「食料・農業・農村基本法検証部会中間取りまとめ(案)」への意見を提出しました
「食料・農業・農村基本法」は、農業政策の憲法ともいわれており、農業政策の基本的な方向を示すものとして、1999年に制定されました。現在の農業施策(担い手の育成・確保、農村振興など)は、この法律に基づいて実施されており、この中では、食料安全保障の考え方や食料自給率の向上を図ることも規定されています。
今年5月、「食料・農業・農村基本法検証部会」により約20年ぶりとなる見直しに向けて「中間取りまとめ」が公表されました。
これを受けて、7月6日、生活クラブ連合会は、農林水産大臣宛に「『食料・農業・農村基本法検証部会中間取りまとめ(案)』への意見」を提出しました。
今年5月、「食料・農業・農村基本法検証部会」により約20年ぶりとなる見直しに向けて「中間取りまとめ」が公表されました。
これを受けて、7月6日、生活クラブ連合会は、農林水産大臣宛に「『食料・農業・農村基本法検証部会中間取りまとめ(案)』への意見」を提出しました。
2023年7月6日
農林水産大臣 野村 哲郎 様
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会
代表理事 会長 村上 彰一
代表理事 会長 村上 彰一
食料・農業・農村基本法検証部会中間取りまとめ(案)への意見
私たち生活クラブ事業連合生活協同組合連合会は北海道から兵庫県までの33の会員単協が参加し約42万人による共同購入を通じて、生産者と共に「健康で安心して暮らせる社会」の実現に向け活動している生活協同組合です。
消費とは生命が生まれて死ぬまでの過程そのものであり、何を作り出し、選び、利用するかという私たちの行動によって未来の生命と環境のあり方が決まります。私たち生活クラブは生産者と消費者が直接的に話し合い、次世代への責任として「健康で安心して暮らせる社会」を実現するための食のあり方について対話を重ね、動植物本来の生理に基づく生産と消費を進めてきました。農業生産においては栽培地に適した品目・品種の選択、農薬削減や化学合成肥料削減とそれらを可能にする適地適作、土づくりに取り組み、畜産においては種の自給(国産鶏種等)、抗生物質を始めとした投薬の見直し、投薬期間の管理、健康的な家畜飼育のための飼養環境の改善に取り組んできました。しかし、国内生産人口の減少、とりわけ農畜水産業における従事者の高齢化や担い手不足、気候危機問題の深刻化、世界的な食料需給のひっ迫やエネルギー価格の高騰、資源を海外に依存する日本において為替変動も含めた生産コストの上昇が農畜水産業の持続性に深刻な打撃を与えています。
食料安全保障の強化に向けては、基本計画を見直し平時から食料安全保障の状況を評価する新たな仕組みに転換することが重要です。水田を中心とした農地面積を維持することにより食料の確実な確保、水害の回避や環境・景観の維持を図るとともに、需給に対応して麦、大豆、業務用野菜、飼料米、米粉米等の新規需要米の拡大が必要です。一方、輸入原料に依存する肥料についても国産化を進めことが重要です。
持続可能な農業への転換では、みどり戦略法に基づく有機農業の拡大とともに、最低限行うべき環境負荷低減の取り組みを明らかにし、各種の支援が環境に負荷を与えることがないよう配慮することを原則とすべきです。そして、「地域計画」の策定を徹底することを重要視し、地域内の将来の農地利用の姿を明確にしたうえで、多様な農業人材が意欲的な取り組みを進める環境を整えるべきです。
持続可能な農畜水産業の実現による自給を柱とした安定的な食料供給を実現していくために、生産資材の調達から消費に至るまでのすべての分野からの意見を反映させていくことが重要と考えます。「食料・農業・農村基本法」で示される日本の農業の未来像を見直すにあたって、各地域で提携する農畜水産業者、林業者、加工食品業者、地方行政と共にローカルSDGsに取り組んでいる立場から以下の通り、意見を提出させて頂きます。
①食料安全保障の定義
食料安全保障の定義は国や機関により異なります。日本においては農業基本法の成立以来、農業者を対象にした所得向上から始まり、有事の際の食料確保へと転換してきました。
現在、FAO(国連食糧農業機関)食料サミットにおいては、食料の安全保障は「すべての人が、いかなる時も活動的かつ健康的な活動を行うために十分な食料を将来に渡り入手可能な状態」と定義されています。日本においても、FAO食料サミットに合わせた定義の変更を行ってください。
2.食料に関する基本的施策への意見
①食料安全保障の観点から国内自給対策の強化
世界における紛争や家畜における疾病の蔓延、感染症のパンデミック、気象災害の大型化、多発化により海外に依存した食料確保の問題は顕在化しています。持続可能な食料確保を目指し国内自給を中心とした食料確保の推進が必要です。
ミニマムアクセス米の輸入や、国内の酪農生産基盤の破壊に繋がりかねないカレントアクセス(13.7万トンに及ぶバターや脱脂粉乳などの指定乳製品の輸入量)による乳製品輸入の運用見直しを進めてください。
②食品アクセスの支援
食料安全保障の実現のためには社会的、物理的、経済的なアクセスが確立される必要があります。とりわけ経済的なアクセスについて、貧困家庭の増加など課題が顕在化しており民間の取り組みとしてフードバンクを始めとした取り組みが広がっています。
国としても経済的アクセスが困難な人に向けたフードバンク、こども食堂など必要とする人に必要な食料が届けられる対策の強化を要望します。
③所得補償による生産支援の強化
