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ウクライナ侵略下の世界を見据えて――私のプランB――

【寄稿第2回】立教大学大学院特任教授 金子勝さん

この10年で再エネ発電コストは大幅に低下


人類に「石油の戦争」をやめさせるには、自然エネルギー(再生可能エネルギー)への転換が必須です。同時に化石燃料を使わず、核の危険を避けることができる再生可能エネルギー(再エネ)が普及すれば、エネルギーの値段は飛躍的に下がるはずです。おまけに原料を海外に依存しないで済み、貿易赤字を減らすのにも貢献します。そしてロシアにガス供給を断ちきられることもなく、エネルギー安全保障にもかなっています。

実際、この10年間、再エネの発電コスト低下と普及はめざましいものがあります。2009年から2019年の間に、風力発電の発電コストは70パーセントも低下しました。全世界の発電能力は 160GW(ギガワット)から 651GW に拡大しています。ちなみに 1GW は原発一基分に当たります。太陽光発電は同期間に発電コストは90パーセントも下がっており、発電能力は 23GW から 627GW に27倍も増えました(飯田哲也・金子勝『メガリスク時代の「日本再生」の戦略 「分散革命ニューディール」という希望』筑摩書房、2020年)。

しかもドイツでは一定期間(10~20年間)に発電した再エネ電力を固定価格で買い取る「固定価格買取制度(フィード・イン・タリフ=FIT)が、同制度発足から20年を経過し、コストを回収し終わった再エネが出始めています。それはタダ(無料)の自給エネルギーになります。ところが、日本の経済産業省と大手電力会社は「再エネはコストが高い」として、その普及に及び腰でした。電力既得権益は経産省の保護に守られ、地域独占で利益を上げてきたのです。もっと日本が再エネ普及を急いでいれば、こんなにバカ高い電力料金を支払わないで済んだはずでした。当たり前ですが、再エネは普及当初はコストが高くても、普及が進めば規模の経済性(スケールメリット)が働き、コストは確実に下がります。液晶テレビが10~20年前と比べてものすごく安くなっているのと同じです。

表向きは「再エネ推進」だが、原発再稼働と小型原発開発が中心

再エネによるエネルギー自給を目指しているドイツでは、協同組合が圧倒的にその主体となっていることが注目されます。ドイツの協同組合は歴史が長く、エネルギー分野でも協同組合が設立されています。協同組合は株式会社と違って組合員による「一人一票」の議決決定が可能であり、エネルギー民主主義が体現できます。しかし、日本ではエネルギー協同組合の設立が認められておらず、生活協同組合が再エネ普及のための新会社を設立する形になっています。生活クラブ生協も2014年に生活クラブエナジーを設立しました。が、ドイツと比べるとまだまだ不十分です。なぜでしょうか。

あれだけ悲惨な原発事故を引き起こしながら、その失敗の責任を日本では誰一人としてとろうとしないからです。原発事故から10年以上がたった2022年7月13日、東京地裁が東京電力の勝俣恒久元会長ら4人の経営者に対して13兆円の賠償支払いを求める画期的な判決を出しましたが、それまで東京電力の経営者も経産省・資源エネルギー庁も責任をとってきませんでした。

東京電力は事実上倒産した「ゾンビ企業」であり、もはや東芝も利益を上げる部門を売り払ってしまった企業です。にもかかわらず、政府と経産省は原発再稼働に執着し続けています。実際、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)を掲げ、表向きは再エネ推進を口にしながら、その内実は原発再稼働や小型原発開発の推進が中心になっています。おまけに帝国データバンクの調べでは、2022年6月8日時点で新電力104社が倒産や撤退をしているのに、何の対策もとろうとしていません。
 

それどころか、政府は「新電力潰し」に走っている面まであります。2020年10月には本来責任がない新電力に対しても、福島原発事故処理費用(賠償負担金と廃炉円滑化負担金)を上乗せした託送料金を請求しています。そして同年、原発や石炭火力などのコストを新電力に負担させるために、電力の安定供給のためと称して「容量市場」を創設しました。実際には北海道胆振東部地震でも明らかなように、大型火力発電はリスク発生時にベースロード電源としては機能しなかったにもかかわらず、です。さらに発送電分離を曖昧にし、東京電力は持ち株会社、関西電力は送電会社を子会社化して地域独占を維持しようとしてきました。

新型コロナ禍やウクライナ侵略を背景にした化石燃料価格の高騰を契機に、8割近い発電量を独占する大手電力会社が容量市場で電力をまず確保し、余剰電力を電力卸売取引所に出すという構造が価格の暴騰を引き起こし、新電力は経営困難に陥ったのです。

残念ですが、このまま再エネ供給を担う新電力が倒産していき、エネルギー転換に失敗したまま原発再稼働への流れが加速すれば、日本の産業衰退は一層ひどくなるでしょう。

岸田政権の描く「公益資本主義」の実態は?

