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生協の食材宅配【生活クラブ】
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「奪わない暮らし」のための第一歩 パーム油削減、廃食用油利用のせっけんへ

熱帯雨林の大規模開発や過酷な児童労働など、以前からその生産過程に多くの問題が指摘されていたパーム油。利便性や安さ、普及度合いから、課題解決や代替が難しく、生活クラブ連合会にとっても残された課題の一つだった。環境にやさしいせっけんにも欠かせない原料だが、ヱスケー石鹸(せっけん)(本社・東京都北区)は、これを廃食用油に置き換えたせっけん作りにチャレンジ。パーム油を削減し、海外依存度を下げたせっけんが、今年7月から登場する。誰からも奪わない暮らしの実現に向けた第一歩だ。

「パーム油」の抱える問題

パーム油は、アブラヤシの果実から得られる植物油で、せっけん・化粧品などの生活用品や菓子・パン・マーガリンなどの加工食品、バイオ燃料に至るまで幅広く利用されている。食品表示としては、植物油脂と表記されるため一般にはなじみが薄いが、日本でも菜種油に次ぐ消費量がある。アブラヤシは、栽培環境に適した東南アジアなどで生産され、単位面積当たりの収量が他の植物油に比べて圧倒的に多く、安価で、世界で最も生産されている植物油だ。

1990年頃約1000万トンだったパーム油の生産量は、現在は7000万トンを超えている。世界の生産量の約85%をインドネシアとマレーシアで生産しているが、パーム油の需要が急拡大するにつれ、生産地では農園開発に伴う深刻な問題が指摘されてきた。

その一つが熱帯雨林や泥炭湿地林の破壊だ。二酸化炭素(CO2)を大量に発生させ気候危機につながり、多くの生き物の生息地を奪う。公益財団法人「世界自然保護基金(WWF)ジャパン」によれば、パーム農園や紙の原料となるアカシアの植林による開発で、インドネシア・スマトラ島では、過去30年間で、森林面積の50%以上に当たる1400万ヘクタールもの自然林が失われたという。さらに、土地の収奪や農園での劣悪な労働環境や児童労働も、現地住民の暮らしに深刻な影響を及ぼしている。

だが、パーム油産業で生計を支える人々も多く、単純に不使用としても問題は解決しない。解決に向け、2004年に設立されたのが、「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」で、パーム油生産者、商社、製造業、小売業、銀行・金融機関、環境NGOといった関係7者で構成される。透明性の担保や法令順守、環境への責任と自然資源、生物多様性の保全、労働者や地域社会への責任ある対応など、持続可能な生産のための八つの基準と43の項目を定め、これにのっとって生産が行われているか、その供給過程でもそれが貫かれているか。2段階にわたる認証制度を設けた。だが、現在RSPO認証を受けているパーム油は、全体の2割ほどだ。また、大量生産・消費を前提としたままという矛盾が、さらなる格差の拡大や環境破壊を招いているという指摘もある。

認証パーム油の利用の広がりとともに、違反への監視や小規模農家への支援など、制度の改善策も今後の課題だ。
 

パーム油の原料となるアブラヤシ。
マレーシアのアブラヤシの収穫(写真:ロイター/アフロ)

廃食用油のリサイクル

「せっけんの原材料自体も国内で自給できるのが、本当は一番だと思います」。そう話すのはヱスケー石鹸の会長、倉橋公二さんだ。7月から生活クラブで供給される粉せっけん類で、原材料の一部を廃食用油由来に切り替え、パーム油の割合を大幅に削減した。

「調理に油を使う限りは、廃食用油はでますからね」と倉橋会長。実はヱスケー石鹸が廃食用油の活用にチャレンジするのは、今回が初めてではない。40年近く前に自治体からの依頼を受けて、持ち込まれた廃食用油でせっけんを作ったことがあった。せっけん作りには、大きく分けて2種類の方法がある。原料油脂にアルカリ剤を入れて加熱するのが「鹸化(けんか)法(釜炊き製法)」、油脂から取り出した脂肪酸にアルカリを反応させるのが「中和法」だ。当時は鹸化法が一般的な製法で、廃食用油をろ過して製造したため、「せっけんの品質としては、今のように納得できるものではなかったですね」と公二さんは振り返る。廃食用油をコンスタントに回収する難しさもあり、この試みは長くは続かなかった。

だが02年、大手飲食店から廃食用油の有効活用について相談があったことをきっかけに、ヱスケー石鹸では再び、リサイクルせっけんの製造、販売を始める。まず、廃食用油を安定的に確保するために、回収業者が飲食店などから廃食用油を回収し、油脂メーカーでオレイン酸主体の脂肪酸に精製、その脂肪酸を使ってヱスケー石鹸が製造する、というリサイクルの仕組みをつくった。製法にはすでに「中和法」を取り入れていたので、品質にも問題はない。前年に食品リサイクル法が施行され、資源の有効活用が推進され始めたことも追い風となった。

「意義を理解して良質な脂肪酸に精製してくれる油脂メーカーと連携できたことが、ポイントになった」と公二さんは語る。廃食用油を使用したヱスケー石鹸のリサイクルせっけんは、学校や官公庁、ホテル、飲食店、企業事業所など100カ所以上に導入され、生活クラブ連合会の提携生産者も多数利用している。
今回、再開発された生活クラブの粉せっけん類は、このときの仕組みと技術を土台にしたものだ。
 
ヱスケー石鹸が廃食用油回収業者と油脂メーカーでつくったリサイクルシステム。精製した脂肪酸を使うことで、臭いの抑制や品質の安定性が向上(イラスト作成:ワーカーズ・コレクティブ 企画編集・のもの)

