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震災12年 ――被災地だからこそ。練り製品に込めたものづくりへの想い


おとうふ揚げ。被災後再稼働した本社工場で、復旧の第1歩として製造された

宮城県で水産加工業を営む髙橋徳治商店は、創業106年目を迎えた2011年、当時本社のあった石巻市で東日本大震災に遭遇する。自ら多大な被害を受けつつも、多くのものを失い再生を図る「この被災地で必要とされる会社」になろうと、再建に取り組んできた。40年以上前から添加物を使わず、石巻魚市場に揚がる魚の、素材の特徴をいかし作る魚肉練り製品には、作る人も食べる人も、誰もが幸せであり、その存在が大切にされるように、との願いが込められている。

震災を越えて

宮城県東松島市にある髙橋徳治商店の練り製品の製造工場では、毎朝12人の試食スタッフが、その日製造する製品の試食をする。代表取締役の髙橋英雄さんは「震災後試食を行った日は、もう2950日を超えましたよ」と、穏やかな表情で教えてくれた。「被災した年の10月に製造を再開しましたが、その時作ったおとうふ揚げは納得がいかなくて、1000キログラムを廃棄しました」。試食の結果、練りの工程からのやり直しや廃棄もある、徹底した厳しい試食を11年以上も続けてきた。「震災前以上に心を込め納得できる製品を作り、支えてくれた人や見守ってくれた人にメッセージを届けたいからです」

2011年3月11日、三陸沖で最大震度7の地震が発生し、東日本沿岸に津波が押し寄せた。石巻市の中心を流れる旧北上川の東岸にあった髙橋徳治商店の三つの工場は、10メートルもの津波により全壊し、本社工場は50トンの泥に埋まった。従業員79人は全員無事だったが、再開のめどが立たず、英雄さんは全員解雇という苦渋の決断をする。

失意のどん底にあった髙橋徳治商店に、被災を知った全国の取引先や提携する生協の組合員が次々と訪れた。がれきを片付けヘドロをかき出し掃除に当たったボランティアは延べ1500人に上る。
「普通の企業と取引先の関係ではとても考えられない、わが事のように心を寄せた支援でした」と英雄さん。同年10月に本社工場のひとつの製造ラインを再稼働する。さらに13年7月には、放射能汚染も見据え新規借り入れで、石巻市の隣、東松島市の高台に新工場を竣工(しゅんこう)した。敷地内には震災を忘れないオブジェや支援者の名前を刻んだモニュメントが置かれている。

電力は原子力発電に頼らず、自然エネルギーを利用する。組合員のカンパをもとに工場の屋根に1280枚の太陽光パネルを置いた。使用電力の3分の1から半分を賄い、ディーゼル発電機で購入電力を削減する。製造に使う水は、飲用水としても使用できる精製した地下水だ。さらに東松島市と「災害時における飲み水、電気や施設等の利用に関する協定」を結び、地域防災も考慮した加工食品会社として、新しいスタートを切った。
東松島市に建設された新工場

迷いの連続40年

練り製品の原料のひとつは、スケソウダラのすり身。震災時の原発事故により放射能汚染された魚の使用を避けるため、北海道のメーカーに製造を委託した、リン酸塩や添加物は使わないもの。もうひとつは、主に宮城県沖で漁獲され石巻魚市場に水揚げされるカナガシラ、オキギス、グチやサメなどの魚だ。焼く、蒸す、揚げるといった、それぞれの製品の製造方法に適した魚種を駆使する。

製造は、早朝から魚をさばき、すり身を練るところから始まる。前浜の魚は季節によって大きさや身の質が違い味が変わる。さらにすり身の出来上がりは製造時の気温や湿度にも左右されるため、練る時間や仕上がりの温度、具材を混ぜるタイミングなどは、常に一から調整する。「200キログラムの原料に対して加える、わずか20グラムの塩で悩みます」と英雄さん。執拗(しつよう)なこだわりが絶妙な仕上がりを生むと言う。「四十数年間迷い続けてきました。迷い挑戦し続けることが答えです。終わりはないのですよ」

