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生協の食材宅配【生活クラブ】
国産、無添加、減農薬、
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「食べ物」である、なたね油


 
埼玉県熊谷市に、「圧搾法」により油を搾り、「湯洗い洗浄法」で精製する米澤製油がある。ここでは、化学薬品を使うことなくなたね油を製造する。

原料はナタネだけ

トップ画像の湯洗い洗浄をする建物内で。左から技術顧問の山崎栄さん、代表取締役社長の森田政男さん、営業担当の小山悦子さん、小山拓紀さん。「工場内は暑いです。熊谷市は夏の暑さでは有名ですが、外に出ると涼しい、と職人さんが言いますよ」
 
「『食べる』油を作るために、化学薬品は必要ありません」。国産ブレンドなたね油の提携生産者、代表取締役社長の森田政男さんと、技術顧問の山崎栄さんが口をそろえる。

なたね油の製造工程は、大きく分けて搾油と精製がある。原料はナタネの種子だ。米澤製油では、まずこれをふるいにかけて、さやなどの異物を取り除く。次に加熱して焙煎(ばいせん)する。80年以上使われている炉の中で焙煎されると、炉が横たわる煉瓦(れんが)の土台の周りに香ばしい香りが広がっていく。焙煎後、油を搾りやすくするためにローラーでつぶしてから圧力をかけ、濃い茶色の「原油」と搾りかすに分ける。搾りかすには、まだ約10%の油分が残る。大手製油メーカーなどでは、さらに「ノルマルヘキサン」という薬品を搾りかすに加え油を溶かし出す方法で抽出する。薬品はその後加熱して除く。この方法では、原料から100%に近い油を取り出すことができる。

搾油後の原油には、まだ不純物が含まれている。えぐみ、におい、色などを取り除く工程が精製だ。ここでも一般的には、リン酸、シュウ酸、苛性(かせい)ソーダ、活性白土などを使う。米澤製油は、この工程にも化学薬品を使わず、「湯洗い洗浄法」で精製する。油に湯を混ぜて攪拌(かくはん)するのが特徴だ。その後、遠心分離器にかけて「不純物」を取り除く。これを6回繰り返すと、濁っていた原油が黄色味をおびた透明な油になる。これをろ過したものが「赤水」と呼ばれる油だ。さらに200度ぐらいに加温し、真空中で水蒸気を通し、においと色を抜くと、「一番搾りなたね油」となる。一般的には最後に、消泡剤として働くシリコーンや、酸化防止剤のクエン酸などを加えるが、米澤製油は添加しない。

湯洗い洗浄法は、米澤製油が開発した精製方法。作業時間が長くなり、それだけ価格も上がるが、安心して食べられるなたね油ができあがる。
焙煎(ばいせん)後、搾油して出てきた「原油」
油かす。サラサラとしているが、まだ10%の油分を含む
湯洗い洗浄を終えた「赤水」。まだきつね色の油
右から「原油」。湯洗い洗浄後の「赤水」。蒸気を通して精製がすんだ「一番搾りなたね油」

無添加の理由

米澤製油の創業は1892年。春になると日本全国のあちこちで、黄色い菜の花畑が広がっていた時代だ。埼玉県の各地に製油所があり、ナタネやゴマ、落花生など、そこで採れる生産物の油を搾っていた。森田さんが子どもの頃の1950年代には、まだそういった製油所が60軒ほどあったそうだ。

しかし現在、埼玉県に残っている製油所は米澤製油1軒のみ。アジア・太平洋戦争後、高度経済成長期に食生活の欧風化がすすみ、大手製油会社は、サラダなどに生でそのまま使えるサラダ油の製造を拡大していった。安価な輸入大豆やナタネを使うために港のそばに工場が建設された。それまで原料生産地近くで油を搾っていた、内陸の小規模な製油所が「山工場」と呼ばれたのに対して、これらは「海工場」と呼ばれ、やがて主流になり、山工場は淘汰(とうた)されていった。
68年、「カネミ油症事件」が起きる。北九州市にある米ぬか油を製造販売する会社、カネミ倉庫で、PCB(ポリ塩化ビフェニール)が、油の中に混入してしまった事件だ。PCBは脱臭工程で加温用に使われる薬品で、薬品が通る加熱パイプの破損が原因だった。油を食べた多くの人に被害が及ぶ、大きな食品公害となった。

この事件の後、米澤製油は製造工程に化学薬品を使わず、安心して食べられる食用油を作りたいと研究を重ね、75年、「湯洗い洗浄法」を開発した。翌年、この方法で精製したなたね油を、1650グラムの角缶入りで取り組んだのが生活クラブ生協だ。組合員は天ぷらや炒め物に、またドレッシングの材料として使った。当時、原料はカナダ産ナタネが100%だったため、米澤製油は生活クラブと共に次の目標、国産原料の使用へと向かった。
北海道滝川市。ナタネは春に種をまき、5月ごろ黄色い花を咲かせ、夏に種ができ収穫する

原料を国産ナタネへ

日本でのナタネ栽培の歴史は古く、長い間、食用、灯火用の油を搾るために栽培されていた。明治時代には、機械の潤滑油として工業用にも使われるようになり、ナタネの栽培面積も、収穫量も増える一方だった。

しかし戦後、外国から安いナタネが輸入されるようになると、国内でナタネを栽培する農家は減り、収穫量は55年の32万トンをピークに減り続けた。60年代に入ると、ナタネに含まれるエルカ酸(当時・エルシン酸)が心臓疾患の原因になると指摘される。カナダではいち早くエルカ酸を含まないナタネが開発されたが、日本では開発が進まず、輸入ナタネが増え続け、搾油用のナタネはほとんど栽培されなくなった。

