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【ワーカーズ法施行・記念鼎談】地域に働き方をつくり、困りごとを解決する力に

労働者協同組合法(ワーカーズ法)は2020年の制定から約2年たったこの10月1日に施行され、新たに労働者協同組合が設立できるようになった。1998年に成立し社会に普及したNPOのように地域にワーカーズが広がることが期待される。法制化に向けて長年活動してきたワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン(WNJ)の井上浩子さん、小柳智恵さん、労働者協同組合を研究する鳥取大学の菰田(こもだ)レエ也さんの3人が、ワーカーズ法の意義や可能性、今後の課題などを語り合った。


菰田レエ也さん

こもだ・れえや 鳥取大学地域学部講師。1988年生まれ。主な研究テーマはサード・セクター(NPO・労働者協同組合・社会的企業)、コミュニティ再構築の理論と実践、社会的連帯経済、就労支援と地域づくり。研究とともに、東京にあるワーカーズのNPO法人「コンチェルティーノ」のメンバーとしても活動している。
 

小柳智恵さん

こやなぎ・ともえ ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン(WNJ)事務局長。東京の生活クラブから委託を受けてデポー東村山の施設管理を行う一般社団法人「ワーカーズ・コレクティブ凛」の2006年設立当初からのメンバーで、代表も務めた。2014年から東京ワーカーズ・コレクティブ協同組合の理事長、WNJ運営委員などを務めたのちに現職。
 

井上浩子さん

いのうえ・ひろこ ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン副代表。神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会専務理事。1999年に神奈川で生活クラブの配送以外の業務を委託されている協同組合事務局W.Co Jamのメンバーとなり、2008年から6年間代表を務めた。その後、神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会の常務理事を務めた後に現職。

ワーカーズが当たり前の存在に


総菜を手作りする企業組合ワーカーズ・コレクティブにんじん(神奈川県)のメンバー。1982年に設立されたワーカーズ・コレクティブ第1号だ(撮影/諸星美保)
菰田 こんにちは。僕は今、鳥取大学で労働者協同組合をテーマに研究をしていますが、大学院生の頃から東京のワーカーズ・コレクティブの活動に参加しながら、研究を続けています。対象から一歩引いて分析するのが一般的な研究方法かもしれませんが、僕は一緒に活動してワーカーズが抱える課題や苦しみを理解したほうがよい分析ができると考え、密着型で研究をしています。おふたりとはワーカーズの会議で顔なじみですが、10月から施行された労働者協同組合法(ワーカーズ法)について話し合いたいと思います。
井上 施行前からWNJには「ワーカーズをつくりたい」という問い合わせがありました。テレビや新聞などからの取材依頼もあり、マスコミに取り上げられる機会が増えると思います。東京都ではすでに始まっていますが、自治体がワーカーズ設立の説明会を開いたり、相談窓口をつくる動きがあります。ワーカーズが広く知られていくことを期待しています。

小柳 ワーカーズは一人一人が出資して、意見を述べて経営に参加し、働くという協同労働で事業を行う組織ですが、ワーカーズ法が制定されたことで取得できる法人格の選択肢が広がりました。今後はワーカーズの社会的認知が進むと思います。
最初にワーカーズ・コレクティブが結成されたのは今から40年前の1982年です。この間、協同労働で事業をする私たちに合った法律がなかったため、組織の目的や、出資の概念などに違いがあるものの、企業組合やNPO法人など既存の法人格を取るなどして事業を行ってきました。法人格を取らなかったワーカーズも「みなし法人」として事業を行い、きちんと税金を納めてきましたが、昔は税務署の人にワーカーズは「法的にはPTAや仲良しグループと一緒」と揶揄(やゆ)されたこともあったそうです。

井上 法人格がないと金融機関での口座開設や、借入が難しいことも問題でした。過去の事例では、大きなお金を借りようとすると「夫の通帳を持ってこい」と言われたこともあったようです。女性に信用がなかったのです。最近は、新型コロナウイルスで影響を受けた事業者に支払われる持続化給付金が、法人格のないワーカーズには支給されないという問題が起こりました。法人格を取ると口座開設はもちろん、借入や行政の支援、委託も受けやすくなると思います。

菰田 法人格の取得とともにワーカーズ法の特長には、3人以上の発起人がいれば届け出だけで設立ができる点が挙げられると思います。事業内容もNPO法のように特定されていないので、地域に必要と思われる多様な事業、団体を設立することができるようになります。
協同組合について新しい法律ができたのは実に44年ぶりで、意義のあることです。これもワーカーズのみなさんが長年積み重ねてきた実績があったからでしょう。

