見えない中で、戦況は悪化していく。国連人権高等弁務官事務所は3月27日、ロシア軍による侵攻が始まった2月24日から3月26日までに、ウクライナで少なくとも民間人1,119人が死亡したと発表した。子どもの犠牲者は99人にのぼる。このほか、負傷者は少なくとも1,790人にのぼるという。

ウクライナが危機的な状況になっているのは誰もが知っている。しかし、カズニック教授が言わんとする「世界が危険な状況」とは、一体どういうことを意味するのか。3月9日、カズニック教授にオンラインで聞いた。
ピーター・カズニック教授(右)。左は筆者

「ロシアの攻撃対象は、いまや軍事基地だけではなく、学校や病院などのある民間地域にまで及んでいます。ロシアがそれらの民間施設を意図的に狙っているのか、あるいは誤爆なのか、現時点では分かりません。すでに難民は200万人以上にのぼり、着の身着のままの状態で隣国に逃げています。これは大変な人災です。

私たちは、米軍のベトナム侵攻(1965〜1973)、ソ連のアフガニスタン侵攻(1979〜1989)、米軍のイラク侵攻(2003~2011)やアフガニスタン侵攻(2001~2021)、米軍・NATOによるリビア侵攻(2011)などたくさんの悲惨な戦争を目撃して来ましたが、60年前のキューバ危機以来、なんとか核戦争の危機を回避してきました。しかし、今日、私たちは核戦争勃発の危機に直面しています。人類史上、最も危険な状況にあるのです」

カズニック教授がそう指摘する背景には、ロシアのプーチン大統領が核兵器使用も辞さない構えを見せているとの報道がある。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所の調査によれば、ロシアが保有している核弾頭は6,255発にのぼる。米国の5,550発、中国の350発、フランスの290発を超える世界最多の保有数だ。ただし、戦闘使用が可能な状態で整備されている核弾頭の数は、ロシアが1625発、米国が1800発で、米国の方が多い。

「世界を破滅させる力をもつ人物はこの世界に2人います。ロシアのプーチン大統領と米国のバイデン大統領です。プーチン大統領はウクライナ侵攻当初、核兵器の使用をちらつかせ、ロシアの安全を脅かすような真似(まね)をすれば、これまで経験したことのない恐ろしい事態が待っていると脅しました。さらにチェルノブイリ原発を占領しました。もしロシアが電力供給を止めれば、冷却機能が失われ、チェルノブイリ事故や福島第一原発の事故をはるかに超える悲惨な事態になる可能性があります。ウクライナやロシアだけではなく、ヨーロッパの多くの人たちの命が失われる危険があります。

ロシアの報道では『米国がウクライナに“ダーティーボム(汚い爆弾)” を製造するためのプルトニウムを供給した』などというニュースが飛び交っています。私はロシアのテレビに出演して、『これはありえない話で、虚偽情報だ』と一蹴しました。ただ、ロシア当局がこのような情報を侵攻の口実として使っているということが分かりました。プーチン大統領が核兵器の使用を正当化しようとしているのではないかと、私は大変恐ろしく感じました」

世界はロシアの「警告」を見落として来た

今回のウクライナ危機の大きな要因は、米国を中心とする軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大だと言われている。冷戦終結時、16ヵ国だったNATO加盟国は、その後、ロシア方面への拡大を続け、現在は30ヵ国に拡大した。これをロシアは自国の安全を脅かす挑発行為として警戒し続けてきた。

ヘルギーブリュッセルにある北大西洋条約機構(NATO)本部(写真:Shutterstock)

「ソ連崩壊後、西側諸国はロシアの立場を軽視してきました。1990年の『NATOを拡大しない』とした約束を無視して、NATOを東方拡大させました。そればかりか、約束の1週間もしないうちに、米国の国家安全保障会議はNATO拡大計画を協議していました。そしてワルシャワ条約機構(冷戦期の1955年に東ヨーロッパ諸国がNATOに対抗するためにソ連を中心に結成した軍事同盟。1991年7月に解散し、同年ソ連が崩壊した)加盟国に対して、今すぐにはNATO加盟は認められないが、将来的には加盟できるだろうと伝えることなどを話し合っていました。

米国の外交官や連邦議会議員らはクリントン大統領(当時)に対し、この政策はクレイジーだ、米国史上最悪の外交政策だなどと批判し、直ちにNATO拡大政策を止めるよう求めました」

しかし、クリントン政権はNATO拡大へと舵を切った。1999年、ワルシャワ条約機構の加盟国だったチェコ、ハンガリー、ポーランドがNATOに加盟。さらに2002年、米国は弾道弾迎撃ミサイル制限条約(1972年に米国とソ連の間で結ばれた軍備制限条約)を脱退。翌年、ロシアの強い反対を押し切ってイラク侵攻を開始し、さらにロシア国境に接するバルト三国を含む7ヵ国にNATOを拡大した。