食料そのものに限らず、畜産飼料や肥料を始めとした生産資材の海外依存により、生産費上昇が続き、農畜産業従事者の経営は逼迫しています。持続可能な国内生産基盤の強化を図ることが急務です。
生産費の上昇を生産物の価格に全て転嫁することは市場に委ねられた価格形成の中で生産の持続性確保、また、消費者の経済的アクセスを含めても困難です。生産支援の強化による食料の安定供給とアクセスの確保を要望します。
とりわけ、自給率100%を達成できる水稲においては飼料用米の数量払い制度の維持と主食用米を含めた総合的な所得補償が必要です。
また、山間地や寒冷地などで酪農が発達してきた経過を振り返れば、水稲を始めとした穀物生産が難しい地域において、牧草など人が直接食料とできない作物を牛乳・乳製品など貴重なたんぱく源として人の食料に転換する畜産業の維持は重要です。超高齢化社会が進む中、健康寿命の伸長に貢献する動物性たんぱく質の確保は今後さらに重要性を増していきます。
農業・畜産業の持続可能な生産を支え食料自給率の向上につなげていくために広範な生産物を対象にした所得補償制度の導入を要望します。
④「食」の選択肢の確保
遺伝子組み換え技術やゲノム編集などの安全性は世代を超えた検証はされておらず、消費者が安心して利用できる食料として不安があります。
また、バイオテクノロジー企業による種子開発が大きなシェアを占めており多国籍企業や海外への依存は国内自給強化の方向性とは異なります。
消費者、農畜産業生産者が利用する作物が何ものであるか確認したうえで選択することは消費者および生産者の権利です。遺伝子を人為的に操作した種子や作物を生産者及び消費者が選択を可能にする表示制度の充実を要望します。
3.農業及び農村に関する基本的施策への意見
①食料主権の視点に立った家族的小規模農業の支援、種の公的財産としての確保
気候や土壌など地域特性に応じた種の選択や品目の選択を可能にするため、多様な農業経営形態の存在は重要です。
画一的な種子や品目の選択、農法の画一化は地力の低下による生産性の低下など、課題も多く確認されてきました。気候危機、家畜における疾病の蔓延など地域の持続的な農業経営ヘの障害にもなりえます。
農地は個人(法人)所有ですが、社会的なインフラでもあります。日本の食料生産の根幹となる農地は地域の暮らしと密接につながり、地域社会、文化を生み出してきました。こうした農業を守っていくことも過疎化や高齢化による担い手不足への対策となります。
適地適作を視点とした種の選択を農業者自らが行えるよう公的な財産として地域ごとの気候風土に適した優良かつ低廉な種子の開発、普及を進めてください。
②ローカルSDGsを視点とした地域内連携の支援
生産資材の高騰が進む中、資源の地域内循環構造の確立が急務となっています。畜産から発生する糞尿を活用した堆肥供給や農産における自給飼料生産、林業から発生する敷料原料など業態を超えた連携によるローカルな流通の仕組み作りが重要です。
一方、食料の地域内流通に関してオーガニック学校給食の機運が高まっています。学校に限らず公的調達を進め、公費による買い上げを通じて農業者の安定経営、農業技術の向上、農業の地位向上につなげていくことが重要です。行政ごとに差が大きい現状を踏まえ全国的に推進出来るよう国としての支援を要望します。
③新規就農者の育成、担い手確保の強化
農業従事者の平均年齢が65歳を上回り、高齢化が顕著になっています。新規就農者数を上回る離農者数や高齢化により生産面積の縮小などからほとんどの作物が生産量を減少させており、多様なチャンネルからの担い手確保が必要となっています。
都市住民の農業参画、IJUターンによる担い手創出など多様な農業の担い手育成の推進を期待します。
農地取得による新規自営農家、地域の生産法人に就業する新規農業従事者の育成、季節間の偏重が大きい作物における他業種でのワークシェアリングなど、担い手育成に向けた制度強化を要望します。
4.環境に関する基本的施策への意見
①環境に負担を掛けない生産技術の開発と普及
農地や家畜から発生する温室効果ガスの発生抑制に向けた飼養用体系や農法の開発が期待されます。戦後の輸入配合飼料の給餌による集約的な畜産業や「緑の革命」以降の多肥型栽培による生産手法からの転換においては単位面積当たりの生産量の減少なども想定されます。
建設的な技術獲得に向けた支援制度など自給力向上と環境保全を両立する取り組みを要望します。
②地域内連携による農地保全、環境対策の強化
近年の気象災害の大規模化の被害は広範な農地の喪失にも繋がっています。周辺地域、とりわけ森林事業者などとの連携により気象災害の被害低減など、農地と森林の多面的機能を維持し国土保全、食料供給の安定化を進めていく必要があります。
水田における湛水機能の発揮は気象災害の大型化が進む中、ダム機能による災害抑制効果も期待されています。
健全な山林の維持は山の貯水性回復と併せ集中した水流の抑制を図り土砂災害の防止、軽減につながります。農地維持の観点からも農林連携を視点にした周辺地域全体での対策強化を要望します。
5.その他
国外的、国内的にも大きく情勢が変化しています。
日本の経済的地位の低下、世界的な気候危機、人口動態の変化など、農業分野のみで食料の生産、流通、供給を考えていくことは困難となっています。
地域社会の存続なくしては地域農業の維持もあり得ません、人口が大きく減少していく中生産現場においてもより一層の多様な人材の確保が必要です。
綜合的な対策を検討するうえで、福祉政策、土地利用に関する政策など横断的な対応が必要です。
各政策との広範な連携による検討を進めてください。
以上
【2023年7月6日掲載】