法文に意見が盛り込まれることに

小柳 私たちは国会議員や衆議院法制局、厚生労働省の人たちと共に「与党協同労働の法制化に関するワーキングチーム」やその実務者会議に参加し、法案づくりに携わってきました。このような会議に加わることができたのは、ワーカーズの先人たちが継続して地道に法制化運動を進めてこられたからだと思っています。法律が成立するまでの間には意見がぶつかる場面もありましたが、ワーカーズの実態に合った法律になるように議論を重ねました。通常、法案をつくる際の関係団体へのヒアリングは簡単に行われることが多いそうですが、当事者団体を交えた法案づくりは3年半におよびました。すべてとは言えませんが、私たちの意見をかなり反映できたと思います。

井上 ワーカーズ法の目的を定める第一条に、私たちの意見が多く取り入れられました。一つはワーカーズは組合員が出資・意見反映・従事することを基本原理にした組織だという点。二つ目に、今の働き方は仕事と生活のバランスを欠いていたり、働きがいのある人間らしい仕事ではないという社会課題が盛り込まれた点。三つ目に、多様な働き方や多様な事業が地域で促進される最終目的は「持続可能なまちづくり」だとしっかり掲げられた点です。このような内容が法文として表されたのは、とてもうれしいことでした。

菰田 これまでの協同組合に関する法律では、参加する組合員の利益や立場の向上といった共益を目的にしたものがほとんどでした。一方、ワーカーズ法は「多様な就労機会の創出」や「持続可能で活力ある地域社会の実現」を目的にあげ、ワーカーズに参加する人だけでなく、地域に暮らす人たちにとっても利益のある公益性の高い事業と位置づけている点も僕は評価できると思います。

暮らしやすいまちをつくる事業

小柳 違いを認め合い、多様な働き方で共に事業を進めていくのがワーカーズの特長のひとつだと思います。女性は子育てや介護など、働きにくさを抱えることが多かったので、就労に困難を抱える人の気持ちにも寄り添えるような気がします。一人一人その人らしい働き方を考え出し、働きがいのある仕事場をみんなでつくっていけることがワーカーズのよさでしょう。

菰田 僕が関わっているワーカーズは社会的にさまざまな困難を抱えている人と共に働くことを進めているので、ある人の出勤が月に数時間といったことがあります。急に休まれると業務上とても困るのだけれど、本人も大変な事情を抱えているのでやむをえません。ワーカーズで話し合って認め合い、仕事のフォローをしています。ワーカーズでは、経営や働き方など組織の運営や方針を話し合う会議を行っています。ひきこもりという困難を抱えた事例では、その人があるメンバーとだけは話せる場合、無理に会議への参加を求めずに話せるメンバーを通じて意見を聞き取り、会議に反映させる工夫をしています。各ワーカーズとも一人一人の事情に合わせて、運営参加や働き方をつくっていると思います。

井上 私は、所属したワーカーズの会議では、最初の頃はあまり発言しませんでした。ある時、会議で意見を述べたら「やろう」となり、みんなで決めて働くことを実感する機会がありました。誰かが決めるのではなく、みんなで経営して責任を負うのがワーカーズで働く醍醐味(だいごみ)だと思います。
ワーカーズは配送やデポーなど、生活クラブ生協からの委託事業から始まりました。やがて高齢者の介護などのたすけあい事業や子育て支援、さらには障害のある方と一緒に働く場をつくるなど、地域の困りごとに対応したワーカーズが多様に設立されるようになりました。暮らしていると地域の困りごとがよくわかります。それを同じ地域の人たちと一緒に解決するために、ワーカーズをつくって活動するのは私たちにとって自然ななりゆきでした。

小柳 生活クラブはいろいろな機能をつくってきましたが、最初は組合員の素朴な「こんなのあったらいいね」というつぶやきからだったと思います。地域で暮らしている人が身の回りで必要とされていることに気づき、「ないなら自分でつくる」と各ワーカーズを設立してきました。地域にいろんなワーカーズができることで、暮らしやすいまちができていくのだと思います。

菰田 ワーカーズは地域のさまざまな困難を抱えた人に就労の機会をつくるだけではなく、運営に参加を求めて組織方針に意見を反映させています。そのため困難を抱えた人の満足度は高いと思われます。私が活動するワーカーズは合成洗剤を使わない質の高い清掃を事業とすることで、困難を抱えた人に仕事をつくり出しました。この事業は地域で清掃に困っていた人たちの問題も解決しました。地域に根ざした活動を進めたことで、サービスを提供する側とされる側の問題を解決した好事例だと思います。

