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知らんけど、庶民の暮らしは二の次、いや三の……。 それでも「初めに防衛費増強ありき」ですか?

立教大学大学院特任教授 金子勝さんに聞く
 

だれもが軍事の専門家ではありませんから、日本の周辺環境における軍事的な緊張の高まりについての詳しい知識は持ち合わせておらず、より高度で強い殺傷能力を持つ兵器を持つことが平和維持につながるかどうかもわかりません。だから、素人にわかるように十分かつ丁寧に説明してほしいのです。対して素人でもリアルに実感できるのは、日々の暮らしの厳しさです。それでも、いま本当に最優先されなければならないのは防衛(軍事)費の増強なのでしょうか。立教大学大学院特任教授の金子勝さんに意見を聞きました。(2023年1月5日取材)

着実に進む「生活崩壊」、「異常事態」が当たり前に

――とても大ざっぱにして素人丸出しの質問で恐縮ですが、金子さんは「いま」の日本の姿をどう捉えておられますか。

2022年12月20日に岩波新書『現代カタストロフ論』を上梓しました。医師で東京大学先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクトリーダーの児玉龍彦さんとの共著です。この本では政府の新型コロナウイルス対策はもちろん、経済対策や財政運営、産業育成策に至るまで、そのすべてが終わりかけている、まさに崩壊局面にあることを具体的なデータを例示しながら明らかにしています。どれもこれも政権与党の大失政であり、大規模金融緩和と新自由主義に依拠したアベノミクスに翻弄された挙句の「ツケ」というしかないでしょう。

新型コロナ対策における失政についての詳細は、先の共著における児玉さんの記述に委ねたいと思いますが、専門外の立場にある私からも指摘したい点がいくつかあります。いまだに政府が全数調査を実施していないため、正確な数字は把握できないままですが、コロナ死者数は6万6,700人(2023年1月27日現在)を超えましたが、それだけではありません。日本ではコロナ禍の余波を受け、病院に入れなかった、手術ができなかったという理由で亡くなった人(超過死亡)が顕著に多いとの推計を医学専門雑誌(ランセット)が2022年3月に掲載しています。実態はコロナ死者数の何倍にもなるはずですし、介護施設の受け入れ態勢の崩壊がもたらす事態も実に深刻です。23年1月半ばの第8波で新型コロナウイルスによる日本の死者数は1日400人超になり「世界一」の水準にあると米国のジョンズ・ホプキンス大学の推計に基づいた「ワールドメーター」が伝えています。これはすなわち世界に誇れる国民皆保険制度の弱体化を意味し、介護保険制度が形骸化していることを示す危険なシグナルであるにも関わらず、日本のマスメディアは何も報じていません。

財政も崩壊寸前です。私は何度も警鐘を鳴らし、厳しく警告を発してきましたが、日本の財政は危機的どころか、日銀が金利を上げたら破綻に直結しかねない局面に立たされたままです。産業の衰退も目を覆わんばかりで、電気自動車(EV)や自動運転の開発力も海外の企業に甚だしく遅れを取り、再生可能エネルギー(再エネ)と蓄電池へのエネルギー転換も進んでいません。貿易赤字も2022年には19.9兆円と過去最大に膨らみ、毎月2兆円の赤字が続いています。おまけに1997年から勤労者の実質賃金が上がっていないのは先進国では「日本だけ」。そんな「異常事態」が当たり前になってしまっています。この根本には役員を除く国内労働人口のうち非正規雇用の占める割合が約4割にも達し、若者や女性、高齢者が低い給与水準で働かされているというとんでもない現実があります。いまや国民一人当たりの国民総生産(GDP)も台湾に追い越され、韓国にも抜かれようとしています。人口減少も深刻です。年間出生数が100万人を割って大変なことになったといっているうちに、2022年には80万人を割り込むほど日本の出生数は減っており、これは内閣府の予測より8年も速いペースでの落ち込みです。

