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生協の食材宅配【生活クラブ】
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生乳廃棄の「危機」は回避できたのか

東京大学大学院教授 鈴木宣弘さんに聞く
 

牛乳や乳製品の原料である生乳が5000トン廃棄される恐れが出てきたとマスメディアが相次いで報じ、政府が牛乳の消費拡大を求めたのは昨年末。新型コロナウイルスの感染拡大によって業務用、家庭用ともに需要が下がり、学校給食がなくなる冬休みや春休みには一層の需要減が予測されるとされました。
政府の呼びかけに応え、大手小売りや食品メーカーが値引き販売などの動きに出ました。その後、最終的に生乳廃棄は回避できたのかどうかについての報道を見聞きすることはありません。今度は学校給食が長期間止まる夏休みがやってきます。生乳廃棄問題の背景について、東大大学院教授の鈴木宣弘さんに聞きました。

生乳生産量は2003年から2018年まで「不足基調」

――2021年末に続き、今年1月にも政府は「生乳廃棄」の恐れに言及し、農林水産大臣が報道陣の前でコップ一杯の牛乳を飲むなどして、消費拡大を呼びかけました。酪農家をはじめ、関係者の窮状を考えれば、むろん歓迎できる動きですが、ほんの少し前まで国内の生乳生産量はバター不足が社会的な問題になるほど減少していたはずです。それが一転、過剰になったのはなぜですか。コロナ禍の影響が大きいのはわかりますが、他に理由はないのでしょうか。
 
マスメディアが生乳廃棄の危機を大きく取り上げ、政府が異例の呼びかけをした背景には、乳業メーカーや酪農団体からなる業界団体「Jミルク」の試算がありました。それは新型コロナ禍の影響で業務用と家庭用の販売量が伸び悩むとともに冬と春の休校期間に学校給食がなくなり、生乳の消費量が減れば廃棄の恐れが高まることを示唆したものです。これをもとに政府が動き、牛乳の消費拡大を呼びかけたことで社会的な関心が生まれたのは事実でしょうが、乳製品の消費低迷の背景にコロナ禍で収入が大幅に減少し、牛乳が飲みたくても買えない人がいるため需要が顕在化してこないという要因があると政府が真剣に考えたかといえば大いに疑問です。

一方、生乳生産に目を転じれば全国の生乳生産量は2003年から2018年までの15年間、ずっと減少傾向にありました。北海道がなんとか頑張って伸ばしてくれているから、どうにか足りていたのが実情で、むしろ全体的には不足基調だったのです。事実、2014年にはバター不足が顕在化しています。それを何とかしようと頑張った結果、2021年は北海道の生乳生産量が前年比104パーセント、都府県の生産量も前年比101パーセントの伸びが見込まれました。何とか供給は持ち直したかたちになったのですが、それがコロナ禍を機に一転し、今度は減産を余儀なくされることになったのです。

当然ですが、北海道の酪農家からは「足りないから増やせと言っておきながら、突然、減産せよとは何事だ」と怒りの声が上がりました。これまで政府は生乳増産の必要ありとして、飼育頭数を2倍にするとか、設備を増強して牛舎を大きくする、新規購入するなどして増産に努めれば補助金を出す「畜産クラスター事業」を推進してきました。それが今度は「減産せよ。搾るな」となったのです。はしご外しもいいところだと思います。おまけに「牛を処分すれば1頭に付き5万円支払う」という通達まで出しました。その政府がマスメディアを通して牛乳の消費拡大を呼びかけ、問題解決のために積極的に動いたという印象を多く方が持ったことに、何とも釈然としない思いが残ります。
 

積み上がるバターや脱脂粉乳の在庫。乳業メーカーの負担増

マスメディアが「生乳5000トンが廃棄される」と相次いで報じていたころ、私が直接「実際のところはどうなのですか」と乳業メーカーに聞いてみると「そこまでにはならないだろう」と言っていました。ただ、廃棄はしないまでもバターや脱脂粉乳の在庫が増え、たとえ生乳が処理できたとしても乳業メーカーには重い負担がのしかかっていたのは事実です。飲用は消費期限などの関係で日持ちが悪く、販売数量も限られているため、バターや脱脂粉乳にして保存するしかありません。その在庫が積み上がってしまうのですから、確かに大変な状況であるといえますが、1日の処理能力を超えてしまうまでにはならないとの見立てでした。総理周辺はこのことを把握していて、自分たちが牛乳を飲もうと呼びかけをして、その成果があったと言えると踏んでいたのではないでしょうか。