英雄さんの長男で、取締役総務部長の髙橋利彰さんは、「一度で満足のいく製品を作れることは、1年に何度もありません」と言う。「食品添加物を使えば、簡単に一定の品質の製品を効率よく作れますが、自分たちには必要ありません」。素材のうま味や特徴を十分にいかして作るのが当たり前と思っている。「人の目と舌と手触りと、五感を駆使して作っています」

製造課長の清水康広さんは、震災を機に冷凍倉庫の製品管理の仕事から製造の仕事に移った。すり身を扱い12年になる。レシピはあるが、その通りにいかないことの方が多いと言う。「扱うすり身魚の個体差を見極めて、その時々の条件に合った作り方の正解を見つけます」。ようやく自分の感覚が身に付き始めてきたそうだ。髙橋徳治商店には、食べ物にメッセージを込め、無添加で練り製品を作る頼もしい技術者たちがいる。

心の復興を

野菜加工場には、南三陸町産の間伐材が使われている。「できるだけ居心地のいい場所をつくりたかったのです」と、取締役総務部長の髙橋利彰さん
 
東松島工場の隣に、ぬくもりが感じられる木造の建物がある。18年に落成した野菜加工場だ。現在、地域の若者7人が働き、冷凍の茶豆やカットレモン、カットカボチャなどが製造される。

英雄さんがこの工場建設を考えるようになったのは、震災後2年目頃。石巻市や東松島市など近隣の2市2町に、「ニート」や「引きこもり」とされる15歳から39歳までの若者が1000人以上いると知ったことがきっかけだ。「建物や道路ができ復旧は進みましたが、震災以前は表に現れることが少なかった、児童虐待、貧困、格差、DV、育児放棄など、社会的課題が噴出しました。津波を体験して心に深い傷を受け、学校へ行けなくなった児童や若者が増えたのです」

英雄さんは、震災後さまざまな事情により居場所や心のよりどころをなくした人たちの姿に、震災当時の自分の姿を重ねていた。そんな若者たちが閉ざしていた心を開き、笑顔を取り戻して元気に働く場所をつくりたいと思った。

髙橋徳治商店は、ニートや引きこもり、貧困の若者を支援する厚生労働省の委託事業「石巻地域若者サポートステーション」を介して、そういった若者たちをアルバイトや研修生として受け入れた。「私たちは野菜加工に関しては素人です。一緒に作業をしながら、彼らが自信をつけるようになるまでは並大抵ではありませんでした」と英雄さんは振り返る。「ここに必要とされる人になり、社員になった人もいれば、一般の企業に就職した人もいる。施設に入った人もいますよ」
2018年3月に落成した野菜加工場
山形県の月山農場から届く茶豆を蒸し、冷凍後、出荷する。茶豆はおとうふ揚げ(五目)にも使われる

手ごたえ

髙橋徳治商店の代表取締役、髙橋英雄さん。「野菜加工場で働く若者たちが笑顔を見せる時、私たちの心に灯がともります」
野菜加工場運営はすべて手探りの状況で進められた。心を閉ざした若者たちが仕事を覚えるには時間がかかり効率以前の問題だ。練り製品部門の売り上げは戻らず多大な借り入れもしている。助成金もなく就労支援はすべて自社負担だった。

しかし5年がたち、ほぼ1日を7人の若者たちと過ごす利彰さんは、大きな手ごたえを感じている。今まで30人が就労体験をし、7人が髙橋徳治商店の従業員として残った。うち3人が正社員だ。7人で製造、品質管理、出荷までをこなす。
「コミュニケーションをとれるようになるまでとても時間かかりましたが、表情がなかった彼らが、自分にできる仕事に自信をつけて、浮き沈みはあるものの過去の痛手から立ち直り、明るく変わっていく姿を見るのがうれしいです」。スピードや効率だけを求めるのではなく、それぞれが持っている力を認め、いかしてお互いを信頼し、「協力し合う」仕事のし方が必要だと考える。

