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生協の食材宅配【生活クラブ】
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すでに日本は「食料危機」に突入している

対談(上) 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
       生活クラブ連合会 加藤好一顧問

 

新型コロナ禍とロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響で原油をはじめとするエネルギー価格が高騰、主要穀物の輸入が滞ったことで食料品の値上げが続いています。とはいえ小売店の店頭から食品が消えるわけではなく、日本の食料確保が足元から揺らいでいるという意識を持ちにくいのは無理もない話かもしれません。でも、本当に日本の「食」は大丈夫なのでしょうか。その実状と課題解決の道筋を東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ連合会の加藤好一顧問に聞いてみました。
(この企画は2回に分けて掲載します)

「現状況」で農業振興予算を切る不可解な政治

鈴木 現在の日本は「食料危機が迫っている」のではなく、もはや「食料危機が来てしまった」と認識しなければならない事態に突入したと私は思っています。今年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻する以前から、中国の世界からの食料買い占めである「爆買い」が顕在化してきており、日本は思うように食料調達ができない「買い負け」状態に置かれていました。

中国の大豆輸入量は1億300万トン。対して国内で消費する大豆のほぼ全量を輸入に頼っている日本は300万トンしか調達できていません。さらに中国がもう少し輸入を増やすとなったら、あっという間に日本向けの大豆は届かなくなる可能性がより現実味を増し、「そもそも日本と中国では購買力が桁違い。競り合って買い負けているのではなく、勝負にならない」と元全農職員が嘆くほどです。

大豆だけではなく、今後、中国の輸入量が少しでも増えれば、小麦もトウモロコシも日本には入ってこなくなるでしょう。「日本向けは量が少ない。ビジネスにならない」とコンテナ船も日本を敬遠し始めています。要するにビジネスの対象から外されつつあるわけです。中国ばかりではありません。新興国がより強い資金力を行使できるようになり、大量の穀物を輸入するようになってきました。「お金さえ出せば買える」という経済安全保障はとっくに破綻していると私たちは肝に銘じなければならないのです。
 

新型コロナ禍の次に何か起きたら、日本の食料確保はとてつもなく困難な局面を迎えると私はずっと懸念していました。それがウクライナ紛争でさらに高騰し、今年3月8日には小麦の国際相場が2008年の世界食料危機の水準をすでに超えてしまいました。そんな深刻な状況に置かれているにもかかわらず、「食料自給率」という言葉が依然として国会では出てきません。しかも新型コロナ禍の影響でコメや牛乳が余っているとして、政府は生産者に減産を強いようとしているのですから「飽食ぼけ」もいいところです。

これまで政府は「コメは作るな、ただし飼料用米や小麦、大豆、ソバや牧草などを作付けするなら支援する」としてきましたが、その予算を今年度から切ると断言しました。まさに食料危機の渦中にあるというのに、あまりにも信じがたいお粗末な対応ではありませんか。本来なら何とか食料自給率を一気に上げるための予算措置を講じなければならず、いかにすれば国民の生命を飢えから守るかを根本的に議論する必要があるはずです。ところが、政府はさらに農業を潰しにかかるような予算切りを始めています。

まさに象徴的だと思ったのは関東の酪農家に乳牛の殺処分を求めるために政府が配布したチラシです。「1頭処分すれば5万円払う」と明記されているのを私はインターネットで確認しました。これから何が起こるか分からないときに目先の在庫が増えたという理由で、大切な生産資源を失ってどうするのかと言いたい。政府がちゃんと在庫を買い取ればいいだけの話ですよ。なのに牛を殺せと酪農家に迫るとは本末転倒というしかありません。コメも同じです。主食米の消費量が減っているのは事実です。ならば飼料用米を作付けすることで水田の機能を保持していくのが、食料安全保障上も実に重要なわけですが、すでに目標の70万トンに達したので飼料用米の作付けを奨励する予算措置まで政府は節操なく打ち切ろうとしているとしています。

加藤 いま70万トンという数字が出ましたが、内訳を子細に見てみると、義務付けられた最低輸入量を満たすミニマムアクセス米などを含めた飼料用米として給餌されるコメの総量で、国産のものばかりではありません。この見なし方自体が生産農家はもちろんのこと、私たちとしても不満が残るものです。予算が無くなったと財務省などはいいますが、実際はものすごく限定的で制約があるのがいまの交付金の仕組みです。交付金額の<最大値10アール当たり10万5000円>をはじめ複数の制度設計がなされていますが、特に問題なのはそれがいつなくなってしまうのかわからないことで、これでは「来年もがんばるぞ」という元気が出てきません。

この間、盛んに「コメ余り」が伝えられていますが、余っているのではなく上手に活用できていないというのが実際のところでしょう。かねてから鈴木さんが主張されているような海外支援策も含め、それをやったら「日本は大したものだ」と評される策を講じるのが政府の責務なはず。いまの日本政府には食料危機(⇔食料の安全保障)の認識がまるでありません。
 

とにかく水田を活用し続けることが求められているのです。それが地域や実際の担い手の現状を踏まえた、真に日本の農業に求められている対応だと思います。水田農業は日本農業と地域経済の根幹にあり、生産者も高齢化して、担い手の問題が深刻になっているなか、飼料用米は新しい設備投資や農業技術が基本的にはいらないという特徴(優位性)を持つ作物です。だからこそ、これを「転作」ではなく、国産飼料用作物として「本作化(目的化)」し、関連する法制度や流通の仕組みなども整えながら、元気よくやっていけるような流れをつくれればと思っています。ここを消費者も理解し、生産者を励まし支える必要があります。

