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生存は抵抗。生きているだけで、すでに革命的と言いたくて

人文書院刊『布団の中から蜂起せよ』の著者・高島鈴さんに聞く


黒地に緑の文字という斬新な装丁。「あなたに死なないでほしい」と書かれた帯の文字に心が揺れる一冊の本がある。人文書院刊『布団の中から蜂起せよ――アナ―カ・フェミニズムのための断章』だ。同書は若い世代を中心に社会の関心を集め、2023年「紀伊國屋じんぶん大賞」第1位にも選ばれた。著者は1995年生まれのライターで、フェミニストでアナキストでもある「アナ―カ・フェミニスト」の高島鈴さん。執筆の動機と著書に込めた思いを取材した。

「ダメなフェミニスト」でもいいと思えたのは――

草木の若葉がやわらかな輝きを放ち、うららかな陽光のなかを蝶が舞う。花々が咲き乱れ、冬の間に蓄えられた生命のエネルギーがみなぎる。そんな春の訪れが憂鬱になった。18歳で都内の大学に入学したが、さまざまな違和感にさいなまれ、何に迷い、困っているのかもわからないまま1年が過ぎたと高島鈴さん。ある日、自己の内面を文章にしてみようと思い立ち、短いエッセイを書き、ブログとしてネットに掲載した。思いを吐き出すうちに、自分自身を知るためのツールとして文章があると気がついた。それを知人の編集者が見てくれたのがきっかけで、長い文章を書くようになり、ウェブメディアにニュース記事を出稿するようにもなった。たとえ小さな扱いでも自分の書いた記事がウェブで公開されるのが嬉(うれ)しくて、書くことにぐっと引き込まれていった。

フェミニストになったのは大学に入ってから。それまで自身を的確に表現する言葉がなかなか見つからず、もやもやした違和感をため込み続けた。そんなとき、ハイチ系米国人の作家でバデュー大学準教授のロクサーヌ・ゲイが書いたエッセイ集『バッド・フェミニスト』と出会い、自分はフェミニズムに救われてもいいのかもしれないと思えるようになった。ロクサーヌは「私はピンクの服も着たいし男性も好きなダメ・フェミニス」と自己矛盾を率直に吐露し、それが米国社会で大きな反響を呼んでいた。そのとき得たインスピレーションを高島さんはこう話す。

「私はフェミニズムの専門教育を受けていませんし、いつでも正しい判断ができる完璧なフェミニストではありません。でも“バッド・フェミニスト”でいいのだと勇気をもらった。自分の頭で考え、今の状況に反旗を翻したいと思うのなら、それだけでもフェミニストの資格が十分あると思えてきて、以降フェミニストであると名乗ることに躊躇(ちゅうちょ)しなくなりました」

布団の中で指一本動かせず、はいつくばっているしかない状態に陥った経験が高島さんにはある。「自分は世の中の何の足しになっているのか、ただの穀潰(ごくつぶ)しなのではないか」と考え続けた末に「生きることを選択し続けることが、どれだけエネルギーを要するかを知り、生き延びることが未来の革命のためには必要なのだと気づいたのです。それから『生存は抵抗だ』という言葉を意識的に使うようになりました」
 
代々木に設置された、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレ。中に誰も隠れていないか事前に分かる透明トイレというコンセプトで、鍵が閉まるとガラスが不透明になるユニークな仕組みが導入された。だが2022 年、故障が発生したため現在は常時不透明状態のまま。赤が女性、青が男性という固定概念にとらわれないように、寒色系・暖色系のトーンで作られている。デザインは坂茂氏。

権力が一切存在しない社会、権力による支配が及ばない共同体の実現を志向する高島さんはアナキストでもある。とはいえ、そんな社会が本当に存在するのだろうか。「それはアナキストが耳にタコができるくらい受けてきた問い」として、高島さんはこう訴える。「たとえ実現への可能性が現時点では薄いとしても、それにたどり着く道筋があり、それがくるべき世界だと信じない限り、何かを始めることはできません。ユートピアを考え続け、今ここにない世界を考え続けることが現状を打破するための大きなエネルギーになると思うのです。だから現状況に抵抗する意志を持ち、生き延びていることはすでに革命的といえます。そのことを生きるのがしんどいと感じている人に直接的な栄養剤となるような言葉にして届けたい。たとえ布団の中からでも、何も出来なくても、思想だけは持ち続け、生き延びて、新しい社会を共に作りましょうと伝えたい。それが今回の本に込めた一番の思いです」

では、あらゆる権力を否定し、性差別のない、平等な社会を創造していくには、いかなる連帯を追求していけばいいのだろうか。著書で高島さんは「蜂起せよ、<姉妹>たち」と呼びかけている。近年、映画やドラマなどで取り上げられ、社会的なトレンドとされる女性同士の連帯を意味する「シスターフッド」の「シスター」が想起されるが、高島さんは単に女性同士の絆を意識したわけではないという。

