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[本の花束2022年6月] 読者と同じ立ち位置で、手を動かすことを大切に編集しています 『暮しの手帖』編集長 北川史織さん

『暮しの手帖』編集長 北川史織さん

1948年の創刊以来、生活の知恵を伝えてきた『暮しの手帖』。 2020年1月発売号から編集長に就任した北川史織さんに、雑誌の目指す姿や誌面づくりで心がけていること、そして読者への思いなどを伺いました。
 
──編集長就任と同時に誌面をリニューアルされました。リニューアルに込めた思いとは?

試行錯誤しながらリニューアル号をつくるなかで、『暮しの手帖』の初代編集長・花森安治の言葉に立ち返ろうと思いました。
『暮しの手帖』の表紙をめくると、創刊時に花森が書いた「これは あなたの暮しの手帖です」で結ばれる言葉が載っています。
これは「私たちが編んだ記事を、読者が活用して自分のものとしてこそ、この雑誌は『あなたの手帖』になり、本当に役に立つ」ということではないかと。こんな雑誌がつくりたいと思い、今も、悩んだ時にはこの言葉に立ち返っています。

──リニューアル号の表紙のキャッチコピー「丁寧な暮らしではなくても」は話題を呼びました。

その頃、私は「丁寧な暮らし」という言葉にもやもやした思いを抱いていました。丁寧に暮らしていくことには、人それぞれ目指す姿があっていいはず。それなのに「丁寧な暮らし」と、ある意味でラベルが貼られることで、画一化されたイメージが生まれたり、それが消費と結びついてしまっていることを残念に感じていたのです。

そこで、改めて丁寧な暮らしって何だろう、そもそも暮らしって何だろうと問いかけたいと考えました。読者からは賛否両論さまざまな意見をいただき、コピーのもつ力について考えさせられました。表紙のキャッチコピーについては、今も毎号どうとらえられるかなとドキドキします。

──2020年春からのコロナ禍の影響はいかがでしたか。

この年の7月発売号の制作時から取材や撮影が難しくなり、企画を見直さなければならなくなりました。定期購読者も多いですから、休刊は考えられません。今届けられるものは何かと精一杯考えてつくったのが、7月発売号の巻頭の詩のページ「いま、この詩を口ずさむ」です。私自身、コロナ禍では詩集と絵本に支えられ、言葉が心のよりどころになることを実感していました。不安で苦しい時期だからこそ、読者に詩を届けたいと思ったのです。この号にはいつも以上に多くのお手紙をいただき、読者からの温かい言葉に励まされました。

──多忙な現代にあって、暮らしをどうとらえて誌面づくりをされていますか。

今は、食事を家でつくらなくても、外食やテイクアウトを利用すれば困らない時代です。でも簡単なものでも自分でつくって、食べて、満足して一日を終えることは、心身の健康を支えてくれると思っています。

食事には「食べる満足」と「つくる満足」がありますが、『暮しの手帖』はつくる人に対して親切でありたい。そこで、料理記事は「試作」を大事にしています。文字と写真のみでのレシピで、さらに使う台所や道具、材料もそれぞれ違うなかで満足のいくものをつくってもらうためには、試作して確かめる工程が欠かせません。担当編集者が試作した料理を会社のみんなで食べ、その感想を集約して料理家に伝えて調整するということを、多い時は3回ほど繰り返します。

読者からは「『暮しの手帖』のレシピは必ず美味しくできますね」と言っていただけることが多いのですが、試作の手を抜かないからだと考えています。手芸記事も同じですが、手を動かすことで、それが本当につくりやすいか、読者の気持ちに寄り添えるようにも思います。

──今回紹介する18号のおすすめ記事を教えてください。

『本の花束』の読者の方には、特集の「カステラをおすそ分け」がおすすめです。新聞紙でつくる型で20cm角のカステラを焼き、半分はわが家で楽しみ、もう半分はプレゼントにしようという提案です。大切な人が喜ぶ顔を思いながら、カステラをつくってもらえると嬉しいです。
 
インタビュー:上野裕子(㈱ピークス)
著者撮影: 尾崎三朗
取材:2022年2月

●きたがわしおり/フリーペーパーや住まいづくりの雑誌の編集部を経て、2010年に暮しの手帖社に入社。以後、数多くの本誌記事や別冊を担当し、2017年に本誌副編集長に就任。好きな分野は、料理、住まい、人物ルポルタージュ。
『暮しの手帖18号』
暮しの手帖編集部 編 暮しの手帖社(2022年5月)
27.9cm×21cm 184頁
図書の共同購入カタログ『本の花束』2022年6月1回号の記事を転載しました。

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