「2007年、ミュンヘン安全保障会議でプーチン大統領は『アメリカの二枚舌には呆(あき)れ返っている』と演説。『米国の軍国主義にも、NATOの東方拡大にも呆れている、これは今すぐ止めねばならない』と米国に警告しました。しかし、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は「NATOをウクライナとジョージアに拡大したい』と発表したのです。

これに対して、当時の在ロシア米国大使のウィリアム・バーンズ氏は、『ニェット(ロシア語でノーの意味)はニェットだ』と題する極秘外交メモを送り、『ロシアのレッドラインを越えるな』とブッシュ政権に警告しました。しかし、ブッシュ大統領はこれを無視。その結果、プーチン氏はジョージアへの軍事行動に出たわけです」

2019年、ウクライナでゼレンスキー政権が発足。ゼレンスキー大統領は、親露政策や分離独立派との戦争が続くドンバス問題を解決すると宣言し、ロシアとの関係改善に向けて動き始めた。

「ところが、ウクライナのナショナリストたちが、保守、リベラルを問わず、ゼレンスキー大統領を攻撃し始めました。ゼレンスキー大統領は、このままでは失脚しかねないとみたのでしょう。掌を返したように、ロシアに強硬的姿勢を取るようになり、さらにNATO加盟をスピーディーに進めてほしいと求めるようになりました。これは私に言わせれば大失敗。プーチンから見れば、ウクライナの西側諸国への仲間入りであり、ウクライナによる挑発に他ならないからです」

2014年、ワシントンDCで開かれた国際学生自由会議で登壇するピーター・カズニック教授(中央)と、映画監督のオリバー・ストーン氏(左)。二人は『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(早川書房)『語られなかったアメリカ史』(あすなろ書房)などの共著を発表してきた。(写真;Gage Skidmor)

カズニック教授は、米国とNATOがロシアの立場を理解し、NATO拡大政策に歯止めをかけていれば、今回の事態を防ぐことができたはずだと指摘する。

「もちろん、こうした手立てをとっていても、プーチン大統領はウクライナを侵攻していた可能性はありますし、ロシアを止める手段などなかったという人もいるでしょう。しかし、私は、手段をとっておけば、プーチン大統領は(NATOの東方拡大を止めてほしいという)ロシアの要求が叶(かな)ったと満足し、あとは外交手段で解決しようと、ロシア軍を撤退させていた可能性は十分あったと思います。そうしていれば、今日のような世界ではなかったと想像できます」

日本の軍国主義者たちに「口実」を与えてしまった

ウクライナ侵攻を受けて、日本国内からも防衛政策をめぐる議論が巻き起こっている。その中でカズニック教授が「強い危機感を覚えた」と語るのが、安倍晋三元総理の「核共有」発言だ。

安倍元総理は、2月27日、民放テレビ局の番組に出演し、米国の核兵器を日本に配備して共同運用する「核共有」について議論すべきだなどと発言した。その後、岸田文雄総理が国会で「非核三原則」を理由に核共有の考えを否定したものの、安倍元総理の発言は海外メディアでも報道され、人々を驚かせた。広島、長崎を経験し、核兵器の恐ろしさをどの国よりも知っているはずの日本から「核共有」などという話が出ているのだから、海外の人たちが驚くのも当然だろう。カズニック教授もその一人だ。

カズニック教授は「安倍元総理は、日本人が抱いている不安を逆手にとって、核兵器保持の議論を起こそうとしている」と懸念を示した。

筆者の取材を受けるピーター・カズニック教授

「安倍元総理は軍国主義者で、憲法9条改正論者です。これまでも自衛隊増強を求めて来て、日本の核兵器の保持を実現させようとしてきました。もし、安倍元総理が、数ヶ月前、あるいは1年前に『核共有』などと言い出していたら、ほとんどの日本人は見向きもしなかったでしょう。

残念なのは、今回のロシアのウクライナ侵攻は、戦争をしたがっている日本の軍国主義者たちに口実を与えてしまったことです。いまや自民党のリーダーたちだけではなく、日本維新の会なども核共有論に関心を示しています。幸い、岸田総理は核共有論に否定的です。しかし、恐怖心は、核共有などという絶望的な手段さえ可能にしてしまう危険性があります。

日本人が恐怖心を抱く気持ちは理解できます。南シナ海や台湾近辺における中国政府の強硬的な政策や、北朝鮮によるミサイル実験などを見ていると、日本を攻撃できる力を有していることは明らかですから、日本人、しかも視野が狭い人ほど、核兵器保持は自衛の手段として有効的に見えてしまうのでしょう。