「本ではどんなジェンダーアイデンティティ(性自認)であってもシスターになれると言いたかったのです。ただ、現在は少し考えが変わってきて、シスターという女性的な表象を使うことは間違っているかもしれないと考えるようになりました。この変化にはノンバイナリーの友人ができたことが関係しています」

ノンバイナリーとは、男性か女性かどちらかには分けられない性自認とされている。ただ、なかには男女どちらでもあるとする人(バイジェンダー)、どちらでもないとする人(Aジェンダー)、ときにジェンダーアイデンティティーが変わる人(ジェンターフルイド)もいて、グラデーションがある。とすれば「シスターフッド」という言葉を安易に使うと、ノンバイナリーの人が疎外されてしまう、あるいは、女性という枠に無理やり押し込めてしまう恐れもある。多くのノンバイナリーの人が本人の自認する性とは異なる扱いをされて深く傷つくような経験をしてきた。そこから性別・性自認は、男女の二元化できるものではなく、グラデーションがあるとの考えが広がってきている。(※注)

「本来のシスターフッドは、家父長制に基づく男性優位社会のみならず、あらゆる差別や抑圧の根絶を目指す女性同士の連帯のこと。それも階級、人種、性的嗜好を超えての連帯を意味していると思います」と高島さん。「アナキストでありフェミニストでもあるアナーカ・フェミニストとして、女性同士はもとより性別を超えた連帯によって国家や資本、天皇制や新自由主義などの権力による支配に抵抗し続けていきたい。ここまでおかしくなった世の中で、あんたは狂っていると言われるのであれば、それこそが正常だともいえるわけです。そこに気づき、生存の抵抗をあえて選択する人を少しでも増やしていきたいと思っています」

恵比寿駅西口に設置された、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレ。大人から子供までさまざまな人が、すべてのトイレを性別を問わず使えるデザインになっている。クリエーターは佐藤可士和氏。

権力に承認された人間関係だけが特権を持つ?

「今の日本は、多くの人にとって生きにくい。脱出して国外に行くと言う友人たちもいます。それでも、自分は、このシマに身を置き、このシマを少しでもマシな状況に変えていきたい」と高島さん。この言葉の背景には日本固有の「差別的な法制度」に対する強い問題意識がある。

今年5月に広島で開催された主要先進国首脳会議(G7)を機に「同性婚の実現」など、性的マイノリティの人権保護に関する議論や政策提言を目指す動きが活発になった。そうしたなか、同性婚と夫婦別姓を法的に認めず、性的マイノリティ(LGBTQ+)への差別禁止法も制定していないのは、G7参加国では日本だけだ。2021年に朝日新聞が実施した世論調査によれば、同性婚について「認めるべきだ」と回答した人は65パーセントを占め、「認めるべきではない」は22パーセントとなった。

しかし、同性婚の法制化について岸田文雄首相は「我が国の家族のあり方の根幹に関わる問題で極めて慎重に検討すべき課題だ」「家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題」という認識を表明しただけで、具体策を講ずる姿勢を見せていない。岸田政権といえば、性的マイノリティ(LGBTQ)への差別発言が目立つ杉田水脈氏を総務政務官に起用(その後、批判の高まりを受け更迭)し、LGBTQへの差別発言により首相秘書官が更迭されるといった「前歴」がある。
 

杉田水脈衆議院議員といえば、2018年に月刊「新潮45」に掲載されたLGBTQに対する差別的な内容の寄稿が問題となった。杉田氏の主張は「同性カップルは子どもをつくらないから生産性がない」「そこに税金を投入することが果たしていいのか」というもので、社会的な批判の対象となった。高島さんは言う。

「差別発言から見えてくるのは結婚の意味です。結婚制度は子どもを生産する『家庭』を作り、それを維持するために設計された制度だということです。だから、そこから外れるものは排除していく。同性婚が達成すれば、婚姻の意味が『人間の再生産』ではなく、『気に入った人と二人でいるという理由』になります。その先に婚姻制度の解体があります。公や権力に承認された人間関係だけが特権(同性パートナーには、法定相続、所得税の配偶者控除・配偶者特別控除、医療保険の被扶養者、配偶者のカルテの開示請求など、法律上の多くの権利が認められない)を持つのはとてもおかしなことです。もっと多様な形の家族、また家族ではないし、家族にこだわらないけど、一緒にいるという関係性があってしかるべきだと思っています」

差別発言の撤回を求める国会前デモに高島さんは参加した。そのとき、壇上でマイクを持って「私はシスヘテロの学生です」とスピーチを始めたとき、ある思いが浮かんだという。シスヘテロとは、生まれたときに割り当てられた性別と自認する性が一致する「シスジェンダー」と異性愛者の「ヘテロセクシャル」を合わせた言葉だ。

