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ウクライナ侵略下の世界を見据えて――私のプランB――

【寄稿第1回】立教大学大学院特任教授 金子勝さん

 

世界は50年周期の大変動に揺れている

新型コロナ・ウイルスが何度も流行しています。変異株が生じるたびに感染の波が起き、2022年8月段階では第7波になりました。これまでに累計6億人以上の感染者が確認され、死者数も647万人を超えています。2022年8月20日段階で、ついに日本は新規感染者数も死者数も世界1位になりました。第7波をもたらした「BA.5」という変異株は子どもに感染しやすく子どもの死者も出ています。こんな感染症の世界的流行(パンデミック)は100年前のスペイン風邪以来のことであり、グローバル化したサプライチェーン(供給網)の寸断をもたらし、物価を押し上げています。

さらに2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵略が起きました。同年6月段階で、ウクライナ内外の避難民は1千万人を超え、多数の子どもを含む民間人が亡くなっています。この戦争も終結する兆しがみえていません。そのために石油・ガスや穀物の価格が急騰し、世界的な物価上昇が起きています。米国を中心に中央銀行が金利を引き上げているために、しだいに景気が後退を始め、不況下の物価上昇(スタグフレーション)になりかけています。石油ショック以来、50年ぶりのことです。
黒田東彦日銀総裁や岸田文雄首相は「この物価上昇は一過性なもの」と言いました。しかし、どうもそうではなさそうです。

歴史を振り返ってみると、人類は50年周期で、戦争、エネルギー危機、パンデミック、大きな産業構造の転換、社会不安などが同時に起きる時代を繰り返してきました。以下に見るように、現在の2020年以降はそうした「節目」の時代に当たります。こうした50年周期に産業や技術が大きく変動するという現象は「コンドラチェフ循環」と呼ばれ、「イノベーション」概念を作ったヨーゼフ・シュンペーターが重視しています。

●1873年不況~:帝国主義(列強の植民地争奪戦)の時代へ
●1918~20年:第1次大戦、ロシア革命、スペイン風邪
→第2次大戦をはさんで重化学工業化と冷戦体制 
●1970年代:ニクソン・ショック、第4次中東戦争、石油ショック
→変動相場制と金融自由化、G7(主要7カ国首脳会議)体制
●2020年~:新型コロナ・ウイルス、ウクライナ侵略、中国不動産バブル崩壊
→米中デカップリング(分断化)とスタグフレーション

シュンペーターはなぜ50年周期なのかはきちんとした説明をしてはいませんが、50年は生産年齢(15歳~65歳)の一世代に相当し、この区切りでエネルギーや情報通信などの技術が変わってきます。たとえば、高齢者はテレビや新聞を見ますが、若者はネット以外見ない人が多いとされるように、です。この50年で戦争の生々しい記憶も消え、記録になっていきます。そうなると、記録を書き換える歴史修正主義が横行し、また戦争を繰り返すリスクが高まるのです。

この視点に立つと、新型コロナ禍もロシアのウクライナ侵略も、そして米中対立に伴う世界経済の分断化(デカップリング)がそう簡単に終わるようには思えませんし、少なくとも状況をあまり甘く見てはなりません。

石油・ガス資源を戦争の手段に、民主主義の弱点突く


日本のテレビ報道ではどちらが優勢か劣勢かの戦況を伝えることに力点が置かれ、まるで戦争がゲームであるかのような印象を多くの視聴者に抱かせがちです。これでは、この戦争の歴史的意味をもう少し深く踏み込んで知らせることは難しいでしょう。

その意味で、まず何より注視しなければならないのは、50年前に第4次中東戦争を契機にして起きた石油ショックと極めて類似した状況に現在の世界が置かれているという点です。なぜなら、今回の侵略戦争が最後の「石油戦争」という性格が強いからです。ここでロシアがウクライナを侵略した経緯を思い起こしてみましょう。

1989年11月9日にベルリンの壁が壊れ、旧ソ連・東欧諸国の「社会主義体制」がドミノ倒しのように崩れ去って以降、「自由と民主主義」の陣営が「勝利」したとして米国は単独行動主義(ユニラテラリズム)を強めていきました。2001年にブッシュ・ジュニア政権が成立し、背後にいるネオコン(新保守主義者)が主導して、大量破壊兵器が存在するとして証拠なしにイラク戦争を開始しました。

ところが、大量破壊兵器が存在したという確かな証拠が最後まで得られず、大義のない米英のイラク戦争には、中国・ロシアだけでなく独仏中心のEU諸国も反対しました。その後、米英諸国中心に侵攻したアフガニスタン、イラクとシリアは国家秩序が壊れ、大量の難民があふれて欧州に流入していきました。それが移民排斥を主張する極右勢力の台頭を招き、西欧福祉国家を動揺させるとともに、米国の覇権は揺らぎ、世界の中心がない状況が生み出されたのです。

