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若き “牛飼い” の葛藤、共に探る畜産の未来


北海道チクレン農業協同組合連合会(北海道札幌市)は、牛を健康に育てることを第一にした牛肉づくりを追求する生活クラブ連合会の提携生産者だ。生活クラブ(当時は東京)との提携は40年以上に及び、現在は12の肉牛農家を指定して、生活クラブが班や個別配送で共同購入する牛肉を生産している。その歴史の中では、牛肉の輸入自由化や遺伝子組み換え作物の登場など、さまざまな社会情勢や生産状況の変化があったが、その都度、組合員と話し合い、生産方針を決めてきた。つくり続けられ、食べ続けられる牛肉をめざしている。

ていねいに手をかける


牧草の畑を歩く直井敏哲さん

「木の皮などを細かくチップ状にした敷料と呼ばれるものを牛の寝床に敷いています。雪が吹き込んで濡(ぬ)れた時は、早めに交換します。一度使った敷料を発酵させて水分を飛ばし、温かくなったものを再度牛舎に入れることもあります」

北海道東部の佐呂間町で肉牛を育てる直井敏哲(としのり)さんは、牛の寝床の手入れについてこう説明する。牛はえさを食べた後は横になり、反すうして消化する。体を大きくするには寝ることが大切だが、冷えたところでは牛は寝ない。それだけに冬場の敷料の管理は欠かせない。飼っている牛は乳用種のホルスタインのオスで、同種は寒さには強いものの、佐呂間町は2月にはマイナス30度になる日もあるという。

直井さんは北海道チクレン農業協同組合連合会(以下、北海道チクレン)で、生活クラブ向けの牛を育てる肉牛農家だ。2005年から父の誠市さんとともに仕事を始め、18年に後を継いだ。現在は436頭を父と、時折母の手を借りながら育てている。
「小さい頃から牛に干した牧草をあげたりしていました。牛を育てるのはとてもやりがいのある仕事なので、この道でやっていこうと決めました」と直井さん。牧草を作る畑地を拡大したり、飼育頭数も一時は増やし、収入を上げるように努めた。

直井さんは牛には慣れ、飼い方もわかっていたつもりだったが、仕事として牛を飼うのは違った。えさの種類も量も、環境も同じでも、生き物なので同じように大きく育つわけではないのだ。
「母からは『牛をよく観察しなさい』と言われました。母は干した牧草を食べるわずかな量の変化も見逃しませんでした。一頭一頭ていねいに育てることを学びました」

牧草作りが決め手

水飲み場から顔を出す牛。牛舎は誠市さんの時代に、使用済みの木製の電信柱を利用して建てられた

肉牛農家には大きく分けて二つのタイプがある。一つは子牛から出荷するまで同じ肉牛農家が育てる一貫生産型。もう一つは、子牛を育成する専門の農家が約7カ月齢まで育てた「素牛(もとうし)」を、肉牛農家が大きく育てあげる素牛導入型だ。直井さんの牧場は、素牛導入型にあたる。

「生活クラブ向けの牛は約20カ月齢まで育てますが、うちの牧場に入る小さい頃の育て方が大切です。この時期に干した牧草をたっぷり与え、丈夫で大きな胃をつくることで配合飼料の消化もよくなり、健康で体も大きい牛が育ちます。そのためにもよい牧草を作ることが『牛飼い』にとって重要な仕事というのが私の考えです」

直井さんは35ヘクタールもの畑地で牧草を栽培し、6月中旬頃から刈り取り、最低3日間は天日干しをする。牧草は刈った後に雨に当たると質が落ちてしまうので、天気予報をにらみながらの作業となる。天日干しも畑地に刈ったまま置くのではなく、地に付いた方を日に当たるように返す。そうしないとよい品質の牧草はできないのだ。

「牛の世話をしながらなので、6月から夏にかけては時間的にも体力的にもきつい日々が続きます。仕事の段取りなどにも神経を使いますが、牧草しだいで1年の牛の出来が決まるともいえるので、気が抜けません」

母にも手伝ってもらいながら牧草を2回刈り取って干し、ロール状にしたものを600~700個作る。現在の頭数なら1年間、自給できる量だという。

悩んだ、素牛の体調不良

牧草作りと牛をていねいに観察することを重視する直井さんだが、「今でも思い出すのがつらい」時期があった。ちょうど後を継いだ頃だ。
約7カ月齢で牧場に入ってくる素牛が1週間もすると下痢をし始め、ひどい牛は血便をしたり、そのまま死亡することもあった。助かっても体が弱く、あまり大きくならない牛もいた。

直井さんは両親と相談したり、獣医に診せるのはもちろん、牛によいといわれることは何でも試した。昼夜を問わず牛舎に通い世話に努めたが、状態は一向によくならない。「このままでは自分もまいってしまう」と、頭数を減らさざるを得なかった。
直井さんの苦悩は北海道チクレンにも伝わっており、対応が検討されていた。事業推進部長の竹田伸(しん)さんは「素牛が直井さんの牧場に入って以降、抗生物質のモネンシンナトリウム(以下、モネンシン)が一切不使用になることが原因と考えられました」と語る。

モネンシンは飼料添加物として認可されており、一般的には生後から出荷直前まで使用される。多くの抗生物質は、と畜前7日間は使用できない「休薬期間」が設けられているが、モネンシンには設定されていない。
子牛は病気や環境の変化に弱いため、生活クラブ連合会は7カ月齢まではモネンシンの使用をこれまでも許容していた。一貫生産型の肉牛農家なら、7カ月齢になる前に少しずつモネンシンを減らす工夫ができるが、素牛導入型ではそれは難しい。