「宣言したときに、“あれ、本当に私はシスヘテロなのかな”とハッとしました。それが、自分の性的指向(恋愛・性愛の対象が誰に向かうのか)に対する疑いが始まった瞬間。そして、自分はバイセクシャル(性別に関係なく魅力を感じる)だという認識に移りました。この体験から、言葉にしたり、書いたりしていくうちに、それまでは何でもないと思っていた過去の出来事が、実は自分の中ですごく大きな引っかかりを残していたことが分かったのです」

多くの人の「自分語り」を喚起し、「ケア」の輪を

こうした経験をもとに、これまでだれもが書いてこなかったことを著書『布団の中から蜂起せよ』では意識的に書いた。自分の性指向や、家族、パートナーのこと……。大学の教授に酒席で「酌をしろ」と言われて断った。だが、なぜか断った自分が傷ついた……。それは一つの挑戦でもあった。「本という形で自身を公にさらけ出すことで、多くの人の自分語りを喚起したかった」と高島さん。出版元の人文書院が各地で企画する著書の読書会にも足を運ぶ。

「この本をきっかけに、ぜひ自分の話をしてくださいと読書会ではお願いしました。参加者は、ぽつりぽつりと自分がどういう状況に置かれていて、どういうことに違和感持っていて、何に悩んでいるのかをお話して下さいました。その内容を詳しくお話することはできませんが、それまで、人前で話すことがおそらくなかったであろう、私の悩みや葛藤に言及してくたださる方がたくさんいたことに感動しました。自分語りを通して、日常的なケアの輪みたいなものが広がっていけばいい。私の本がその活動の一助になれたら嬉しいです」

高島さんは大正から昭和初期に小学校の教師らが試みた「生活綴方(つづりかた)教育」に触れた。生活の中で見たり聞いたりしたことを、自分の言葉で表現するもので、戦中は弾圧もされたが、その伝統は戦後も引き継がれ、1950年代には鶴見和子が中心となって「生活記録運動」に発展した。女性たちが自分の生活をありのままに書き、それを互いに読み、語るもので、社会構造や差別の仕組みをあぶり出し社会変革を迫るものだった。
 


「生活を見つめ直すことで、日常に入り込んでいる様々な違和感や差別に気がつくことができます。変化するということは、何かに気づくことです。それは必ずしも悪いことではなく、良いことのほうが多いのだと思います。意見が変わってくこと、考えを新しくすることは希望でもあります」
高島さんには普段から心がけていることがある。

「親しい人たちと話すなかで、違うと思うことがあったらそのままにせず、説明したり、訂正を求めたりしています。納得してもらえないところもありますが、そうしようと心がけることが大事です。逆に、異論を提起してくれる友人たちには、新しい知識に出会える機会ですので感謝しています。このような積み重ねが、未来のより良い社会づくりにつながると信じています。
実際に読んでいただければ分かりますが、著書でも途中で考えが変化したり、矛盾していたりしています。それを一貫性がないと批判する人もいるでしょうが、人間は本来、複雑で不安定でグラグラしていて、すべてを言葉で語れない存在。ですから、この本は、等身大の人間みたいな本です。そう理解してもらえたらと思っています」

取材余話
取材日は目黒川沿いの桜が満開で光のどけき春の日だった。桜をバックに高島さんのプロフィール写真が撮れないかと考えたが「春は憂鬱」と言われたのを思い出した。それでもダメもとで「桜は好きですか」と聞いてみた。すかさず「嫌いです」。なるほど、桜にまつわる日本固有の「諸事」を思えば無理もない。そう考えて理由はあえて聞かなかった。だが、やはり気になる。次にお目にかかる機会があれば、高島さんが桜を嫌いになった来歴をじっくり聞いてみたい。

取材・平井明日菜/写真・鈴木貫太郎

 

たかしま・りん
1995年、東京都生まれ。ライター、アナーカ・フェミニスト。『かしわもち』(柏書房)にて「巨大都市(メガロポリス殺し)」、『シモーヌ』(現代書館)にてエッセイ「シスター、狂っているのか?」を連載中。ほか、『文藝』(河出書房新社)、『ユリイカ』(青土社)、『週刊文春』(文藝春秋)、山下壮起・二木信編著『ヒップホップ・アナムネーシス―ラップ・ミュージックの救済』(新教出版社、2021年)に寄稿。中世社会史研究者としては、本名である杉浦鈴名義で方法論懇話会編『療法としての歴史〈知〉―いまを診る』(森話社、2020年)に寄稿している。

(※注)性のグラデーションについて:性別決定の要素は、生物学的性でいえば、①染色体、②精巣卵巣(生殖巣)、③外性器の3種類の判断の基準がある。しかし、それぞれが食い違って存在している人もいるので、生物学的性ですべてを語れるものではない。男女の狭間にいる人、ノンバイナリーとして生きる人、出生時に割り当てられた性から他の性にトランス(移行)していく人にとっては、生物学上の性は自分の性を阻害するものになっている。

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