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木桶で醸し造る風味と、素材が生きる味と香りと【食酢、純米酢 他】


木桶の表面にびっしりひろがる酢酸菌の膜
 
生活クラブ連合会の酢の提携生産者、私市(きさいち)醸造は、木桶(きおけ)による時間をかけた表面発酵法と、素材の特徴を生かせる通気発酵法、2種類の方法で醸造を行い、酢の魅力を伝えている。創業は1922年。昨年、100周年を迎えた。生活クラブとの提携は40年を超え、びん容器を回収・洗浄して再利用するグリーンシステムや、原材料の遺伝子組み換え(GM)対策などに取り組んできた。

「食酢」が最初


「木桶にこもが巻いてあるのは、以前、屋根だけある場所で醸造していたなごりです」。伊藤史郎さんは、開発チームのマイスターだ。
 
酢は、糖分が多い果物や穀類を発酵させて造るアルコールに、酢酸菌を働かせて造る。微生物が行う発酵と熟成を経て、独特の酸味と香りが生まれる発酵調味料だ。

生活クラブ連合会の提携生産者、千葉県鎌ケ谷市にある私市醸造では、2通りの方法で酢を造る。木桶を使い、仕込んだ液の表面で酢酸菌が自然にまかせて酢酸発酵を行う「表面発酵法」と、タンク内に、常に空気を送り込みながら酢酸発酵を進める「通気発酵法」だ。

表面発酵法では、杉の木桶に、醸造用アルコールと熟成酒かすの抽出液、種酢を仕込む。木桶の容量は30石(5400リットル)。液面には、酢酸菌が密集してできた膜が広がる。酢酸菌は2カ月から3カ月をかけて、ゆっくりとアルコールを酢に造り変え、さらに2カ月から3カ月をかけて熟成すると、木の香りが移った琥珀(こはく)色の酢ができる。「新しい材料を仕込む時には、菌膜をすくって移します」と、発酵管理チームの赤木誠さん。この製法で造る酢の味が代々伝えられているのだと言う。

通気発酵法では、アセテーターという発酵タンク内で、空気の泡が常に液全体に回るようにし、酢酸菌が働きやすい環境を作っている。酢酸発酵は均一に短期間に行われ、クセのないすっきりした味わいの酢ができる。開発チームマイスターの伊藤史郎さんは、「通気発酵法では、りんご酢や米酢など、素材の持ち味を生かして酢を造ることができます。酢のメーカーは全国に140社ほどありますが、アセテーターを持つ会社はそのうち10%ぐらいです。私たちは木桶も使い、2種類の方法で醸造しています」と胸を張る。

私市醸造が生活クラブと提携したのは1978年。当初生活クラブは、昔ながらの木桶で造る酢の取り組みを望んだ。しかし私市醸造は、この酢は味や香りの個性が強すぎて、組合員の味覚に合わず、長続きしないのではないかと危惧し、他の製法の酢とのブレンドをすすめた。

こうして取り組みが始まった「食酢」は、木桶で仕込んだ酢に通気発酵法によるホワイトビネガーをブレンドし、さらにまろやかなコクと深みのある味を持つ米酢を加えたもの。和洋中の料理に使える万能の酢だ。
高さが約2メートルの木桶が22本並ぶ
 
「菌膜は沈んだり流出すると増殖しなくなります。この酢の味を守るために使いつないできました」と、発酵管理チームの赤木誠さん

くり返し使うびん


右より、代表取締役社長の私市一康さん、2代目で一康さんの父、私市冨士彌(ふじや)さん、経営企画室の私市奈緒子さん
 
私市醸造では、酢の容器は基本的に新びんではなく、洗浄したリユースびんを使う。代表取締役社長の私市一康さんは、「もともとびんを回収しくり返し使っていました。グリーンシステムが始まり、統一された規格のびんを使うことになりましたが、製造ラインに組み込むことについては問題ありませんでした」と言う。さらに「びんの形状を統一したため、『型替え』をする必要がなくなりました」と、煩雑な作業がなくなったことを説明する。製品によってびんの形状がバラバラな場合、洗びん、充填(じゅうてん)、ラベル貼りなど、びんの形状に合わせてすべての製造ラインを微調整しなくてはならない。グリーンシステムによって、それまで行っていた型替えの作業がなくなった。

一番悩まされたのは、リユースの回数が多くなったびんが劣化し、傷がつくことだ。新びんは打栓をしても口が割れないが、再度使うびんは割れることがある。また、65℃で殺菌した熱い酢を充填する時に破損することもある。「それをかたづけて、製造ラインを復帰させますが、その作業に苦労していましたよ」。びんはリユースする以上、劣化は当然のことと、使用する前の点検を徹底している。

私市醸造は、リスクを最小限に抑える工夫をしながら、食品のメーカーとしてグリーンシステムに率先して取り組んできた。生活クラブで取り組むリユースびんにはRマークの刻印があり、Rびんと呼ばれる。組合員がRびんを使う消費材を利用し、使い終えたびんをきちんと返すことにより初めて、生産者と消費者の間の無理のないRびんの循環が成り立つ。
 