また近年は経営の厳しさによる酪農家の減少や雌雄を選別して人工受精できる技術の普及から、ホルスタインのオス子牛が減り、丈夫な牛ばかりを選べない状況も素牛の体調不良の背景にあるという。
子どもの話になると相好を崩す直井敏哲さん
北海道チクレン事業推進部長の竹田伸さん
父の直井誠市さん

持続可能な生産と消費とは

北海道チクレンは7カ月齢の素牛のえさから1カ月かけてモネンシンを段階的に減らす試験を20年10月から行うことにした。その結果、粗飼料を多く食べるようになるなど素牛の健康面で効果が見られたため、生活クラブにモネンシンの使用基準の改定を要望した。21年6月に開かれた、各地の生活クラブの組合員代表が集まる連合消費委員会、連合理事会で討議され、肉牛農家が素牛を受け入れてから1カ月かけて段階的にモネンシンを減らすことが決定された。

連合消費委員会での討議時は退席する約束のもと、竹田さんは消費委員に事前説明を行った。
「素牛を健康に育てるため、肉牛農家が今後も生産を続けるために必要な改定であることをお話しました。1カ月とはいえ抗生物質の使用延長は、組合員のみなさんにとって厳しい判断だったと思います。生産者の苦労について理解いただき、ありがたいと思います」と竹田さん。

モネンシン使用基準の改定を知った北海道チクレンの肉牛農家では、新たに2軒が生活クラブ向けの牛の飼育に意欲を見せたという。
現在の牛肉は出荷前の11カ月間、モネンシンをふくめた抗生物質を一切使用しないえさが基準となっている。

雪の気配が漂う22年11月の中旬、直井さんは順調に育っている牛たちを満足そうに見ながら、干した牧草を与えていた。
「健康な牛づくりにこだわっているので『おいしい』と言ってもらえるのが一番うれしい」と話す。牧草は自家生産できるが肥料や燃料が軒並み上がり、コスト削減の努力にも限りがあるので「将来を見通しにくい」という。

食品や電気代も値上がり、消費者にとっても生産者にとっても厳しい時代を迎えたのかもしれない。「持続可能な生産と消費」の実現はけっして簡単なことではない。困難な時だからこそ、お互いの仕事や暮らしを知り、相手のためにできることを考え、歩み寄ることが大切なのだろう。
干した牧草を先に与え、その後に配合飼料を与える。二度手間になるが、胃の負担を軽減させられる。それを朝夕2回行う
フィルムをまき、ロール状に保存している干した牧草
撮影/高木あつ子
文/本紙・橋本 学

牛の育成から加工まで貫く

北海道は酪農が盛んで、酪農家は生乳の生産のために乳牛を妊娠させる。産まれた牛がメスなら後継の乳牛として育て、オスなら肉牛農家に引き取られて肥育される。酪農と牛肉生産は密接な関係にあるが、現在、飼料代の高騰などにより酪農家は厳しい状況に追い込まれている。

㈱なかしゅんべつ未来牧場専務の友貞義照さんは「牛乳需要の増減はこれまでもあったが、今回は飼料代など原材料の値上がりや、為替相場の影響が加わっているので先が読めない」と語る。北海道では生乳生産を抑えるため、出産を重ねた乳牛の処分が始まっているという。「いざ生産を戻そうと思っても、牛は生まれてから成長して妊娠、出産するのに2年はかかる。今後、生乳不足が起こることも否定できない」と友貞さんは警鐘を鳴らす。

トウモロコシなど配合飼料代の上昇で肉牛農家でも牛を減らす動きが出ている。
生活クラブの牛肉は、提携生産者の北海道チクレンが配合飼料と子牛の手配や費用を負担する。「肉牛農家が牛を健康に育てることに集中できるように」と、北海道チクレンの竹田伸さんはその理由を説明する。肉牛農家の直井敏哲さんは「牛や配合飼料を北海道チクレンが安定的に確保してくれるのはありがたい。牛の世話と牧草を作り自給するのに精いっぱい。自分ではとても手が回らない」と話す。

北海道チクレンの牛肉づくりの追求は、牛の飼育だけではない。と畜は関連会社の㈱北海道チクレンミート北見食肉センターで行っている。2000年に北見市より譲受されたもので、牛肉生産者で処理場を保有するのは全国的にもあまり例がない。

牛は20~30分ですばやく処理される。背中から左右に切り分けた枝肉の状態にして急速に冷やされ、一晩、冷蔵保管される。翌日は冷蔵庫を共有している隣接の同社・北見工場で骨を取り除き、部位ごとに大きな部分肉に整形される。
「牛肉の品質に影響を与えるのは温度と菌の数です。外気に触れず、すべて屋内で加工できるのが品質管理のうえで大きな特長です」と、北海道チクレンミート北見事業部長の伊藤隆浩さん。
部分肉は真空パックされて冷蔵で千葉工場などに送られ、製品加工後、生活クラブを通じて組合員のもとに届く。

牛肉の包材には切り落としや小間切れ、ひき肉を除いてロット番号が印字されている。04年に完全施行された牛トレーサビリティ法で義務付けられた表示だが、北海道チクレンは法律ができる以前からどの牛の肉かわかるように管理をしていたという。

「事故品など問題が起こった時にさかのぼって追究するためではありません。よい牛肉をつくるために牛ごとに管理をしたのです。おいしい肉ができた時、どの肉牛農家がどんな飼い方、飼料の与え方をしたのかを追い、肉の品質を向上させようと考えたのです」と竹田さん。

牛を健康に育てることから牛肉の品質を保って加工するまで、北海道チクレンの牛肉づくりは食べる組合員を思うことで一貫している。
枝肉の品質を確認する北海道チクレンミート北見事業部長の伊藤隆浩さん
撮影/高木あつ子
文/本紙・橋本 学
 
『生活と自治』2023年2月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2023年2月20日掲載】
 

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