法改正でより使いやすく

井上 ワーカーズ法には課題もあります。労働契約を結ぶことが義務づけられた点です。ワーカーズは「雇われない働き方」を掲げていたので、ワーカーズ内部から強く反対の意見が出されました。私たちは前述の実務者会議で反対の意見を述べたのですが、法案に盛り込まれました。

小柳 日本では就労形態が複雑化し、さまざまな労働問題が起きています。労働基準法を無視するような、いわゆるブラック企業にワーカーズ法を悪用されないために、労働契約の条項が入ったのです。悪用防止とワーカーズの働き方に合った制度の両立が、今後の課題と受け止めています。

菰田 この法律で法人格を取るワーカーズは最低賃金法など労働法規が適用されることになります。地域の貧困問題に取り組むワーカーズの中には対価を高く設定できない団体もあり、事業的に厳しい状況に直面しているので最低賃金を保障するのはなかなか難しい。ワーカーズでも法人格を取れるところと、取れないところが出てしまうので、今回の法律はゴールではなく、スタートと理解したほうがよいと思います。たとえばイタリアはワーカーズ法から発展して、さらに市民に使いやすいような協同組合法がつくられていきました。すべてのワーカーズが法人格を取れることを5年後の法改正の課題として、まずは可能なワーカーズは届け出をして、課題があれば法改正につなげる必要があると思います。

多様なワーカーズを地域に

首都圏の生活クラブで展開されている店舗型拠点のデポー。ワーカーズは業務全般を任されている(写真は生活クラブ神奈川の緑園デポー 撮影/丸橋ユキ)
小柳 私たちが描くのは小さくても事業性を持ちつつ、地域のニーズに応えるワーカーズをたくさんつくることです。それは地域の市民による自治が広がることにつながります。ただ、地域課題を解決するための事業と、持続可能な採算性のある事業の両立は、今の社会のなかでは永遠の課題です。暮らしには欠かせない仕事で、でも企業など市場がうまく機能しない事業は、公が支援する仕組みをつくるべきだと思います。生活クラブは22年度に「生活クラブ2030宣言」を決定し、「多様な働き方の実現」として「地域に必要なワーカーズ・コレクティブを新しく設立する」を目標に掲げました。ワーカーズという小さな協同組合と大きな協同組合である生活クラブが連携すれば、協同の地域づくりが進められると期待しています。ぜひ一緒に活動したいと思います。
井上 今の世の中は「働き方が多様になった」といえば聞こえがよいですが、不安定な非正規雇用が増えているのが実態です。一方、ワーカーズは、雇われない働き方をつくることができます。定年も自分たちで決められます。ぜひ多くの人にワーカーズを知ってほしいです。「地域にこんな事業がほしい」「こんな仕事がしたい」という思いや、培ってきた能力を生かして、地域のセーフティーネットの一翼を担ってほしいと思います。設立の支援は、私たちワーカーズの都道府県ごとの連合組織が行っています。お住まいの地域に連合組織がなければWNJがお手伝いをしますので、ワーカーズをつくっていきましょう。

菰田 ワーカーズ法は活動されてきた人たちだけではなく、多くの人に周知することが重要です。たとえば家族経営で農業を営み、高齢化などで営農をやめようと考えている人も、地域でタッグを組む人がいればワーカーズをつくり、事業を継続することは不可能ではないと思います。私の知り合いはITやレストランなど、一人一人が独自事業をするワーカーズで仕事をしています。成長産業のITは黒字で、他の事業を補填(ほてん)するような経営状況ですが、経営者と労働者に分かれる従来型の経営がきらいで平等な関係を尊重できるワーカーズを選択したのです。若い人はワーカーズの経営や働き方に関心を持つ可能性があり、成長産業など稼げる分野も巻き込むなどワーカーズがたくさんできれば、法改正に向けて大きな力になると思います。地域にさまざまなワーカーズができ相互の関わりが増えると、地域の問題を解決する能力が高まり、豊かなまちづくりが進むと思います。

撮影/永野佳世
進行・構成/本紙・橋本 学

労働者協同組合法(ワーカーズ法)より第1章(第一条)
(目的)
第一条 この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他必要な事項を定めること等により、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする。
★『生活と自治』2022年11月号 「連載⑤ 働くことが社会をつくる わたしのまちのワーカーズ・コレクティブ」を転載しました。
 
【2022年11月30日掲載】
 

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