危機乗り越えるカギはコメ守る「稲作」に

鈴木 今回のように「有事」で食料輸入が困難になった際、水田を活用した飼料用米の栽培ができていれば、それを人が食べることも可能でしょう。やはり安全保障上のコメをしっかり作れるようにしておくのが重要なのです。飼料用米の作付けは一つの「防衛策」でもあります。水田は国防の役割も果たしていると考え、もっと水田の多面的機能に注目してほしいと思います。水田は洪水を防止し、地域を守ってくれています。それは豊かな自然環境の源でもある。だからコストをかけても維持しなければならないのに、切り捨てに走るのでは話になりません。

政府は同じことを北海道のテンサイでもやっています。もう作るな。補填に使っていた予算が上限にきたから終わりだというのです。砂糖は1人7キロ摂取できる体制を作っておかないと暴動が起こるとされていて、世界中が砂糖の生産をしっかり維持し、国家戦略物資として保護しています。それをお金が続かないからやめるとは開いた口がふさがりません。

加藤 テンサイ振興の予算はいつ切られてしまうのかと、以前から私たち生活クラブも危機感を持っていました。鈴木さんが言われたように、砂糖の位置付けは確かに軽んじられています。沖縄のサトウキビも極めて軽んじられていて、沖縄県民は基地問題にも怒っていますが、サトウキビを軽視する政府にも相当に怒っています。ここで少し話を戻しますが、いざという時に家畜用に作った飼料用米を人間が食べればいいという話は制度上そう簡単ではありません。そういう危機対応にはなっておらず、飼料用米を勝手に食べると手が後ろに回ってしまうのです。

生活クラブが飼料用米の栽培普及に動きはじめたとき、自民党の加藤紘一衆院議員(山形県)に予算確保の必要を繰り返しお願いしていた関係で、遊佐町でお会いしたときのことです。食べたら「違反になります」と申し上げたのですが、「どうしても食べる」と繰り返しおっしゃっていたのが印象に残っています。遊佐町の飼料用米は主食用品種で、他の飼料用米の多くがインディカ(長粒種)系です。だから食べても主食用米と比べて遜色ありません。飼料用米は収量が多い(多収)であることが重要で、適地適作を考慮しつつ、多収を追求する品種改良が必要不可欠なのです。この品種の考え方をどうするかもこれからの課題だと思います。

鈴木 なるほど。食べられるのに食べてはいけない法制度ですか。確かに法令順守は大事ですが、いざという時は有事対応の視点に立って解釈を変更すればいいのではないでしょうか。いかなる場合も平時の解釈でやろうとすること自体、思考が硬直している証でしょう。今年2月、自民党に「食料安全保障に関する検討委員会(食料安全保障会議)」ができても「食料自給」という言葉を怖くて言えないような雰囲気だと聞きました。食料自給を口にすると予算を付けなければならなくなるからだそうです。とにかく食料は買えばいい。貿易自由化を進めればたくさんのところから買える。食料危機というなら「貿易自由化を進めて調達先を増やせばいい」という硬直した思考が主流です。

主要穀物をはじめとする食料に加え、いまや化学肥料の原料も入手困難に陥っています。化学肥料の原料は100パーセント中国などからの輸入ですが、売ってくれなくなっていて、このままロシアとベラルーシからの輸入ができなくなれば「今年分の肥料は何とか供給できても、来年以降の予定は全然立たない」と農協関係者が言っているぐらいです。

加藤 肥料原料が手に入らなくなるとすれば、農水省が突然提起して先ごろ国会で決定された「みどりの食料システム戦略」(以下、みどり戦略)、特に有機減農薬の方向性、たとえば2050年までに、化学肥料や農薬を削減し、日本の耕地面積の25パーセントを有機農業にするなどの選択をせざるを得なくなりますね。

鈴木 それしかないんですよ。江戸時代の農業みたいになるしかない。その循環型農業を見て、リービッヒというドイツの肥料学の大家が「こんなすごい国があるのか」と驚嘆しています。農水省のみどり戦略の担当者も「肥料原料はカリもリンも100パーセント輸入だからもたなくなる。だから、みどり戦略なんだ」と話していました。

もう一つ付け加えたいのが、みどり戦略が数値目標として提示している有機減農薬・無農薬農業に取り組む耕地面積ののうち100万ヘクタールが水田だということ。この点についても農水省の担当者が「ほとんど水田で考えています」と明言しています。
 

加藤 やはり大前提は水田を残すことであり、有畜や耕畜連携の可能性にかけるのが日本の未来を切り開く基軸になるとも思います。日本農業の未来は大規模化や輸出だという政府方針はやはり一面的で、そうなると化学肥料に頼る現実を突破できない好ましくない技術化やイノベーション(技術革新)に頼らざるを得なくなるだろうと思います。私は家族経営の農家が地域で知恵と技術を出し合い、「点から面へ」の連帯を通して有機農業の方向性を達成していく方向性を着実につくっていく、消費者もそれを支える。すでに危機のさなかにあって時間がないなかでも、それしかないと思っています。           
(次回に続く)

撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会・山田衛




すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命研究科教授。専門は農業経済学。東京大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て2006年から現職。主な著書に「食の戦争」(文春新書)、「悪夢の食卓」(KADOKAWA)、「農業消滅」(平凡社新書)、最新刊に「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)がある。自身が漁業権を保有することでも知られている。


最新刊「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)

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