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「飽食」と「呆食」の時代は過ぎ去ったのだから

対談(下) 東京大学大学院教授 鈴木宣弘さん
       生活クラブ連合会 加藤好一顧問

 

新型コロナ禍にウクライナ紛争、気候危機などさまざまな要因で日本の「食」が大きく揺らいでいます。いまはまだ小売店の店頭から食料品が消えることは幸いにもありませんが、はたして今後も大丈夫といえるでしょうか。その実状と課題解決の道筋について、前回に引き続き東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんと生活クラブ連合会の加藤好一顧問の意見を聞きました。

米国の「顔色」を常に意識し、動けない政治家

――岸田政権は「経済安全保障」を掲げていますが、そこに食料確保のための「自給力向上」という視点が欠落していることが前回のお話でわかりました。本当に首をかしげざるを得ないことです。とにもかくにも貿易自由化を進めれば食料危機を乗り越えられるという政治は、日本の食料自給の要であるコメと水田まで切り捨てようとしているのは信じがたい話です。日本には良質なコメがある。なぜコメを媒介に諸外国との連帯を強化しようという見地に立った政治ができないのでしょうか。日本が食料危機に直面しているとき、より深刻な事態に見舞われている地域が世界には数多くあるという現実を看過してはならないと思います。

鈴木 そうですね。行き過ぎた貿易自由化が経済力に物を言わせた富裕国が他国の食料を奪うことに通じているとの視点が失われているのは実に気になります。かねてから私は再三再四、アジアモンスーン地域とのコメを介した連帯を提唱してきました。それが国際関係の安定に大きく貢献する道と信じるからです。一国だけの安全保障というよりはアジア全体で助け合う仕組みを日本が率先して用意していくことが今後もますます重要になってくると思います。

これも何度も申し上げていることですが、コメが余っているというなら、政府が農業予算で買い上げて海外支援に回すなり、新型コロナ禍で生活が厳しくなっている国内の人たちに提供するといった機動的な対応をすべきなのです。
 

加藤 海外にコメを送るという選択もありますが、何より国際相場を高騰させないようにすることも重要になると思いますが、どうでしょうか。先生もご著書の「農業消滅」(平凡社新書)でそういう問題提起をなさっていますね。

鈴木 そのほうが確かに大きい効果が得られると思います。2008年の食料危機の際に日本が「コメを20万トン拠出する」と言っただけで、相場はガクンと下がりました。それほど日本のコメの力は強いということです。そのことは自民党の政治家も熟知しているはず。それでも彼らが動こうとしないのは米国の圧力が強いからです。コメの国際相場が低下すれば、世界市場における米国の利益が損なわれるという理由で、彼らは日本の「勝手」を許しません。これに手向かえば政治生命に関わるため、日本の政治家は動かないのではなく動けないのです。

「2030年に農業消滅」?その危機をどう乗り越えるか

加藤 米国の顔色をうかがわざるを得ない政治が日本農業を窮地に追い込んでいく流れと米国の食料戦略による世界支配については、「農業消滅」に具体的かつ詳細に書かれています。当初、タイトルから推察したのは、そのような暗く悲観的な内容ばかりなのかなと思いましたが、読ませていただいたら全然違うことがわかりました。とりわけ後半は日本農業を消滅させないための提言が数多く散りばめられているという印象です。その本の冒頭で鈴木さんは2021年2月7日に放送された「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点(2)飽食の悪夢~水・食料クライシス~」を例に引き、番組は2050年に日本が飢餓に直面すると警告していたが、その15年前の2035年には日本の食料自給率は大幅に低下するという危機感を示されています。そこにウクライナ紛争という形で「有事」が拍車をかけました。

鈴木 本当にNHKは頑張ってくれたと思いますし、その示唆した内容は衝撃的なものでしたが、新型コロナウイルスの感染爆発で世界的に物流が麻痺(まひ)したため、種(たね)の輸入が滞ったことで野菜の種の90パーセントが外国で生産されていることが明らかになりました。生産国が輸出規制に踏み出したり、物流が停滞したりすれば、野菜は現状の8パーセントしか栽培できません。

飼料用トウモロコシの輸入も激減し、その98パーセントは国産とされる鶏卵もヒナの100パーセント近くが輸入ですから、すぐ一巻の終わりじゃないかということです。そんな危機的なレベルが今回のウクライナ紛争で一段と高まってしまった。2035年どころか、いまの日本は薄氷の上にいると認識しなければなりません。これまで私の言葉を「まさか、そんなぁ」と聞いていた人も「どんどん言っている通りになるんだけど」と深刻に受け止めてくれるようになってきました。
 

加藤 国連の持続的な開発目標である「SDGs」の達成期限が2030年。この2030年を重視するのは環境問題の分野が多いわけですが、日本農業の問題という点では2030年に昭和一桁世代といわれている、戦後の日本農業を支えてきた生産者たちが、おそらく完全にリタイアしている時期になります。