岸田文雄政権に「公益資本主義」という考え方が取り入れられているとされます。「公益資本主義」とは、アメリカでも盛んですが、最近では事業家の原丈人氏が提唱した考え方で、経営者や株主の利益だけでなく、企業が取引先や消費者を含めてステイクホルダー(利害関係者)全体を考え地域社会にも貢献する経営のあり方を指します。

しかし、実際の政府の政策方針を見ると、どうも「公益資本主義」とは違っているようです。先にあげたGXも大手電力会社の原発再稼働優先ですし、DX(デジタルトランスフォーメーション)は GAFA(グーグル、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン)に勝てない日本のIT企業をマイナンバーという官製需要で救っていくという話です。しかもセキュリティを無視して、あらゆる個人情報をひとつのカードに収めます。この他にも採算や環境破壊で問題を抱えるJR東海のリニア新幹線、防衛費倍増で米国製武器製造のライセンス生産にますます依存していく重化学工業など、産業衰退が著しいなか、政権政党と結びつきが強い「公益」的企業で「成長」を図る路線になっています。

日本は国内で新型コロナ・ウイルスのワクチン開発もできず、ITの接触確認アプリもトラブルだらけの実態を露呈しました。5G(第5世代通信)やクラウドコンピューティング、半導体やコンピュータプログラム、デジタル通信機器、リチウム電池、バイオ医薬など先端技術分野でも国際競争力が次々と低下しています。そうしたなか、安倍政権下で原発の新設や輸出、リニア新幹線の建設や新幹線の輸出、ロシアの石油ガス開発など、電力、ガスなどの「公益」企業を牛耳る一部日本大企業が利益を上げる巨大国家プロジェクトが次々と前面に出るようになっています。しかも、それらは必ずしもうまくいっていません。安倍政権はプーチン政権と蜜月関係になりましたが、本来なら公益的であるべき企業が、まるでロシアのオリガルヒ(新興財閥)のようになっています。

協同組合がエネルギー問題にコミットする重要性


ロシアは石油ガスの資源を使った領土拡張を狙い、オリガルヒから戦争の財源を調達しています。他方、ドイツでは戦争の根本要因となるロシア産の石油ガスの依存を止め、協同組合が主体となって非戦のための「自由なエネルギー」として再エネによるエネルギー自給を図ろうとしているのです。

考えてみると、誰もが生活していくために使用する電気やガスというエネルギー供給を一部の独占的企業に任せと、やり方次第で利益を独占できてしまうという問題をはらみます。そしてロシアやサウジアラビアなど国家財政を石油やガスなどの資源収入に依存する国は、独裁制国家になる傾向が強いという点も看過できません。

一方、協同組合は構成する組合員の意見が反映しやすく、その利益の使い道も一部の権力者が思うままに使える仕組みにはなっていません。これからの時代には地球温暖化(気候危機)だけでなく、戦争を避けることに役立つエネルギーを創造し、使うようにしなければなりません。それには協同組合がエネルギー問題にコミットすることが非常に大事になってきます。大手電力会社が原子力ムラの岩盤となって再エネ普及を妨げている日本の現実を鑑みれば、課題解決の困難さは容易に想像できます。しかし、それゆえにこそ対抗するパワーとして協同組合の力がとても大事になるのです。生活クラブをはじめ、多くの生活協同組合が自分たちのエネルギー会社を設立するようにもなっています。時代はこれからです。

撮影/魚本勝之





かねこ・まさる
1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、立教大学大学院特任教授、慶應義塾大学名誉教授。『平成経済衰退の本質』(岩波新書)『メガリスク時代の「日本再生」戦略「分散革命ニューディール」という希望』(共著、筑摩新書)など著書・共著多数。

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