畜産物の安定的な生産と供給に向け「子実トウモロコシ」生産への挑戦 飼料の国産化で持続可能な畜産と自給力のアップを
生活クラブでは、組合員と生産者が協力し、持続可能な生産と消費の基盤をつくろうとさまざまな取組みを行なっています。現在は庄内、栃木、長野、紀伊半島の4つの地域に協議会を組織し、その地域の生産者と組合員が中心となって持続可能な生産と消費や地域社会づくりをすすめています。そのうちのひとつ、栃木県の「まるごと栃木生活クラブ提携産地協議会(以下、まるごと栃木)」で、新たな国産飼料「子実トウモロコシ」の自給への取組みを2022年度から開始しました。牛や豚、鶏などにあたえる輸入飼料が高騰するなか、安定的な生産と供給に向けた試みです。
いま必要なのは輸入飼料だけにたよらない選択肢
日本は飼料用穀物の自給率が低く、ほとんどを海外から輸入している状況です。現在、飼料の原料となる穀物価格の国際相場が、気候危機の影響や世界情勢の変化などを受けて高騰しています。加えて輸送コストの上昇や為替の変動により輸入価格を押し上げることとなり、畜産や酪農の経営に大きな影響を与えています。
飼料用の子実トウモロコシ。飼料用の国産トウモロコシは葉・茎まで丸ごと使用するホールクロップサイレージとして主に酪農で使われてきた。子実用は実の部分だけを収穫するため、より幅広い家畜にあたえることができる。
この課題に対する解決策の1つは、飼料を自給すること。いま、日本の各地で「子実トウモロコシ」の生産への取組みが始まっています。子実トウモロコシは外皮や芯を取り除き、栄養価の高い実の部分だけを収穫し乾燥させたもの。食用のスイートコーンとは異なり、でんぷん含有量が高く飼料に適したデントコーンなどが使われています。
子実トウモロコシは、これまで国内で飼料作物として栽培されてきたホールクロップサイレージ用のトウモロコシとは異なり、豚、鶏、牛などさまざまな家畜に与えることができるものです。湿気の多い土地で育ちにくいという課題もあるものの、新たな水田の転作作物として北海道を皮切りに日本各地で栽培に取り組む生産者が増えています。
生活クラブでは1996年に、飼料の自給率を上げる挑戦として、飼料用米への取り組みを提携生産者と開始しました。26年が経過した今、飼料の自給をさらにすすめようと、「まるごと栃木」で子実用トウモロコシの生産を開始しました。子実トウモロコシの栽培から給餌、そしてその畜産品を組合員が食べるところまで、生産者と消費者が一体となってすすめる生活クラブで初の試みです。
「まるごと栃木」での「子実トウモロコシ」栽培への挑戦
「まるごと栃木」の構成団体のひとつ、栃木県開拓農業協同組合(以下、栃木県開拓農協)は、県内の有限会社農業生産法人かぬま(栃木県鹿沼市、以下かぬま)に子実トウモロコシの生産を依頼しました。かぬまは生活クラブの提携生産者向けに、飼料用米を栽培してきたつながりがあります。
かぬまでは2022年7月から、水田から転作した全9ヘクタールの畑で子実トウモロコシを栽培。それぞれの畑で育ち具合などを比べるため、収穫時期が異なる6品種を育て、11月末~12月半ばまでに合計34,206kgを収穫しました。
かぬまでは2022年7月から、水田から転作した全9ヘクタールの畑で子実トウモロコシを栽培。それぞれの畑で育ち具合などを比べるため、収穫時期が異なる6品種を育て、11月末~12月半ばまでに合計34,206kgを収穫しました。
トウモロコシを刈り取るギザギザのヘッダーが先端についた収獲機。刈り取られたトウモロコシは機械の中で脱穀されて実だけが残り、他の部分は畑に落ちる
刈り取りの様子
収穫した大量のトウモロコシの実をトラックへ
湿気に弱いとされる子実トウモロコシを栽培するために、かぬまでは数年前に水田転作した畑を選定。かぬまの生産事業課課長、青山賀一さんは「湿気の対策を行なってきたので畑も十分乾いており、トウモロコシを育てることができました」と話します。水稲に比べて栽培にかかる時間が短くすむのも利点です。また、イノシシ被害を防ぐため、網を張って栽培に取り組みました。
2022年の栽培で得られた知見を反映して、次年度は作付け面積を10ヘクタールに拡大して生産を継続する予定です。
2022年の栽培で得られた知見を反映して、次年度は作付け面積を10ヘクタールに拡大して生産を継続する予定です。
ワイヤーメッシュを張りイノシシ対策をしたトウモロコシ畑
日本の食を未来へとつなげる飼料自給の取組み その課題は?
