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[本の花束2023年8月] 彼らが確かに生きていたことを伝えたい 指田和さん


広島の原爆で亡くなった一家が遺した、2000枚もの家族写真をもとにした絵本『ヒロシマ 消えたかぞく』。その後、3年をかけて家族の生きた日々を取材した『「ヒロシマ 消えたかぞく」のあしあと』。
この2冊を出版された指田和さんにお話を伺いました。
指田和さん(著者撮影:尾崎三朗)
 
──広島に暮らしていた鈴木六郎さん一家が遺した家族写真には、どのように出会ったのですか?

2016年、広島の平和記念資料館の新着資料展です。それまで、寄贈・展示される原爆関係の遺品は衣類や壊れた時計などが多かったのですが、その年、会場の一角に展示されていたのは幸せそうな家族写真で、はじけるような子どもの笑顔に引き込まれました。思わず笑ってしまうような微笑ましい写真もあり、自分が今どこにいるかを忘れてしまいそうになったけれど、「この家族は 原爆で一家全滅しました」と最後に記されていて、一気にここは原爆資料館なのだという現実に戻されました。

──指田さんが受けた衝撃は、絵本にも再現されていますね。

あの写真を見て衝撃を受けて、気持ちがかき乱されて……でも、その強い何かを、私だけのものにしていてよいのだろうかと感じました。原爆の被害のひどさだけではなく、こんなことがあってはならない、これは本にしなければと思いました。
──その後、絵本の制作の過程やその反響、取材のなかでの出会いをまとめた『「ヒロシマ 消えたかぞく」のあしあと』を出版されました。

家族全員が亡くなったといっても、たとえば六郎さんが亡くなったという「西の方の救護所」はどこだったのか。調べられるなら辿りたいと考えました。
この家族一人ひとりが生きていたのだということを、確認したい思いがありました。突然いのちを奪われ、消えてしまった、消されてしまったのに、そのことを誰も知らず、忘れさられてしまうなら、こんな悲しくやるせないことはありません。とにかく調べて、この人たちが生きていたことをちゃんと知らせたいと思いました。もしも自分が突然いのちを奪われて、そのことに誰も気づいてくれなかったら。そう思うと、いてもたってもいられず……それは、自分もまた大切にされたいからなのだと気づきました。

──鈴木さん一家は2000枚もの写真を遺していて、親戚の方が大事に保管されていたそうですね。

写真の一部には、家族の様子を記したコメントも遺されていました。日々の暮らしのなかで、赤ちゃんだった子どもたちもどんどん成長していって。会ったことがない家族なのに、この子たちがどんな子だったか、どんな家族だったかが伝わってくる。
でも、そんな家族が広島にはたくさんあったはずです。写真を遺してくれたからこそ、それが伝わる。

──こんなにも幼く、表情豊かで愛らしい公子ちゃん(絵本の表紙の女の子)が、亡くなるとき、兄の英昭くんに「カタキとってね」と言い残したというエピソードも重いものでした。

大人の読者から、こんな小さな子がそんな恐ろしい言葉を言うはずがない、という感想もいただいたのですが、当時の教育を考えると、そのような言葉も出るだろうなと私は感じました。
また、戦時中であっても、すべてが灰色の生活なわけではないし、今の私たちが戦時中はこういうものだと思い込みがちなことも、取材をしていくなかで、違う側面があったことに気づかされました。

──戦争体験者が少なくなるなかで、平和を伝え続けていくことの新たな可能性を感じる一冊でした。

戦争や原爆を「出来事」として捉えるのではなく、私たちと同じように暮らしていた生身の人たちのエピソードを伝えていくことで、何か確実に伝わるものがあると手応えを感じています。私たちに与えられたいのちは、精一杯生きて謳歌するためのもの。自分のいのちも、他の人のいのちも、同じように大事にし、ともに生きる世の中であってほしいと願っています。
 
インタビュー:岩崎眞美子
取材:2023年4月

 
●さしだかず/1967年、埼玉県生まれ。日本児童文学者協会会員。いのちや自然に関するテーマにひかれ、取材し作品にしている。主な絵本に『ヒロシマのピアノ』(絵・坪谷令子) 、『はしれ上へ!つなみてんでんこ』( 絵・伊藤秀男)など。


2020年広島本大賞 特別賞受賞作
ヒロシマ 消えたかぞく
●指田和 著 鈴木六郎 写真
●ポプラ社(2019年7月)
●22.6cm×22.6cm/41頁
 


「ヒロシマ 消えたかぞく」のあしあと
●指田和 著
●ポプラ社(2022年7月)
●19.5cm×13.5cm/239頁
図書の共同購入カタログ『本の花束』2023年8月2回号の記事を転載しました。

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