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個性あふれる、世界のコーヒーを

一度に100キログラムの豆を焙煎し、焙煎後、大きな受け皿で風を通しながら撹拌(かくはん)する
 
日東珈琲(コーヒー)が、東京都中央区銀座で創業してから1世紀を超える。海外の提携生産者が生産するコーヒー豆を輸入し、焙煎(ばいせん)を経て販売する。おいしいコーヒーを求めて各国の生産地を訪れ、生産農家との信頼関係を築いてきた。

おいしいコーヒー

コーヒーの実は「コーヒーチェリー」と言われるように、サクランボの実に似ていて、種子が果肉に覆われている。コーヒー豆となるのはその種子だ。「コーヒーの原料は農産物です。飲み物にするために、果肉を取り去り焙煎をして豆にするだけの、加工度が非常に低いものです。それだけに、コーヒー農家の働きがコーヒーの品質を大きく左右します」と、日東珈琲の代表取締役社長、長谷川勝彦さん。世界中のコーヒー生産地を訪ね、直接コーヒー農家に会い農園を確かめ、いくつもの契約栽培を取りまとめてきた。20年以上のつきあいがある農家もある。「大事なのは、農家が毎年作っているコーヒーの、約束した一定量を買い続けることです」。こうして信頼関係を築き現在は16カ国の30種類以上のコーヒー豆を取り扱っている。

一般に、コーヒーは大手商社が生産国から豆を輸入し、焙煎加工したものが流通している。「けれど商社経由では、コーヒーの栽培方法や加工方法が明らかなものを手に入れることは非常に難しいです」と長谷川さん。また、コーヒーの味そのものよりも、豆の粒が大きくそろっているなど、見栄えが優先されて取引されることが多いと言う。日東珈琲は、生産地で栽培方法や味を確かめ、本当においしいコーヒーを飲んでもらいたいと考えている。

 
日東珈琲の代表取締役社長、長谷川勝彦さん。「さまざまな国の個性豊かなコーヒーを楽しんでください」

森の中のコーヒー


日東珈琲が生活クラブ連合会と提携を開始したのは1983年。当初は商社を通した輸入品を供給していたが、提携をきっかけに、生産や流通が明らかなものの取り組みを考えるようになった。「生活クラブより、『海外の生産者とも、顔が見えるとか作り方がわかるといったように、日本の農家と同じようなつきあいをしたい、そういった生産者を探してもらえませんか』、という話があったそうですよ」と営業部部長の鶴見亮さん。

こうして出会った農家の一人が「森のコーヒー」の生産者、ジョン・ネットさんだ。ブラジルのサンパウロ州で、農薬や化学肥料を一切使わずコーヒーを栽培している。コーヒーの木の他、さまざまな樹木がのびのびと育ち、ジョン・ネットさんの農園は、まるで森のような姿だ。ブラジルでよく見られる、日の当たる広い土地で、コーヒーだけが植えられている風景とは全く違う。コーヒーの原産地のエチオピアでは、コーヒーの木は森の中にあり、直射日光を浴びることがない。農薬や化学肥料を使う農業に疑問を持っていたジョン・ネットさんは、コーヒーの生育にとって一番生理にかなった環境である森の中で栽培するようになった。

また、コーヒー農園は収穫をしやすいように人の手が届くぐらいに樹高を整え、機械で作業することが多い。未熟な緑の実と、赤や黒の完熟した実をいっしょに収穫するので、果肉を除去する前に選別が必要だ。選別をしないで加工すると、未熟な豆が混じり、味に影響が出ることがある。

ジョン・ネットさんの農園のコーヒーは樹高が4メートルにもなる。機械で収穫するのではなく、黒く熟して木から落ちてくる実を拾い集める。収穫時期の6月から8月にかけては多くの人手が必要で、街からたくさんの人たちが働きに来る。森のコーヒーはおいしいだけではなく、生産地の自然環境を守り、現地の人たちが働く場所を提供するコーヒーでもある。

プライスとプライド

それぞれの国や農園の、ユニークなデザインの麻袋に入れられて輸入されるコーヒーの生豆

農家との直接提携の一方、日東珈琲は信頼できる輸出業者との提携にも力を入れる。パプアニューギニアのコーヒー輸出業者「コンゴ・コーヒー」もその一つ。同国のジェリー・カプカさんが創業し、外国資本による大規模プランテーション生産が主流の中で、地元の小規模農家と共に、自然と調和したコーヒー栽培を進め、買い付けた豆を製品化し輸出する。

提携のきっかけは、1997年より国連が進めた「国連グルメコーヒー開発プロジェクト」。ブルンジ共和国、パプアニューギニア、ウガンダ共和国など5カ国が高品質のコーヒーを生産できるよう、国連が主導して技術指導する。各国で生産された品質の良いおいしいコーヒーを世界に紹介し、生産国の経済的自立につなげようという試みだった。

日東珈琲もこのプロジェクトに参加し、出会ったコンゴ・コーヒーを通して、パプアニューギニアよりコーヒー豆を直接輸入するようになった。その中でも、生活クラブが取り組む「エリンバリ」は品質が良く、チョコレートのようなフレーバーがあり、どっしりとした濃厚な風味を持つ。ニューギニア島のほぼ中央部、1700メートルの高地で育てられ、樹上で赤く熟した実だけが手摘みされ加工される。エリンバリはコーヒーが生産される地域の、美しい山の名前だ。

