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使いながら備え、守る、水の生産地

信州エコプロダクツがある塩尻市北小野と、隣接する辰野町小野は、「たのめの里」と呼ばれる。地下水が豊富な地域だ

生活クラブ連合会が取り組む、防災用飲料水の水源地は、長野県塩尻市の大分水嶺(だいぶんすいれい)にある。東日本大震災をきっかけに、2015年より供給が始まったこの飲料水は、信州エコプロダクツが製造し、備蓄、利用している。

水は分水嶺から

長野県塩尻市の南部、伊那谷へと続く山間に、防災用飲料水を生産する「信州エコプロダクツ」がある。生活クラブ連合会とは、2015年から提携を開始した。標高は800メートル。すぐ北側には日本の大分水嶺のひとつ、善知鳥(うとう)峠があり、降った雨や雪解け水は、日本海へ向かう信濃川水系と、太平洋へ流れ込む天竜川水系へと振り分けられる。

工場長の中沢文晃さんは、「周りには家もなく、地面にしみこむ水は、生活排水などで汚染されることがありません。くみ上げて使う飲料水としては最適です」と、質の良い水に恵まれている立地を紹介する。

工場の近辺は、もともと地下水が豊富で、かつてはこんこんと湧き出る湧水を周辺の田んぼで利用していた。しかし、30年ほど前、JR中央本線の岡谷駅とみどり湖駅間に約6キロメートルの塩嶺トンネルが開通すると、地下水の流れが変わり湧水は減った。田んぼの水を確保するためにため池を作り、トンネルに出る水を引いて利用するようになったという。

ここの湧水はもともと水質が良く、地下の貯水量も豊富だったため、塩尻市では、岩盤の下まで250メートルの井戸を掘り、くみ上げた地下水を水道水として利用するようになった。信州エコプロダクツは同じ井戸の水を塩尻市より購入し、防災用飲料水の原水としている。

 
「信州エコプロダクツは、標高800メートルにあります」と、工場長の中沢文晃さん。北小野の集落が眺められる
 
地下250メートルの深さから地下水をくみ上げる井戸。防災用飲料水の原水となる

見直した製造工程

①ペットボトルのもと、「プリフォーム」②プリフォームに熱を加えてふくらませ成形し、水を充填する ③点検

信州エコプロダクツによる防災用飲料水の供給は、順調だったわけではない。信州エコプロダクツは14年に設立し、15年より操業を開始した。しかし半年もたたないうちに、未開封の保存サンプルからカビの一種が検出される。すぐに出荷停止を決め、製造工程の見直しをした。

原水そのものには問題はないことがわかり、充填(じゅうてん)の工程を中心に見直した。まず、確実に菌類を除去できる目の細かいフィルターを二重に通すことにした。さらに水の特徴を失わないような加熱処理を加え、水を詰める工程も、ボトルとキャップの湯洗い洗浄後に切り替えた。そしてこの一連の充填工程を無菌状態で行えるよう、環境を整えた。「常温で長期保存する水は、わずかでも菌が残っていると、保存中に繁殖してしまいます。充填の工程に一番気を使いますよ」

中沢さんは、生活クラブの牛乳を生産する新生酪農の安曇野工場で品質管理を担当していた。「パスチャライズド牛乳は、製造も流通も保管もすべて冷蔵の状態で、消費期限も短いです。同じ液体ですが、水と牛乳は扱いが全く違います」と苦笑いをする。16年より、勝手の違う職場に移り、製品の品質を安定させるために苦労したそうだ。

水を長期保存するために

防災用飲料水を詰める容器はペットボトルを使う。「ペット」は、POLY ETHYLENE TEREPHTHALATE(ポリエチレンテレフタレート)の頭文字のPET。PETは石油を原料とする合成樹脂で、衣類の繊維であるポリエステルや、食品包装フィルムの素材だ。

生活クラブではそれまで、液体や油の容器は、一切、合成樹脂製のものを使わず、再利用可能なびんや、缶を使っていた。防災用飲料水の容器としてペットボトルを選ぶに当たっては、大きな議論があり、反対意見もあった。それでもペットボトルを選んだ理由は、非常時に持ち運ぶものだということ。

「ペットボトルは軽くて衝撃に強いですし、キャップもパッキンを使わなくてもきちんと封ができ、密閉度が高い容器です。賞味期限が2年という長期保存をする防災用飲料水の容器としてふさわしいと思いますよ」と中沢さん。非常時に対応するには通常とは違う性質も備えなければならない。その分、平時の共同購入では、これまで通りびん容器をリユースしながら使うことを勧める。

ペットボトルには、工場内で容器を形成し、同時に水を充填できるという利点もある。11年3月に東日本大震災が発生した時、ペットボトルの工場が被災し容器が不足した。その時のことを教訓に、飲料水を生産する工場内で、ペットボトル成型も同時に行う製造者が増えた。