正当性問われる「迷コピー」連発の「高不支持率政権」

――まったくそうですね。暮らしの厳しさは増すばかりと身をもって感じている人は間違いなく多いはずです。1月の東京都区部の消費者物価上昇率は4.3パーセントと41年ぶりの上昇です。この状況では、政治の最優先課題は疲弊する庶民の暮らしを改善・向上させる政策の実行にあると思います。ところが、大規模予算と日銀の金融緩和はデフレ対策のまま、つまりインフレ促進を続けています。そのうえ、岸田文雄政権は2022年12月末に安保関連3文書を閣議決定し、「防衛政策の大転換」と称して防衛(軍事)費倍増と大盤振る舞いです。ここで敢えて伺いたいのは「何はともあれ、防衛(軍事)費増強」で本当にいいのかということです。

まずもって確認しておきたいのは世論調査における岸田文雄政権の「不支持率」の高さです。新聞の世論調査では不支持率が50パーセントを超えているケースが多く、毎日新聞の調査では69パーセントの回答者が「不支持」を表明しています。時事通信やANNでも内閣支持率は3割を割りました。そんな不信感極まりない政権が戦後最大の政策転換をしていいのか、どこに正当性があるのかと私たち個々人が自問する必要があるのはいうまでもないでしょう。そんな政権が臨時国会の終了直後に防衛(軍事)費倍増や原発の60年超運転による再稼働、あげくは原発の新設推進まで言い出しました。いずれもロシアによる「ウクライナへの軍事侵攻」にかこつけた動きですが、新設の「革新軽水炉型原発」が稼働するのは2030年といいますからお話にもなりません。それまでウクライナでの戦闘が続くと想定しているとすれば、不謹慎極まりない「軽薄さ」の露呈であり、憤りを覚えます。原発新設には1兆円規模のコストがかかるという点も見落としてはなりません。再生可能エネルギーならずっと低コストで整備ができるというのに「いったい何を考えているのか?」と声を大にして問いたいです。

それにしても岸田政権には「うそ」が多い。物価上昇を超える賃上げを実現するといいますが、2022年1月の東京都区部の消費者物価上昇率は4.3パーセントですが、5パーセントを超える賃上げがどういう方法で実現可能だというのでしょうか。円安で大儲(もう)けした大企業でも難しいのに中小企業はいわんやという話です。「異次元の少子化対策」も広告代理店的手法から生まれた「迷コピー」でしょう。後に「次元の異なる少子化対策」と言い換えましたが、もはや嗤(わら)うしかありません。確たる財源がないままに2023年度は114兆円の大規模予算を組み、防衛(軍事)費は6.8兆円で20パーセント以上も増大させると意気込みながら、子ども予算は2パーセントしか増やしていません。「どこが異次元!?」と疑問に思わないほうが変ですよ。

まったくスローガンだけで中身が無いというか、国民をだまして平然としていられるのが不思議でなりません。迷コピーはまだまだあります。新型コロナ対策の「岸田4本柱」はどこに消えてしまったのでしょうか。「新しい資本主義」で金融所得課税するといいながら何もしていませんし、「所得税は増税しない」と言ったとたんに「復興特別所得税の1パーセントを防衛費に流用します」。それは所得税の増税じゃないですか。それでいて結局、法人税、所得税、たばこ税で不足分は補てんするとなり、「将来世代にツケを回さず、現役世代の負担で実現する」と胸を張っているのです。

繰り返しますが、実質賃金が下り続けているなか、2022年12月の消費者物価指数(全国)が4パーセントになりました。生鮮食品を除いて食品だけで7パーセントの値上げです。これは東京都区部ですが、全国各地が同じ傾向になると思います。このままでは暮らしは苦しくなるばかりということに他なりません。それでも防衛(軍事)費の増強、原発再稼働と新設に同意するのか、それで本当にいいのかと立ち止まって考えなければ、取り返しのつかない事態になると一人でも多くの人に厳しい「覚悟」を持って受け止めてほしいものです。

迫る「崩壊局面」、本当に日本は持続可能か?