英雄さんは、「震災当時、この地域は高齢化、過疎化、格差、貧困、虐待、分断など課題が山積みでした。それは今、全国に広がっています」と言う。野菜加工場は、そうした社会が生み出した、よりどころがなく自分と向き合えない若者たちのための居場所だ。「被災地だからこそ見えてきた大切なことを仲間と共有し、自分と向き合い、変わっていくことができます。私たちは、そんな若者の生きざまを見て、多くのことを学んでもいるのです」

そして、髙橋徳治商店の練り製品のひとつひとつに込めた想いを紹介する。
「ものづくりは本来、作る人も使う人も幸せにし、豊かにするものです。食べものは、食べる人を大切に思いながら作る人がなにがしかのメッセージを表現し形にして伝えますよ」
 
野菜加工場で働くスタッフと髙橋利彰さん(後列中央)。みんなで話し合いながら仕事をして、キウイフルーツの冷凍品など、新製品の開発にも挑戦している

撮影/田嶋雅巳
文/伊澤小枝子

練り製品と添加物


魚のうま味と大豆の甘みが感じられる、ふわふわとした食感のおとうふ揚げ。髙橋徳治商店が作る練り製品のひとつだ。材料は、北海道産のスケソウダラの冷凍すり身と岩手県一関市にある大豆工房の豆腐。食品添加物はまったく使わない。

過去、かまぼこやちくわなどの魚肉練り製品のメーカーは、目の前の海で取れる新鮮な魚を使って加工し製品を作っていた。1959年、冷凍すり身を製造する技術が開発されると、安価で大量に手に入るスケソウダラの冷凍すり身が魚肉練り製品の原料の主流へと移っていく。スケソウダラはたらこを取るが、身は水分が多く傷みやすいため、限られた地域でしか使われなかった魚だ。

白身の魚は、冷凍して保存すると、タンパク質が変性し、解凍しても弾力のあるすり身を作ることができない。しかしリン酸塩を加えると品質は変わらず、1年以上保存できる。

リン酸塩は食品添加物のひとつで、タンパク質の変性を防ぎ、水分を保持し弾力性を保つ効果がある。一方、体の中でカルシウムの吸収を抑制する働きがあり、過剰摂取には注意が必要だ。しかし、食品表示法では、すり身が原材料のひとつとしてみなされ表示はされず、練り製品へのリン酸塩の添加の有無はわからない。生活クラブ連合会が独自に設定する自主基準では、リン酸塩の練り製品や加工肉類への使用を禁止している。

また、鮮魚からすり身を作る時に「水さらし」という工程がある。細かくした魚肉を水にさらして余分なタンパク質や血液などを除き、色を白くする工程だ。水量やさらす時間などに微妙な調整が必要だが、これがないと、魚のうま味や弾力が無くなってしまう。このようなすり身を使う時は、味や弾力を補うために、化学調味料や弾力剤などの食品添加物を加えることがある。

安価に大量に練り製品を作るメーカーでは、この他、増量し原価を下げる目的で、弾力増強剤、㏗調整剤、合成保存料など、さまざまな食品添加物が使われる。増量のためには植物タンパクや油脂、多くの水などが加えられることもある。

髙橋徳治商店が無添加で魚肉練り製品を作り始めたのは40年以上前。販路を探していた先で、埼玉県川口市の栄養士さんと出会った。化学合成添加物の体への影響を知り、添加物を使わない練り製品を開発し、埼玉県の給食に取り入れられた。

魚の加工は、タラ、イワシ、地魚など、取れる魚の季節によって、年間計画を立てて行う。スケソウダラは寒流の海域に生息するが、近年、暖流の強さの影響もあり、水揚げされる漁港が北部へ移り、漁獲量の変化も大きくなった。すり身のほとんどが輸入品となり、国内でスケソウダラの冷凍すり身を作るメーカーは減り、リン酸塩を使わずすり身を作る技術者も少なくなった。

髙橋徳治商店は国産にこだわり、魚が本来持つうま味を十分にいかすため、地元の小魚を駆使し食品添加物を使わない。従業員は、日々、海がもたらす恵みと向き合い人の手でさばき、加工して食品として提供するための腕を磨いている。
 
撮影/田嶋雅巳
文/伊澤小枝子
 
『生活と自治』2023年3月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2023年3月20日掲載】
 

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