生産者としての責任感

せっけんを「中和法」で作る際、重要なのが、オレイン酸やラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸など、どの脂肪酸をどの程度使用するかということだ。脂肪酸の特性によって、冷水への溶けやすさや洗浄力、泡立ちや皮膚への刺激などの違いがあり、製品の品質も変わる。

生活クラブが扱う粉せっけん類では、このような特性を考慮してオレイン酸とラウリン酸を使用している。今回の再開発にあたって、このオレイン酸を廃食用油由来に変更し、粒状せっけんで約70%、無添加せっけんで約66%のパーム油由来の原料を削減することができた。従来品と比べて洗浄力は変わらず、せっけんの色やにおいへの影響も最小限に抑えているという。

「生活クラブのせっけんを作っているのはウチだけだという責任感は社員全員が持っていますよ」と公二さんは言い切る。それでも、今まで経験したことのない最近の油脂高騰には、顔を曇らせる。歴史的な価格上昇は、大豆・菜種などの生産地での天候不順やコロナ禍での労働力不足による生産量の低下、バイオマス燃料や中国での需要の増大などが原因とされている。さらに、ロシアの軍事進攻によりウクライナのひまわり油の輸出が止まったため、世界的な植物油不足に拍車がかかっている。
ヱスケー石鹸代表取締役会長 倉橋公二さん

輸入に頼らず国内資源活用を

ヱスケー石鹸5代目社長の倉橋和良さんは、廃食用油はもっと注目されていいのではと話す。「日本の廃食用油は、世界的には評価が高いんです。リサイクルシステムが確立できていて回収量が多く、品質もいいので、ヨーロッパなどに輸出されています」

日本では年間約240万トンの食用油が消費され、事業系で40万トン、家庭系で10万トンの廃食用油が発生する。事業系の5割程度が飼料用に再利用され、約3割がバイオ燃料として輸出される。廃棄されるのは1割程だ。一方、家庭からの廃食用油は約9割が廃棄されている。ヱスケー石鹸では、年間約150トンの廃食用油を脂肪酸の原料として使う。

「海外からの輸入だけに頼るのではなく、国内で利用できる資源を活用すべきではないでしょうか。今回の再開発では、廃食用油を使うことで、埋もれた資源のリサイクルや原料油脂について組合員同士でも話し合う機会にできるのでは。そんなストーリーを持った消費材になったと思います」と和良さんは自信を持って語る。

再開発では、包装もマチのないぴったりしたピロー包装に変更され、プラスチック使用量を約20%削減している。

また、生活クラブの店舗、デポーでは、今後実験的に東京、神奈川の3店舗程度で、ヱスケー石鹸の液体せっけんの量り売りを行う予定だ。
ヱスケー石鹸代表取締役社長 倉橋和良さん
撮影/笠原修一
文/本紙・牛島敏行

せっけん改善の50年


左から小林衛常務、倉橋和良社長、倉橋公二会長、営業担当の木曽基之さん

ヱスケー石鹸(せっけん)が創業したのは1918年(大正7年)。洗濯は「金だらい」「洗濯板」「固形せっけん」で行っていた当時、「固形せっけんでゴシゴシやるより、粉せっけんのほうが便利でしょ、というのがセールスポイントで始めたそうです」
家庭用せっけんの製造のきっかけを、会長の倉橋公二さんは、そう話す。

60年頃から一気に、電気洗濯機が家庭に普及していく。その普及に合わせて、合成洗剤の生産量も増えていき、63年には、せっけんの生産量を上回った。家庭用のせっけんの販売が難しくなっていた頃も、ヱスケー石鹸は、せっけんの生産を続け、業務用としてクリーニング店に販路を拡大していた。

大手メーカーをはじめとして合成洗剤が普及していったのに、せっけんを生産し続けたのはなぜだろうか。
公二さんは、「先代(3代目)が、『せっけんは無くなることがない』と言っていたからかな」と笑う。せっけんは自動車の部品や印画紙など、洗濯以外の用途も幅広い。会社の将来を見越しての判断だったのだろう。
生活クラブ連合会と提携を始めたのは73年から。翌年には、独自消費材第2号となる「粉石けん」が登場したが、課題も多かった。

エスケー石鹸では、高温で溶かす業務用せっけんの製造が中心だったため、初期の粉せっけんは低温では溶けにくく、組合員にとって使い勝手のよいものではなかった。改良のため、エスケー石鹸は、高さ30メートルのスプレータワーを完成させた。せっけん素地をタワー上部から噴霧し、熱風で乾燥させることで、水に溶けやすいせっけんを作るための設備だ。

一方、提携当初、生活クラブでは、日本生協連の合成洗剤も扱っていた。だが、河川の汚染や人体への影響が社会的に問題になっており、安全性や環境への意識から、当時の組合員はせっけんに切り替えるよう呼びかける運動を始めた。せっけんの利用は徐々に高まり、80%に達したことで、77年からは、合成洗剤の取り組みを中止することとした。

81年にはせっけんの製法を「鹸化(けんか)法」から「中和法」へ変更。品質の向上をはかった。製造中の熱量を抑えることができ、二酸化炭素(CO2)削減にもつながった。

「むせやすい」というのもせっけんを使わない理由として、よく上げられる課題だ。「粒状せっけん」には、グリセリン(湿潤剤)を加え、「無添加せっけん」は粒の形を針状に変更することで、粉立ちを抑える改良を行った。組合員の意見や要望にその都度応えて、改善を重ねていった歴史がある。

「生産者としては、どんな要望も応えますよ」と公二さんは余裕の笑顔で語る。地球環境や社会情勢が大きく変化する中で、せっけん作りの試行錯誤は、今後も続いていく。
 
撮影/笠原修一
文/本紙・牛島敏行
 『生活と自治』2022年7月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2022年7月20日掲載】
 

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