鈴木 その意味でも農業消滅です。このままでは自然にそうなります。加藤さんのご指摘通り、あの本の後半部分では農業消滅の危機をどう乗り越えるかという点に力を注ぎました。種から始まって生産から消費までの繋がりを強固にし、だれもが不安なく口にできる食べ物を確保していくネットワークを構築できれば危機は回避できるのではないかと思うのです。それには生活クラブ生協が取り組んでいる「産地提携」のように、もっと消費者が生産に関わり、加工・流通事業者も含めた支え合いの強化が必要なのです。その核になるのは協同組合。生協と農協がしっかりと核になってネットワークを繋げる役割を果たしてもらいたいですね。

協同組合が中心となった「産地提携」の強化を

加藤 もう一つあります。SDGsの達成に向けてアプローチを続けていく際、農業に関していえば「フードマイル」と「バーチャル・ウォーター」などの視点を持つ必要があると思います。他国の食料を経済力でかすめ取る行為は水資源の収奪にも通じていることを忘れてはならないと思うのです。その一方で日本の国土は、輸入穀物をはじめとする人間の諸活動が発生させた「廃棄窒素」によって、窒素汚染が尋常ではないレベルに達しています。これは大問題ですね。だから食料は可能な限り自給していかなければならないとの考えから、生活クラブは産地提携を進めてきました。だれもが不安なく口にできる食料を手にするには、いわゆる「顔が見える関係」だけでは難しいでしょう。「顔が見える」ことにプラスして互いが対等互恵の関係にあることが重要ですよね。私は協同して事を成すという意味を込めた「提携」という言葉を重視し、そこに大手小売業との根本的な違いがあり、生活クラブが協同組合たるゆえんがあると考えています。

鈴木 そういう産地提携を協同組合が核となって各地で進めてもらいたいのです。その動きをバックアップするための根拠法となる「ローカルフード法」(仮称)を議員立法で提案する準備を国会議員の川田龍平さんが中心になって進めています。この法律を根拠法として政府予算を生み出し、学校給食に地元の食材を使うための補てんに振り向けることもできます。この法律に加えて農業予算を消費者支援に振り向ける米国型の制度も導入すれば、かなり状況は好転するのではないかと思っています。

加藤 地域への予算措置はモデル事業的なケースでは適用されているようですが、それ以外となるとなかなか難しいうえに常に「上から目線」で全国一律の画一的な運用で硬直していて、実に使い勝手が良くないのが実状ではないですか。

鈴木 そうです。柔軟性もなく、使い勝手が悪いわけです。どうしてそうなるのかを農水省に尋ねると「自分たちの責任じゃない。財務省だ」と言います。予算を付けてもらうために財務省に出向くと「抜け道があるようなものは認められない。きちんと縛りをかけろ」と簡単にはねられてしまうというのです。
まるでわざと使いにくくしているかのようです。そんな発想しかできない人間が法律の杓子定規な解釈だけ勉強して「あれは出来ません」「これも出来ません」と平然としているのであれば、構造そのものがもう腐っているというしかありません。前回、飼料用米振興のための予算措置や穀物栽培促進のための助成金の打ち切りについて触れましたが、トウモロコシや牧草などの家畜飼料の輸入が大幅に滞っているなかでの予算切りですから、時代錯誤もはなはだしいお粗末な対応です。

加藤 少し話は変わりますが、とにかく酪農家はとんでもない事態に陥っていて、コメと同様に牛乳も難儀な状況が続いていますね。地域によって温度差はありますが、乳牛を殺処分すれば1頭に対して5万円支給するという対応はもとより、輸入される牧草や穀物飼料にほぼ全面的に頼らざるを得ない千葉の酪農は大変どころの騒ぎじゃありません。まさに死活問題ですよ。

鈴木 千葉は本当に大変ですよね。そうしたなか、千葉県いすみ市には地元で生産した飼料用米を牛に与えている牧場があります。エサのほとんどがコメ。輸入飼料はほとんど無しで酪農を続けています。

加藤 私もJAいすみに講演に行ったことがあります。いまの低すぎる日本の食料自給を、それでも根本から支えているのはコメであり、コメが基幹食料であることを私は日ごろから強調しています。しかし、その位置付けが揺らいでいるのが大変気になります。やはり、コメの位置付けを再確認するとともに、飼料用米を「ついでに作っているもの」という位置からもっと積極的な位置に転換させなければならないと思っています。

鈴木 ヨーロッパでは主たる飼料は小麦。最も多く生産可能な穀物を有効に使うのが飼料ですよね。その意味でいうと日本は当然コメなんですよ。いま、コメを大事にしなくてどうするかと私は言いたい。あえて繰り返しますが、もはや食料危機に備えよという段階ではなく、すでに私たちは食料危機のただなかにいることを一人でも多くの人に気づいてもらいたいのです。これは脅しでも何でもありません。日本が経済力に物を言わせ、世界の食料を買い漁り、挙句に大量の食品ロスを生んだ「飽食」と「呆食」の時代は過ぎ去ったのです。加藤さん、今日はありがとうございました。

加藤 こちらこそありがとうございました。今後ともよろしくご指導ください。
 

撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会・山田衛




すずき・のぶひろ
1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命研究科教授。専門は農業経済学。東京大学農学部を卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て2006年から現職。主な著書に「食の戦争」(文春新書)、「悪夢の食卓」(KADOKAWA)、「農業消滅」(平凡社新書)、最新刊に「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)がある。自身が漁業権を保有することでも知られている。


最新刊「協同組合と農業経済」(東京大学出版会)

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