さらに、2008年にリーマン・ショックが起きると、中国は同年11月に4兆元(約57兆円)の景気対策を実施し、G20(世界20カ国による経済・金融国際会議)体制を軸に世界経済をけん引し始めました。ロシアのプーチン大統領は、この時期に自国のガスパイプラインに沿ったチェチェン、ジョージア、シリアと14年戦争を始めました。ウクライナ(そして次はモルドバと言われている)侵略は、この14年間続けてきたロシアの化石燃料をめぐる領土拡張戦争の一環だと考えられます。エネルギー資源による支配を巧みに強化しながら、軍事力を背景に領土拡張を狙う古色そう然とした「帝国主義」といってもいいでしょう。

実際、ロシアのプーチン体制は、石油ガス、鉱物資源などの国有企業を民営化した新興財閥(オリガルヒ)を従えた支配体制です。極端にいえば、税金に依拠することなく、新興財閥企業の収入のみで、軍備を拡張して軍事大国化をはかることができる体制だといえます。これに対して、G7諸国はまずオリガルヒの資産を差し押さえました。そして、EU諸国も2027年までロシア産石油・ガスの依存をゼロにする計画を打ち出しました。これに対して、ロシアのプーチン大統領もEU諸国へのガス供給を止める手段をとっています。石油ガスの価格上昇を生じさせ、各国政権の支持を揺るがすためです。自国メディアを専制的に抑えられるロシアの「優位性」は、選挙で揺さぶられる度合いが西欧諸国より低いことにあります。まさにロシアのプーチン大統領は石油・ガス資源を戦争の手段として、民主主義の弱点を突いて武力で領土拡張を図ろうとしているのです。

実際、旧ソ連の国家保安委員会(KGB)出身のプーチン大統領は、各国の移民排斥のポピュリストや右派政治家たちとの関係を深めていきました。米国のトランプ前大統領、フランスのルペン国民連合党首、インドのモディ首相、ブラジルのボルソナロ大統領、そして日本の安倍晋三元首相らなどがプーチン大統領と良好な関係を築いてきたのです。

なぜ、ドイツの「再生可能エネルギー法」を報じないのか?

にもかかわらず、ロシアのウクライナ侵略が資源エネルギーをめぐる戦争であるという肝心のポイントを日本のメディアは十分に伝えていません。なぜなのでしょうか。

世界の動きを見る際には、ワシントンとモスクワばかりではなく、EU諸国の動きを追う必要があります。そうするとウクライナ侵略戦争が未来に向かった資源エネルギー戦争であることが見えてきます。ロシアがウクライナに軍事侵攻した直後の2022年3月8日、ドイツは「再生可能エネルギー法」を採択しました。この法律は残存する原発3基を予定通り廃炉にしたうえ、現在44パーセントまでになった再生可能エネルギー(再エネ)の割合を2030年までに80パーセントに引き上げ、2035年までに100パーセントにするという野心的なものです。ドイツは再エネを中心とした世界的なエネルギー転換の先頭に立とうとしています。

ロシア軍がチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を占拠し、さらに欧州最大のザポリージャ原発を攻撃したことで、原発は戦争に巻き込まれると巨大な核兵器と化すことが明らかになりました。再エネは、ドイツにとって原発の危険性を避けながら地球環境を守るエネルギーであると同時に、戦争を避け、戦争に二度と巻き込まれない非戦のための「自由のエネルギー」なのです。ところが、日本のマスメディアは最も肝心なドイツの「再生可能エネルギー法」をほとんど報じることなく、ロシアがガス供給を断ちきるたびに、ドイツ国内で出てくる原発廃炉や石炭火力発電廃炉を延期する動きばかりを伝えています。「国境なき記者団」による報道自由度ランキングによれば、日本は昨年より4位も順位を下げ、180カ国中71位となりました。やはり日本のメディアは政府や大企業への忖度(そんたく)を続けているのでしょうか。あれほど悲惨な福島第一原発事故を引き起こしたにもかかわらず、日本政府が電力を地域独占する大手電力会社の責任を回避させ、原発再稼働を進めようとしていることへの批判も日本のマスメディアからは聞こえてきません。

ロシアによるウクライナへの軍事侵略は、いかにして世界がエネルギー危機を克服しながら、化石燃料やウランを燃やす必要のない再エネへの移行を引き起こせるかどうかの大きな歴史的転換点です。あまたの人が命を落とす戦争の悲惨な現実を目に焼き付け、二度と同じ過ちを繰り返さないために、たとえささやかであっても、自分が何をすべきかを考える必要があるのは間違いないのです。


撮影/魚本勝之





かねこ・まさる
1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、立教大学大学院特任教授、慶應義塾大学名誉教授。『平成経済衰 退の本質』(岩波新書)『メガリスク時代の「日本再生」戦略「分散革命ニューディール」という希望』(共著、筑摩新書)など著書・共著多数。

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