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生協の食材宅配【生活クラブ】
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上伊那から届くリンゴ


 
1983年、生活クラブ東京と長野県南部の伊南農協が出会い、野菜の直接取り引きを始めた。交流を通して米や果物の取り組みへと発展する。その後、伊南農協は近隣の四つの農協と合併し、JA上伊那が発足した。98年以降、生活クラブ連合会と提携。今では多くの農産物を生産、供給する主産地のひとつだ。リンゴは8月末の「つがる」から年末の「ふじ」まで、さまざまな品種を生産する。

宮田村の決意

伊那谷は、南アルプスと中央アルプスにはさまれ、諏訪湖が近い辰野町から伊那市や駒ヶ根市に続く。比較的平地が多く、明るく開けた谷だ。諏訪湖に源を発し太平洋に注ぐ天竜川が、谷の両岸に肥沃な河岸段丘をつくってきた。朝晩の寒暖の差が大きく冷涼な気候の中で、米や果樹、野菜など、さまざまな農産物が作られている。

清水純好さんと妻の清水里美さんは天竜川の西岸にある宮田村で、40年前からリンゴを生産している。園地は、天竜川の川岸から30メートルほど高い所にある段々畑だ。以前は田んぼだった土地に、純好さんの父親が苗木を植えたことが始まりだった。

1960年代、米が生産過剰となり、70年に国による米の生産調整(減反政策)が始まった。当時、伊南農協管内にあった宮田村は、農協と共に水田を減らす一方、区画整理をし、土地の利用を村全体で計画し、管理する独自の農地政策をとった。

例えば、リンゴ栽培に適した土地は「リンゴ団地」、牧草の栽培に適した土地は「牧草団地」などとして村が管理し、農家が作りたい作物によって農地を提供する。「土地は一人一人のものであるが、土はみんなのもの」という考え方に基づく方法で、当時としては画期的な政策だった。

清水さんの土地は川岸近くにあるが、そこは牧草団地となり他の人が使い、リンゴ栽培に適した棚田だった土地を23アール借りた。ふじやつがる、「千秋(せんしゅう)」の栽培から始まり、「シナノリップ」「秋映(あきばえ)」「シナノゴールド」へと品種を増やし、園地を107アールまで広げてきた。

JA上伊那の営農経済部・販売戦略課の清水里枝子さんは、「自分の土地は自分で使いたいと言う人が多く、毎晩毎晩話し合いを重ねてこの方式に変えていったと聞いています。すごいことだと思いました」。団地としてまとまることによって防除など共同でできる作業が多くなり、協力し合える兼業農家が増えた。その後、この方式は、他の市町村でも取り入れられるようになる。
清水さんのリンゴの園地からは、中央アルプスの山並みが間近に望まれる
つがる。暑い時期から出回る。やさしい甘さの果汁をたっぷり含む

リンゴ畑が足りない

全国的に、農家の高齢化や後継者不足が進んでいるが、90年代、上伊那でも同じように耕作放棄地が目立つようになった。使わなくなったリンゴ団地は農協が管理し、農協職員が作業をしていたこともある。

このような状況のなか、JA上伊那は、所属する市町村と協力し、農業者を育てようとインターン制度を始めた。就農したい人を募り、土地を用意し給料を払いながら、農業や、生産者になるための勉強をする機会を提供する。「10年続かない場合は全額返金してもらう、という厳しい制度です。挫折した人もいますが、定着する人は多いですよ」と、JA上伊那の清水さん。

土地の整備が進み、リンゴ団地ができていたことも新規就農者が増える要因だった。空いている園地の持ち主との合意が取れれば、その土地を使うことができる。さらにすぐそばにベテランの農家もいて、わからないことは教えてもらい、時には「やってるかい!」と声がかかる。「もう、リンゴ畑が足りない状態です。空くのを待っている人がいるんですよ」と里美さん。高齢になり作業ができなくなるリンゴ生産者は確かに多いが、それ以上に、Iターン、Uターンで、宮田村を中心に上伊那でリンゴ栽培を始めたいという人が増えている。
清水純好さん
清水里美さん

毎年が1年生

伊那谷では、リンゴの花が咲く時期が以前より早くなった。4月末から5月中旬に咲いていたが、今は、まだ寒気が残る4月中旬に咲き始める。純好さんは「果樹の生育が早くなり、温暖化の影響だとはよく言われます。逆に低温になり、霜が降りる日も増えていますよ」と、10年ほど前から異常気象を身をもって感じている。

「昨年は花の時期に、地面が真っ白になるほど霜が降りました。今年は霜にはあたりませんでしたが、マイナス2度から3度の低温の日が続きました」。寒さが続くと花が凍ってしまい実を結ばなかったり、実になる部分が傷んでしまうことがある。そうすると収穫量が減り、収穫できても果実の表面に痕が残る。「でも、味に変わりはないのです」。清水さんのリンゴ畑には大きな防霜ファンが取りつけられ、開花時期の降霜からリンゴの木を守っている。