信州エコプロダクツもペットボトルの元となるプリフォームを常備している。工場内でプリフォームに熱を加えふくらませ、ペットボトルの形に成形し、そこに水を充填する。1日当たり、500ミリリットルのボトルは2万4000本、2リットルのボトルは1万5000本の製造が可能だ。プリフォームは、常に1.5カ月分を確保している。

使用済みのペットボトルは、行政や店舗によって回収され、食品トレイや繊維に再生されてきた。現在、原料の原油の価格が高騰していることもあり、ペットボトルへのリサイクルも進んでいる。「ボトルに文字や絵を書いたり、色を付けたりすることが禁止され、リサイクルして使う環境が整ってきましたよ」と中沢さん。信州エコプロダクツの防災用飲料水は段ボール箱で流通するので、ボトルのラベルを省略することも考えている。

飲料水の備蓄を

工場長の中沢さん。「防災用飲料水の生産を継続するために、利用しながら災害時の備えとしてください」
生活クラブが防災用飲料水を取り組むきっかけとなったのは、東日本大震災だった。当時は容器の確保や配送の手配が間に合わず、自前の水源を持つことの必要性や、組合員、被災地への供給体制の整備が課題として残った。同時に、大きな災害が起きた時のために、食料品や日用品、特に人が生きていくうえで必要な飲料水を、日ごろから備えておくことの重要性を学んだ。

現在、工場と塩尻市内にある倉庫には年間を通して、1ケース当たり12リットル入った防災用飲料水、5万3000ケースが備蓄されている。18年の台風による長野県内の水害の時、19年の千葉県での停電の時、さらに今年3月、福島県沖を震源に地震が発生した時など、すみやかに被災地に届けられ活用されている。
中沢さんは「家庭での備蓄も心掛けていただきたいです」と言う。水は、一人1日当たり3リットルが必要であると言われている。4人家族では12リットル。信州エコプロダクツが扱う防災用飲料水1ケース分だ。「お茶を淹(い)れたり、持ち歩き用の水として利用して、消費した分を買い足しながら、一定量を確保しておいてほしいです」。それは、水の安定的な生産につながり、地震や地球過熱化による思いがけない災害に対する、心強い備えとなる。


塩尻市にある倉庫で保管する

 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子

水の産地は、「たのめの里」

信州エコプロダクツがある長野県塩尻市北小野地区と、隣接する辰野町小野地区は、「憑(たのめ)の里」と呼ばれている。名前の由来はいくつかある。

一つは、清少納言が「枕草子」で取り上げた「たのめの里」が、このあたりであるという説。また、この地域にある信濃国二之宮として知られる矢彦神社と小野神社がかかわっているとされる説もある。かつて両神社の例祭は、「八朔(はっさく)祭」、「田の実祭」といわれ、この祭りが行われる森を「たのめの森」と呼んでいたそうだ。それがたのめの里となり、現在に伝えられているという。

たのめの里は、上質な地下水が豊富に湧き出る里として知られ、北小野三才山でくみ上げられる水は、塩尻市の水道水の原水として使われている。硬度48、ペーハーが8で、弱アルカリ性の軟水だ。水源の環境を見る指標として、農業肥料や工場排水に由来する硝酸態窒素と亜硝酸態窒素の値があるが、都市部の水源と比べてもはるかに低い値だ。水質の良さは、分水嶺(ぶんすいれい)に当たる地域であることも一因だが、地区の人たちが森林を整備するなど、水源地の保全活動に積極的に取り組むことにより守られている。

工場から車で15分ぐらいの場所に、「相吉もみじ山」がある。20年ほど前より、北小野地区が森林の環境整備を始め、地元住民が樹木を植えたり下草刈りをして、市民の森づくりをすすめてきた。生活クラブの組合員も、信州エコプロダクツと共に、もみじやシャクナゲの苗木を植え、下草刈りをする活動を続けている。農業体験や援農をしながら、提携生産地の生産者と交流し、農業を応援する「夢都里路(ゆとりろ)くらぶ」の産地まるごと応援企画の一つだ。水源地を守るだけではなく、その地域の文化や伝統行事を知り、体験しつないでいく目的もある。

また、塩尻市の水源を利用した防災用飲料水の取り組みをきっかけに、2016年、塩尻市と生活クラブ長野、生活クラブ連合会の三者が「包括的な連携協定」を結んだ。災害時だけではなく、食、環境、福祉など多様な分野で協力しながら地域社会をつくっていくことを目指すものだ。

信州エコプロダクツの敷地のそばに、ポツンと鳥居が立っている。そこから続く山の斜面には段々畑が続き、はるか下方に北小野の集落が眺められる。
鳥居から山の方へ参道をたどると、小野神社の境外社で、地元の人から虚空蔵さまと親しまれている社がある。8月26日に祭りがあり、すすきの穂に神前の甘酒をつけて持ち帰ると、腹の病にかからないという言い伝えがある。祭りの日には、集落の人々が訪れるそうだ。

たのめの里には、変わらない時間が流れている。

 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2022年6月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2022年6月20日掲載】
 

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