カプカさんは「プライス(価格)とプライド(自尊心)」という言葉を使いながら、生産者が誇りをもってコーヒーを生産し、自国に豊かさをもたらすことを願っている。

焙煎がすべて

ブラジル産の森のコーヒー(左)とパプアニューギニア産のエリンバリ(右)
焙煎の終了は、サンプルと色を比較して決める
テイスティング。どのように焙煎できたかをテストする
日東珈琲の焙煎工場は千葉県山武市にある。コーヒーの生産国から輸入した生豆が倉庫に保管されており、必要に応じて焙煎、包装して出荷される。「コーヒーは、栽培される国や土地、また、標高、気候の違いによりそれぞれに、個性あふれる味わいがあります」と、長谷川さん。「その味わいを引き出し、飲む人にそのまま届けるのが私たちの焙煎の仕事です」。生産地で豆を買い付ける時には、実際にコーヒーを淹(い)れ、味のバランスやフレーバー、雑味などを確かめる。そこで得たコーヒーの特徴を再現するのが焙煎だ。

日東珈琲では、焙煎釜の中で豆に熱風を当て、時間をかけて焙煎する。そうすると豆全体に熱が入り、それぞれの特徴がよく出る。煎(い)り上がりは色を見て判断する。工場長の土屋靖明さんは「仕上がりの見極めがすべてです。熟練が必要ですよ」と、この道32年の経験を自信に換えて焙煎にあたる。「焙煎によって出てくるフレーバーは花や果物の香りなどさまざまで、うまく出たり出なかったりします。生豆ではわからない一番いい焙煎度を見つける仕事は難しいですが、楽しくおもしろいものです」。探し出したフレーバーは星の数ほどある。
長谷川さんはコーヒーの魅力について、世界中でコーヒーをめぐる共通の話題があることをあげる。さらに、「コーヒーは同じ木でも栽培される場所によって全く違ったフレーバーが生まれます。たとえば、ジャマイカのブルーマウンテンの木がパプアニューギニアに持ち込まれましたが、生産されるコーヒーは、全く違うフレーバーです」。その多様性が面白く、興味がつきないと言う。1杯のコーヒーが人と人とを結びつけ、飲む人に、生産する人や国を伝えていく。

 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

珈琲一筋

中央が日東珈琲代表取締役社長の長谷川勝彦さん。右が千葉工場の工場長、土屋靖明さん、左が営業部の鶴見亮さん
 
JR新橋駅の銀座口を出て、中央通り方面へ。首都高をくぐり銀座8丁目の信号を渡ると、右手に日東珈琲(コーヒー)の直営喫茶店「カフェーパウリスタ」がある。

日東珈琲の創業は1910年(明治43年)。当時はカフェーパウリスタという名前で、銀座7丁目に喫茶店を開いた。日比谷公園や帝国ホテルが近く、各新聞社が集中していた場所でもあった。カフェーは「コーヒー」、パウリスタは「サンパウロっ子」を意味するポルトガル語だ。

日本では、明治時代末期にはすでにコーヒーを提供する西洋料理店があったが、一般庶民にとってはまだ未知の味だった。それを全国に普及させたのがカフェーパウリスタ。もりそば、かけそばが3銭の時代に、本格的なコーヒー1杯を5銭で提供し、コーヒー文化を広めていった。
創業者の水野龍さんは、日本人のブラジル移民事業に尽力し、「移民の父」とも言われている。移民事業は08年に始まり、当時海を渡った日本人の多くはサンパウロ州奥地のコーヒー農園で働いた。事業の運営は厳しかったが、サンパウロ州政府は、将来の市場開拓を考え、日本にコーヒー豆を無償供与することを決めた。

23年、関東大震災が起こり、カフェーパウリスタも大きな被害を受け、銀座の店も焼失してしまう。また、この年、ブラジル政府のコーヒー豆の無償供与の期限が切れた。これを機に、カフェーパウリスタは喫茶店経営から手を引き、焙煎(ばいせん)業者として再スタートした。現在の社名「日東珈琲」は、41年に日本が米国と開戦し、ブラジルが連合国側に参戦したため、国の指令により改称した名称だ。カフェーパウリスタ銀座店が現在の場所に再開したのは70年のことだった。

日東珈琲の代表取締役社長、長谷川勝彦さんの祖父、主計(かずえ)さんは焙煎の技術者で、小さな工房で焙煎の仕事をしていた。勝彦さんは祖父の仕事場によく遊びに行き、小さいころからコーヒーの香りに包まれて育つことになる。

88年、日東珈琲は、千葉県山武市に新たに焙煎工場を建設した。現在の工場長は土屋靖明さん。毎朝コーヒーを飲んでから高校へ通ったというほどで、焙煎工場への就職も迷わなかった。営業部の鶴見亮さんもコーヒー好き。「好きな飲み物を扱う仕事に就いて感謝です」。コーヒーの淹(い)れ方はさまざまあるが、一番簡単にそれなりの味で飲めると、ペーパードリップをすすめる。セットしたコーヒーの粉にお湯を注ぎ、香りが広がる瞬間は至福の時だ。

「ほんの少しの手間と時間をさいて、おいしいコーヒーをお楽しみください」。故人となったが、各地の交流会などで鶴見さんとともに、組合員の前でコーヒーを淹れていた川端勇雅さんの言葉が思い出される。

 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2022年5月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2022年5月20日掲載】
 

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