政府が2020年に食料・農業・農村基本計画を策定する際、生乳の生産目標について「とにかく生産を増やさなきゃいけない」と真っ先に動いたのは乳業メーカーでした。当時、雪印メグミルクの社長は乳業協会の会長として「搾ってくれれば我々が全部引き受ける。生産目標は800万トンでいい。これから生乳は足りなくなる。だから生産者を我々が支える」と明言しました。結局、政府目標は780万トンになりましたが、乳業メーカーが出した800万トンという数字は酪農家への「安心して生産してくれ」という心強いメッセージになったはずです。その後も乳業メーカーの姿勢は一貫して変わらず、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからも頑張って酪農家を支えています。

他国ではバターと脱脂粉乳の国内在庫が増えて処理できない場合は、その仕事を乳業メーカーだけに押しつけず、政府が積極的に買い上げています。コメや穀物も同様の扱いです。穀物と乳製品は政府が必ず買い上げ、国内外の援助物資に回しています。今回、それを日本政府もやるべきだったと思っています。乳牛は種付けしてから2年ぐらいしないと搾乳できませんから、需給には必ずブレが生じます。当然、余ったり足りなくなったりを繰り返すのです。その調整を他国では政府が責任を持って引き受けていますが、まったく日本政府は対応していません。先に申し上げたように、コロナ禍で収入が大幅に目減りしたことで飲みたくても、食べたくても買えない人が増えているわけですから、その人たちに政府が買い上げた牛乳や乳製品をフードバンクや子ども食堂を通して届ける仕組みも必要になってきます。
 

他国は政府責任で需給調整。公的買い付けで酪農家を保護

――このままバターと脱脂粉乳の在庫が増え続ければ、乳業メーカーはもとより酪農家に深刻な影響が出るのではないですか。

一部にはバターを安売りすればいいという声もあるようですが、在庫が増えているのは業務用バターと脱脂粉乳です。業務用は外食や加工食品、製菓・製パン、飲料メーカーで使用される大容量の製品で家庭では使用できないものです。さすがに乳業メーカーも耐えきれなくなってきていて、指定団体などと相談しながら酪農家に生産抑制を求めることを検討しているようです。それも一筋縄にいく話ではありません。これまで牛の飼育頭数を増やしてきたわけですから、淘汰(とうた)を早めて肉にするといっても、そんな簡単な話ではありません。

このままでは酪農家の収入が減り続けかねないという問題もあります。乳価には飲用と加工用があり、飲用が最も高くなっています。飲用乳価は乳業メーカーと「指定生乳生産団体(指定団体)」との年1回の交渉で決まり、1キロ115円から120円くらいの幅がありますが、決まった価格は年間を通して変わりません。加工用は補給金を入れて80円台後半。基本はバター・脱脂粉乳用で、飲用に近い発酵乳用が一番高く、チーズ用が最も安く設定されています。だから飲用が減れば減るほど酪農家の所得は減少してしまいます。飼料価格が高止まりしていますから、経営は厳しさを増すばかりということです。なぜ、チーズ用が最も安いかといえば、日本が外国産チーズの輸入を早くから自由化してしまっているからです。結果、国内のチーズ用乳価乳も安くせざるを得なくなっています。

他国は乳製品をほとんど輸入していません。ただし、世界貿易機関(WTO)のルールで国内消費量の3パーセントというミニマムアクセス(最低輸入量)が課されていて、それを現在は5パーセントに増やすことが求められていますが、カナダや米国、欧州連合(EU)の統計をみると多くても2パーセントの水準にとどまっていています。ほとんどシャットアウトしたままといえます。対して日本だけが信じられないぐらいの大量のバターと脱脂粉乳を輸入しています。現在のように乳業メーカーがバターと脱脂粉乳の在庫を抱え、生乳の処理方法に窮している状況でも『約束だから入れなきゃいけない』と輸入を続けているのです。他国は国内で在庫が増えれば輸入も減らします。それが政府の役目ですよ。にもかかわらず『約束だから一切やれない』とはどういうことか、米国から『日本はどんなときも必ず設定した輸入枠を全量満たしなさい』と命令されているからです。密約があるのです。
 

――日本政府が公的買い付けを実施し、国内外の消費者支援に回そうとしないのはなぜですか。

日本政府が『援助』という言葉を口にするだけで米国が警戒するからでしょう。それは日本が米国の市場を脅かす振る舞いであり、手を出すなと圧力をかけられ続けているからだろうと私は見ています。日本からの支援物資が届けられると、コメにしても乳製品にしても米国の市場が奪われる可能性があると考えて、それを米国は嫌うのです。同様に彼らは日本が国内の消費者支援の公的買い付けも、その分米国からの輸入量が減ることを懸念しているのかもしれません。だから日本政府は米国の顔色を常に意識し、手足を縛られたようになっている。実に情けない構造ではないですか。