ウクライナが核兵器を放棄していなければ、ロシアは侵攻しなかったという人がいますが、確かにその可能性はゼロではありません。たとえば、2017年、当時のトランプ大統領と、北朝鮮のキム・ジョンウン総書記は互いを挑発しあい、核兵器のボタンに指をかけていました。もしも、北朝鮮が核兵器を持っていなければ、米国は北朝鮮を侵略していた可能性はゼロではありませんでした。核戦争に発展していた可能性すらありました。しかし、私は核アナーキーな世界など住みたくありませんし、より多くの国が核兵器を持つほど核兵器が使われる可能性は高まります。

もし日本がアメリカの核兵器を保有するようになれば、日本はむしろ非常に危険な立場に立たされることになると肝に銘じてください。日本が核兵器を持つということは、戦争の最前線に立たされることを意味するのです。多くの米軍基地を抱える現在の日本の状況でさえ、私は心配です。米軍基地が集中する沖縄のことや、そこに暮らす私の友人たちの安全を心配しています。

基地があれば守ってもらえると思っている人たちは、北朝鮮のミサイルがどこを狙っているのか考えるべきです。東アジア地域の有事の際には、最初に標的になるのはどこでしょうか。沖縄です。そして米軍基地の周りに暮らす人たちです。もし戦争になれば、日本は非常に危険な、か弱い立場になります。米軍基地は日本人を守るために機能せず、むしろ攻撃の標的になりますから、周辺に暮らす人たちは巻き込まれる危険があります。

私は、日本の多くの人たちが平和を望んでいることをよく知っています。日本人が平和を望むならば、核兵器保持ではない道を探さねばなりません。これは日本だけではなく、世界の安全で平和的な発展のためです」

この戦争を終わらせるためには

ロンドンで開かれたウクライナ侵攻に抗議する集会(撮影:Ehimetalor Akhere Unuabona)

この戦争の出口はどこにあるのだろうか。「効果的に介入できる人物が一人だけいる。それは中国の習近平国家主席だ」とカズニック教授は言う。

「中国はロシアとウクライナどちらとも友好的な関係にあります。中国とウクライナとは経済的に強い繋(つな)がり、中国が進めている「一帯一路」計画(ヨーロッパと中国、ロシアを繋ぐ陸上と海上の貿易圏)の要でもあります。習近平氏とプーチン氏は非常に近い関係にあり、習近平氏はプーチンのNATOへの危機感に理解を示してきました。中国はロシアにとって最大の貿易パートナーでもあり、ライフラインでもあります。特に、今、世界各国がロシアへの経済制裁を実行し、ロシア経済が低迷している中で、プーチンにとって唯一の希望は中国です。つまり、習近平氏はロシアに影響を与えることができる。他の国にはできない影響力を中国は持っているのです。

今、必要なものは外交的解決策です。この戦争が長引くほど、ウクライナの人々だけではなく、人類全体の危機の問題になってきます。この戦争がウクライナの国境を超えて、拡大していく可能性は高い。

米国は、ウクライナに人道支援と軍事支援を送り続けていますが、ウクライナへの武器供給はロシアへの挑発行為と受け止められかねません。さらに、ルーマニアのように武器供給に関わっている周辺諸国への攻撃の口実に使われかねません。ウクライナを支援したいという気持ちは分かりますが、武器供給という行為がさらなる悲劇を呼ぶ可能性もあるのです。

今、バイデン大統領がやるべきことは、中国の習近平国家主席に対して、ロシアを止めてくれと説得することでしょう。中国に何かしらのインセンティブを提示して、この戦争の仲介役を買って出てくれと呼びかけるべきです」


おおや はなよ
1987年千葉県出身。明治学院大学文学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズム修士課程修了。2012年より琉球朝日放送にて報道記者として米軍がらみの事件事故、米軍基地問題、自衛隊配備問題などを取材。ドキュメンタリー番組『テロリストは僕だった~沖縄基地建設反対に立ち上がった元米兵たち~』(2016年・琉球朝日放送)で2017年プログレス賞最優秀賞など受賞。2017年フリーランスに。ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(2018年・三上智恵との共同監督)で文化庁映画賞文化記録映画部門優秀賞、第92回キネマ旬報ベストテン文化映画部門1位など多数受賞。 2018年、フルブライト奨学金制度で渡米。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員として、米国を拠点に軍隊・国家の構造的暴力をテーマに取材を続ける。
 2020年2月、10年にわたる「戦争マラリア」の取材成果をまとめた最新著書・ルポルタージュ『沖縄「戦争マラリア」―強制疎開死3600人の真相に迫る』(あけび書房)を上梓。本書で第7 回山本美香記念国際ジャーナリスト賞奨励賞。

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