また、リンゴの品種によっては、上伊那で作りにくくなっているものもある。8月下旬から収穫が始まるつがるは色がつきにくくなった。「寒さにあたると赤く色が変わりますが、最近は夜も気温が下がらなくて、きれいに色づかないのです」と里美さん。気象条件により収穫が偏らないように、早生(わせ)のつがるやシナノリップから、晩生(おくて)のふじまで、六つの品種のリンゴを栽培する。「気象条件は1年1年違います。何事もなく順調だった年はありませんでした。毎年が1年生ですよ」。気候の変動が大きいが、今までの経験があるからこそ、対応できる場面もあるのだという。

集いが生まれる

右端はJA上伊那の営農経済部販売戦略課の清水里枝子さん。左端は同じく守谷瑠美さん。守谷さんは生活クラブ連合会を担当する。「リンゴの収穫時期は忙しいです。新鮮でおいしいリンゴを届けますよ」
清水さんは組合員との交流やリンゴのオーナー事業にも積極的に取り組む。

2009年から生活クラブ長野の組合員が、清水さんの園地のシナノゴールドの摘果作業を手伝い始めた。リンゴは5月中旬に、一つの花芽に5から6個の花を咲かせる。放っておくとそれが全部実になるが、養分を取り合うため大きくなれない。中心の実を一つだけ残し、他を全部取り除くのが摘果だ。二人で園地を管理する清水さんにとって、組合員による援農は大きな力となる。多い時は30人もの参加があり、秋には収獲の喜びを分かち合ってきた。コロナ禍で援農は途切れたが、交流の再開を心待ちにしている。

リンゴのオーナー事業は、宮田村とJA上伊那が、20年ほど前から共同で始めた消費者との交流の試みだ。消費者がリンゴの木や枝のオーナーになり、収穫の時はそこになった実をもらう。

清水さんがオーナー事業に参加してから20年以上がたつ。「品種はふじで、多い時には70本ほどありました。11月末の収穫の時には、オーナーの家族や友人が大勢集まります。長く続けている人もいて、消費者の方たちといっしょに年月を過ごしているようですよ」と純好さんと里美さん。

10月末、伊那谷は紅葉が始まり、赤く色づいたふじが出荷を待つ。作る人と食べる人、そこをつなぐ人たちが守り育ててきたリンゴの生産地だ。
シナノゴールド。清水さんが作り始めた頃は黄色いリンゴは珍しく、他の生産者は栽培を敬遠していた。食味が良くて今では人気の品種

撮影/田嶋雅巳
文/伊澤小枝子

リンゴの風景

JA上伊那のリンゴの生産者、宮田村の清水純好さんと清水里美さんの園地では、リンゴの木が並木のように植えられていた。

1本の木の枝を広く茂らせるのではなく、一定の間隔で1列に植える。欧米で長い間行われている栽培方法で、長野県が台木などを研究し、1970年代から取り入れた「高樹高密植栽培」だ。単位面積当たりの収穫量が多く、高所作業車を使い、花摘み、摘果、収穫などの作業が効率的に行える。「日がよく当たって着色が良いです。玉のサイズもそろいます。リンゴの木としてはのびのびと枝を広げたいかもしれませんが」と純好さん。10年ほど前から改植を始め、園地のほぼ半分の木がこのような樹形となった。

清水さんがリンゴ栽培を始めたのは40年ほど前。当時は早生の「つがる」と晩生の「ふじ」が主流だった。中生(なかて)の品種も作ろうと「千秋(せんしゅう)」も作っていたが、果実が育っても雨にあうと軸の周りが割れて傷ができてしまい、収穫が難しいリンゴだった。

千秋は、酸味と甘味のバランスがよく、きれいな赤い色をしている。ジュースにしてもおいしく、支持するファンが多い。また、「シナノゴールド」や「秋映(あきばえ)」などの味を決めるため、かけ合わせる親として欠かせない存在だ。

1983年、生活クラブ東京は、伊南農協(現在はJA上伊那に統合)と提携を開始した。当初は野菜の生産地としての提携だったが、交流が深まるなかで、”千秋”というリンゴを知る。作りづらいため生産する農家が少なくなっていたが、早生のつがるから、晩生のふじの間に食べるリンゴとして千秋を残していきたいと、生産者に提案した。生産者は農法や栽培技術を工夫し、おいしくて安心して食べられるリンゴ作りを目指すことにした。両者の想(おも)いは「You‐Iりんご」という名前に託され、84年から取り組みが始まる。

You‐Iりんごは、少数の品種に偏ることなく、自然災害や市場の価格の影響から栽培農家を守り、経営を安定させ、上伊那をリンゴの産地にするという目的もあった。栽培品種にふじも加わり、98年度からは、生活クラブ連合会とJA上伊那の提携の中での取り組みへと発展した。

しかし、千秋は作りづらい品種であることに変わりはない。全国でも生産量が少なくなり、上伊那では生産する農家が5軒に減った。酸味よりも甘味があるリンゴが好まれ、中生の品種として開発された「シナノスイート」やシナノゴールドへと移っているのが現状だ。

産地の風景は変わっていくが、上伊那から届くリンゴには、変わらず、You‐Iりんごの想いが込められている。

*上伊那で生産される「You‐Iりんご千秋」は、規格に合うもの全量が生活クラブ連合会へ出荷される。生産量が少ないため、他の産地のものと一緒に「千秋」として取り組まれている。
 
撮影/田嶋雅巳
文/本紙・伊澤小枝子
 
『生活と自治』2022年11月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2022年11月20日掲載】
 

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