――いまの日本の財政事情を考えたとき、防衛(軍事)費を5年間で43兆円まで積み上げるなどということが可能なのですか。

本当に「できるの?」「真顔で言っているの?」と岸田政権に聞いてみたいものです。日銀が長期国債の金利を0.5パーセント引き上げただけで、苦しくなっています。1000兆円を超える全国債発行高の5割に相当する550兆円もの国債を日銀が保有している状態で、今後も金利が上がったらどうなるかということです。仮に1パーセント上がったとして、国債費は1年目に1兆円、2年目に2兆円、3年目に4兆円弱と増え、平均償還期限である5〜6年たてば、利払い費だけで10兆円規模になってしまいます。それだけではありません。2022年6月16日付で米国の経済専門紙「ブルームバーグ」が報じていますが、市場(投機筋)の圧力で日銀がイールドカーブ(金利曲線)のコントロール(調整)を放棄し、金利が1パーセント上昇した場合、国債の含み損は29兆円にも達してしまいます。2021年度の日銀の自己資本は約10.9兆円ですから、それをはるかに上回る損失が計上されることになるわけです。日銀は保有国債を売ることができなくなります。さらに日銀は500兆円もの金融機関の当座預金を抱えていますが、金利を上げざるをえません。当座預金の金利を上げなければ、銀行は住宅ローンや中小企業貸付金利を上げざるをえません。景気を悪化させるでしょう。もはや5年で43兆円を確保するなどといっている場合ではないのです。他にも問題は山積していますが、この点については近著『現代カタストロフ論』で詳述しましたし、このオリジナルレポート(2022年12月10日付)でも言及しましたので、ご参照いただければと思います。

――それでも自民党内からは「国債財源論」が出され、「増税論」と対立する格好になっていると報じられました。この論議はともに「何はともあれ防衛(軍事)費増強」を前提にしたものであり、なぜ、防衛(軍事)が最優先なのかという根本的かつ肝心な説明は具体的になされていません。それでいて「理解してくれ」と言われても戸惑うばかりです。

そこに最大の問題があるのです。今回の唐突な政策転換は十分な説明もなされていません。こんな重要な政策変更は少なくとも民主主義的な手続きを踏んでいくのが当然なはずです。こんな独裁的な蛮行を許せば、政権与党が自由になんでもできることになってしまいます。とにかく「支持率3割前後の政権」が民主主義を無視してることの異常さに無反応であってはいけないのです。私は真の政治とは自分たちの政策を堂々と発議し議論を通して打開点を見いだし、十分な説明をもって国民を説得するというプロセスを重んじるものと思っています。

それがまるでできていない、というより、最初から「説明を尽くす」という言葉だけを多用し、具体的な言及は巧妙に避けて通るという「無責任バイパス方式」が当たり前になっています。財政金融や食料・エネルギー、貿易、賃金、少子高齢化にしても岸田政権の対策は、どれもこれも場当たり的で「持続可能性」の視点に欠けるものばかりなのも大問題であり、「これで本当に日本は持ちますか?」「子どもたちの世代はどうなってしまうのか?」と心配するのは私だけではないと思います。

これまで日本は食料とエネルギーの供給を海外からの輸入に依存し、おおむね自動車輸出の「一本足打法」に賭けてきました。確かにガソリン車の販売台数では現在もトヨタが世界一ですが、EVの販売台数では1位の米国のテスラ社、2位の中国のBYD社などの海外企業に大きく遅れを取り、トヨタは19位と苦戦を強いられています。唯一残った自動車産業の現実が示しているのはさらなる貿易赤字の拡大であり、物価の高騰であり、財政危機の進行でしょう。未来のない国には子どもが生まれません。日本はどんどん縮小していっているのです。それでも「何はともあれ、防衛(軍事)費増強」と心底から思えますか。そう自問する人が増えてくれるのを望むばかりです。

本稿と合わせて下記アドレスもご参照ください。

「極右化する岸田政権 アベノミクス崩壊と日本」
(YouTubeチャンネル「デモクラシータイムス」ウイークエンドニュース 2022年12月24日配信)
↓YouTube画面が開きます。
https://youtu.be/hyDX_oZ99S8





かねこ・まさる
1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、立教大学大学院特任教授、慶應義塾大学名誉教授。『平成経済衰 退の本質』(岩波新書)『メガリスク時代の「日本再生」戦略「分散革命ニューディール」という希望』(共著、筑摩新書)など著書・共著多数。

撮影/魚本勝之
取材構成/生活クラブ連合会 山田衛

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