空びんは傷を、充填した後は異物の混入を、1本1本を人の目で点検する

遺伝子組み換え対策も

私市醸造は原材料の見直しも何度か行っている。

1973年、米国で遺伝子組み換え(GM)技術が開発されると、80年代よりGM作物が栽培されるようになり、日本では96年に輸入が認可された。生活クラブは97年、「遺伝子組み換え技術によって生産された作物・食品及びその加工品は取り扱わないことを原則とする」などの基本態度を表明した。
当時、酢やみそ、しょうゆなどの製造に使われる醸造用アルコールは専売法のもと、輸入トウモロコシを原料として限られた工場で生産されていた。輸入トウモロコシはGMが混入している可能性があり、私市醸造では他の原料を探した。

2000年、専売制度が廃止され、GMの心配のないサトウキビを原料としたアルコールを使えるようになると、社内の原料アルコールのすべてを切り替えた。

GM対策に取り組む中で登場したのが「純米酢」。もともと食酢にブレンドされていた米酢は、国産の米粉を原料にアルコール発酵をし、アセテーターで酢酸発酵をする、GMの心配がない酢だ。すっきりとした酸味とコクがあり、あえ物やピクルス、漬物など、さまざまな料理に使いやすい。

さらに、「純りんご酢」の原料の濃縮りんご果汁は中国産と国産を50%ずつ使っていたが、すべてを青森県産に切り替えた。ほのかにりんごの香りが残る酢は、ドレッシングの材料に、またはちみつを加えて水で割った飲料にと、さわやかな香りと味を楽しめる。
 
ドイツ製の通気発酵装置、アセテーター。短時間で酢酸発酵を終える

木の香りが残る酢

私市醸造は1922年、「私市商店」の名前で創業した。初代の万次郎さんが東京都杉並区の阿佐ヶ谷で酒店を営みながら、全国の酢のメーカーから酢を仕入れ、すし店へ販売していた。昭和になり戦争が近づくと上質な酢が手に入らなくなり、思うような販売ができなくなった。戦後は、鎌ヶ谷に移り住む。そこで、再び商売を始めた知り合いのすし店が増えたことを知り酢の醸造を始め、私市醸造として復活する。

一康さんは「父である2代目の冨士彌(ふじや)は、阿佐ヶ谷時代、取引先のすし店がどんな酢を必要としているかを確認して自分でブレンドし、納得したものを提供していました」と、顧客を大事にしていた冨士彌さんの仕事を誇らしげに話す。その商いは信頼を集め、今でも首都圏の多くのすし店との取引が続いている。さらに、「生活クラブの提携生産者として原料を選び消費材を作り、環境に配慮する活動に取り組んできました。そうして酢のメーカーとしての今があります」と振り返る。

私市醸造は、時代を超えて使い継がれてきた酢酸菌が木桶の中で造り出す独特の風味と、さまざまな場面で酢を使う文化を伝えていく。
 
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
 

夏こそ酢を


ホーローやステンレス素材の容器が出回る以前、酒やみそ、しょうゆ、酢などを仕込む容器は、木桶(きおけ)が使われていた。

まず、酒造家が酒造りのために杉の木桶を作り、20年から30年使い、木の香りが適度に抜けた桶を、酢、みそ、しょうゆなどの醸造業界が譲り受け、さらに使っていた。

しかし1950年以降、酒造りは、管理や保管が容易であり、微生物の働きをコントロールしやすい素材の容器で行われるようになる。木桶による醸造は自然条件に左右され、一定の品質を保つことが難しく、衛生面でも問題があると指摘されたことも大きな要因だ。大量生産、大量消費が求められる高度経済成長期以降、木桶は姿を消していった。

酒造りに木桶を使わなくなると、他の醸造業も同じようにホーローやステンレス製の容器に替え、桶を作る職人も減っていった。

私市醸造の顧客は創業時よりすし職人が多い。昔から江戸前鮨(ずし)には、熟成酒かすを使い木桶で造った、木の香りが移った酢が好んで使われていた。古い桶が手に入らなくなった私市醸造は職人を探し、新しい桶を作ってもらい、不具合が出てきたらメンテナンスをしながら使い続けている。「私たちは、木桶を作る技術や使う文化を残し伝える役割を担っていると思っています」。代表取締役社長の私市一康さんの言葉だ。

酢は食欲を増進させ、食後の血糖値の上昇を緩やかにする働きがある。内臓脂肪を減少させるという研究報告もあり、料理に酢を加えることによって味にコクが出て塩分を控えるようになり、高血圧にも効果があると言われている。

一康さんの長女の奈緒子さんは、幼い頃から酢を使う料理になじんでいた。「健康の面でいろいろな効果が期待される酢を、積極的に使う食生活を提案していきたいです」と言う。「暑くて食が進まない時や、さっぱりしたものを食べたいと思った時は、料理に少し酢を足してみて下さい。とても食べやすくなりますよ」。また、純りんご酢は飲み物としても利用でき、水で割っただけでもおいしいと言う。他の酢も甘味やジュースを加え楽しんでいる。

味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の五味がある。「五味の中で苦味と酸味は経験的に身に付けていく味です」と一康さん。そういった味を子どもの頃から経験して、食を豊かなものにしてほしいと言う。組合員に会う機会が多い営業部の野口純さんは、「小さい子どもは酸っぱい味や苦い味が苦手で食べないようですが、酸味と苦味は慣れていく味です。少しずつでも食卓にのせてみてください」と、交流会などで話すそうだ。

防腐効果もある酢は、暑い時期の弁当作りにも活躍する。夏の食卓にどんどん登場させたい調味料だ。
 
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
『生活と自治』2023年7月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2023年7月20日掲載】
 

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