このような状況の中、生活クラブと米澤製油は国産ナタネの生産をあきらめなかった。米澤製油は、東北農業試験場が低エルカ酸の「キザキノナタネ」を開発していたことを知り、青森県の横浜町農協(現・JA十和田おいらせ)に働きかけ、生産農家の協力を得て栽培してもらうことにした。価格はカナダ産の2.5倍。それでも米澤製油はこれを仕入れて、なたね油を製造し、カナダ産原料のなたね油に5%ブレンドした「食用なたね油」を作った。1991年のことだった。
ナタネを栽培する農家は、横浜町に続き、北海道の滝川市、岩見沢市、美唄市などにも広がり、国産ナタネの収穫量は3000トンを超えるまでに回復した。米澤製油が使用する国産ナタネの割合も増え、現在は国産原料で作った油を30%含む「国産ブレンドなたね油」と「国産100%なたね油」が作られている。

同時期、海外では遺伝子組み換え(GM)ナタネの栽培が始まり、これも大きな課題となった。カナダでもGMナタネの栽培が広がり、栽培面積が9割を超えたため、分別が困難で使い続けるわけにはいかず、NON-GMと確認できる西オーストラリア産に切り替えた。

現在国産のナタネは、新しい品種の開発が進められている。キザキノナタネは開発されてから30年がたち、収量が落ち、開発当時は約44%あった含油量が40%以下まで減るなど、種としての力が弱ってきたためだ。山崎さんは、「油分も栄養成分も問題のない新品種が作られています。キザキノナタネの搾りかすは飼料には使えませんが、この品種は飼料にも肥料にも使えます」と、新しい品種が登場し、生産農家に受け入れられることを期待する。
茶こしの部分に一度に穴をあける機械

食べ物を選ぶ

日本のナタネの自給率は0.16%。輸入のほとんどをカナダに頼る。昨年のカナダでのナタネの不作が影響し、食用油の原料ナタネ全般の価格高騰が著しい。さらに、コロナ禍の影響による世界的な海上輸送費の高騰をはじめ、燃料費、包装資材など流通にかかわる経費の値上がりも続いている。米澤製油では、昨年1年分の原料は確保していたため、製品の価格にはそれほど影響はなかったものの、今年は値上げせざるを得ない状況だ。

化学薬品を使わずなたね油を作り、国内で原料を得る努力を続けてきた森田さんは、「ナタネは品種改良によって、春まきのものや油分の多いものが開発される可能性があります。時間はかかりますが、そんなナタネも作りたいですね」と、国産ナタネの栽培を広げていく夢を語る。
 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

菜の花畑に見る夢


 
米澤製油がある埼玉県熊谷市で、菜の花畑が広がりつつある。

熊谷市は面積の40%を田畑が占める、野菜の一大産地だ。しかし近年、1年以上耕作されていない遊休農地が目立つようになり、熊谷市では、その活用方法の検討を進めていた。そこで考えられたのが、遊休農地にナタネを栽培し、地元にある製油工場で食用油を作り、地元産のなたね油を生産することだ。

2019年より、熊谷市が、地元にある製油工場の米澤製油と近隣のナタネ生産農家のグループとともに、「熊谷ナナイロプロジェクト」に取り組み、完成したのが「熊谷産なのはな油」。熊谷市の職員が名前をつけた。生産量は少ないが、とても人気がある。
米澤製油の隣に、熊谷市立成田小学校がある。そこの2年生が、毎年工場に社会科見学に訪れる。油の味見をしてもらうが、中には油かすを食べてしまう子もいるそうだ。化学薬品を使わないで製造しているからこそできる体験だ。

米澤製油の代表取締役社長の森田政男さんは、子どもたちがナタネを通して地元の農業に親しむようになればと願う。「ナタネの種まきをして、ナバナを摘んで食べ、咲いた菜の花を楽しんで、最終的にはナタネを収穫して搾って食用油として使うところまでできたらと思っています」。かつて森田さんの祖母は、天ぷらを「赤水」というきつね色の油で揚げていた。森田さんはよく食べさせてもらい、その香ばしい匂いが記憶に残っている。今でも油揚げを揚げる時に使われているその油を知ってほしくて、「復刻国産菜種油」を作った。「サラダ油に慣れてしまっている人たちにとっては、においがきついようです」と笑う。

植物油の原料は他にもたくさんある。大豆、オリーブ、エゴマ、米ヌカ、ヤシなどだ。その中でもナタネは、植物油に多く含まれる不飽和脂肪酸のオレイン酸、リノール酸、リノレン酸をバランスよく含む。

一番多い割合で含まれるオレイン酸は酸化しにくく、油の劣化を抑える。リノール酸は、過剰な摂取は生活習慣病の原因になるが、人の体の中では作られない必須脂肪酸だ。リノレン酸も必須脂肪酸であり、血液中の中性脂肪を減らし、動脈硬化を防ぐ働きがある。

「オリーブ油はオレイン酸が豊富ですが、リノレン酸の含有量が少ない。エゴマ油はリノレン酸が多いけれど、オレイン酸が少ないなどそれぞれ特徴がありますが、なたね油は他にはない栄養バランスの良い食用油です」と山崎さん。さらに素材の味のじゃまをしないなたね油は万能だ。料理はもちろん、クッキーやシフォンケーキなどを焼くと、やさしい風味に仕上がる。

「米澤製油は、周りに菜の花畑が多かったのでなたね油を搾るようになったのですよ」と森田さん。熊谷市だけではなく、もう一度、日本全国に菜の花畑をひろげていきたいと願っている。

 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2022年4月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2022年4月20日掲載】
 

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