メーカーに在庫を負担させるのではなく、生産者に『搾るな』と言うのではなく、需給は必ず余ったり足りなかったりという状況が起こりやすいのがタイムラグのある保存の効かない生鮮品なのですから、最終責任は政府が持つと。他国のように政府が買って、援助したり保管したりしていかなければ、同じことを繰り返してしまうのは当然なのです。公的買い付けができないなか、政府の補助金が有効に機能しているのが学校給食です。給食用の牛乳は補助金が出ていて、それが普及の力にもなりました。いまや国内の牛乳消費量の10パーセントを学校給食が占めています。頼みの綱の学校給食が止まってしまう期間を乗り越えるには、私たちが意識して牛乳・乳製品を購入することに合わせ、公的買い付けを是とする政治の実現を求めていくしかないと私は考えています。



すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命研究科教授。専門は農業経済学。東京大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て2006年から現職。主な著書に「食の戦争」(文春新書)、「悪夢の食卓」(KADOKAWA)、「農業消滅」(平凡社新書)、最新刊に「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)がある。自身が漁業権を保有することでも知られている。


最新刊「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)

牛さんに「休日」なしの現実に目を だから生活クラブは――


生乳が大量廃棄される恐れが出てきたとマスメディアが相次いで報じ、政府が牛乳の消費拡大を呼びかけるという異例の事態から半年余りが過ぎようとしています。乳業メーカーの尽力で最悪の事態は回避できたようですが、今度は長期にわたって学校給食が止まる夏休みがやってきます。

ここで確認しておきたいのが「搾乳に休日なし」という現実です。1年365日、酪農家は1日2回牛の乳を搾り続ける必要があり、この仕事を人の都合で止めるわけにはいかない点を忘れてはならないと思うのです。さらに牛が搾乳できる状態まで育つには2年半の歳月を要するという「生産時間」にも目を向けたいものです。そこから見えてくるのは、急に要らないといわれても急に欲しいと望まれても対応できない酪農の厳しさです。

生活クラブは1960年代半ばに牛乳の集団飲用に取り組んだ女性たちの活動を起点に68年に生活協同組合になった組織です。生協設立後も組合員は「自分たちが求める牛乳」とは何かを問い続け、78年に酪農家と共同出資で千葉県睦沢町に牛乳工場を建設し、その経営を担う新生酪農株式会社を設立しました。

「当時は1週間に6日の配達で、日曜分の牛乳を土曜分と合わせて組合員に届けるようにしていました」と当時を知る同社顧問の河野照明さん。生協設立後は土曜に日曜分を届ける「倍配」こそなくなりましたが、週6日の配達は続きました。「酪農の生産構造を考えれば、毎日搾乳された生乳をできる限り毎日消費するのが最も望ましいわけです。その方向に可能なかぎり近づけるための対応でした」と河野さんは言います。

現在は組合員への配達回数の削減や労働の負担軽減などの理由から、牛乳の配達は週2回になっていますが「いつ、どれだけの量が購入されるかが不透明な市場流通に比べ、生活クラブの牛乳の共同購入には依然として提携農家を支える大きな力になっています」と話すのは同社専務の麻生一夫さんです。麻生さんは「それも組合員の運動があってこそ。牛乳工場を持ったことに自信と誇りを持ち、工場見学を重ねながら酪農家との交流を深めながら、牛乳の利用を呼びかけ続けてくれました。この間は新型コロナ禍の影響で、工場見学がままならないのが大変残念」と悔しさをにじませます。

新型コロナ禍が問題になる以前から、牛乳の消費量は少子高齢化や体質的に受け付けない人が少なくないという要因で減少傾向にあるとされています。こうしたなか「搾乳に休日なし」の生産実態と消費の「落差」を少しでも縮めるにはどうしたらいいのでしょうか。麻生さんは「まずは多くの人が牛乳を飲み続けること。生活クラブの組合員には飼料の中身や殺菌温度、ビン容器の使用という自分たちが求めた価値が形になった牛乳を自信を持って飲み続けてもらいたいと思います」と話します。それが新型コロナ禍とウクライナ紛争の影響で飼料代の高騰に苦しむ国内の酪農家の所得安定につながり、ひいては日本の食料自給を支える選択になると思いますが、どうでしょうか。

撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会 山田衛
 

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