子実トウモロコシを栽培する(左から)農業生産法人かぬまの青山賀一さん、同・福田朗さん、栃木県開拓農協の秋元一郎さん、同・神山雅如(まさゆき)さん
このたびの新しい試みにはどのような課題があるのか、栃木県開拓農協の農畜産部次長、神山雅如さんに伺いました。
「子実トウモロコシの生産自体は各種助成制度が整えられてきており、つくり続けられる体制が整いつつある状況と見ています。ですが、その次の段階、飼料として畜産農家へ供給する過程に課題があります。ここが解決できなければ子実トウモロコシの国産飼料としての活用はなかなか広がらないと危惧しています」。というのは、ほとんどが輸入品である飼料用トウモロコシは、飼料用に輸入した場合は関税がかかりません。一方、食用コーンスターチの原料にするためには関税がかかります。それゆえ、飼料工場への搬入後、飼料以外への転用を防いだり、国産の子実トウモロコシを同工場へ搬入したりするためには、税関からの承認が必要で、さらに厳密な分別管理が求められます。分別管理がクリアできたとしても、国産品はまだ少量であるため、配合飼料の製造ロットや貯蔵施設での最低保管量を満たすのが今は難しいことや、夏場の高温対策で温度管理のできる倉庫の確保が必要など、クリアすべき課題がいくつもあるとのことです。
「2022年に収穫した子実トウモロコシは、飼料工場で製造していない状況です。豚、牛、それぞれの畜種が食べやすいよう、県内の精麦工場で粉砕や圧ぺん加工(※)したものを各畜産農家に納品し、農家は手ずから飼料に混ぜて給餌しています。普段の作業に加え、手間をかけながら対応している状況です」。2022年産子実トウモロコシは2023年2月から給餌を開始し、豚に2%、ほうきね牛へ3%、開拓牛へ4%の割合で与え、5月ごろには給餌を終了する予定です。このトウモロコシを給餌された豚・牛は主に生活クラブの店舗デポーへ出荷されます。
「トウモロコシ生産者も畜産農家も手間や費用をかけ、探求心をもってこの試みに一丸となって挑戦しています。解決すべき課題はたくさんありますが、畜産の継続のためには、飼料の国産化に取り組まないわけにはいきません。この重要性を考慮し、目の前の課題に対し一つひとつ、できるだけ早い対応をとっていきたいと思っています」。
※圧ぺん加工:蒸気加熱後、ロール機でつぶしてフレーク状にすること。
一方、消費者として「まるごと栃木」に参加する生活クラブ栃木の組合員・中村都さんは、新しい国産飼料の栽培拡大に期待をもっています。
このたびの新しい試みにはどのような課題があるのか、栃木県開拓農協の農畜産部次長、神山雅如さんに伺いました。
「子実トウモロコシの生産自体は各種助成制度が整えられてきており、つくり続けられる体制が整いつつある状況と見ています。ですが、その次の段階、飼料として畜産農家へ供給する過程に課題があります。ここが解決できなければ子実トウモロコシの国産飼料としての活用はなかなか広がらないと危惧しています」。というのは、ほとんどが輸入品である飼料用トウモロコシは、飼料用に輸入した場合は関税がかかりません。一方、食用コーンスターチの原料にするためには関税がかかります。それゆえ、飼料工場への搬入後、飼料以外への転用を防いだり、国産の子実トウモロコシを同工場へ搬入したりするためには、税関からの承認が必要で、さらに厳密な分別管理が求められます。分別管理がクリアできたとしても、国産品はまだ少量であるため、配合飼料の製造ロットや貯蔵施設での最低保管量を満たすのが今は難しいことや、夏場の高温対策で温度管理のできる倉庫の確保が必要など、クリアすべき課題がいくつもあるとのことです。
「2022年に収穫した子実トウモロコシは、飼料工場で製造していない状況です。豚、牛、それぞれの畜種が食べやすいよう、県内の精麦工場で粉砕や圧ぺん加工(※)したものを各畜産農家に納品し、農家は手ずから飼料に混ぜて給餌しています。普段の作業に加え、手間をかけながら対応している状況です」。2022年産子実トウモロコシは2023年2月から給餌を開始し、豚に2%、ほうきね牛へ3%、開拓牛へ4%の割合で与え、5月ごろには給餌を終了する予定です。このトウモロコシを給餌された豚・牛は主に生活クラブの店舗デポーへ出荷されます。
「トウモロコシ生産者も畜産農家も手間や費用をかけ、探求心をもってこの試みに一丸となって挑戦しています。解決すべき課題はたくさんありますが、畜産の継続のためには、飼料の国産化に取り組まないわけにはいきません。この重要性を考慮し、目の前の課題に対し一つひとつ、できるだけ早い対応をとっていきたいと思っています」。
※圧ぺん加工:蒸気加熱後、ロール機でつぶしてフレーク状にすること。
一方、消費者として「まるごと栃木」に参加する生活クラブ栃木の組合員・中村都さんは、新しい国産飼料の栽培拡大に期待をもっています。
生活クラブ栃木 副理事長 中村都さん
「栃木でこのような取組みがスタートしてうれしいです。地元の子実トウモロコシで、少しでも飼料の自給率を上げることに貢献したいという思いがあります。多くの人に興味を持ってもらい、国産飼料の取組みが広がってほしいです。
食べる側の私たちにとっても、豚や牛に一体どんな飼料が与えられているのかは気になるところ。生活クラブの食材はその背景までわかるのがほかにはない価値です。私には食べ盛りの子どもたちがいるので、この先も子どもたちが安心できる食材を選べるようにしたいですね。これからも食材を使い続けることで、その先にいる生産者の方々の力になりたいです」
食べる側の私たちにとっても、豚や牛に一体どんな飼料が与えられているのかは気になるところ。生活クラブの食材はその背景までわかるのがほかにはない価値です。私には食べ盛りの子どもたちがいるので、この先も子どもたちが安心できる食材を選べるようにしたいですね。これからも食材を使い続けることで、その先にいる生産者の方々の力になりたいです」
2022年に栃木で始まった子実トウモロコシの栽培。初年度は約35tの給餌からのスタートとなりました。トウモロコシの生産者、畜産農家、そして消費者である生活クラブ組合員が協力体制をつくり、もっと大きく広げることで国内自給率を上げ、食の安定的な生産基盤を構築していきます。
【2023年3月22日掲載】